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補遺 - マルクスの「生産関係」と「交通形態」、平田清明の「交通」論

c0315619_12565865.jpgマルクスの生産関係の概念は、所有と階級の契機を含んだタテの社会関係の意味を持つ。吉野源三郎が『君たちはどう生きるか』で論じている「生産関係」は、平面的なヨコの繋がりで、商品の中に凝縮された社会的分業の総体を意味している。が、丸山真男は「回想」での解説において、これぞ「資本論入門」の極意であり、見事な説明の表現であると絶賛していて、「生産関係」の概念の異同については特に触れていない。それはなぜだろうと考え、前回のような仮説を立ててみた。その仮説にたどりつく前に想起したことは、もともとマルクスの生産関係の概念が、あの史的唯物論の公式 - 『経済学批判』の序言に示された「導きの糸」 - として完成する前には動揺と変遷を遂げており、「交通形態」という言葉が使われた時期もあったという理論史の事実だった。初期の『ドイツ・イデオロギー』では、「交通形態」という語が頻出し、そして同時に「所有形態」という語も登場する。国民文庫版の訳者である真下信一が、序文で次のように解説している。「マルクスとエンゲルスによって仕上げられた理論の若干の基礎概念をあらわすために、『ドイツ・イデオロギー』のなかでつかわれた用語は、その後彼ら自身によって、それらの新しい概念の内容をもっと精確にあらわす別の用語に取り換えられた」(P.11)。


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by yoniumuhibi | 2017-11-30 23:30 | Comments(1)

『君たちはどう生きるか』における「生産関係」の問題について

c0315619_12465271.jpg『君たちはどう生きるか』の中の「生産関係」について、一点、指摘をしておきたい。この言葉は、作品全体の中できわめて重要なキーワードで、主人公が「コペル君」というニックネームを持った理由と密接に関係している。その物語の経緯については、あらためて紹介する必要もないだろう。コペル君が発見して名づけた「人間分子の関係 編み目の法則」の直観と報告が、おじさんによって概念的に整理され、それが経済学の「生産関係」であり、社会科学で一般的に使われている術語であることが説明される。丸山真男は付録の「回想」でこう書いている。「コペル君が小さい頭で、いかにも幼いコペル君にふさわしい推論を積みかさねて『法則』に到達する過程が、すこしも『大人』の立場からの投影という印象を与えず、きわめて自然に描かれているのにも感心しますが、おじさんがこの手紙を承けて、そこから一方ではコペル君をはげましつつ、他方で『人間分子の法則』の足りないところを補いながら、それを『生産関係』の説明まで持ってゆくところに読みすすんで私は思わず唸りました。これはまさしく『資本論入門』ではないか。(略)資本論の入門書は、どんなによくできていても、資本論の入門書であるかぎりにおいてどうしても資本論の構成をいわば不動の前提として、それをできるだけ平明な表現に書き直すことに落ち着きます」(P.312-313)。

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by yoniumuhibi | 2017-11-28 23:30 | Comments(1)

『君たちはどう生きるか』のブーム - 若者にはこう読んでもらいたい

c0315619_14332614.jpg吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』がマンガ化され、ベストセラーになっている。amazonの総合ランキングで1位になっていて、岩波文庫のオリジナルの方も文庫のランキングで上位に入っている。先日、宮崎駿が新しいアニメの題名を「君たちはどう生きるか」にすると発表したことも、このブームに拍車をかける一因となった。若者の間での宮崎駿の影響力は圧倒的だ。ただ、出版の世界で大きなトレンドになっているほどには、マスコミがこの状況を話題にしていない。テレビの報道番組で本が紹介される機会に接しない。やや奇妙な感じがするし、安倍晋三と菅義偉が統括支配する世界だから不思議ではないなと思い直したりもする。この古典は、日本の戦後の教育の根幹に位置する作品だ。戦後民主主義を担う精神のカーネルを養成するべく、中学生になる子どもに読ませてきた教育書で、倫理を学ぶ物語である。われわれの世代において、子どもの頃、この本は空気のようなもので、周囲には「おじさん」のような教師が少なからずいて、われわれにコペル君のような精神的成長を促していた。私もその教育過程の通過儀礼を受けた一人だけれど、当時、この本に特に大きく影響を受けたという実感はない。なぜなら、周囲の環境が、学校も、マスコミも、悉く「君たちはどう生きるか」的であり、吉野源三郎の思想を基調とし骨格とした倫理的空間だったから。

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by yoniumuhibi | 2017-11-25 23:30 | Comments(3)

