なぜ左派は報道1930を批判しないのか - ハト派を作ろうとしなかった左翼

地震や洪水から国民を守る防災対策とか、老朽化した地方のインフラ整備のための予算がカットされる可能性がある。先月下旬、日本の国民負担率46.5%がネットで注目され論議を呼んでいた。国民負担率が高いのに日本では国民へのリターンがない。社会保障はカットされまくり、自己責任での応益負担に切り換えられ、低所得層の生きづらさが増している。こんな中で防衛費増など狂気の沙汰であり、軍事費こそカットして社会保障や教育に回すべきなのに、テレビ報道が真逆の方向の論調で固め、防衛費増のための他予算カットを「正論」として唱えている。

だが、よく考えなくてはいけないのは、この世論の現状と実態はテレビの報道番組の洗脳工作によって作られたものだということだ。世論調査の数字は確かにこのとおりなのかもしれない。けれども、この現在の大衆意識は、ウクライナ戦争が始まってからの3か月で絶え間なくテレビに登場する論者とキャスターから吐き散らされた言説に影響を受けた産物であり、プロパガンダのシャワーに圧倒され教化された反応現象に他ならない。曰く、核武装してないと隣の強国から攻められる、ウクライナのようになる、専守防衛では対応できない、台湾有事は日本有事だ、日本の防衛費は少なすぎる、ドイツを見倣え、等々の好戦論のメッセージに延々と漬け込まれた結果だ。

だが、日本のマスコミはそれをせず、ウクライナ戦争を出汁にして、専守防衛や憲法9条をスポイルする議論で空間を埋め、軍部主導のイデオロギー方向に引っ張った。プーチンとロシアを悪魔化し、その対極としてアメリカを神聖化し、日米同盟の絶対化と日本武装論の正当化を怒濤の勢いで押し固めた。反論や異論はテレビに出ず、論争の場面もなかった。政党(野党)も全く論戦を試みなかった。マスコミが、軍部の論客を使い、日本の国論を核武装と戦時体制容認に持って行こうとしているのに、左派野党はマスコミの反動攻勢に介入せず、座視したままだった。専守防衛さえ切り崩されてるのに、「ロシア擁護派」と異端視されるのを恐れ、ウクライナ支援の正統の立場で局外に身を置いた。保身に徹した。

本来、左派はテレビ番組こそを正面から批判しないといけなかった。専守防衛まで否定され、核武装が当然というような状況に押し流される前に、TBSと松原耕二の意図を掴み、抗議の「待った」をかけないといけなかった。ウクライナ戦争を9条改憲や防衛費増の政局に繋げる策動を食い止めないといけなかった。ウクライナ戦争の議論に介入し、ミアシャイマーやベンアミ的な主張を盛り興し、ハト派の柱を立てないといけなかった。右翼軍部論客(佐藤正久・森本敏・河野克俊・防衛研・笹川財団..)に対抗するハト派の陣地を築き、その支持を広げ、マスコミの中に勢力を確立させないといけなかった。その言論戦略を設計して応戦しないといけなかった。

少しでも中立的傾向の者を見つけ出して、「陰謀論者」あるいは「反米陰謀左翼」のレッテルを貼り、ツイッター等で誹謗中傷してリンチ攻撃を浴びせることだった。私も、しばき隊とそのシンパの左翼から「ロシア派」だの「反米陰謀論者」だのと侮辱を受け、罵倒と監視を受けている一人である。その周辺を観察して気づくのは、今、日本共産党とその支持者がれいわ叩きに必死になっていて、ウクライナ戦争をめぐるれいわと山本太郎の態度に難癖をつけ、そこを切り口にれいわ追い落としに躍起になっていることである。重信房子が「れいわ新選組」を口に出したことも、その作戦に好都合の材料提供だったようだ。ウクライナ問題をれいわとの差別化ポイントに演出する左翼政局に利用している。

