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25条が消えた2021年 - コロナ禍棄民策犠牲者の無念に手を合わせ

25条が消えた2021年 - コロナ禍棄民策犠牲者の無念に手を合わせ_c0315619_15102588.png今年1年を振り返って締めくくる言葉を考えると、やはり、憲法25条が消えたという諦観に行き当たる。日本で今年起きた決定的な事件、歴史に刻まなければいけない重大事件は何かといえば、やはり、コロナ禍に襲われた2年目の夏、重症患者が次々と自宅で棄民死させられた事件だろう。ひなたクリニックが動画を投じた事件である。この問題について8月下旬から5本の記事を書いている。8/258/278/309/139/15。今年の記事を代表する1本を選べとなると、8/27か9/15の稿になりそうだ。

魔の第5波がピークにさしかかった8月2日、突然、総理大臣が会見を開き、リスクの高い患者以外は自宅療養を基本とするという政府方針を発表した。事実上、カネとコネのない弱者市民、社会的地位のない庶民は入院治療させないという趣旨の決定であり、冷酷な線引きの通達である。病床など医療資源には限りがあるから、石原伸晃や著名俳優の命は救うが、そうではない虫けらの国民は我慢してもらうという大胆な新方針の提示だった。




25条が消えた2021年 - コロナ禍棄民策犠牲者の無念に手を合わせ_c0315619_15104421.png選別されて切り捨てられた庶民には、ひなたクリニックのような訪問ドクターがあてがわれた。訪問ドクターと言っても、設備器具を持っているわけではないので見廻り以上はできず、必要な治療や手当などできない。その仕事は、家族を前に患者の自宅死を宣告して納得させることと、せいぜい、死ぬ前日に死亡前提で一日だけその種の「事務処理」をする病院に搬送することだった。テレビ報道では50代の男性と80代の男性が登場した。住居や生活の雰囲気からして2人とも低所得者層に位置する部類だ。

これまで汗水垂らして働いて、給料の中から社会保険料を払ってきて、国民皆保険の制度を支えてきた日本国民である。だが、行政に線引きされて入院治療の対応を拒絶された。柏の妊婦に至っては訪問ドクターのサポートもなく、保健所が電話を繋いだり切ったりするだけで、赤ちゃんの命が酷薄に切り捨てられた。こうした悲劇が各地で頻発し、警察発表では8月中に全国で250人が「自宅療養中に死亡」している。その間、テレビでは「東京五輪の熱狂」ばかり放送して騒いでいた。


25条が消えた2021年 - コロナ禍棄民策犠牲者の無念に手を合わせ_c0315619_15105513.png後から出た報道では、このときJCHO系の病院でコロナ患者用の病床が30-50%空いていたと批判されている。JCHOとは尾身茂が理事長を務める「独立行政法人 地域医療機能推進機構」のことだ。上級のためにコロナ病床を特別に確保していたのだろうか。年末のテレビが今年を振り返る特集をやっていて、コロナ2年目という平板な総括は語られるけれど、第5波の凄絶な刻一刻に焦点を当てた報道がない。ひなたの田代和馬が登場する場面がない。

「自宅療養が基本」の政府方針によって命の選別が行われた深刻な事実に触れられず、誰もが命の危険を感じながら生活していた日々に連れ戻そうとしない。もし、久米宏や古館伊知郎の番組が生きていたら、年末の回でこの問題を集中的に検証し、田代和馬に証言させ、その回想を視聴者と共有して今年を締めくくっていただろうと思われる。8月、政府はろくに説明せず、命の選別をする方針を宣告して国民に押しつけた。弱々しく抵抗したマスコミ論者は若干あったが(堤伸輔)、ほとんどは無批判に追随し、菅義偉の代弁者として示達を流すだけだった。


