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RCEPの意義 - ポストWTOの世界自由貿易体制の盟主となる中国

RCEPの意義 - ポストWTOの世界自由貿易体制の盟主となる中国_c0315619_14404057.pngIMFの予測では、2025年に中国のGDPが米国の9割に達すると報告されている。来年2021年の成長率の予測値を見ると、米国3.1%、中国8.2%となっている。中国の数字は堅いところだろう。OECDは8.0%と見通している。問題の焦点は米国で、3.1%のプラス成長を達成できるかどうかはコロナ収束の如何に拠っている。具体的にはワクチンの開発と製造と供給に成功できるかどうかにかかっている。ワクチンに瑕疵がなく首尾よく効果を発揮し、そして素早く国民全体に接種を進めることができれば、コロナを収束させ、イエレンの手綱で、元どおりの強い米国経済を復活させられるだろう。だが、もし救世主たるワクチンに副作用が起きるなど不測の事故が生じ、計画どおり普及させることに躓けば、コロナ収束までにさらに長い時間を要し、経済にマイナスの影響が出てGDPの伸びは小さくなる。そのリスクはIMFもOECDも予測の中に織り込んでいない。



RCEPの意義 - ポストWTOの世界自由貿易体制の盟主となる中国_c0315619_14405206.png5年後に中国のGDPが米国の9割に達するというIMFの予測は、あくまで、米国が来年中にワクチン供給の奏功によってパンデミックを終結させるという想定の上でのものだ。ワクチンに障害が起きれば前提条件は覆る。最悪の場合、米国経済は来年2021年もマイナス成長を余儀なくされる暗転に陥りかねない。そうなったときは、米国と中国のGDPのクロスポイントも時期が前倒しされ、2024年には米中逆転が実現してしまっているだろう。実に、米国の浮沈はワクチンの成否にかかっていると言ってよく、失敗すれば一気に覇権国の地位から転落してしまう。意地の悪い見方かもしれないが、最近のワクチンをめぐる報道発表の氾濫は、何やら株価狙いの動機が透けて見え、本当に科学的医学的に正しい進捗を踏んでいるのかどうか疑う気分を拭えない。国家の威信やら、経営者の欲得やら、市場の思惑やら、そうした契機が先行して期待喚起がドライブされている感が強く、ワクチンを素朴に信用していいかどうか怪しい。


RCEPの意義 - ポストWTOの世界自由貿易体制の盟主となる中国_c0315619_14410523.pngワクチンでの収束にミスした場合、主要先進国では第3波・第4波・第5波と流行が続き、ロックダウンで感染を減らしてはまた経済を回すべく緩和して、という原始的な対策が繰り返されることになる。有効なワクチンの投入で人為的に感染を抑えて克服する前に、自然流行と大量犠牲で集団免疫獲得という進行になるかもしれない。今年の米国と欧州の状況と顛末を見ていると、そういう悲観的な観測に傾くのも無理のないところだと言える。それ以上に懸念されるリスク要因は、ワクチンが失敗したときの市場の失望であり、株価の暴落である。そのときは、今年のトランプとFRBによるMMTヘリコプターのような回避策は通用せず、2008年のリーマンショックの再来か、それを上回る本格的な金融危機の事態となるだろう。普通に考えて、基軸通貨(=マルクスの「貨幣形態」)のチェンジなしに覇権国の移動と変転はあり得ない。米中の鬩ぎ合いに勝負がつくときは、基軸通貨の地位が米ドルから人民元に交代するときだろう。それは、NY株式市場の暴落とドルの暴落をもって具体化する劇的なプロセスであると予想される。大きな世界史の転換の瞬間だ。


RCEPの意義 - ポストWTOの世界自由貿易体制の盟主となる中国_c0315619_14454635.pngさて、先頃署名式が行われて正式に発足したRCEPに注目し、その意義を考察しよう。RCEPの意義について、日本のマスコミ報道の説明は過小であるように思われる。RCEPは日本と中国が推し進めてきた東アジアの自由貿易圏構想である。日中が2000年代に共同作業を進め、2011年に共同提案を発表し、韓国とASEAN諸国を交渉のテーブルに乗せて準備会合を重ねてきた。構想を始めた端緒の時点で、日中は今ほど険悪な敵対関係ではなかった。そして、日本と中国の経済力の彼我は今とは全く逆の構図を描いていた。2005年のGDPを比較すると、中国が2兆2900億ドル、日本が4兆7550億ドルで、中国経済は日本経済の半分のサイズしかない。そこから14年後、2019年のGDPでは、中国は15兆2220億ドル、日本は4兆9100億ドルで、中国経済は日本経済の3倍以上の規模と格差となっている。わずか15年で立場と関係は根本的に変わった。RCEPにはインドは入っておらず、当然のことだが、この枠組の運営は中国が主導権を握ることになる。中国のイニシアティブは確固で、インドネシアやタイなど中国と友好的な国々がこの枠組で経済発展するプラットフォームとなる。


