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ICJで日本は勝てるのか - ILO勧告、国連人権理事会、村山談話

ICJで日本は勝てるのか - ILO勧告、国連人権理事会、村山談話_c0315619_13340831.jpg先週のテレビの報道番組は、ずっと日韓問題を取り上げ、途切れることなく文在寅叩きのプロパガンダを続けていた。20日はTBSサンデーモーニングが「風をよむ」で日韓問題を取り上げたが、映像に登場した共同通信の太田昌克やコメンテーターで出演した涌井雅之が、韓国と文在寅を悪辣に叩いて視聴者の憎悪感情を煽る場面があり、見ながら不愉快な気分にさせられた。この問題では、一般的にはリベラルと見られている者たちが右翼と同じ口調で揃っていて、右も左もなく韓国叩きに狂奔しているのが特徴だ。マスコミでも、ネットでも、村山談話のキーワードを持ち出して反骨の論陣を張る者が一人もいない。文在寅の日本政府批判に対して、それを内在的に拾い上げて積極的な意味を見出す者がいない。歴史認識での日本側の右翼化に反省を促し、啓蒙し、そこから安倍批判の説得力に繋げる者がいない。在日学者の姜尚中は、徴用工問題がどのような歴史問題かよく知っているくせに、それを正面から説明せず、韓国は反日ではなく嫌中だなどと話を逸らし、どうでもいいコメントを垂れて卑劣に逃げていた。マスコミで商売してギャラを稼ぐことの方が大事なのだろう。



ICJで日本は勝てるのか - ILO勧告、国連人権理事会、村山談話_c0315619_13341933.jpg23日にダボスで日韓外相会談が行われる。河野太郎は、「元徴用工問題で生じた日韓請求権協定違反状態の早期是正を康(京和)氏に促す」と言い、協定に基づく政府間協議を受け入れるよう韓国政府に要求すると息巻いている。つまり、これは例の「30日以内」の回答要求を念押しするということで、国際司法裁判所に提訴することを前提にした上での、その形式的な既成事実を積み固める外交だろう。ダボスでどういう応酬があるか、修羅場があるか不明だが、双方が妥協して歩み寄る図は考えにくい。今回の日韓問題では、とにかく安倍晋三の側は、韓国と悶着を起こして騒ぎを拡大すればするほどよく、問題を紛糾させればさせるほどマスコミが韓国を叩いてくれ、韓国と喧嘩する安倍晋三を支持する世論を国内に醸成してくれる。サンデーモーニングが韓国を悪者にして攻撃し、反射の効果で安倍晋三を善玉に仕上げてくれる。国会を控え、選挙を控えて、これ以上格好の支持率維持装置はない。時事通信の18日の世論調査で、内閣支持率が前回より4.6ポイント増の43.5%となったが、韓国との問題が影響していることは間違いなく、安倍晋三の支持率上昇に寄与している。

ICJで日本は勝てるのか - ILO勧告、国連人権理事会、村山談話_c0315619_13343506.jpgマスコミ報道を見るかぎり、日本側は国際司法裁判所の提訴について自信満々で、必ず勝利判決を得ると確信しているようだ。それを断定した報道ばかりで、負けるかもしれないという予想には一度も接したことがない。韓国側が、国際司法裁判所での訴訟に躊躇する姿勢を見せ、日本側が前のめりである事情は確かで、そこから進行を窺うと日本側が有利なのかなという印象を抱く。果たして、本当に日本側の勝訴は確実なのだろうか。佐藤優は、昨年11月の週刊ポストの記事で、「要は無理筋な話をしているんです。だから、日本がこの話をICJ(国際司法裁判所)に持っていけば、100%勝ちます」と断言している。一方、木村幹は、昨年12月のニューズウィーク誌上で、「ICJ提訴は必ずしも有利にならない」という見方を示している。その判断の中身は、今回の徴用工の請求を認めた大法院判決の法的論理が、日韓請求権協定の枠内での権利侵害(賃金不払い)を認めるものではなく、その外側の日本の植民地支配の下での人権侵害を捉えたもので、その不法行為に対する賠償責任を認めたものだからという点にある。そこが争点になり、こうした枠組みで問題を審理されると、日本側に不利だと言っている。

