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「皆さんとともに日本国憲法を守り」と言わなかった新天皇

「皆さんとともに日本国憲法を守り」と言わなかった新天皇_c0315619_16340651.png1日に行われた即位後朝見の儀の「お言葉」で、新天皇は「日本国憲法を守る」と言わなかった。式辞の原稿の中に、30年前に平成天皇(現上皇)が明言したところの「皆さんとともに日本国憲法を守り」という一節を入れなかった。私はその宣誓が読み上げられることを期待し、平成天皇の言葉が踏襲されることを願っていたので、裏切られた気分で大いに失望させられた。何事も最初が肝心である。この一度限りの場で、天皇としての出発点で、それを表明するとしないとでは大きな違いがあるし、後々に響いてくる。新天皇の式辞では、その部分が「憲法にのっとり」という表現に変えられていた。平成天皇が「皆さんとともに日本国憲法を守り」と踏み込んだ地平を、新天皇は消極的な - 保守改憲派が歓迎する - 言い回しに止めた。二つは意味が違う。明らかに憲法遵守態度の後退が示唆されている。前者は護憲の立場表明であり、後者には護憲の信念は全くない。後者は無味乾燥な、政府が官僚ペーパーで日常置くような平板なフレーズに過ぎず、何の意志も鋭意も込められてないのと同じだ。ただ天皇の仕事を政府の言うとおりにルーティンワークでやりますと、そう言っているのと等しい。



「皆さんとともに日本国憲法を守り」と言わなかった新天皇_c0315619_16342478.png平成天皇が30年前に述べた、「皆さんとともに日本国憲法を守り」の一言は本当に衝撃が大きかった。私は、一瞬で平成天皇に対する見方が変わった。好感を持った。「皆さんとともに日本国憲法を守り」の言葉は、単に自分だけが憲法を守るという意味ではなく、朝見の儀に参列している統治機構の要職者たちも、映像を見ている主権者国民も、皆で日本国憲法を守りましょうという意味に他ならない。それはすなわち、国会・内閣・裁判所の面々も、草の根の一人一人も、皆が「チーム日本国憲法」の一員であり、自分も統治機構の一角を担う者として、憲法を純粋に守ることを誓いますという態度の言語化でもあった。日本国は法治国家であり、憲法が最高法規であり、誰もが憲法典の下に治まり、この基本法の原理原則に従うことが求められているのだという前提が表明され、つまり立憲主義の姿勢が宣言されていた。さらに、護憲と改憲がクリティカルな争いを続けているこの国の状況下では、この平成天皇の言葉は、重大な立場決定の意味があり、統治機構(臣)と国民大衆(民)に、護憲(=戦後民主主義の考え方)こそ本来的だと訴える果敢な啓示の投擲でもあった。

「皆さんとともに日本国憲法を守り」と言わなかった新天皇_c0315619_16344490.pngしたがって、新天皇が、即位後朝見の儀の辞で平成天皇を踏襲し、「皆さんとともに日本国憲法を守り」の言葉を発することは、右翼改憲派の安倍政権としては何としても阻止しなければならない厄事だっただろうし、結果を見れば首尾よく抑え込んだと言える。結局、新天皇が最初に発する言葉は護憲のメッセージにならず、平成天皇と同じ護憲の道を歩むという宣言は立てられなかった。私だけでなく多くの者が、新天皇は護憲の両親から薫陶を受けて育っていて、戦後民主主義の精神を直截に受け継いでいるであろうと信じていたから、「皆さんとともに日本国憲法を守り」のフレーズも一語一句崩すことなく、保全され継承されるだろうと確信していた。朝見の儀の式辞については、閣議決定で中身を決めている。安倍晋三の側からすればここで歯止めを掛け、「事故」のないよう「防止措置」を講じているわけだが、「お言葉」は新天皇本人のものであり、後々残るもので、本人が責任を被るものだから、当然、本人と官邸(宮内庁)との間で調整とやり取りがあり、新元号の時と同じく齟齬と悶着があったことだろう。だが、安倍晋三が押し切った。新天皇は抵抗しなかったものと推察される。

「皆さんとともに日本国憲法を守り」と言わなかった新天皇_c0315619_16350323.png本人が強く押し通せば、平成天皇と同じ言葉を入れることは可能だった。偉大な平成天皇がやった前例だから、後継ぎが同じ表現を並べても誰も文句は言わなかっただろう。むしろ、平成天皇の護憲の宣誓を変えたことこそが、今回の式辞のサプライズであり、反動であり、検討が加えられるべき政治的問題だと言える。だが、そのことについて、国内のマスコミは見ないフリをして黙っていて、腫れ物に触るように言及を控えている。問題視と論点化を避けている。明らかに、憲法と天皇の関係をめぐって重大なチェンジが行われ、それが現政権の作為と統制によるものだと推測されるにもかかわらず、マスコミがこの事件に関心を向けようとしない。その一方、韓国マスコミは私と同じで、今回の「お言葉」で、新天皇が平和憲法への態度を従来と一貫させるかどうかに注目し、そこに断絶と変化があったことを正しく報道して、韓国民の落胆を代弁した。中央日報は、「現行の日本憲法への守護の意志は明らかにしなかった」と書いている。こうした報道こそが正常な神経であり、何も異変がなかったかのように装って欺瞞的に素通りし、新天皇を空疎な美辞麗句で持ち上げている日本マスコミの方が面妖だ。