RCEPの意義 - ポストWTOの世界自由貿易体制の盟主となる中国_c0315619_14525724.pngRCEPの経済圏は巨大で、TPPと比較して人口で4倍以上、GDPで2.3倍もある。しかも、躍進がめざましいASEAN諸国全体が包含されている。中国はさらに次のステップとしてTPP加盟を狙っていて、もし実現すれば、RCEPの緩い基準を徐々にTPPの高レベルに接近させ、RCEPとTPPをコンバージェンスする動きに出るだろう。その結果、世界の貿易と経済の標準ルールを中国主導で取り決め、その体制を保障する新地平が築かれるに違いない。トランプによって破壊されたWTOが、新しく中国を中心に一つの世界自由貿易体制として再編され再出発することを意味する。その展望はリアルに視界に入っている。日本が中国のTPP入りに反対しても、RCEPが拡大してTPPがガラパゴス化するだけだ。メキシコやチリやマレーシアは中国加盟に積極的だろう。問題は米国で、この中国の戦略にどう対抗するかである。本来なら、すぐにTPPに戻って立て直し、米国の力でRCEPをTPPに逆統合するカウンター戦略に出ないといけない。中国を抑止し、米国主導で新WTOの枠組を作り直す必要があろう。だが、今の米国にはそれは容易な行動ではないのだ。


RCEPの意義 - ポストWTOの世界自由貿易体制の盟主となる中国_c0315619_15284415.png今回の大統領選ではTPP等通商問題は争点にならず、バイデンの公約や意中はよく分からない。けれども、もしバイデンがTPP復帰を決断すると、当然、野党のトランプとトランプ支持者が猛然と反対の声を上げることになる。民主党支持者も反対論で一致し、米国中の世論に叩かれる羽目になる。米国民のTPP反対・批准拒否の意思は、2016年の大統領選を通じて決まった事項だった。バイデンがTPP復帰を進めると、2年後の中間選挙に影響する。よほど巧く世論を説得して懐柔に努めないかぎり、米国のTPP復帰の道は難しい。米国民一般にとって、TPPとは日本の工業製品が関税ゼロで国内市場に入って来ることである。現時点では、日本の製造業はすでに衰退し競争力を失っていて、米国産業に特に大きな悪影響が出るとは思えないが、60代以上の米国有権者には80年代の生々しい記憶がトラウマとして残っている。日本人が、TPPで米国農産物が関税ゼロで入ってくる図に戦慄したように、米国人も相似形の図に無条件に脅威を覚えるのだ。そうした背景があり、トランプの米国第一主義に慣れた国民意識の所与があるとき、バイデン政権がTPP復帰に動くのは簡単ではない。


RCEPの意義 - ポストWTOの世界自由貿易体制の盟主となる中国_c0315619_15380831.pngそれには時間がかかりそうであり、そして、時間を無駄にしている間に米国の世界経済・通商領域での影響力と支配力は低下してしまう。ルールの保護が必要な途上国は、中国をルールメーカーとして認識し、新時代の秩序機構の盟主として招請するようになるだろう。この流れはほぼ確実に起きることで、米日が中国に戦争でも仕掛けないかぎり、阻止することは無理である。基軸通貨と金融システムを制する前に、人民元がドルをリプレイスする前に、自由貿易体制の構築競争で中国が米国に優越する局面が来る。電子商取引を含む通商イニシアティブで米国を凌駕する。2020年にコロナ禍を制した中国は、主要国の中で唯一のプラス成長を遂げ、その国力を世界に見せつけた。医療体制が脆弱な諸国への救援に尽力した。単に一党独裁で人権軽視の統制をやっているから、コロナ制圧が巧くできたのではない。圧倒的な科学技術力を持ち、AI・ITとバイオのハイテクのスキルとパワーがあり、スパコンでゲノム解析する富の力があるからそれが可能だったのである。「世界の工場」だからできたのだ。権威主義の独裁国家はそこら中にある。


一方、2020年のコロナ禍は、リベラル・デモクラシーの価値観を共有する主要先進国の経済基盤に大きな傷を与え、深刻な後遺症を残したはずである。単に生産と消費が一時的に縮小しただけではない。社会経済が疲弊して体力を失った。医療の損傷もあるし、教育と文化の打撃も小さくない。財政の悪化も大きい。それらのダメージはボディブローのように効いて、翌年以降の経済活動に響いてくるだろう。「コロナゼロ」がベースの中国とは今後の経済活力が違ってくるだろう。新旧の主役交代の時期は近づいている。


