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日本共産党の綱領改定と中国批判 -『手紙』から考える社会主義とは何か

日本共産党の綱領改定と中国批判 -『手紙』から考える社会主義とは何か_c0315619_13333109.png第28回共産党大会が14日から5日間の日程で熱海で始まった。今度の党大会の注目は、16年ぶりに綱領を改定し、中国を批判し、中国共産党との立場の違いを明確にした点である。綱領改定案では、中国共産党について「社会主義をめざす新しい探究が開始され」と積極的に位置づけてきた部分を削除、逆に、「いくつかの大国で強まっている大国主義・覇権主義は、世界の平和と進歩への逆流となっている」と批判する認識に変えた。簡単に言えば、中国は社会主義ではない、中国共産党は社会主義をめざす政党ではないという見方に転換した。重要な変更であり、意味が大きいが、この問題について3点ほど意見を述べたい。まず第一に、この認識の定立は、理念としての社会主義を現実の社会主義から切り離し、理念の生命力を守ろうとするアプローチであり、その意味で基本的に歓迎したい。社会主義の理念を守ろうとしている。



日本共産党の綱領改定と中国批判 -『手紙』から考える社会主義とは何か_c0315619_13514735.png中国共産党の現実は、およそ社会主義と呼べるものではなく、社会主義の理念とは遠い逸脱だと主張している。これは、社会主義の理念にコミットする者にとっては常識として肯首する判断であり、社会主義者にとって正論である。中国の今の現実が社会主義として説明されるのは容認できないことで、社会主義をめざすということが、中国のような国家や社会をめざすという意味になるのは耐えられない言説だ。その立場から、中国の現実と社会主義の理念とを切り分け、本来の社会主義の価値と意義の救出を試み、社会主義の理想を再び掲げようとする日本共産党の態度は支持できる。ただし、日本共産党がそのように社会主義の理念を再生させようとするのなら、それでは社会主義とは何かが具体的に言われなくてはいけない。中国が社会主義でないとするなら、社会主義とはどういうビジョンなのだ。社会主義のモデルとはどのような中身なのか、それが対置される必要がある。


日本共産党の綱領改定と中国批判 -『手紙』から考える社会主義とは何か_c0315619_13340283.pngそうした社会主義像の理論的な模索や概念構築や再建について、日本共産党はこれまできわめて消極的で、圧倒的に言葉が少なく、社会主義を考える取り組みに情熱を欠いていた。社会主義という単語を宙に浮かせたまま放置し、抽象的な空語のままほったらかし、仏に新しい魂を入れようとしなかった。コンセプトをリニューアルする努力をしなかった。右翼による悪辣で周到なイデオロギー批判の攻勢にさらされるままにしていた。アカデミーにマルクス主義の職業研究者がいなくなった影響もあるが、日本人が社会主義・共産主義に新しい想像力を注入して活性化しようとする試みは絶えてなくなり、その所為で日本では社会主義の表象は日毎に劣化する結果となった。一般の印象を悪くし、悪魔化と異端化が進む一方だった。欧州の方ではネグリやイーグルトンやハーヴェイが活躍し、マルクスの理論を現代社会に生かす挑戦が続いていて、マルクスは死んでいない。米国にもマイケル・ムーアがいる。


欧米では中身を持った資本主義批判の知性の営みが続いていて、そのため、社会主義の語が右翼によって悪魔化され異端化されるのを防いでいる。社会主義の可能性への社会的な期待が支えられている。だからこそ、サンダースが「民主社会主義者」を自称して支持を集められ、オカシオコルテスのような魅力的な若いリーダーが出現するのだろう。サンダースの言葉には精神が響く力がある。日本では、社会主義の言語(概念)を人々に確信させる理論や人物の存在がない。自らが社会主義に強い信念を持ち、社会主義の思想と政策を人に訴えて共鳴板を増やすエバンジェリストがいない。せめて、共産党がその役割と任務をやらなくてはいけないが、共産党の中に理論家がおらず、一向に仏に魂が入る気配がない。この問題はまた稿を別にして論じよう。


日本共産党の綱領改定と中国批判 -『手紙』から考える社会主義とは何か_c0315619_13361244.png第二点(マルクスとレーニン)。今回、日本共産党が、中国の現実と中国共産党の政策を「社会主義ではない」と結論づけた判断には、一つの論理の組み立てがあり、理論的根拠が示されている。共産党らしく生真面目に、ロジカルに弁証する姿勢は美点として評価できる。日本共産党は、中国を社会主義の範疇から除外するに当たってマルクスを持ってきた。共産党のHPに公開している「綱領一部改定案についての提案報告」の長い文書の後半に、マルクスの主張であるとして、社会主義へ至るための基礎条件を5点並べている。列挙すると、(1)
資本主義のもとでつくりだされた高度な生産力、(2)経済を社会的に管理・規制するしくみ、(3)国民の生活と権利を守るルール、(4)自由と民主主義の諸制度と国民のたたかいの歴史的経験、(5)人間の豊かな個性、である。マルクスが、社会主義の前提要件として特にこのような諸項目を総括的に提示した事実はなく、これは言わば日本共産党による自前のコラージュであり、古典のつまみ食いだが、社会主義論の工夫として見れば一般論として悪くない。


