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日本共産党の綱領改定とさざ波通信 - 異端者の異議申立てと不破哲三の旋回

日本共産党の綱領改定とさざ波通信 - 異端者の異議申立てと不破哲三の旋回_c0315619_14272047.png不破哲三が共産党大会2日目に登壇して演説、綱領改定案の意義を説明して中国批判は当然だと強調した。また、「発達した資本主義国での社会変革は、社会主義、共産主義への大道である」と述べ、今回の綱領改定のキーエッセンスを教説している。不破哲三の党大会での発言は14年ぶりだとある。今回の党綱領改定は不破哲三が指揮して行われたものだ。本人にとって最後の仕事のつもりだったのに違いない。最初に「綱領一部改定案についての提案報告」の長い文書(19年11月4日付)を一読したとき、これは不破哲三の執筆だとすぐに直観した。署名は志位和夫だが、文責は間違いなく不破哲三であり、論理構成も細部の表現も不破哲三によるものである。特に、中国批判の論拠を証明するに当たって、「発達した資本主義国での社会変革」の命題を立論し、マルクスの古典から「五つの要素」を抜粋して列挙するという方法は、理論的胆力からしても、知識的力業の面からも、不破哲三以外に為せる者はいない。



日本共産党の綱領改定とさざ波通信 - 異端者の異議申立てと不破哲三の旋回_c0315619_14360335.png前回も指摘したが、マルクスはこのような「五つの要素」を総括的・明示的に並べて社会主義を説明してはおらず、これは日本共産党のオリジナルである。党の中でマルクスを独自に解釈して新しいテーゼを構築できるのは不破哲三だけで、能力の面でも権威の面でも誰一人として他にいない。不破哲三の最後の大仕事であり、碩学の老理論家の壮挙に、正直、私は感服する。報告は共産党らしく非常に生真面目で、論理的な不整合がないように精密に設計されている。また、読むのにタフな疲労感を覚える分量があり、共産党の歴史を背負った品質と重量の諸概念が配置されている。読みながら浮かび上がるのは、優等生で勉強好きな学者エリートの不破哲三の姿であり、古典を自家薬籠中のものとして自在に操るレジェンドの極みである。まさに、この綱領改定案文書は不破哲三の渾身の作品だ。老革命理論家の集大成であり、日本共産党の行く末を慮った、組織に送り遺す最後のプレゼントと言っていい。


日本共産党の綱領改定とさざ波通信 - 異端者の異議申立てと不破哲三の旋回_c0315619_14055352.png今回の綱領改定案を分析するに当たって、一つの発見があったので参考資料としてご紹介したい。さざ波通信の荒川岳史が、7年前の2013年に「中国は本当に社会主義を目指すのか」という質問文書を共産党に発し、共産党がそれに回答を寄せ、往復書簡の形でやり取りが行われていた。三往復に及ぶ質問と回答があり、その内容がさざ波通信のHPに公開されている。分かりやすく丁寧に整理されていて、長いテキストだが理解は容易だ。まさしく、このさざ波通信発の論争が今回の綱領改定に繋がっていることが一目瞭然だ。さざ波通信は7年前の問題提起で、共産党が「中国を社会主義をめざす国」と規定するのは間違いだと主張し、その認識を修正するよう要求している。さざ波通信は、党内で中央に反対の意見を持つ党員(自称)の情報サイトで、共産党を左から(あるいは内部から)批判する活発な言論が収められている。往復書簡の要約は省くが、気づいた点が二点ある。


日本共産党の綱領改定とさざ波通信 - 異端者の異議申立てと不破哲三の旋回_c0315619_13544787.png第一は、この共産党からの回答3通の発信者は不破哲三だということだ。不破哲三でなければ、こんな重要な党の路線や綱領に関わる問題で公開が予定される文書など寄せられない。文責は明らかに不破哲三だ。第二は、第一点と関わるが、よくこんな回答を党本部が正式にさざ波通信に返信したものだという驚きだ。普通なら門前払いである。日本共産党は、2000年に「さざ波通信」への投稿者は「反党分子」であると断罪、党から除籍するという措置をとっている。民主集中制を敷く日本共産党が、党内下部からの公然たる中央批判に対して、こうした冷酷な対応で臨むのは通常のことで、特に驚くに当たらない。レーニンの党の鉄の規律がどれだけ断固として厳しく貫徹されるか、政治の常識のある者には周知の事項である。その共産党が、2013年には意外きわまる柔軟さとオープンな姿勢を見せ、一市民投稿者からの批判(質問)に対して謙虚に素直に回答を返していた。


日本共産党の綱領改定とさざ波通信 - 異端者の異議申立てと不破哲三の旋回_c0315619_13462436.pngレーニンの党の高飛車な平常運転からは、およそ想像もできない低姿勢。13年の間に党の体質が変わっている。トップの不破哲三自身の発想が変わったのだ。年をとって物腰が穏やかになったという生理的変化ではなく、思想が旋回したのであり、要するにレーニンを止揚した結果に他ならない。社会主義・共産主義についての考え方が変わったのであり、固守していた従来の教義と鉄則を内的に自己批判してチェンジしたのだ。だから、中国に対する見方も変わったのである。先進資本主義国の党たるにアイデンティファイし、「世界の構造変化」なる概念を対置して、新しい方向に党をリリースしたという意味だ。これはまた、50年代に構造改革論の論客として出発し、70年代にはユーロコミュニズムの流れに棹さして党のリニューアルの先頭に立ち、「先進国革命」の旗頭となっていた不破哲三への原点回帰とも読み取れる。元に戻ったのであり、本人に矛盾や葛藤や転向の意識はないだろう。


