また棄民政策に逆戻り - キットないので検査しません、病院にも来ないで

これまで隠れていた尾身茂や釜萢敏が、急にテレビに出て来てバタバタ立ち回っている。昨日(1/25)はNHKが夜10時からオミクロン株のNスペを放送した。普通は週末の夜9時に流す内容だ。政府内に緊張が走っていて、国民に行動規制のメッセージを緊急で伝えようと慌てている事情が窺える。第6波の危機が本格化し、想定を超えた大きな被害が出ると察したのだろう。3回目接種が未達で高齢者人口の割合が高い日本は、欧米諸国とはオミクロン株禍の前提条件が異なる。

この問題を25日の衆院予算委で日本共産党の議員が質問していて、政府側は、460万回分の抗原検査キットの在庫があり、さらにメーカーに1日80万回分の増産を要請していると答弁していた。25日朝にモーニングショーに出演した仁木芳人は、460万回分の在庫なら2日で空になると解説、1日80万回分の増産もすぐの達成は厳しいだろうと悲観的な見方を示した。抗原検査とPCR検査のキットがなくなり、検査そのものが物理的に困難になるため、厚労省の上の新方針が出たのである。しからば、症状が出れば簡単に医師の診断を受けられるかというと、どうやらそうでもないようで、厚労省は、「若くて低リスクの人は必ずしも受診しなくてよい」という方針も併せて出している。

具体的にイメージしよう。日雇いなど非正規で働く無産層の若者が、感染爆発する都市の現場で無理して労働して、オミクロン株特有の咳や喉の痛みを発症したとしよう。薬局に行っても検査キットは手に入らない。保健所に電話したら、若いからしばらく様子を見てくれと放置される。保健所は忙しくて手一杯だから構ってられないと突き放され、熱が出てもっと症状が悪化したらまた電話しろと指示される。結局、彼は新規感染者ともカウントされず、医師の診察も受けられず、薬ももらえない。自宅で自力で治すか、肺炎が重症化する手前でひなたのような訪問医師の往診を受けるしかないのだ。間に合えば命は助かるが、間に合わなければ「自宅療養中死亡」の人になる。それをテレビが神妙な顔で報道する。

第6波・オミクロン株禍の日本の対処方針は、検査させない、診断させない、病院にアクセスさせない、入院させない、薬も与えない、自宅で自己責任で治させる、である。その正当化の理由は、医療資源がないからという説明だ。検査キットがない、薬がない、医師・看護師のキャパがない、ベッドがない、ワクチンがない。なので、この対処方針で我慢してもらう。政府とマスコミは平然とそう言って国民に納得を強いている。だが、日本はコロナ対策に2年間で77兆円注ぎ込んでいる国だ。国民一人当たり61万円。日本国民はコロナ対策に一人61万円も税金を払っている。61万円を払ってこの棄民政策。入院どころか検査さえ受けられない。検査拡充は、この2年間、政府がずっと言い続け、自民党が選挙で公約にしてきたことだった。

さらに、人口に占める高齢者の比重が異なり、65歳以上の高齢化率が日本では29%だが英国は18%にすぎない。米国は16%。いわば基礎体力が違う。12月時点から、松本哲哉など専門家は、オミクロン株がどれだけ重症化率が低くても、感染者の絶対数が多く母数が多くなれば重症者数も多くなるのだという警告をずっと発していた。25日夜の長妻昭の話では、オミクロン株の重症化率はデルタ株の4分の1だと言う。だとすれば、感染者数が4倍になれば重症者数は昨年8月と同じ水準になり、医療逼迫・医療崩壊を惹き起こすのは必然ではないか。それなのに、選挙に勝った維新系を筆頭に、新自由主義者たちはオミクロン株は軽症だから規制は不要だと言い張り、経済を回すことを優先しろと吠え、インフルエンザと同じだから5類に引き下げろと喚き続けてきた。12月から1月前半のコロナ論議はそれが争点だった。その言説が作用して、日本の危機感はきわめて薄かった。