25条が消えた2021年 - コロナ禍棄民策犠牲者の無念に手を合わせ_c0315619_15110873.png政府はこのときの方針を未だ正式に撤回していない。オミクロン株による感染爆発で同じ医療逼迫の事態になったら、またぞろ「自宅療養が基本」を言い出し、「訪問ドクターによる診療」をエクスキューズで言い、下級の重症患者はひなたの出動となって「自宅療養中死亡」で始末をつけられるのだろう。同じことを繰り返すに違いない。選挙で野党が勝っていれば、おそらく、長妻昭や山井和則が動いてこの方針は完全撤回となり、内部検証も加えられ、年末のNHKの報道番組で厳しく糾弾告発されていたはずだ。

残念ながら野党が負けたため、そして「改革」を掲げた維新が勝利したため、コロナの治療対象を線引きする棄民政策は正当化される結果となった。すなわち継続して再び発動する態勢となった。来年、75歳以上の後期高齢者は医療費負担が2割に引き上げられる。75歳以上の下級国民がコロナに感染して重症化しても、逼迫時、まず確実に入院は断られ「自宅療養」を余儀なくされる。つまり、この人たちは、入院治療できる上級国民のために医療費負担を2倍支払わされるのだ。自分は犠牲となって。


日本国憲法 第25条
第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。


25条が消えた2021年 - コロナ禍棄民策犠牲者の無念に手を合わせ_c0315619_15114758.png憲法25条の原理原則がこの国の行政と政策から消えている。いわゆる「プログラム規定」ですらなくなっている。その前提および基礎として、この理念を支える倫理観が国民の内面から消えている。これとは逆の価値観が国民の中で支配的になっていて、それは自己責任の価値観であり、だから維新が選挙で勝つのである。その価値観に従って維新に投票するのだ。具体的に言えば、その論理はこういう中身だ。コロナに感染して重症化したのは自分の責任だ。稼いで大金を蓄えていれば、あるいは仕事で出世して人脈を築いていれば、病床の一つぐらい何とかありつけただろう。

それができないのは自己責任である。貧乏人は税金も僅かしか払ってないのだから国の社会保障の制度に頼りすぎてはいけないし、むしろ多額の納税をしている富裕層こそ医療の恩恵に授かるべきだ。それが当然で公平というものだ。こういう思想と意識が主流になっていて、その信者であり権力者の菅義偉は堂々と政策決定に反映させた。私は、ここまで来たら、憲法25条の改訂を行ったらどうだろうと提案を出したい。25条を時代に適合するように変えよう。


日本国憲法 第25条
第1項 国民は、それぞれ地位と能力に応じて、必要な水準の健康で文化的な生活を営む権利を有する。


25条が消えた2021年 - コロナ禍棄民策犠牲者の無念に手を合わせ_c0315619_15115704.pngこの条文規定なら、上級を優先して入院治療させ、下級を棄民する政策も合憲である。何も問題ない。9条改訂論者の主張も、時代に合わないという理由からだった。憲法は時代に合わせて変えないといけないものらしい。時代に合わせてということは、国民の意識や価値観の変化に合わせてという意味だろう。それにしても、かくばかりにして、今年は憲法25条のルールとシステムが破壊され粉々にされた年だった。今年はどんな年だったかと言えば、憲法25条が地上から消えた年なのだと、その意義を言い、その悲劇と遺恨を言わなければならないはずである。

それを言挙げしなければならないのは、憲法学者と政治学者のはずである。が、誰もそれを言わない。9条と並んで国の宝であった25条が無残に蹂躙されたのに、憲法学者と政治学者が一言も総括と批判を述べないのは、彼らがリベラリズムの徒になり果て、平等主義の思想の片鱗もないからだ。憲法学者と政治学者は、師走も正月も、ジェンダーとマイノリティの多様性運動に夢中で、それに飽きたら右翼と声を合わせて中国叩きの熱唱に興じている。25条など眼中にない。


8月から9月にかけて多くの者がコロナ禍の棄民で死んだ。一歩間違えば同じ運命に遭っていた。彼らの無念に手を合わせて1年を終わりたい。オミクロン株の脅威が迫る中、不気味に思い出すのは、田村憲久が報道1930でさりげに残した一言である。コロナ終息まで5年かかると言った。冗談なのか、現職大臣が小耳に挟んだ厚労医系技官による専門的予測なのかは不明だが。


