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三一節の日本のマスコミ報道を懸念する - 「価値観」と政治意識

三一節の日本のマスコミ報道を懸念する - 「価値観」と政治意識_c0315619_15051049.jpg29日に天木さんと対談したとき、日韓関係の問題で次のような予想を述べていました。3月1日の三一独立運動100周年に向けて、いま日本のマスコミは官邸の意向を受けて報道の仕込みをやっているはずで、韓国で行われる記念行事を叩き、この歴史そのものを否定的に伝える報道に徹するだろうと。私も同感で、その悪辣な図が今から目に見えるようです。われわれの世代は、高校の日本史や世界史で三一運動を学びましたが、1919年に起きた三一運動と五四運動の二つについてはきわめて重要な意義づけが与えられ、日本の侵略と支配に対して抵抗する民族運動として教えられていました。二つの運動は入試にもよく出題され、受験生が必ず把握していなくてはならない事項だったと思います。授業中に教師が、必ず出るからよく覚えておくようにと念を押したことを覚えています。いきなり話が脱線して恐縮ですが、寺島実朗が24日にサンデーモーニングで説明していた領土をめぐる日露外交史も、中身を全て暗記して記述式の設問(年号とか条約名とか地名とか)を埋めなくてはならず、受験生にとっては必須の知識でした。頻繁に出題されていました。



三一節の日本のマスコミ報道を懸念する - 「価値観」と政治意識_c0315619_15052288.jpg今はどうでしょう。よく高校では近現代史が教えられていないとか言いますが、私たちの頃は決してそうではなかったと思います。何せ、大学受験で必ず出題されるわけですから、解答をきちんと頭に入れないわけにはいきません。私が受験生だったのは今から40数年前ですが、平和憲法の精神が文部省の教育指導要領にも生きていて、正しい歴史認識を持った学者だけがアカデミーにいたということになります。三一運動と五四運動はポジティブな注目と表象が示されていて、すなわち、近代日本の大陸への侵略と支配がネガティブに捉えられ、反省的な歴史認識が確立していたことを意味します。敢えて言えば、高文研的な歴史学習が常識だったということです。70年代というのはそういう時代でした。最近の25年間の猛毒の歴史修正の漬け込みで、状況はずいぶん変わっているように思います。例えば、ロシア革命の歴史なども当時と今とでは概念が全く変わって、間違った不幸な歴史という定義しか与えられていません。それが若い人たちの常識です。五四運動や国共合作など、今の中国の歴史的正統性に繋がり、したがって日本の右翼が毛嫌いする歴史も、意味づけが逆転しているのではないでしょうか。

三一節の日本のマスコミ報道を懸念する - 「価値観」と政治意識_c0315619_15053839.jpg日本のマスコミが三一節をどう報道するか、想像すると気分が悪くなります。日テレのミヤネ屋がどう報道するか、想定するのは簡単なことです。おそらく、テレ朝のモーニングショーも論調は同じでしょう。武藤正敏がまた解説に出張るのでしょうか。ワイドショーでは、必ず、それではそもそも三一独立運動とはどういうものだったのでしょうと、フリップや写真で歴史が概説されることになります。視聴者に、不当視された悪意の歴史認識が散布されます。その紹介は、われわれが高校で教師から聞いた説明とは相当に違った中身になっているに違いありません。百田尚樹の『日本国紀』とか、書店に平積みされている嫌韓本に記述されている歪曲された歴史認識が、公共の電波で毒々しく放送されるでしょう。それはまず百田尚樹と有本香のネットニュースから始まり、櫻井よしこが出演するプライムニュースでテレビ化され、深層NEWSで畳みかけられ、報ステで固められ、池上彰の番組でとどめが刺されそうです。キーワードは「反日」で、反日運動として性格づけられ、否定的に処理されるでしょう。そのことは、植民地支配した日本を正当化する言説のシャワーになります。

三一節の日本のマスコミ報道を懸念する - 「価値観」と政治意識_c0315619_15055246.jpg今回、韓国についての報道と世論は、いわば閾値を超えた政治現象になったと私は考えます。後戻りできない世論状況になったというか、韓国に対する否定と拒絶の対応が、日本の一般的で常識的な態度として固まった感を否めません。それは、小泉靖国参拝を契機とする2005年の中国の反日デモ後に固まった空気を想起させるものです。小泉靖国参拝の後、今世紀に入って以降の中国についての報道や出版は、これでもかと中国を悪玉視して憎悪を煽り立てるものばかりで、中国を内在的に理解する視線は途切れて絶えてしまいました。興梠一郎と富坂聰と遠藤誉が中国について語る専門家で、彼らの言論(反中ヒステリー)が中国解説の唯一標準仕様となりました。私は、10年前の2009年だったと思いますが、都内某所で講演した機会に、当時はまだ世間に馴染みが薄かったオーウェルの『1984年』を引き合いに出し、小説に登場する「2分間憎悪」が今の日本で出現しているということを論じた覚えがあります。政治学は今こそファシズム論をやらなくてはいけないとも訴えました。あの頃は、民主党の政権交代に人々の関心が集中しているときで、無名の私が『1984年』だのファシズム論だの口を酸っぱくして言っても、聞いてピンと来る人はほとんどいませんでした。