ICJで日本は勝てるのか - ILO勧告、国連人権理事会、村山談話_c0315619_13350088.jpg私は、木村幹とは別の観点と理由から、日本側に必ずしも有利ではないという観測をする。まず、裁くのは誰かという問題だ。国際司法裁判所である。国際司法裁判所というのは、言うまでもなく国連機関の一つである。15人の元外交官が判事団を務めている。国連機関である国際司法裁判所の判事たちは、この徴用工をめぐる日韓の紛争を持ち込まれたとき、第三者の立場から、どのように案件の審理を進めるだろう。そのとき、同じ国連機関であるILO(国際労働機関)や国連人権理事会(国連人権委員会)の嘗ての作業や報告が無視されるとは考えにくい。実際、この問題については過去からILOに提起がされ、1998年から何度も報告書が出され、日本政府に対して勧告が出されている。09年のILOの勧告では、「年老いた強制労働者が訴えている請求に応える措置をとることを(日本政府に)望む」とある。国連人権理事会も、徴用工問題について日本政府の対応は不十分だという判断を示していると、昨年12月の赤旗の記事にある。国連機関は、基本的に徴用工問題と慰安婦問題をセットに捉えていて、日韓の戦後処理をめぐる紛争案件として一つの問題だという認識にある。そして、同じ戦時人権侵害の問題だという理解でいる。

ICJで日本は勝てるのか - ILO勧告、国連人権理事会、村山談話_c0315619_13351283.jpg木村幹が言っているように、国連機関に持ち込まれた日韓の歴史紛争では、日本に分が悪く、日本側の評判が非常に悪い。年を追う毎に日本側の主張の反動性が露わになり、孤立化し、世界から異端視されている現状にある。反動性とは、戦後の国連体制の秩序的基礎を認めない極右のイデオロギー性と言い換えてもよく、また、反ジェンダー・反人権の性格が際立ったところの、国際社会における非常識性と言ってもいいだろう。これら、ILO、国連人権理事会をめぐる過去の調査と審理と報告が、ICJが問題を裁くにあたっての所与である。いわば「下級審の判決」で、関係する国連機関の多くの委員や職員が、日韓の歴史問題について検討し、論点整理し、公平な立場で勧告を出してきた。これらが有意味な知見として参考にされるだろう。徴用工問題を持ち込まれたICJ判事団は、日本が正しいか、韓国が正しいか、どちらかに軍配を上げなくてはいけないが、判事たちにとって、それは荷が重い面倒な任務で、判事を出した国が日韓どちらかから恨まれることになる。だから、一番いいのは、両国でよく話し合って和解に歩み寄れという結論で、ILOもその線でマイルドな勧告を出してきた。すなわち、客観的状況としては、必ずしも日本側勝訴が確約されているわけではない。

ICJで日本は勝てるのか - ILO勧告、国連人権理事会、村山談話_c0315619_13352443.jpg私が注目するのは、1998年のILOの報告書の中の次の一節である。こう書いている。「これらの所見に応えて、日本政府は、その報告において、日本政府が植民地支配を通じてもたらした損害と苦難について、韓国政府に繰り返し遺憾の意を表明してきたと述べている」。これは1995年の村山談話を指すだろう。ILOの報告書をサーベイし、ICJの判事たちは村山談話の存在を知るはずだ。そして、1995年の日本政府の宣言と現在の日本政府の主張の乖離に気づくはずだ。そこに、「現在取り組んでいる戦後処理問題についても(略)ひき続き誠実に対応してまいります」の文言があることを見つけるだろう。さらに、2002年の日朝平壌宣言の文面も見るだろう。1995年の村山談話が新しい外交指針として打ち出され、1965年の日韓基本条約と日韓請求権協定を相対化している外交事実を知るだろう。1965年の日韓基本条約と日韓請求権協定は絶対的なものではない。だからこそ、慰安婦問題については、アジア平和国民基金ができたし、日本政府からの見舞金が出るという展開になった。河野談話(93年)と村山談話(95年)の外交が出発点となっている。ICJの判事たちは、この紛争の法的処理にあたって村山談話の意義に着目するだろう。