日本共産党の綱領改定とさざ波通信 - 異端者の異議申立てと不破哲三の旋回_c0315619_13474445.png日本共産党においては、理論は不破哲三に独占されている。不破哲三だけが古典の教義の解釈権と編集権を持っている。共産主義現代史の歴史認識の決定権を持っている。それは、民主集中制の党組織としてはやむを得ない必然であり、多様な解釈や理論が並立し混乱したら党が党として纏まらないからだ。創価学会に池田大作が二人いたら困るように、代々木の党も権威の最高司令塔は一つでなくてはならない。そしてこの党は科学と理論の党であり、最高司令官の単一の頭で決定したことが下部の組織全体に下降して任務となる。その原則は犯されることはない。すべては不破哲三に委ねられ、不破哲三が現役の最高峰として役目を果たしてきた。実際、不破哲三は優秀な学者で、私見を言えば、この国の政治学者・政治理論家で不破哲三を超える者はいないと確信する。だが、それがゆえに、日本共産党の党内では論争が起こらず、議論が生まれず、社会主義の理念を活性化する営みが寸毫も興らなかった。


日本共産党の綱領改定とさざ波通信 - 異端者の異議申立てと不破哲三の旋回_c0315619_14162080.pngつぶさに観察すると、このさざ波通信もそうだし、宮地健一もそうだが、日本共産党をパージされた者たちが、外部から共産党本部に問題提起をし、理論的な影響を与え、不破哲三の認識と判断を変えていることが分かる。叛逆者の烙印を押された者の中にエートスがあり、理想へのコミットがバイタルに生きている。信仰が生きている。党内では異論が成立して論争する余地はなく、フラクションは発生せず、下部党員はペリフェラルの歯車にすぎない。が、党司令部とパージされた異端者の間で交渉があり、緊張関係の中で「本来の社会主義とは何か」が問答され、社会主義と共産党のイデーが模索されているのである。異端のプロテストが党の新アイディアに変換されている。さざ波ならぬ凪の静穏な回路を通じて。そういう弁証法の図だ。そして最高権威の教皇が、言挙げせず粛々と路線転換し、実質的に、自らを批判した異端者の立場にスライドし、綱領改定の大仕事を自己の責任と指導で果たすのである。

何とも日本的な政治のあり方であり、日本的な共産党のあり方ではないか。ソ連東欧とは比較にならないが、この国でも民主集中制の毒禍に巻き込まれ、人生の苦労と憂鬱を強いられた者は多かった。「本来忠節も存ぜざる者は遂に逆意これなく候」(葉隠)。

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by yoniumuhibi | 2020-01-17 23:30 | Comments(4)
Commented at 2020-01-17 23:50 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2020-01-18 20:43 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 愛知 at 2020-01-19 00:45 x
米国反戦団体の日本支部長で、名古屋の大学の教授(米国人男性)に、今宵、辺野古新基地建設反対の街頭アクションの後、貴下、貼られたリンクも含め、JCPの方針転換についてお伝え。彼とは3年来の家族ぐるみのお付き合い。中東への米軍物資補給路、アイルランドのシャノン空港まで座り込みに行かれた筋金入りの米軍産批判者で、バーニーサンダースの支援者。目を輝かせて「素晴らしい」と。聞けば中国の覇権主義は、米軍産と同じだと。私自身は「一衣帯水」の中国との不和は如何なものかと。複雑な心境に。いつも正鵠を射たご教所に心より感謝いたします。
Commented by 酒呑童子 at 2020-01-19 15:06 x
中国は、アヘン戦争後の列強による搾取、日本による侵略、国共内戦、冷戦と反共干渉のなか、国内の権力闘争と政策の試行錯誤を経てなんとかここまでやってきました。経済も科学も驚異的な発展だと思います。あとは十数億の民の福祉をどう保障していくかというところですが、彼らはきっと成し遂げると思います。

天安門事件も、香港の騒動も、デモ側の暴力(天安門事件では治安要員が火炎瓶で焼かれ遺体を凌辱されるなどのすさまじい暴力)が過少に伝わり、実力による治安回復に至った経緯が正しく報道されていません。日本共産党が「人権問題」などを持ち出して中国を社会主義を目指すものではないというのは「暴論」だと思います。

イラク、リビア、シリア、イラン、南米の左派政権、北朝鮮などをめぐって、欧米による国際法違反の暴挙と惨状がとどまりませんが、ロシアと中国が安保理で踏みとどまってくれているからこそ、まだそれぞれの地に帝国主義に圧殺されないという希望が残っていると言えましょう。

日本共産党までが、為にする「反中国」「反ロシア」の流れにのみこまれるとは驚き呆れるばかりです。


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