英国も米国も壮絶な死者数を出していて、もし日本でこの死者数が出る惨状になったら、内閣倒壊どころか政権交代が起きているだろう。比較して、やはり社会が違うのだという本質的差異を素朴に感じさせられる。これほどの死者数を出しながら、マスク等規制を全廃して自由に経済社会活動のアクセルを踏もうという発想と意思はどこから来るのか。英国や米国は、欧米は、日本とは社会が根本的に異なっている。他人の不幸を身内の問題の如く考えて心を傷ませる度合いが薄く、優勝劣敗・適者生存・弱肉強食のダーウィン的論理で均衡が成立しているように見える。日本は、同じ日本国民を自分の家族のように考え、相互に配慮し合う。社会成員の一人一人の命が相対的に重いのだ。赤の他人ではない。共同体(ゲマインシャフト)の契機と性格が本来的に強い。そうした社会体質の日本が、欧米モデルのウィズコロナを選択することが果たして正しいことだろうか。








by yoniumuhibi
| 2022-01-26 23:30
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Comments(2)

カミュの『ペスト』を読むと、作中の敬虔なキリスト教徒は「ペストが神の意思なら、相応の人間が死ぬことを甘受すべき」と言う態度であり、防疫に奮闘する主人公たちの姿勢は「反キリスト教的」と分類されている。東洋とは考え方が根本的に異なる。
こうなると、「為政者は民草を善導し、仁政を敷くべし」と言う儒教の伝統も、疫病下では悪くないと思う。
こうなると、「為政者は民草を善導し、仁政を敷くべし」と言う儒教の伝統も、疫病下では悪くないと思う。
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“一丸となって”という言い方がありますが、アメリカの場合だと、それができるのは外国との戦のときなどで、国内の出来事に対しては一丸となりにくい体質なのでは、と思います。
地球上のあらゆる国から、それぞれの文化を持ってアメリカに移ってきた人たち、多様性はそれを目的にしたのではなく、結果としてそうなってしまったという歴史です。日本に言われる多様性は、絵に描いた餅的で、現実はほとんど単一民族国家の単一性が体質、一丸となって、コロナゼロを目指そうと決心すれば、それを実現させやすい方ではないかなと私は思うのです。
ウィズコロナよりコロナゼロの方が完璧で、勝利に近いですね。そしてコロナを抑え込み克服した国の経済には、立ち直りが待っている。
アメリカのことを書いたのは、夫の仕事の関係で二年近く住んだことがある国だからです。世界の歴史の流れから結果として多様性国家になり、人それぞれの考えに注意を払い大切にする価値観、コロナゼロに国民の気持ちをまとめるのは難しく、ウィズコロナで精いっぱいなのでは、と推測します。日本はコロナゼロを念頭に据え、このウイルスに対峙するのがいいと私は思います。
地球上のあらゆる国から、それぞれの文化を持ってアメリカに移ってきた人たち、多様性はそれを目的にしたのではなく、結果としてそうなってしまったという歴史です。日本に言われる多様性は、絵に描いた餅的で、現実はほとんど単一民族国家の単一性が体質、一丸となって、コロナゼロを目指そうと決心すれば、それを実現させやすい方ではないかなと私は思うのです。
ウィズコロナよりコロナゼロの方が完璧で、勝利に近いですね。そしてコロナを抑え込み克服した国の経済には、立ち直りが待っている。
アメリカのことを書いたのは、夫の仕事の関係で二年近く住んだことがある国だからです。世界の歴史の流れから結果として多様性国家になり、人それぞれの考えに注意を払い大切にする価値観、コロナゼロに国民の気持ちをまとめるのは難しく、ウィズコロナで精いっぱいなのでは、と推測します。日本はコロナゼロを念頭に据え、このウイルスに対峙するのがいいと私は思います。
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