『ディープステート』の語の起源は原爆投下主犯のグローブスだった

特に注目されるのが、「ディープステート(闇の政府:国家内国家)」の存在への言及と「アメリカ例外主義」の危険性への警鐘、そして恐怖で国民を動かすやり方への欺瞞性の告発です。
まず、「ディープステート」の存在ですが、ストーン監督は原爆投下の責任者であるグローヴス将軍を取り上げて、「彼は非常に強硬派で、トルーマンのことをアメリカの意思決定に関われない人物だと評していました。そして、意思決定はディープステートがするのだと言っていたのです」、「トルーマンは、その既定路線に乗っかっていただけの人であって、ディープステートのシステムとして、ソビエトを威嚇するために、原爆は開発されていたからです」という重要な指摘をしています。(p.244)
まず、「ディープステート」の存在ですが、ストーン監督は原爆投下の責任者であるグローヴス将軍を取り上げて、「彼は非常に強硬派で、トルーマンのことをアメリカの意思決定に関われない人物だと評していました。そして、意思決定はディープステートがするのだと言っていたのです」、「トルーマンは、その既定路線に乗っかっていただけの人であって、ディープステートのシステムとして、ソビエトを威嚇するために、原爆は開発されていたからです」という重要な指摘をしています。(p.244)

問題は、グローヴスが「ディープステート」という言葉を発していた事実である。すでに1945年の時点で「ディープステート」という概念と用語が存在したということになる。グローヴスがどこでその発言をしたのか、証言や記録上の証拠はあるのか、真実と確定できるのか、その点についてはまだ探求と検証に至っていない。だが、この話が事実だとすれば、ディープステートの表象と通念は従来とは大きく変わり、意味と性格が一変するのではないかという予感を持つ。陰謀論の代名詞として一蹴できなくなるのではないか。

Deep State、略称:DS、または闇の政府とは、アメリカ合衆国の連邦政府・金融機関・産業界の関係者が秘密のネットワークを組織しており、選挙で選ばれた正当な米国政府と一緒に、あるいはその内部で権力を行使する隠れた政府として機能しているとする陰謀論である。「影の政府」や「国家の内部における国家」と重複する概念でもある。このような「ディープステート」が存在するという主張は、一般的に陰謀論とみなされている。
ディープステートが存在するかもしれないという主張は、複数の学者や作家によって否定されている。政治学者のジョセフ・ウシンスキーは、「この概念は常に陰謀論者の間で非常に人気がある」と指摘している。2017年と2018年に行われた世論調査では、アメリカ国民全体の約半数がディープステートの存在を信じていることが示唆されている。第45代大統領ドナルド・トランプとその政権のさまざまな高官らは、在任中にいわゆる「ディープステート」について繰り返し言及し、トランプと彼の計画の足を引っ張っていると主張した。

続いて、軍産複合体の説明だが、Googleで検索をかけると、画面トップにコトバリンクの辞書の説明が表示される。
戦争から経済的利益を得る政治的・経済的集団,特に戦争に迎合する産業にかかわっている集団のこと。 先進諸国に顕著にみられる事態であるが,アメリカにおける国防総省 (ペンタゴン) を中心とする軍部と巨大な軍需産業群との癒着した関係や相互依存体制をさす場合が多い。
Wiki にはこう書いている。

この概念は特にアメリカ合衆国に言及する際に用いられ、1961年1月、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領が退任演説において、軍産複合体の存在を指摘し、それが国家・社会に過剰な影響力を行使する可能性、議会・政府の政治的・経済的・軍事的な決定に影響を与える可能性を告発したことにより、一般的に認識されるようになった。アメリカでの軍産複合体は、軍需産業と国防総省、議会が形成する経済的・軍事的・政治的な連合体である。
軍産複合体の概念の説明には、陰謀論という語は登場せず付随しない。アイゼンハワーが「軍産複合体」の語を発したのは、1961年1月であり、グローブスが「ディープステート」の語を発したと思われる1945年後半から16年後になる。ここで一つの仮説あるいは推論が着想される。アイゼンハワーは、それまで内部で「ディープステート」と呼ばれていた隠語・暗号の類を、批判的立場から、新たに「軍産複合体」と造語して問題提起したのではないだろうか。これは私の試論だが、すでに議論されて定説が確立しているかもしれず、ご存じの方がいればご教示をお願いしたい。

いずれにせよ、ディープステートについての議論や言説が、オリバー・ストーンが指摘したグローヴスの発言が全く捨象され、その歴史に触れられないのは不可解だし、それ以上に、軍産複合体の概念と照合され比較検討されないのは不思議である。学者や記者たちは、ディープステートの語を蛇蝎の如く忌み嫌い、陰謀論のレッテルを貼り、問答無用で拒絶し瞬殺するだけだ。内在せず吟味しない。最近のディープステートの言説が、トランプ現象と共に起こり、トランプ政治と共に徘徊跋扈したため、学者やマスコミがそうした反応になるのはやむを得ない面もあるけれど、もう少しザッヘに即く科学的態度を持てないものかとも思う。

英語版の Wiki での説明が日本語版と決定的に違うのは、英語版の方にはこれは陰謀論だと断定する記述がない点である。Conspiracy theory だと書いていない。まわりくどい解説が並んでいるが、Conspiracy theory の単語が文中にない。これは、ずいぶん意外なことである。日本では、ディープステートと言えば陰謀論と結論されるのが通常で、この二つはセットで切っても切り離せない。陰謀論だから接近するな、肯定的に耳を傾けるなと、この語には禁止と拒否の態度が要請される。Wiki は誰でも編集できるのだから、語の説明に陰謀論云々を書き加えないのは、今の世間の常識ではあり得ないことだ。

だが、アメリカ国民の半数が、国家権力を動かす裏のネットワークがあり、連邦政府・情報機関・軍・金融市場・軍需産業の人間が超越的にそこに関与し、国策に影響を与えていると考えている事実は、簡単に一蹴したり蔑視してよい問題だとは思えない。むしろ、アメリカのすべての政策が、立法府と行政府の責任的立場にある者の手で公正に決められ、公約に基づいて純粋に進められていると信じ、疑念を持たない半数の方が、ナイーブに過ぎるように私には思われる。DCのロビイストやシンクタンクの暗躍とも関わる問題だ。アメリカの国策は、特に海外戦略に関連するものは、民主党と共和党の政権交代が起きても一貫して継続できるように、グランドプランが策定されている場合が多い。
その計画と設計に携わる者は、連邦政府・情報機関・軍・金融市場・軍需産業の人間、さらにアカデミーとシンクタンクの実務者がメインである。その過程は決してオープンではない。彼ら国家エリートの考える「国益」には、4年に一度の選挙や民意は関係ないのだ。チェンジはないのだ。こうして、ディープステートの語を軍産複合体に置き換えて理解すれば、アメリカ国民の半数がディープステートの存在を懐疑していたとしても、それは何も不自然な現実ではないだろう。アイゼンハワーは、軍産複合体の暴走に警戒せよと真摯に説いたのだから。



by yoniumuhibi
| 2022-05-27 23:30
|
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