三一節の日本のマスコミ報道を懸念する - 「価値観」と政治意識_c0315619_15060667.jpgここ数年、世論調査で自民党の支持率が35%から40%で、他の少数諸野党に対して圧倒的に高く、野党はすべて合計しても10%程度という悲惨な状況が続いています。状況と言うより構造と言う方が正確かもしれません。安倍内閣の支持率は安定して高く、ほぼ常に40%を超える水準を維持していて、何年経っても下落せず、選挙には常勝で独裁体制を盤石にしています。あれほど森友や加計の問題があっても、安倍政権の支持率が落ちず、自民党の支持率が落ちないのはなぜでしょうか。その現状分析についての左翼リベラルの認識で、決定的に欠落しているのは、イデオロギーの介在の視点だと私は思います。そう確信します。早い話が、マスコミの政治についての説明がすべて右翼のバイアスに染まったもので、もっと言えば日本会議が思いどおりにマスコミ報道を仕切っていて、公平中立なはずの報道が日本会議にとって公平中立な実態だから、国民世論の多くが自民党支持に向かうのは当然の流れなのです。しばき隊を中心とする現在の左翼リベラルは、あまりにもイデオロギーの役割を軽視しすぎていて、大衆の政治意識と価値判断におけるイデオロギーの要素を正しく了解していません。

三一節の日本のマスコミ報道を懸念する - 「価値観」と政治意識_c0315619_15062189.jpgそれは、今の左翼リベラルがイデオロギー忌避傾向の脱構築主義だからです。イデオロギーの問題を無意味で無価値なものだと捨象し、それを深く重く考える知性を持っていないからで、イデオロギーの時代は終わったなどと本気で信じこんでいるからです。右だの左だのはどうでもいい古臭い話だと片づけているからです。関心の焦点をアイデンティティ・ポリティックスに移しているからで、要するに、政治学者がいなくなって社会学者だらけになっているからです。イデオロギー対立の問題はナンセンスだと左翼リベラル(しばき隊)は嘯きますが、日本会議はそうは思っていません。日本の地上から左翼的なものを殲滅一掃するのが神聖な使命だと彼らは信念しています。この国の政治には右と左の対立が存在します。右の代表が自民党で、左の代表が共産党です。政策軸に明確な対立があり、社会の理想と構想が違います。この違いは、外交政策でくっきりした違いとなっていて、右は徹底的に米国寄りの立場であり、左は米国と中国の間に日本を独立して置く立場と言ってよいでしょう。比較相対すれば中国寄りの位置となります。そう言えますね。ここまで言えば、結論は自ずから明らかですが、今の日本では中国は絶対悪の政治対象なのです。

三一節の日本のマスコミ報道を懸念する - 「価値観」と政治意識_c0315619_15063355.jpg世論調査で政党支持率となって表出される日本人大衆の政治意識、これは選挙の投票結果に直結するものです。それはまぎれもなくイデオロギーの反映であり、イデオロギーという言葉を隠して最近の表現にすれば「価値観」の反映です。さらにそれは、単純化して言えば、米国が好き(正しい)か、中国が好き(正しい)かという問題に(大衆レベルの政治観念では)落とし込まれます。どんな無知な大衆でもイデオロギーの座標軸は素朴に意識しているのであり、言語化されてなくても個人の態度や意思を拘束する回路なのです。それはテレビでネットで執拗に教育され、内面化されて確信づけられ、政治についての個々の思考基準になるものです。自分は政治には無知だと思い、投票所には行かない若者が、親米反中こそ日本の正しい方向だと考え、安倍政治を納得肯定しています。自民党支持者です。しばき隊の連中が、一生懸命になって中国叩きに熱中し、言論の自由がどうのと拡散すればするほど、結果的に日本会議の反中反共エバンジェリズムの補強になり、大衆を右翼化する言論工作に加担する効果に繋がります。脱構築主義のしばき隊は、そのことに無自覚で、中国叩きこそが「真の左翼」の作法だと信じていますが、イデオロギーという問題はそれほど甘くはなく、政治において軽い問題ではないのです。

三一節まで一か月ですが、どれほどテレビの怒濤の嫌韓プロパガンダに反論し、三一独立運動の歴史的意義を正しく説明して応戦する論者が出てくることでしょう。今回、徴用工をめぐる日韓対立の中で、日本の左翼リベラルの論者(自称政治学者を含めて)は、ただの一言も「村山談話」の語を発して抗弁することができませんでした。誰一人として、日韓基本条約(日韓請求権協定)から村山談話までの日韓の歴史的経緯を説得して、大衆を啓発する議論を提供することができまでんでした。マスコミどころかネットでも。恐るべき知的劣化です。政治学者が一人もいない。そう痛切に感じます。日本会議は今回の件で手応えを感じ、自信を持ち、三一節でのマスコミの洗脳言説の仕込みにさらに毒を盛っているでしょう。



