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権威主義の概念について - 原義の加工改造と親米派によるラベリング言説化

権威主義の概念について - 原義の加工改造と親米派によるラベリング言説化_c0315619_13363399.png権威主義の概念について確認し検討してゆきたい。このところの政治空間の議論では、民主主義と権威主義の二項対立で世界を説明する思考が確立し、その観念が広く常識化して定着している。その構図を元に中国叩きに血道を上げるという政治的な空気が、右翼やマスコミだけでなく左翼リベラルでも一般化している。民主主義=米国=正義、権威主義=中国=悪という図式が公理として受け入れられ、大衆に確信され、あらゆる政治論評や政策判断の基礎になっている。そうした思想状況になっている。嘗ての認識と理解では、民主主義の対立概念は全体主義であり、民主政治の対義語は独裁政治だった。だが、そうした政治上の通念に変容が起こり、権威主義という語が悪玉範疇・敵性範疇として強力に浮上し、自分たちが所属する民主主義陣営と対立する政治属性として強調され意識されている。権威主義の言葉に私は違和感があり、米欧日を正当化する工作言説ではないかという不信感があった。違和感の正体を明らかにする作業を試みたい。最初に、ネットの情報ではこんな定義づけがされている。



政治学上の用法では、権威主義体制とは非民主的な体制の総称であり、通常は独裁、専制、全体主義などを含むが、権威主義体制を民主主義体制と全体主義体制の中間とする立場もある。


権威主義の概念について - 原義の加工改造と親米派によるラベリング言説化_c0315619_13372154.pngこれは Wiki の記述だが、「政治学上の用法では」という典拠は、堀江湛の『政治学・行政学の基礎知識』と加藤秀治郎の『政治学の基礎知識』らしい。面目ない次第ながら、堀江湛も加藤秀治郎も全く知らない。著書を読んだこともない。どんなお偉い権威の碩学様なのだろうと堀江湛のプロフィールを調べてみたら、旧民社党のブレーンで「政策研究フォーラム」の名誉顧問だという紹介記事があった。「政策研究フォーラム」とは何だろうと調べると、旧民社党系のシンクタンクだという情報があり、副理事長は加藤秀治郎だと書かれている。ここまで調べて知り、なあんだそうかと、すべて腑に落ちて苦笑する気分になった。ナンセンスの一言だ。この Wiki の「権威主義」の定義は、要するに旧民社党系の反共の徒輩が落書きしたもので、イデオロギー的な意図と思惑に沿って概説したものだ。正体見たりである。Wiki の恐ろしさはこういう点にある。ネット検索は手軽であり、Wiki は多くの者が利用するから、この「学説」がそのまま鵜呑みにされて一人歩きしてしまう。


権威主義の概念について - 原義の加工改造と親米派によるラベリング言説化_c0315619_13370941.png嘗ての日本の正統の政治学、すなわち戦後民主主義の時代の政治学では、権威主義はこのような概念ではなかった。民主主義と二項対立で対置される政治体制の意味ではなく、まして非民主主義の総称でもなかった。原義は似ても似つかぬものだ。丸山真男が編集に関わった平凡社の『政治学事典』から引用しよう。項目の執筆者は立教大学の総長になった尾形典男で、ラスキやウォーリンの訳者である。「権威」「権威主義」とも担当している。


権威の特徴は、それが一定の社会集団の大部分の人々によって承認ないし畏敬されているという点にある。したがって権威者の判断に疑惑をもち、あるいは権威そのものに反発することは、大部分の人々にとっては冒涜であり、むしろ罪悪ですらなければならないとされる。このような思考態様を権威主義という。政治権力的支配服従関係において、被治者が治者の説得、宣伝によって、あるいは無意識的にこのような思考をする場合、そこに権威主義的支配体制が成立する。


権威主義の概念について - 原義の加工改造と親米派によるラベリング言説化_c0315619_14104485.pngしたがって前近代的な支配体制、たとえば神聖ローマ皇帝の支配、法王の支配、家父長権制、家産制などは権威主義的支配体制であったと言い得る。しかし個人的自由の自覚、合理主義的意識の普遍化の後においては、支配権力は個人の自由と対決しなければならず、したがって何らかの点で被治者に対して説得力を持った権力の正統性の根拠を提示するのでなければ、権威主義的支配体制の確立はのぞみ得ない。マキアベリのレーゾン・デタ、C.シュミットの決断主義などは国家権力の非拘束性を主張するものであり、したがってそれは個人的自由原理との対決を回避しつつ、被治者の国家権力への批判と反抗を排除する理説であり、権威主義であるといわれる。


権威主義の概念について - 原義の加工改造と親米派によるラベリング言説化_c0315619_14132492.pngホッブスによる国家権力の終極判断権 ultima ratio の主張、ルソーの一般意思の理論、ヘーゲルの世界理性の担い手としての国家の考え方などは、いずれも個人自由原理と対決しつつしかもこれを超出する理論であり、一面において権威主義のイデオロギーたり得る性格を持つ。さらに、しかし国民主権の思想が普遍化した今日では、単にこれを平面的に対立しあるいはこれを回避超出するイデオロギーでは、もはや被治者に対する説得力を持ち得ないのであって、ファシズムにおけるように、まさにその国民主権のイデオロギーを利用し、国民意思の真の体現者、国民の指導者を自称することが、かえって権威主義の成功への道であった。