山口二郎による護憲派の罵倒 - 不当に貶められてきた護憲の立場

c0315619_16160794.jpg前回、山口二郎が2004年に日本政治学会で発表した基調報告の一部を紹介した。その中で、山口二郎は社民党(社会党)の護憲の主張を罵倒し、共産党については存在の価値のない政党だと斬り捨てていることが確認された。山口二郎のこの20年間の言論を見ると、護憲の立場に対する悪罵と侮辱に徹し、憲法9条を守れと唱えてきた社会党や戦後民主主義に対する軽蔑と排斥で一貫していることが分かる。一つ一つ検証して証拠を挙げよう。手元に2004年刊の岩波新書『戦後政治の崩壊』がある。その冒頭、こう書いている。「2003年秋の総選挙では(略)土井たか子が敗北の責任をとって社民党党首を退いた。(略)土井の挫折は、憲法第九条をめぐる帰依と怨念の両面の風化を意味している。『頑固に護憲』を貫いた土井は、九条に対する信仰を体現した政治家であった。戦後憲法ができて間もない五十年代、左派社会党の指導者が『青年よ、銃を取るな』と叫べば、平和を求める国民から澎湃たる支持が沸きあがった。ところが、実際に青年が銃を持って海外に出動している今、社民党は見る影もなく衰弱している。護憲というメッセージが国民に対する訴求力を失ったことは明白である」(P.ⅰ-ⅲ)。「もはや憲法は政治家がおのれの信念をかけて論ずべき崇高なテーマではなくなった」(P.ⅳ)。

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by yoniumuhibi | 2017-11-22 23:30 | Comments(2)

共産党を排除した山口二郎 - 「政治改革」とは何だったのか

c0315619_17100184.jpg11月17日の朝日新聞オピニオン面に「ロシア革命100年」と題した不破哲三のインタビューが載った。その中でこんなことを言っている。「80年に一部の野党が『共産党を除く』という原則を唐突に打ち立てました。(略)共産党排除という異様な政治体制が34年続きました。それ以前はマスコミでも、ひとつの政党として自然体で見られてきました」。この事実認識は具体的にどういう中身を指しているのだろうか。もし、「34年続きました」という指摘が現在も進行中であるという意味なら、「80年」は83年ということになり、「80年」ではなく「80年代」とするのが正確だったという説明になる。もし言葉どおりに「34年続きました」の起点が1980年であるなら、その共産党排除の政治体制は2014年で終了したという捉え方になる。2015年夏に安保法制の政治戦があり、それを契機に「野党共闘」の政治が始まる経過があるので、不破哲三はその文脈で時間軸を整理しているのかもしれない。80年に共産党を排除した「一部の野党」とはどの政党を指すのだろうか。社会党だろうか。確かなことは、この時期に自民党政権に対抗する野党の共闘態勢のあり方が変わり、社共の革新統一戦線が崩壊し、社公民路線にリプレイスされたということである。不破哲三はその事実を言っているように聞こえる。

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by yoniumuhibi | 2017-11-20 23:30 | Comments(4)

小選挙区制に八つ当たりして失敗の責任を転嫁する内田樹と中野晃一

c0315619_15424044.jpg14日の毎日の記事で内田樹が総選挙を総括する意見を上げている。「まず感じたのは小選挙区制という制度の不備である」と書き、小選挙区制に対する不満をぶちまけている。この主張は、投票結果が出た直後に中野晃一が言っていた。どうやら、安倍晋三が圧勝した結果に苛立っている文化人たちの間で、小選挙区制に対する批判が共通の問題意識になっているようだ。昨年、トランプが勝利した米大統領選の報道を受けて、文化人たちの間で、没落した中間層に夢を抱かせないよう上から説教を垂れようとした思想運動が起こったことを思い出す。ユニクロを着て鍋をつついて我慢せえと清貧の心構えを垂れていた。年末から正月にかけて、上野千鶴子、小熊英二、長谷部恭男、杉田敦などが、この線に沿って同じ言説をマスコミで披露した。アカデミーの世界は狭い。どこかで身内で顔を合わせて世間話をしているうちに、こういう安易で傲慢な認識と結論になったのだろう。トランプ的なポピュリズムとファシズムを阻止するためには、大衆に幻想を抱かせてはならず、中産層に復活の夢を諦めさせなくてはいけない、われわれ岩波文化人が愚かな大衆を教導して自覚を促そうと、そういう「使命感」で一致したのに違いない。今回は、安倍圧勝の総選挙を受けて小選挙区制の見直しが主題になり、年末から年始の大手紙のメインの論調になるのだろうか。

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by yoniumuhibi | 2017-11-16 23:30 | Comments(2)