三一節の日本のマスコミ報道を懸念する - 「価値観」と政治意識_c0315619_15070554.jpg

by yoniumuhibi | 2019-01-31 23:30 | Comments(5)
Commented by 長坂(七平さんありがとう) at 2019-02-01 11:57 x
歴史の授業もそうですが、周りには侵略植民地支配体験者が普通にいましたし、本も沢山ありました。治安維持法でこんな拷問受けたと言う人もテレビや新聞に出てました。自国で300万 アジアで2000万という大殺戮後、あの帝国とは訣別しますと誓い「菊」を引っ込め「星条旗」を前面に。今は精神面では「菊」を軍事面では「星条旗」のもう最悪のパターン。憲法に自衛隊 明記、賛成かと今日聞いたら右も左も大賛成でしょう。平和護憲派だの反安倍派が積極的に嫌韓、韓国断交運動に勤しむという1930年代再現ドラマを見ているよう。自衛隊の極右化や幹部の低学歴化も大問題なのに、左が進んで兵隊さんご苦労様と言っている。本当に怖い。
3・1をどう報道するか?クリスチャン女学生柳寛順をテロリスト扱いか? 反日感情ピーク、渡航注意と嘘で大々的に煽るのか?今月下旬に予定されてる米朝会談 (米中会談もあるらしい)次第ではこの不都合な真実を全く無視して、アメリカ独立記念日やバスティーユ・デイのような他人事の祭りで終わらせるか?
見ものですね。
国民も一触即発じゃもう満足しない、実戦じゃないとまで来ていると思います。
Commented by ムラッチー at 2019-02-01 17:34 x
 
 今からでも遅くない。真ん中から左の「(表徴か潜在かは問わない)思想的指向性」を持つ
人達を「再教育・再構築・再統合」すべきでしょうね。「左」を何とかして鍛え直さないといけない。
その為には、強靭な思想的ドグマが必要ですね。
それから、「極左」には十分注意です。「極右」と、極端な者同士結びつく可能性が大です。
Commented by 七平 at 2019-02-02 07:54 x
情報革命のおかげで世界は透明になりつつあるにも関わらず、地球の裏側から日本の様子を観察すると、21世紀に入っても、井戸の蛙と言う感を免れません。 やはり、日本語と言う障壁が高いようです。 例えば、国会の答弁を実況中継、マスコミによる編集を回避して、ノーカット 同時英訳して世界に流すと、世界は呆れ変えると同時に日本人の知的レベルを疑うと思います。 逆に日本人の英語能力が高まり、一般の日本人が世界の有力新聞を読み始め、日本のマスコミが流すニュースと内容を比べ始めると、今度は日本人が呆れかえると思います。 私が日本で受けた義務教育を振り返ると、現政権と文部省は、一般日本人の英語能力の習得を意図的に阻害しているのでは?と疑う程です。 あんな教え方をしていたのでは、いつまでたっても英語が習得できないだけでは無く、習得できなくしてしまうというのが私見です。 中学2年の頃から馬鹿げた受験勉強を全面的に拒否し、職業高校に進み、17歳で単身留学、浪人する事もなく、グローバルランキングにおいては日本のどの大学よりも遥かに高い大学を卒業した私自身の経験から実感した事です。 

安倍晋三や麻生太郎が出鱈目留学を彼らの学歴に書き込み、出鱈目英語を話しても、大半の日本人の英語能力では、彼らの出鱈目を見抜けないでしょう。 トランプとの奇妙な握手も、原因は安倍晋三が ”Look at this way."  と言うべきところを ”Look at me." とトランプに告げたからです。 麻生太郎が首相になった直後、国連総会で演説、冒頭、英語で始めたのですが、あのビデオをYou Tube で見た時は本当に恥ずかしい思いでした。和訳しても恥ずかしい内容です。 本人曰く、Stanford大学に入学したが、行かなかったとありますが、彼の語学力は、学位をとって卒業できるような代物ではありません。お二方の英語能力はレストランの給仕並みと言うのが私の評価です。

やはり、読み書きそろばんの流れが続いているようで、政治家からアナウンサーまで、原稿読みが目立ちます。 また、話相手と視線を合わして話さないと、欧米の舞台では、何やら自信がないか、嘘をついている様に受け止められます。原稿丸読みは極力避けるべきです。 次世代の日本人が英語で互角に世界の人々と討議、討論できる事を願い、参考にと思い、一筆させていただきました。
Commented at 2019-02-15 02:38 x
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Commented at 2019-02-15 02:39 x
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