まぐまぐのマネーボイスに転載されていた『沢尻エリカ逮捕のスピン工作』の記事が、突然、削除され非公開にされた。編集部から転載依頼がメールで来たのが、記事を上げた１８日の午後５時４６分で、マネーボイスに公開されたのが翌１９日の午前１１時頃である。その後、公開中はまずまずの反響を得ていたようで、１時間に３本ほどの読者の拡散ツイートがＴＬに流れていた。が、それが２４時間経った２０日の正午前後に突然非公開にされる事態となり、異変に気づいた者がツイートを発している。小さな事件が起きた。




削除したのはマネーボイスの編集部であり、６時間以上経った２０日の午後６時５２分になって、非公開にしたことを著者である私に報告してきた。そのメールには理由については何も説明がなかった。担当者に問い合わせているが、現時点で納得のいく回答は返ってきていない。過去に転載記事を非公開にしたことは一度もないそうで、今回が初めてだと言っている。外部からクレームが届いたらしく、外部からの削除要請に編集部があっさり応じてしまった状況が窺える。担当者からのメールには、「社員などに対して具体的な危害行動を示す脅迫に近い内容であったため、まずは従業員の安全を確保するという弊社の判断で記事を非公開とさせていただきました」とある。事実なら脅迫事件であり、あいちトリエンナーレと類似の悪質で卑劣な犯罪事案となる。憲法に保障された表現の自由を侵害する深刻な問題なので、警察に被害を届ける必要がある。


警察に通報したのかという確認と、当該脅迫クレームの内容について担当者に尋ねたが、案の定と言うべきか、まともな返事は返って来なかった。おそらく、脅迫とか、社員への危害とかというのは作り話で、削除を正当化するための思いつきの言い訳だろう。中身を教えてもらえないので到底信用できない。外部からの政治的圧力は、あったのかもしれないし、無かったのかもしれない。今回の記事削除（即時の非公開処置）の責任者は、まぐまぐ社取締役の浅尾直樹のようで、担当者から届いたメールのカーボンコピーに名前が入っている。外部から圧力があったとすれば、具体的に誰からどういう圧力がかかったのか興味深いし、まぐまぐ経営陣の判断（独断）だとすれば（苦笑しつつも）どういう口上を言うか聴いてみたい気がする。経営陣の独断だったとすれば、記事に言論の価値を認めた編集者と、即削除した経営陣との間の政治的立場の相違が原因ということになる。


外部からの圧力は十分に推測できるところで、まぐまぐは小さな会社であり、今のネットの（言論･情報の）業界で生きていく上においては、安倍政権や日本会議に近い、権力を持った勢力との人脈や影響があるのは当然で必至と考えられる。また、基本的に、ライブドアの堀江貴文の個性に典型的なように、この業界は生誕の初発から小泉改革を翼賛し、竹中政策に依拠してきたネオリベＩＴ族の経脈と「理念」で成り立ってきた。マスコミ一般の報道や論調よりも、さらに右寄りでネオリベ色が強い点が特徴であり、それは、紙媒体から別棟を建てた社も含めて、他のネットの言論･情報ベンダーを見ても瞭然だろう。そのことが、日本の若年層を自民党支持･安倍支持のデフォルトに導いている所以の一つでもある。私はこの業界の一匹狼の古株で、黎明期から言論活動してきた者であり、こうした傾向と潮流を何とか変えようと奮闘してきたつもりだったが、結果的に惨敗を重ねて孤高の境地にいる。


今回のまぐまぐによる記事削除は小さな事件だが、その背景と文脈を考えると、決して小さな問題では済まされないように思われる。今週、①デイリー新潮、②現代ビジネス、③ダイヤモンドオンラインと、３社から立て続けに、沢尻エリカ逮捕をスピンとして疑う意見は陰謀論であるという批判記事が発信された。沢尻エリカ逮捕を「桜を見る会」への追及と関心から目を逸らすための権力工作であるとする言論に対して、ネットの大手の言論･情報ベンダーがライターを立てて反論記事を書かせ、それをヤフーのトップ画面に載せて一般に読ませている。エリカ逮捕をスピンであると疑う世論に対して、上からカウンター攻勢をかけて強引に封殺を図っている。彼らの記事の特徴は、エリカ逮捕をスピンだと疑う声に対して、最初から陰謀論というカテゴリーで処理していることで、レッテル貼りして貶める意図が前提で記事にしていることである。スピンという言語に陰謀論という言語を被せて悪性処理している。


２０日のＮＨＫ-ＢＳの再放送で、ケン･ローチが是枝裕和と対談して言っていたとおり、支配層と富裕層というのは、自分たちの意識を世間一般の意識（常識）にするのであり、支配層の主張を普遍的な国論（国民的正論）にしようとして言説を刷り込むのである。ケン･ローチの格言が、マルクスの「その時代の支配的思想はすべて支配階級の思想である」の言葉を下敷きにしていることは、知識のある者は気づいたことだろう。辺見庸も同じ本質を語っている。被支配層である弱者のわれわれは、常にその上からの世論工作の内実を見抜かないといけないし、騙されないように心がけないといけない。支配層と同じ意識に感染しないよう（感化されないよう）、警戒と抵抗をしなくてはいけない。マルクスの言葉で言えば、イデオロギー暴露を試みないといけない。陰謀論という言葉は、支配層にとって便利な言葉であり、大衆が権力の謀略への懐疑や疑念を自分から否定し、思考停止してくれる効能の言葉である。


沢尻エリカの薬物逮捕と「桜を見る会」の問題は無関係の出来事なのか。そこに因果関係はないのか。動機は繋がらないのか。フラットにニュートラルにシンプルに考えたとき、本当に何の脈絡もなしに、何の権力の動機の介在もなしに、沢尻エリカの逮捕が執行されたと言えるのか。安倍晋三が官邸の２０分間会見で苦しまぎれの、嘘八百の、破綻だらけの言い訳を言い、その翌日に沢尻エリカが逮捕されて世間は大騒ぎになったが、この二つの時間的一致は偶然だったのか。Doubt everything！ 沢尻エリカを捜査し逮捕するとして、その警察の行動を指揮するトップは中村格と北村滋である。沢尻エリカのような大物の捜査で、中村格や北村滋に情報が上がってないはずがないし、現場が逮捕を決行するにおいて、菅義偉や安倍晋三の了承なく独断で動けるはずがない。そのことは、范冰冰の脱税逮捕がどこまでの上層部の権力意思だったかを考えることで類推されよう。明らかに、そこには独裁者習近平の裁可と指示があった。


中国が、習近平の了解と差配なしに何事も重大な決定や執行ができないように、日本もまた、すべての大きな動きの裏には安倍晋三の関与と思惑があり、権力機関で動いている部下たちの安倍晋三への忖度があるのである。何もかもが私物化されている。独裁権力の体系と運用になっている。警察にせよ、他の官僚にせよ、法に従って動いてはいない。安倍晋三を見て、安倍晋三に情報を上げて、安倍晋三の指図と許可で動いているのだ。