逆風のMMT - 国債発行の財源策はもう無理、内部留保の国有化しかない

雇用の女王。こういう財務長官を持ってアメリカ国民は幸せだと思う。だが、豈図らんや、1年経ってアメリカは40年ぶりの悪性インフレとなり、サマーズの予言が的中した結果となった。今、サマーズは鼻高々でクルーグマンは顔色ない。財政責任者のイエレンは自己批判の顛末となった。傍から眺めながら、こんな具合に生き生きと経済政策の論争が行われるアメリカの環境が羨ましい。日本では、誰も説得的なエコノミクスで政府批判を論じない。揶揄や罵倒だけだったり、野党による政局用・選挙用の与党批判の言説に止まっている。岸田インフレとか、アベノミクス批判の一般論とか。誰も科学的な予測や仮説を立てない。宮崎義一のようなマクロ分析を提示しない。

ケルトンのMMT理論の肝は、インフレを起こさない条件範囲でどこまでも無限に自国通貨建ての国債発行が可能という点だった。来日時の会見でもそう発言した。インフレが発生するまではセーフだが、インフレになったらアウトなのである。ケルトンの理論を証明する根拠は、この30年間の日本の経済と財政の経験で、どれほど財政出動してもインフレが起きず、通貨は安定したままの日本を観察して、彼女は法則発見の着想を得、セオリーの開発と構築に至った。財政赤字がどれだけ積み上がっても、国の通貨発行権があるかぎりどこまでも国債発行してよく、むしろデフレ退治のため、需給ギャップを埋めるまで国が財政出動するのが正しいという認識と主張である。

マスコミは、社会保障や教育の予算拡充を誰かが訴えたときは、そんな財源どこにあるんだ、将来世代にツケを回すのかと脊髄反射で拒絶するが、防衛費2倍増の歳出を国債で賄うという右派の議論には、何もチェックを入れず唯々諾々と受け入れて流す。財務省や日銀は口ではMMTを否定しているけれど、現実には野放図に躊躇なく国の借金を膨らませているのであり、その支出が景気刺激の波及効果を得ようが得まいがお構いなしに、国債を増発して財政バランスを悪化させ、その尻拭いを消費増税で国民に押し付けるのである。30年以上その政策を機械的に続け、けれどもデフレ圧力の方が強くインフレは起きなかった。

さて、問題の国家の通貨発行権についてである。MMTが登場する以前は、この問題が侃々諤々されることはなかった。現在、日本の流通通貨である日銀券を発行しているのは日本銀行だ。政府に通貨発行の権利があるのかないのか、あるとすればどのような法律や法解釈が根拠となるのか、その論議にはここでは立ち入らない。私の認識は、経済はあくまで経済独自の論理を持った生きもので、政治や法の世界の固有現象とは異なるという原理論だ。どれほど制度や機構の枠組みで管理制御されていても、ゲル状の液体物質のように自由自在に運動し、人の営みと共に下から表象と実体を形作るものだと思っている。

日本国の通貨発行権も基本的に同様で、人がそれを信認すれば存在し、信用が薄れれは弱まり消えるものだ。現在、日本国の通貨発行権なる実体は、きわめてリスキーな状態に直面していて、山本太郎が啖呵を切ってその存在と能力を言い上げる程の健全な中身ではないと私は考える。国の通貨発行権の本質は、どこまでもアナログ的でグラデーション的な変動の中にあり、生きものであり、すなわち、デジタル的な、あるかないかという法的で固定的なものではない。そう理解したとき、MMTに依拠して予算を組む日本の財政手法がいつまで通用するのかと不安を覚えざるを得ない。嘗ては高く評価されて人気を博した日本企業の工業製品は、今は世界の市場から駆逐される一方だ。

24日のプライムニュースに出演した山本太郎が、アメリカでは800兆円の財政支出を行ったと言い、日本の少なさと比較してもっと増やせと訴える場面があった。たしか、トランプが2兆ドルと2.2兆ドルのコロナ対策を続けて打ち、バイデンが1.9兆ドルの追加対策を行ったと記憶する。計6.1兆ドル。現在の為替で823兆円の計算になる。が、今、その6.1兆ドルが槍玉に上がり、インフレの主因として叩かれているのである。コロナ対策で大盤振る舞いした給付金が誤りの根本だったとサマーズは指摘する。インフレ予言が的中したものだから、そのサマーズの指弾がアメリカでは説得力をもって巷に響いている。その言論動向も間もなく日本に上陸し、れいわに逆風となるだろう。

そんな別の財源はあるのか。ある。突飛な空論のように思われるかもしれないが、社会科学的に真摯なアイディアとして具体案を言えば、それは内部留保である。20年度時点で484兆円計上されている内部留保だ。日本人が労働して稼いだ血と汗の結晶。日本の国民経済の財産である。逆に言うと、財源となる残された日本の富はこれしかない。その意味で、志位和夫が今度の選挙で出している経済政策は正論である。5年10兆円は控え目すぎるが、正鵠を射ている。私の提案はもっとドラスティックで、内部留保とケイマン諸島マネーの全体を国有化せよという発想だ。国有化。社会主義政策である。暴論の誹りを覚悟の上で敢言するけれど、他に財源の当てはなく、それ(内部留保)を国庫の歳入にするしか方法がない。
ラディカルな極論だと私も思う。が、それしかない絶体絶命の窮地に日本経済は追い詰められている。もう破綻している。金利が上がり、奈落の底が目の前だ。生き延びて復活するための原資となる最後の日本国民のストックは内部留保しかない。国債発行(将来世代が返済する借金)は不可能である。消費増税もできない。したがって、リアルでサイエンティフィックな問題解決策は内部留保の国有化しかない。そのロジックとプロセスを憲法と私法と財政学の学者にぜひ検討し考案してもらいたい。国債への依存症をやめ、怠惰な経済財政態度を清算し、内部留保を財源として確保し活用することを真面目に提起したい。









この度、読者の皆様にご支援のお願いを申し上げる次第となりました。どうぞよろしくお願いいたします。
住信SBI銀行
支店番号 108(メロン支店)
口座番号 6387212
口座名 田中宏和
住信SBI銀行
支店番号 108(メロン支店)
口座番号 6387212
口座名 田中宏和
by yoniumuhibi
| 2022-06-27 23:30
|
Comments(0)
メールと過去ログ
最新のコメント
今こそ「テニスコートの誓.. |
by 印藤和寛 at 09:18 |
総裁選で石破さんを倒すた.. |
by 人情味。 at 09:29 |
もし山上容疑者が安倍元首.. |
by 人情味。 at 21:23 |
杉田水脈なる人物は論評に.. |
by 住田 at 10:51 |
あれは15年程前.. |
by ムラッチー at 11:27 |
悪夢のような安倍政治から.. |
by 成田 at 13:03 |
ハーバード大学で比較宗教.. |
by まりも at 23:59 |
重ねて失礼いたします。 .. |
by アン at 17:48 |
安倍晋三のいない世界は大.. |
by アン at 13:16 |
今まで、宗教2世の問題に.. |
by さかき at 10:31 |
以前の記事
2022年 08月2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月