ロシア革命から100年 - 20世紀の資本主義国の庶民を守った防波堤

c0315619_15014624.jpgロシア革命と社会主義について、もう一つ論じておかないといけない問題がある。それは、20世紀にその存在があったから、われわれは幸福な人生を送ることができたという間接的意義だ。世界が二つに分かれた片方の内側は、どうしようもなく悲惨で暗鬱なもので、その住人に苦難と忍耐と絶望を強いるものだった。スターリンの恐怖支配と暗黒政治の犠牲者は2千万とも3千万人とも言われている。毛沢東とポルポトを足せばどれくらいの数に上るか分からない。ゴルバチョフが登場してすぐの末期ソ連を旅した経験があるけれど、そこで目撃した人々の疲労感と苦悩と憔悴の表情を忘れられない。ソ連の統制と欺瞞と貧窮に疲れ果て、社会主義を厭うて恨んでいた。あのとき、渓内譲は岩波新書の新刊の中で、ソ連が崩壊することはないだろうと楽観的な予想を書いていたが、現地を見た私は間もなく終焉が近いことを確信した。20世紀後半、そこに、私の人生の半分があり故郷がある。小学校社会科の教科書では世界地図は二つに色分けされ、青色と赤色に塗り分けられていた。社会主義の体制下で生きる人々は塗炭の苦しみを強いられ、われわれはそこから自由で、人生に希望の持てる時代を送ることができたけれど、真実を直視し意味を総括すれば、彼らの犠牲のおかげでわれわれは幸福な環境を与えられたと言い得る。

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by yoniumuhibi | 2017-11-13 23:30 | Comments(3)

ロシア革命から100年 - 資本主義が続くかぎり社会主義も生き続ける

c0315619_17173669.jpg丸山真男は今から60年前、論文『「スターリン批判」における政治の論理』の中でこう言っている。「フランス革命についても、歴史学的な解釈こそ今日でっも盛んに行われているが、そうした学問的論争が直接に政治的意義を帯びた時代はとっくに過ぎ去った。フランス革命とそれにつづく干渉戦争の過程で冒された数多くの愚行や残虐をどんなに力をこめて弾劾する人々も、人権宣言の諸原則が今日文明世界の公理として通用していることを承認する(略)。ところが、ロシア革命とその諸々の連鎖反応については、残念ながら今日の世界はまだその与えた心理的ショックから回復するだけの時間的距離をもっていないようである。それは革命後四〇年というような自然的時間についていうのではない。(略)むしろ問題はロシア革命が投げかけた挑戦に対して、今日の世界が - ソヴェート同盟を中心とする社会主義世界を含めて - いまだに十分な決着を与えていないこと、従ってそこに含まれた諸々の争点が今日なお生々しい現実性を帯びてわれわれの全存在を揺るがしていることから来ている。(略)ラスキのいうロシア革命の『莫大な成果』と『莫大な代償』はいまだにひとびとの心の中に適当な平衡点を見出しえず、利害と立場と局面の衝撃とに応じて、あるいはプラス面が心理的に自乗され、あるいはマイナス面が大映しにされる」。(『現代政治の思想と行動』 旧版 P.306-307)

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by yoniumuhibi | 2017-11-10 23:30 | Comments(5)

座間の大量殺人事件への視角 - 何の意見も反応もない社会学アカデミー

c0315619_14443049.jpg座間のアパ-トで殺害された23歳の被害者のことがテレビで報道されていた。小学校のときの写真と卒業文集が紹介され、飼育係で動物を可愛がっていたという。山梨で母親と兄と3人で暮らし、中学1年のときにトラブルがあり、家に引きこもりになった。何があったのか詳細は伝えられてないが、おそらくいじめだろうと想像される。薄幸な少女は12歳のときに引きこもりになり、10年間ずっと家にいて、母親が死んだ今年、事件に巻き込まれて犠牲になった。今週になって23歳の被害者の実名と写真がマスコミに公表され、経歴情報が公開されたことでネットでは驚きの声が上がっていた。警察はこんなことをしていいのかという声があった。無論、公開したのは被害者の兄の意思と決断によるものだ。幾つか年上のはずの兄は、天涯孤独の身になってしまった。この兄妹に同情する。そして、写真とプロフィールを出してくれてよかったと思う。兄が勇気を出して妹の素顔を教えてくれたことで、私の中で事件はかなり立体的な輪郭を整え始め、この事件をどう理解すべきかという視角が備わり始めた。意味を解読することができるようになった。まだ、誰もこの事件について本格的な考察を出していないが、私の直観を言えば、まさに日本の貧困の現実が本質的契機ということになる。

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by yoniumuhibi | 2017-11-08 23:30 | Comments(4)


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