「皆さんとともに日本国憲法を守り」と言わなかった新天皇_c0315619_16352897.png平成天皇が国民からの信頼と尊敬を獲得し、巨大な徳カリスマを形成・構築させ得たのは、両陛下が被災地を足繁く慰問して被災者の前で膝をついて寄り添ったからとか、沖縄を幾度も訪問したからとか、それが決定的な理由ではない。マスコミはその図ばかりを切り取って宣伝するけれど、最も大きな契機となったのは、即位の最初のときに「日本国憲法を守る」と大胆に宣言し、自ら護憲の立場を示した快挙にある。そこから、右と左で分かれていた国民の象徴天皇制への賛否は対立が消えて行った。戦後民主主義の精神が両陛下に強く生きている事実は、その後、即位15年後の2004年の園遊会の際、右翼の米長邦雄に対して、日の丸・君が代が強制であってはいけないと窘めた一件からも確認される。われわれの平成天皇への評価は定まった。右傾化の嵐が日本中に吹き荒れて空気を暗黒に染める中、われわれは両陛下を護憲リベラルの守護神として崇敬するようになり、右翼は逆に「アカヒト」と呼んで侮蔑するようになった。その内面に戦後民主主義の思想が生きているからこそ、リーダーとして弱者に目を配り、弱者を助けようとするのである。『君たちはどう生きるか』の精神が躍動して発現するのだ。

「皆さんとともに日本国憲法を守り」と言わなかった新天皇_c0315619_16353995.png吉野源三郎が天皇になって実践しているような姿がそこにあると、そう言えるのだ。だからこそ、被災地の避難所での挙動がパフォーマンスに映ることがない。マスコミのカメラを意識した、点数稼ぎの嘘くさい役割演技に化けない。被災地への慰問と慈愛も、沖縄への訪問と内在も、慰霊の旅も、見せかけの人気取りの務めではなく、また、単に象徴の地位を安定化させるべく「国民の総意」を得ようとしてやっている義務行為になることがない。自己目的ではない。その前に、行動を媒介する精神がある。吉野源三郎的な戦後民主主義の哲学がある。二人の平和憲法へのコミットはそこから由来するもので、昭和20年の夏を小学生(国民学校生)で迎えた世代に共通したものと言える。即位時の「皆さんとともに日本国憲法を守り」の言葉があったから、その後の全ての行動をわれわれは信用し、疑わず、安心して肯定視することができた。敢えて政府との緊張関係に立ちながら、国民と国家を守ろうとする指導者の姿に共感し支持してきた。時の(右翼)政権に阿らず、日本国憲法の普遍的価値に忠実である方針を貫く天皇を応援してきた。そうした関係と均衡があってこそ、国民の象徴天皇制への支持率74%という現実は達成されているのである。

それを欠けば、政府のロボットになれば、国民大衆の天皇制への支持などすぐに萎み衰えてゆく。期待外れに終わった即位後朝見の儀の「お言葉」の欠陥は、意外に大きな代償となって新天皇にリターンするかもしれない。
新天皇はやさしく誠実だけれど、いい意味で純粋で頑固な人である。われわれはそのことを知っている。安倍晋三(政府権力)に抵抗して欲しかった。


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by yoniumuhibi | 2019-05-03 23:30 | Comments(2)
Commented by 愛知 at 2019-05-04 04:11 x
貴下記事に涙がこぼれます。当地(名古屋)の闇サイト殺人事件(2007年8月24日)を思い起こして。2960(憎むわ)・・・殺害された31歳の女性が、犯人に伝えた嘘のATMの暗証番号です。「国民の皆さんと憲法を守る」と言われた上皇、最後のお言葉の「安倍首相~」のお言葉にも。2960(憎むわ)。私たち市民からのダイイングメッセージです。
Commented by 桃太郎 at 2019-05-05 00:59 x
心にに深くしみる記事に感謝いたします。ありがとうございます。
今の日本の社会的・政治的動向に強い危機感を持つものです。
一人の力は弱いものですが憂えるだけに終わるのでなく、自分に出来る何か一つでも他に働きかけていけるよう、精進して参りたいと存じます。


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