バブル崩壊と複合インフレ ー アメリカのインフレを導いた三つの要因

米金融市場の不調と弱気を端的に示しているのは、ダウよりもハイテク株中心のNASDAQ総合指数の下落であり、6/13は▲4.68%も下げて10.809ポイントとなった。最高値は昨年11/22の1万6212ポイントであり、約半年で3分の2の値にまで急降下している。ここからさらに下がる。インフレの克服は厄介で、金融当局の政策手段は利上げと通貨供給量の縮小(QT)だが、そうした金融引き締め策は景気抑制策でもあり、企業の投資や個人の消費にブレーキをかける効果となる。アメリカでは早くもリセッションの声が上がっている。

森永卓郎は、昨年からずっとNY市場のバブル崩壊を予言し続けていた。森永卓郎のバブル崩壊説で注意を惹いたのは、今回のバブル崩壊(=株価暴落)は短期で回復することなく、長期にわたって続き、10年以上元の水準には戻らないという仮説を立てていた点である。1929年の大恐慌を引き合いに出し、ダウが元の水準に戻ったのは戦後の1950年代だったという歴史を紹介していた。つまり、今度のアメリカの景気後退は単なる一時的な不況のレベルに止まらず、大恐慌の規模と災禍にまで発展するという予測である。類似の説を唱えているのが田中宇と副島隆彦だ。

アメリカは、6/10、40年ぶりの高い消費者物価指数(CPI)を記録した。歴史的なインフレ水準にある。40年前というと1982年で、アメリカ経済が相対的に弱く、日本や西ドイツが鼻息荒く世界経済の成長の機関車の役割を果たしていた頃だ。当時のアメリカは世界経済の足を引っ張る劣等生の位置にあり、現在とは日米の経済の優劣が逆だった。経済が主要議題となるG7サミットでは、いつもその構図に焦点が当たり、日本の首相は鼻高々でテーブルに座ることができていた。アメリカは産業(製造業)がふるわず、企業が海外に工場を移し、空洞化と慢性的失業が深刻になっていた。

その問題に注目したい。原因は幾つかある。ベースとして、オバマ政権・トランプ政権・バイデン政権にかけてジャブジャブにした金融緩和のナイアガラ瀑布があり、マネーサプライの過剰がある。そして、トランプ政権からバイデン政権にかけての途方もない財政出動がある。トランプもバイデンもアベノミクスを真似した経済政策をとっていた。事実上、MMTのセオリーで政策を決定していた。良識のあるエコノミストであれば不安と懸念を覚え、ハイパーインフレの最悪の危機を想像していただろう。ジャブジャブのマネーは穀物市場と原油市場の投機に回っていた。ひとまず、ベースとしてこの与件がある。だが、これが真因だとは思わない。

つまり、コストプッシュの二つの要因を政治が作っている。第一の問題から説明しよう。5月19日の報道を見ると、財務長官のイエレンが中国に対する制裁輸入関税の引き下げをバイデンに要請したとある。中国に対する戦略的効果はあまりなく、逆に米国の消費者や企業に対して多大な損害を与えているという見方からの献策だ。イエレンは米国のトップエコノミストであり、パウエルと並ぶ経済政策の実務責任者である。そして優秀で有能な人だ。アメリカ国民に信頼されている。オバマ政権のときFRB長官を務めた彼女の口癖は「雇用、雇用、雇用」で、常に雇用の均衡を第一に政策を舵取っていた。

中国からの輸入はアメリカ全体の21%を占めて第1位である。アメリカ人の消費生活は中国からの輸入品に頼っている。その中国製品に対して割り増しの高関税をかけたら、コストプッシュの物価上昇を招くのは当然の帰結で、制裁を受けて苦しんでいるのは国内のアメリカ人だ。マスコミは大きく報道しないが、これが今回のインフレ発生の第一要因だろう。もともとアメリカ経済は健康で順調で、世界一強靱な体力であり、このような経済外的な政治のミスが介入しなければ、インフレなど起きる理由はないのだ。明らかな失敗である。責任はトランプにあり、中国封じ込めに血眼になって愚策を引き継いでいるバイデンにある。イデオロギーがインフレを起こしている。

それを機会と捉えた労働側と民主党政権は賃上げに動き、アメリカの最低賃金はドカンと高くなる。労働者にとってはよいことだが、コストプッシュインフレに作用した点は否めない。すべての商品は労働の生産物であり、商品の価値はC(不変資本)とV(可変資本)とM(剰余価値)によって構成される。原価の一つであるV部分が大きくなれば、必然的に商品価格(G)は大きくならざるを得ない。すべての商品にV部分があり、一国の賃金上昇は全商品価値の上昇に繋がる。通常は、当局の調節でそれは悪性インフレにはならないが、今回のアメリカ経済の場合、制裁関税や資源高などの複合要因が絡み、コストプッシュの圧力が倍化した。金融ジャブジャブの環境の中、悪性インフレとなった。

現在の穀物価格の上昇も、西側マスコミはロシアの侵攻にスポットを当て、それを第一の要因として報道しているけれど、実際はそうではない。ウクライナ戦争はサブの要因であり、指標を見ても分かるとおり小麦価格は20年、21年とうなぎ上りに騰がっていた。アメリカのカネ余りが真因であり、過剰金融マネーの投機が第一の要因である。森永卓郎は、NY株価が暴落すれば原油価格も下落すると予想を言っている。私も同様の観測の立場にあり、金融引き締めでマネーが収縮すれば、原油等の商品市況も連動して下がって行くと見る。原油も穀物も投機商品なのであり、需要と供給のバランスで価格が決まっているわけではないのだ。ロシアの侵攻は口実に利用されているだけであり、資本家のグリードな投機の真相を隠す盾にされている。
以上、アメリカのインフレをもたらした要因として、①対中輸入品への制裁関税による原価高、②中南米移民の強制排除による労働力不足、③カネ余りによる商品市場への過剰投機、の三つのメカニズムを検出し考察した。今回のインフレは複合要因による構造インフレであり、そのうち二つは経済外的な政策による過失で導かれたものだ。先進国の成熟した資本主義経済では珍しい現象である。原因がこのとおりである以上、FRBによる金利高とQTの金融引き締め策だけではこのインフレは止められない。①対中貿易制裁の撤廃、②中南米移民労働者の保護と流入数のマイルドな管理・調節、③商品市場の投機の規制、をプラスして組み合わせないといけない。









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by yoniumuhibi
| 2022-06-14 23:30
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