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ロシア情勢の解読 - 勝負に出たプーチンと無策で優柔不断の米国・EU

ロシア情勢の解読 - 勝負に出たプーチンと無策で優柔不断の米国・EU_c0315619_13040297.png「およそ政治をおこなおうとする者、とくに職業としておこなおうとする者は(中略)すべての暴力の中に身を潜めている悪魔の力と関係を結ぶのである。 無差別の人間愛と慈悲の心に溢れた偉大な達人たち(キリストやブッダ)は、暴力という政治の手段を用いはしなかった。自分の魂の救済を願う者は、これを政治という方法によって求めはしない。 政治には、それとはまったく別の課題、つまり暴力によってのみ解決できるような課題がある。(中略)悪魔の力は情け容赦のないものである」(岩波文庫 P.99-101)。

『職業としての政治』の中でウェーバーはこう言っている。再び欧州情勢が緊迫してきたが、その当事者であり、この緊張を作り出している張本人であるプーチンの政治を説明するインプリケーションは、さしずめこのようなものだろうか。




ロシア情勢の解読 - 勝負に出たプーチンと無策で優柔不断の米国・EU_c0315619_14333633.png今年4月、ロシアがウクライナとの国境に大軍を動員集結させたとき、ブログ記事で「7年ぶりに大規模な戦闘が起きるのは確実な情勢だ」と書いた。これほどの規模の地上軍を動員するからには、何らかの軍事作戦が計画されているに違いないと考えたからであり、ミンスク合意の履行の確定という目的を達成するために軍事力行使に出るのだろうと予想した。その上でプーチンの計略を読んで、実力ある調停者であるメルケルの在任期間中に事を起こし、再びメルケルの出番を作り、メルケルからウクライナにミンスク合意の完全履行を迫らせ、ウクライナに譲歩させ、果実を得た上で撤兵するというシナリオを描いているのではないかと想像した。ウクライナが、和平協定である2015年の第2次ミンスク合意を未だ履行しておらず、渋ったままでいるという事実は、小泉悠によっても指摘されている。すなわち、ロ・ウ間の外交的立場上のアドバンテージはロシア側にあり、軍事的圧力をロシア側が正当化し得る環境と構図になっている。ミンスク和平の立役者はメルケルだった。


ロシア情勢の解読 - 勝負に出たプーチンと無策で優柔不断の米国・EU_c0315619_14334725.png4月、ロシアは軍事行動に出ず、メルケルの出番もなく、ロシア国防相が「帰還命令」を出して事態は終息した。水面下で何があったか不明だが、懸念された軍事衝突には至らなかった。だが、この「帰還命令」は偽装で、そのまま軍の配備を解かず、さらに予備役を召集して9万の地上軍を17万にまで拡大する状況だと言う。どうやら私は読みを外していて、プーチンの真の狙いはメルケルの出番を作るのではなく、逆で、メルケル引退を睨んでの巨大な構想の実現にあった。最早、ミンスク合意履行のような小さな果実が標的なのではなく、もっと大きなグランドデザインを描いているのであり、NATOとロシアの安全保障上の境界線を法的に画定することを意図している。4月の軍事行動は、米国とEUがどう出るか、どう動くかの探りを入れるための陽動作戦で、プーチンは米国EU側の手の内を悟ったのに相違ない。つまり、ロシア軍がウクライナに侵攻してもNATOは介入しない、リスクが大きいので反撃・応戦には出ない、したがって大戦争にはならないという確証と自信を得たのだろう。


ロシア情勢の解読 - 勝負に出たプーチンと無策で優柔不断の米国・EU_c0315619_14515638.pngプーチンは遂に最終カードを切り、17日、NATOの東方不拡大を保証するための米ロ2国間の条約案を公表した。その中身は、(1)旧ソ連諸国のNATO加盟を排除する義務を米国が負うということと、(2)NATO未加盟の旧ソ連諸国領内にNATOが軍事基地を持たないことが含まれている。公表とはなっているが、情報は欧米側から発信されていて、日本のマスコミ報道は米国の反応に即した簡単な要点しか紹介していない。 おそらく包括的な条約草案にはロシア側の見返りがあり、クリミアをウクライナに返還することや、米ロの核兵器削減交渉とかが項目に並んでいるのだろう。米国は(1)の要求は拒絶しているが、交渉の価値ありと興味を示す素振りを演じている。ロシアの要求に耳を傾けるフリをして、この問題で時間稼ぎする手に出ている。交渉に応じる態度を擬態して、宙ぶらりんで引き延ばし、ロシア軍のウクライナ侵攻を中断させる(外交的に無力化する)策で動いているのに違いない。ロシアに忖度している。今はどちらが主導権を握っているか分からないが、プーチンは外交攻勢を強めて早めに米ロ首脳会談に持ち込もうとするだろう。