日本共産党の綱領改定と中国批判 -『手紙』から考える社会主義とは何か_c0315619_10354659.png要するに、ここで日本共産党が言いたい提言の核心は、マルクスは、高度に資本主義が発展した国で社会主義革命が起きると予想していた、という論点であり、社会主義は資本主義の次の人類史の発展段階であり、予定と順番があるぞということだ。その命題を前面に出すことによって、遅れた封建社会の段階から一足飛びに社会主義国を作った中国を、言わば標準から外れた例外品、規格外の粗悪品と性格づけている。社会主義に必要な環境条件が未整備だったため、本来の社会主義の発展を導けなかったと言い、マルクスの共産主義論からはゲテモノだと言っている。言外にその趣旨が含まれており、マルクスの教科書を掲げての中国批判になっている。これはこれで、現代の左翼による中国批判の論としては妥当な立論だし、十分で説得的な論理構成だと言えるだろう。また思い返せば、ソ連が存在した頃も、こうした視角から左翼はソ連中国を批判し、不良品製造となった不幸と失敗の原因を指摘していた。


日本共産党の綱領改定と中国批判 -『手紙』から考える社会主義とは何か_c0315619_10302498.png私自身も、こうした中国批判に基本的に同意する立場だった。だが、社会科学する者は何事も複眼思考で観察しなければならず、科学者の心得と方法を忘れてはいけない。今回の日本共産党の綱領改定(中国批判)で重要なのは、レーニンの視点や理論が完全に撤去されたことだ。不破哲三がレーニン批判に踏み出したという情報は、風聞で聞き及んでいたが、それが党の方針に反映されている。ロシア革命は後進国革命であり、レーニン主義は資本主義発達の未熟な後進国で革命を成功させた前衛党の理論モデルだった。日本共産党の綱領そのものが二段階革命論のバックボーンであり、まさにレーニンの党(正統の党!)たる本質と伝統を示している。日本共産党はコミンテルン日本支部として出発した。中国共産党と同様に。私は別に、意地悪な目線で(右翼のような揶揄で)日本共産党とレーニン・ロシア革命との関係を論おうというのではない。ここには重要な政治学上の問題が孕まれていることを言いたいのである。


日本共産党の綱領改定と中国批判 -『手紙』から考える社会主義とは何か_c0315619_13345998.png第三点(ザスーリッチ)。政治学を学んだ者がここで想起するのは、やはりマルクスの『ヴェラ・ザスーリッチへの手紙』の問題だろう。『手紙』の内容については、北大の佐藤正人の論文がネットに掲載されているのでご参考いただきたい。ロシア・ナロードニキの女流革命家ヴェラ・ザスーリッチが、晩年マルクスに手紙を送り、遅れたロシアで社会主義革命が可能なのか、ミール共同体は革命の拠点と転轍し得るのかと問うてきた。それに対する回答が『手紙』であり、戦後日本の社会科学で論争され研究されてきた重要テキストに他ならない。マルクスは、ミール共同体はロシア再生の要素となり得ると言い、農村共同体を破壊から守るにはロシア革命が必要だと答えた。日本社会科学界の通説として、マルクスは資本論の理論をそのまま機械的にロシアに適用せず、すなわち、発達した資本主義の段階を必須の経過点とせず、ロシアは一足飛びに社会主義革命が可能なのだと説いたと解釈されている。老革命家マルクスのナロードニキへのリップサービスだという説もある。


日本共産党の綱領改定と中国批判 -『手紙』から考える社会主義とは何か_c0315619_13351717.pngいずれにせよ、マルクスの『手紙』は重要な古典で、日本や中国やロシアなど非西欧の遅れた国々で、前衛の知識人が社会主義革命を考えるときの必読文献になった。『手紙』がロシア革命を正統化づける理論的根拠になること、マルクスのお墨付きの保証書になること、あらためて言うまでもない。今回、日本共産党が、マルクスの一般論からの社会主義論を押し出し、社会主義建設のためには高度な資本主義の発展とその所産が必要だと唱え、中国は社会主義ではないと否定するとき、政治学の立場からは、それではマルクスの『手紙』の問題はどうなるのだという問い返しを、やはり提起しておく必要があるだろう。さらに進めて言えば、ゲバラはどうなるのだ。ゲバラの思想や活動は社会主義ではないのか。社会主義の範疇から排除するのか。革命家ゲバラの行動範囲は中南米とアフリカの国々に限定され、終始、資本主義が高度に発展した社会とは無縁な地帯での闘争の生涯だった。こうした問題が自ずと生じてくる。それとこれとは別の問題だとは言えない。そこにはレーニンの問題がある。


すなわち、帝国主義論の問題がある。本当にレーニン否定をしていいのか、帝国主義論のセオリーは無視していいのかという根本的な問題が残るはずだ。とまれ、社会主義とは資本主義に対するアンチテーゼだが、歴史の実相をリアルに正視すれば、帝国主義の収奪と侵略に対する抵抗と闘争だったこと、遅れた後進地域でこそ活発な運動と試行錯誤が行われたこと、いま現在でもそうであること(チャベス)、その事実をわれわれは忘れてはいけない。逆に先進資本主義国では、いつまで経っても労働貴族が幅を利かせていること、特に日本でそうであること、この事実にも目を背けてはいけない。いったい、社会主義の理念を担ぐのは誰なのか。ウェーバー的な政治学の問題として、社会主義を実現しようとするエートスは誰の中に生成され内在されるのか。その学問的視座から、日本共産党の社会主義論と中国批判を考察・検討する必要がある。以上、日本共産党の綱領改定に対するファーストカットの所見としたい。


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by yoniumuhibi | 2020-01-15 23:30 | Comments(1)
Commented at 2020-01-16 14:46 x
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