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by yoniumuhibi | 2020-12-07 23:30 | Comments(4)
Commented by 米帝大嫌い at 2020-12-07 23:15 x
つい最近あった、興味を引かれそうな事件をお伝えしましょう。
オーストラリア軍将兵が、アフガニスタンで住民虐殺事件を何件も起こしていたのが明るみに。最近ではなく、何年も前の事件ですが、この11月に軍当局がようやく事件を認めたのです。それに憤った北京在住の民間人CGアーチスト「烏合麒麟」氏が、それを非難する風刺CGを発表。その作品を中国外交部の趙立堅報道官がtwitterで引用すると、なぜかモリソン豪首相が名指しで「ニセ写真だ! 謝罪しろ!」と要求。趙報道官は「私に謝れと? あなたアフガン人の命を何だと思ってる? 恥ずべきはこんなことしでかした奴らの責任者たるあなたでしょ?」と反撃。
日本ではなぜか「ニセ写真」だのなんだの、なんとかして中国が不当な誹謗中傷をしたかのように捻じ曲げるインチキ記事が乱舞したようですが、その「風刺CG」の現物をご覧下さい。
https://www.hk01.com/大國小事/555892/趙立堅推文漫畫作者-自稱-戰狼畫手-曾作畫諷刺反修例示威者
実際の現場写真じゃないことぐらい誰でもわかる。これは「事実を基にした創作」というもの。少年の遺体が喉を切り裂かれていた、というのは豪軍当局も認めた事実。捏造? 実際にあった戦争や犯罪を題材にした実録もの映画はハリウッドにもたくさんあるけど、あれは一体何?
一国の首相から攻撃された作者の「烏合麒麟」氏は「あなたが怒るべきなのは、犯罪を非難した者ではなく犯罪を働いた者でしょう」という趣旨の声明と、新作を発表。「モリソン氏へ」と題した新作が、これ。
https://www.hk01.com/觀察分析/557039/中澳漫畫事件-兩國外交攻防戰-北京勝在何處
すると、モリソン首相はさらに激昂するどころか、妙に態度を和らげ、沈静化を図り始めたのです。しかしその態度は、自軍の戦争犯罪を恥じて規律を立て直すというより、最大の貿易相手国との関係悪化を恐れただけ、というどこまでも姑息な態度。そう、日頃偉そうに説教する自由だ人権だという観点は欠片もない。少なくともアフガン人に人権はないし、世界の誰にも西側諸国を非難する「言論の自由」はないと、豪政府どころか米英仏加という政府が揃って強調した。そう、あれだけイスラム教に悪意満載の「チャーリー・ヘブド」を断固擁護した連中が、です。何ですか、この二重基準は?
Commented by 米帝大嫌い at 2020-12-08 00:23 x
私が「烏合麒麟」氏の件を採り上げたいのは、これは中国がソフトパワーの面でも西側の覇権を上回ろうとしている、その兆候が見えているんじゃないか、ということを考えていただきたいからです。何しろこの件では、「言論の自由」「表現の自由」について、日頃エラッそうに中国に説教している連中が、自分たちが批判された途端に金切り声でそのお題目を否定した、という卑劣な二重基準の問題がある。その卑劣さを浮かび上がらせた「烏合麒麟」氏と趙立堅氏は、モリソン首相らの大自爆とはいえ大殊勲者と言っていいでしょう。一方に重大な欺瞞がある、ということは、対立者にはそれだけで強烈な説得力を与えてしまいます。「あんなダブスタ野郎を、あなた信用できますか?」と。まず、「チャーリー・ヘブド」の執拗なイスラム侮辱に心底憤る人が、この「烏合麒麟」氏の騒動にどんな感想を持つか、私は知りたいのですが、今のところ、そこをはっきり比較した論考に出会えていません。
中国がソフトパワーを奪うというより、西側の帝国主義者がその欺瞞を糊塗できる限界を超えてしまっただけ、と考えたほうがいいかも知れません。が、今は「烏合麒麟」氏の名を記憶にとどめて、氏とその後進の今後に期待すべきと思います。
Commented by 米帝大嫌い at 2020-12-12 02:07 x
「基軸通貨のチェンジ」とは、デジタル人民元によってなされるかも知れません。デジタル人民元なら世界のなんでも購入できる、取引できる、となれば、制裁と称する米帝の圧殺など全部無効化して、世界中の誰もに自由で平等な足場を提供してくれそうです。
それに関する、英文の論考を発見しました。
https://www.rt.com/op-ed/509120-china-digital-currency-us-dollar/
Commented by 米帝大嫌い at 2020-12-29 01:39 x
再び、デジタル人民元に関する英文の論考を、SCMPから。
筆者は長く香港総督府に勤めた中国系の元高官で、現在は評論家だそうです。
https://www.scmp.com/comment/opinion/article/3115540/how-chinas-digital-currency-will-thwart-us-dollar-trap-and-help


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