ロシア情勢の解読 - 勝負に出たプーチンと無策で優柔不断の米国・EU_c0315619_14383997.png明確に言えるのは、米国・英国・EUが軍事介入しないことである。2014年のクリミア危機のときは、オバマが黒海に米艦船を入れて牽制、ロシア海軍と一触即発の緊張状態を演出した。今回は、バイデンがウクライナには派兵せずと早々に声明発表し、英国も軍の派遣はしないと表明している。EU大統領とEU委員長とEU諸国首脳は、前例のない制裁で応じるとか強弁しているけれど、その発言には迫力がなく、腰が据わってない本音が見透かされて弱々しく響く。EU首脳たちは米国に頼り切っていて、何かあれば米軍が出動して守ってくれるだろうと期待している。解決の責任を米国に預けていて、自分たちで引き受けようとしない。この重要事態に指導者がおらず、局面を切り開く果断な行動に出ようとしない。そうした実力と才能を持った政治家がいない。烏合の衆だ。見ていて、彼らがこれまでいかにメルケルにおんぶにだっこだったか、メルケルのカリスマに依存して欧州の平和が守られていたかがよく頷ける。メルケルが現役だったら、すぐに和平会議を呼びかけ、例によってプーチン相手に徹夜の膝詰め談判に出ただろう。それができるのがメルケルで、見事に妥協を成立させていた。


ロシア情勢の解読 - 勝負に出たプーチンと無策で優柔不断の米国・EU_c0315619_14491208.pngメルケルは聡明で粘り強い9条のリーダーだった。メルケルの渾身の提案と説得だからプーチンも折れたのであり、ウクライナも渋々条件を呑んだのである。話し合いで解決に達した。今回、メルケルはおらず、代わりを務められる有能者がいない。戦争は必至に見える。だが、プーチンが強気なのは理由と根拠があって、仮にウクライナに武力行使に及んでも、米英EUは絶対に介入しないという見通しを確立させていることだ。それは何故かというと、マスコミでも解説されているとおり、現在の米国が中国との「競争」に全力を集中させており、全てのリソースを台湾・東アジアに投入する国家戦略の下に動いていて、欧州方面との二正面作戦に臨むことができないからである。プーチンは4月の威力偵察でこの事実を確認し、今回のバイデン発言で再確認し、一気に決着をつけるべく「米ロ安全保障条約」のカードを切ったのである。この点は、12月15日の報道1930で小谷哲男と小泉悠も観察していた。大統領、国務長官、国防長官、統合参謀本部議長の間でこの結論と方向性で乱れはなく、民主党議員もマスコミも世論も現在は一致している。敵は中国のみ。ロシアには無用な関心は向けない。


ロシア情勢の解読 - 勝負に出たプーチンと無策で優柔不断の米国・EU_c0315619_14551114.pngだが、小谷哲男が触れていたように、政権の中にも諸派があり、中国も重要だがロシアの脅威と暴走こそ抑えねばならぬという声もある。私は、おそらく、ロシア重視派が今後勢いを増すだろうと予測する。なぜなら、米国で多数を占める白人の先祖の故郷は欧州大陸だからであり、ロシア情勢は自分自身の問題だからだ。多くの米国人にとって、中国の脅威というのは「スターウォーズ」の「帝国」の如きもので、習近平は「ダースベイダー」のような表象ではないか。脅威には違いないけれど、実体が判然とせず実感が伴わない、北朝鮮と金正恩を巨大化したような、マスコミに嗾けられて敵として憎悪する、すなわち観念的な脅威の存在なのに違いない。何と言っても地球の裏側の国の話であり、言語・血統・風俗・習慣・宗教・文化・伝統がまるで違うところの別世界の話だ。今の米国のヒステリックな中国憎悪と暴支膺懲の空気を見ていると、実は、米国人自身が、こうした敵を作っておかないと、「スターウォーズ」の「帝国」を作出設定して戦う態勢にしておかないと、国家が分裂するという真相を内心よく知っているからという事情が窺われる。中国憎悪と「競争」がUSA国家の一体性維持のために必要なのだ。


われわれがここで想起しなければならないのは、昨年コロナ禍に遭って死去した岡本行夫が生前この問題で語っていた専門家の見解である。7年前のクリミア危機のときだったろうか。岡本行夫はサンデーモーニングの席で、この件ではロシア側に同情の余地があると明言、冷戦終結時のマルタ会談でNATOを東方に拡大させないという約束があった外交上の事実を披露していた。バルト3国にNATOのミサイル基地を配備されて、それでロシアが容認できるはずがないではないかと正論を述べ、保守系論者としては例外的にロシアの立場に内在したコメントを発していた。元外交官の認識と分析として、それが常識的で公平な見方だったのだろう。もう一つ、最近の東郷和彦の議論があり、旧ソ連諸国の国境線についての問題提起がある。これにも注意を向けたいが、長くなるので一旦筆を置く。


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by yoniumuhibi | 2021-12-24 23:30 | Comments(0)


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