今、左派野党は、議論の焦点を「暮らし」の問題に向け、物価高や負担増への批判を選挙の票にしようと藻掻いている。何とか「暮らし」が争点にならないかと焦っている。だが、毎日のテレビ番組は、相変わらずウクライナ情勢と中国問題を放送し、安全保障の問題を撒き散らし、ミリタリアンの説教で埋めている。自民党は「安保」を争点に立てる構えで、実際、選挙戦がそうなれば票は自民党や維新に流れるだろう。左派野党は逃げ腰になり、立憲民主党と日本共産党との違いが明らかになり、「野党共闘」に逆風になるのは確実だ。本当は、「安保」を争点にして、堂々と左派野党が自民・維新に勝つ構図を作らないといけないのだ。専守防衛が軍拡路線に勝つ選挙にしないといけないのだ。

先週から国会の動きが報道され、与野党の議論に少し関心が寄っている。ツイッターの右横の「トレンド」に「#国会中継」と言うキーワードが出るようになった。クリックすると、野党支持者が政府や与党の政策を批判している。だが、話題は内政だけで、安保は避けられている。こうしてツイッターの横に政府批判・政権批判のキーワードが登場するときというのは、大概、日本共産党の支持者が大挙して言論攻勢をかけているときで、偶然ではなく組織的な動きだと推察される。それを見ながら思うのは、なぜこうした言論攻勢を報道1930の放送に対してかけないかということだ。右翼は、サンデーモーニングに対して必ずツイッターデモをかけている。

日本共産党がれいわ新選組を叩くのは、外から見れば、すなわち自民党や右翼から見れば、まさに愉快で歓迎の内ゲバである。本当なら、この2党は平和主義で協調共闘し、9条を守り、軍拡を防ぐべく与党と戦わないといけない身内同士のはずだ。安全保障の政策論議でハト派の陣営を築き、国民から支持を得て選挙で勝利しないといけない勢力のはずである。なぜ、日本共産党は内ゲバに固執し、仲間を攻撃するのだろう。外の世界を広く展望すれば、例えば、アラブの人々はこの戦争の原因と責任をロシアではなくNATOの方に認めている。なぜ、日米同盟の廃棄を謳う日本共産党がNATOに同調し、大政翼賛会の優等生となり、ゼレンスキーの国会演説に直立不動と拍手喝采で応じなければいけないのか。
10年前、15年前は、NHKの報道が偏向しているということで、よく左翼の市民がNHK前でデモをしようなどという声が上がっていた。FAXや電話で抗議を入れようという呼びかけはしょっちゅうで、実際にそれを実行して市民の論理で圧力をかけていた。今はそれが全くない。今それをやっているのは右翼の方だ。左翼からマスコミ批判が上がらなくなった。日本の左翼が、西側の戦争プロパガンダの主体性と同一化してしまっていて、マスコミの論調と政治的に一体化し、反プーチン統一戦線の一翼となっている。日本の世論の傾斜に歯止めがなくなった。








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by yoniumuhibi
| 2022-06-02 23:30
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Comments(1)

いつも拝読しております。
まったく同感で 今の日本の左派はRaison d'êtreを捨て
知性が劣化しています。議員職や教授職を失いたくない保身術は 彼らなりの生活者の視点なのでしょう。
共産党の地方議員には「G7の人口は 世界の人口の1割程度」と言っても「へぇ 知りませんでした」と笑いながら「ロシアを許さない!!」と赤旗を売り歩く方々もいます。「れいわと共闘」と言いながら排除…驚きません。
報道1930の松原氏と堤氏は 言語感覚に問題がある上に
学ぼうともせず 聞くに堪えない稚拙なコメントを繰り返しています。今後の展開次第では また集団手のひら返しで言いつくろうどころか 厚顔無恥ゆえ何も無かったかのように続けるのかもしれません…
まったく同感で 今の日本の左派はRaison d'êtreを捨て
知性が劣化しています。議員職や教授職を失いたくない保身術は 彼らなりの生活者の視点なのでしょう。
共産党の地方議員には「G7の人口は 世界の人口の1割程度」と言っても「へぇ 知りませんでした」と笑いながら「ロシアを許さない!!」と赤旗を売り歩く方々もいます。「れいわと共闘」と言いながら排除…驚きません。
報道1930の松原氏と堤氏は 言語感覚に問題がある上に
学ぼうともせず 聞くに堪えない稚拙なコメントを繰り返しています。今後の展開次第では また集団手のひら返しで言いつくろうどころか 厚顔無恥ゆえ何も無かったかのように続けるのかもしれません…
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