権威主義は思考態様とりわけ被治者の思考態様の問題であった。したがって統治機構が合理的であること、たとえば民主的機構が制度として存在しているということは、それだけで権威主義の存在がないということを保証するものでは決してない。被治者の大部分が実質的に権威主義的思考態様をとるかぎり、民主制機構の下でも、時によっては民主制機構の下でこそかえって権威主義的支配はその威力をふるい得るのである。


権威主義の概念について - 原義の加工改造と親米派によるラベリング言説化_c0315619_13392598.pngと、このように論述されている。これを一読しても、民主主義と権威主義が二項対立の平板な図式で分類区分される概念ではなく、民主主義の国家体制の中にも権威主義の契機の強弱や程度があるという捉え方がされていることが分かる。権威主義をこのように尾形典男的な語義で私は理解していたから、現在の独特な意味の「権威主義」の語が氾濫するマスコミ報道に痛痒を覚えたのである。概念のスリカエが為されている。政治学の述語が工作され、元の意味が消され、新しい定義に書き換えられている。無論、言葉は時代によって変わるものだから、政治の世界の諸概念も定義の変容や加工はあるだろう。だが、その場合は、元の意味はこうで、こういう事情と理由で新しい意味が加わったとか、いつ頃から新しい解釈で使われるようになったと異同の経緯を解説すべきで、その手続きを省略してはならないはずだ。Wiki の記述は明らかに作為的な省略が窺われ、すなわち政治学の概念の捏造に近いものである。非民主主義の思想や体制の総称を権威主義と呼ぶという用語法は、きわめて最近になってのもので、ある政治的立場からのラベリングに他ならない。


権威主義の概念について - 原義の加工改造と親米派によるラベリング言説化_c0315619_13420042.png尾形典男に即して言えば、権威主義という政治学の用語は思考態様の問題だから、これを政治体制の類型に還元したり誤用したり濫用してはならないということになるだろう。最近の「権威主義」の概念は、最初にアメリカやEUに対立的な国を悪と規定し、それらを悪のカテゴリーにバスケットして貶め叩く言説を通念化させるため、元の権威主義の語が借用され、細工され再定義化された感が強い。おそらく、ソ連崩壊の後のことだろう。今、マスコミで頻用されている「権威主義」の国には、中国やロシアやイランやシリアが入り、EUに不服従なハンガリーが入るという定義になっている。アメリカに従順な政権の国が「民主主義」の国で、おそらくエジプトも民主主義国なのだろう。仮に普通選挙と議会と政党があり、憲法が国民主権を制定していたとしても、リベラル・デモクラシーの思想を社会の基本原理として戴かず、アメリカに忠実でないかぎり、マスコミはその国を民主主義国とは認めないのだ。思考態様の問題として権威主義を考察するなら、米国を権威として無条件に崇める日本人の態度こそ、まさに権威主義として指摘されるべき対象なのではないか。


ファシズムを例に出して、<民主主義体制における権威主義>を説明している尾形典男の議論の部分を、ヒトラーのシンボルの代わりにアメリカを持ってきたらどうだろう。まさに、支配者であるアメリカの超越的な権威にひれ伏し、思考停止状態になって盲目的に賛美し帰依するところの、被治者たる日本人の思考態様・精神態度がよく浮かび上がるではないか。以上、権威主義の原義の加工と親米派によるラベリングについて述べた。ここには言葉の悪用が看取される。そして、今の政治学の腐食と荒廃がある。権威主義の概念も混乱して不正確になってしまったが、同時に民主主義の語の中身も怪しくなった感覚を否めない。民主主義から純粋な理念的実体が奪われ、アメリカ=民主主義という強引で非論理的でステレオタイプな概念化が進んでいる。それにしても、誰が権威主義の概念をこのように無理やり改造し構築したのだろう。犯人捜しが必要だ。


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by yoniumuhibi | 2021-03-23 23:30 | Comments(2)
Commented by 風林火山 at 2021-03-24 13:55 x
SNSで触れられていた、ライターの方の深センレポート読みました。いまSNSには海外在住日本人の体験談が溢れていますね。いまの大きな話題は、アジア人に対するヘイト行為、暴力行為が多くて気を遣うこと(日本人です、中国人ではないと言っても通用しない)、日本では「日本人のこどもが海外へ養子に出された」と報道されていた件について人身売買ですよね、人身売買は先進国でも無縁ではないという話などです。とても勉強になります。
そして福島第一原発一号機の格納容器への注水量を増やしたという報道、メディアでは触れられていませんが、2月の地震で壊れたということですよね。これ相当まずいですよね。
Commented by 民社問題 at 2021-03-25 18:13 x
堀江湛や加藤秀治郎は、中選挙区制攻撃を続けてきた学者として記憶しています。加藤の中公新書「日本の選挙」は、ロングセラーで、現在、大学の講義の参考書として使われることもあるようです。
矢部貞治、中村菊男、加藤寛、など旧民社系の右翼学者の問題点は、きちんと批判しなければならないと思いました。


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