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by yoniumuhibi | 2021-12-30 23:30 | Comments(3)
Commented by コスモス at 2021-12-30 21:13
今年もたくさんの記事を有難うございました。
文春は、大阪西梅田放火殺人犯(今日死亡)の高校の名簿を手に入れて、同級生全員に電話を掛けているそうで、知り合いも掛かってきて同級生だったんだと知ったそうです。すごい仕事ぶりだなと思いました。日本国憲法を支えていたのは、こういう執拗な仕事ぶりですよね。

ブログ主さんがSNSで書かれていたとおり、岸田になってからだいぶストレスがなった点は同感です。菅は最低でしたね。gotoで第3波を作り出し、五輪で第5波を作り出し。いま思えば1波はまだ医療も初めてのことで混乱はやむなし、2波はそこまでの数でもなし、4波は日本は海外検疫を厳しくするという思想が行政になかったので変異株の混乱は1回はしかたがない。でも3と5は菅による人災だと思います、許せません。ワクチンによる薬害だってひどい。今の岸田のやり方であれば日本人はワクチンを打たなくても済んだでしょう。
同じ自作自演をやるのが大阪維新で、オミクロンが蔓延するのに早速大阪旅行キャンペーンをやるという。

いじめの件も旭川の話なんて辛そうで読めないから、読んでいません。辛い話を読むのが耐えられなくなってきましたね。
Commented by 愛知 at 2021-12-31 17:31
「敗戦中の従軍看護師はこんな気持ちだったのだろうかとか、毎日ぽきぽき心が折れてゆく。一日回れても8人、重症者が増えてきたので一件ずつの訪問時間が長くなる。(中略)到着が21:00になった。家のドアを開ける時に心が定まる。できることをする。待たせてごめんね。病院の廊下でもいいですから、入院させてほしいとお母さんに手を合わされても、私にはどうすることもできない。咳き込んでいるので、窓全開でも気が散りそうになる。集中して血管を探す、よし入った。ステロイド入りの点滴、焼け石に水でもないよりまし。来てくれただけでも命が見捨てられてないと感じて希望が持てます、と言われる。こんなこと、だれが知っているのか、どう発信すればいいのか。今ここに居合わせている私でさえ、信じたくない気持ちが反発しているくらいなのに。呼吸数54回、酸素吸入7L、39℃台の発熱が続く。大病院で検査して陽性となり帰宅後、一週間。おいおい、このままじゃ今夜死ぬかも。持病の薬が床に散乱している。飲めないよね、呼吸数54回じゃ。まだ30歳代(後略)」これは神戸市で訪問看護師として活動している藤田愛さんのSNSでの発信の一部。今年(2021年)大阪、神戸で医療崩壊したときの発信です。この30代の男性は藤田さんの交渉で入院できたものの、その後、藤田さんが容体を尋ねるため母親に架電したところ、ちょうどその日に亡くなっていました。いつも乍ら正鵠を射た貴下1年の総括に胸のつかえが取れた思いです。一年間のご教授に感謝を申し上げます。来る年もすばらしい発信を宜しくお願いいたします。
Commented by 成田 at 2022-01-03 00:51
憲法25条の観点からコロナ棄民を見ていた識者はいないので素晴らしい慧眼だと思いました。
日本のコロナ政策は世界でも最低レベルです。
何故PCR検査をやらないのか、入院病床を増やさないのか、訳がわかりません。これらの対策をしっかりしていればどれだけ死者が減ったのか、私は1万人単位の方々が生きていられたと思います。
まさに憲法違反であり、許されざる所業です。
ご指摘の通り、もし衆院選で野党が勝っていたら、自民の主要幹部は全て刑務所に放り込んでいたでしょう。
本当に無念であり、悔しいです。


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