文在寅の年頭会見での大胆な発言は、ICJでの勝利を計算した上での自信を持ったものだったのかもしれない。



ICJで日本は勝てるのか - ILO勧告、国連人権理事会、村山談話_c0315619_13353890.jpg

by yoniumuhibi | 2019-01-21 23:30 | Comments(5)
Commented by 長坂 at 2019-01-21 15:38 x
それはないです。イタリアドイツ訴訟で結果でてます。そもそも韓国が経済発展したのは日本の資金と技術供与です。POSCOももともと倒産する予定だったのに、日本から得た資金をパクチョンヒから貰って建設出来たと初代会長が述べてます。だから、今までは韓国政府が勝手に使った責任から当時の労働者に資金供与してたんてすよ。左派主流もそこ知ってるから韓国批判してるわけで!
Commented by オリジナル長坂 at 2019-01-21 21:08 x
上の志位さんと面談している二人の若い弁護士さんが来日した際、集会があり話を聞いてきました。私は田中さんが仰る通りだと思いますね。キーワードはやっぱ、国際人権法でしょう。そもそもこの裁判は未払い賃金や補償金を求めるものではないと。不法な植民支配及び侵略戦争の遂行と直結された日本企業の反人道的な不法行為を前提にする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権。国際法に照らし合せても強制労働(ILO第29号条約 )や奴隷制( 1926奴隷条約 )にあたる重大な人権侵害。個人の賠償請求権を国家が一方的に消滅させる事はできないという考え方は国際的に特異な事ではない。(世界人権宣言8条) ICJに提訴しても和解勧告か?
中国人強制連行の花岡、西松、三菱マテリアルは責任を認め謝罪し、基金設立し被害者救済したのに何故朝鮮人徴用工問題は拗らせるのか。外務省は確か(虐待、強制労働させられた)アメリカ人捕虜その家族を毎年日本に招待してませんでしたっけ?アメリカ人に対する人権侵害は素直に認めるんだ。
Commented by オリジナル長坂 at 2019-01-21 22:10 x
集会で一番大事な事忘れてました。韓国側がICJに持って行きたくないのは、元徴用工にはもう時間が残されていないから。速やかに和解して一人でも多く救済したいという思いだと。むしろ日本側は早く死んでくれ、だろうが。私は戦後生まれだけど、日本の侵略戦争、植民地支配の犠牲者の方達には本当に申し訳ないと思う。加害者は自分の罪悪感を軽減する為に被害者を叩き貶め侮辱するって言うけど、今の日本はまさにそれだ。
Commented by 七平 at 2019-01-22 10:54 x


日韓関係が悪化の一途をたどっているようですが、以前はやった韓流ブームに対する反動も含まれているように思います。 右翼でも左翼でもない平均的な日本人でさえ、簡単に政府とその御用聞きマスコミに煽られて右往左往するのはどうかと思います。各個、自分なりの意見を形成をする能力があれば、これほど柳の様にふれないはずです。

日本での義務教育を通して嘘と空白に満ちた戦争歴史、終戦歴史を70余年に渡り刷り込まれてきた事が問題の根底にあると思います。従ってJohn Dowerの著書や正論尽くめの村山談話の内容を素直に受け入れられないのでしょう。特に、異常な程に日本を美化させたがる連中は、彼らの先代の悪行を認め謝れば彼らの先代のメッキを剝がす事につながります。彼らはそれを恐れているのだと思います。怒り喚く言動の裏には必ず恐れが隠れていると思います。 

解決策として、平成天皇が村山談話を、支持しその旨声明を発すれば、隣国との悪循環は逆転すると思います。

今まで、日本は植民地化した隣国で犯した過去の悪行を 金 と 技術援助 だけに頼って穴埋めし、精神的な謝りを怠ってきたツケが表面化しているのだと考えます。同じ敗戦国であった日本とドイツの差ははっきりしています。

経済力が10対1の時に、圧倒的な経済力の差を背景に調印させた契約を盾に、問題済みと唱え、歪んだ契約を現在のモラルに照らし合わせて再討議する事を拒絶するのであれば、不平等極まりない日米安保条約や位置協定も永遠に再討議しない事となります。契約なんぞは所詮人間が書く物。人類の進歩と共に再検討、討議され続けて当然だと思います。

もし、日本の政治家がしっかりした哲学を持っていれば、弱者に対しても強者に対しても 同様に対応するするはずです。
Commented by 印藤和寛 at 2019-01-23 10:52 x
いつも愛読しています。
レーダー照射問題の動画拝見しました。
辺真一はピョン・チニル(チンイル)です。
ちょっと気付いたのでお知らせまで。


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