何を守りたいのだろう - 「多文化共生」の美名の下で進める新自由主義

c0315619_14292566.jpg11月29日の朝日新聞に、「この国は、何を守りたいのだろう。」という一文から始まる小熊英二の記事が載っていた。移民法(=入管法改悪)に関連しての論評であり、基本的に移民政策の推進を擁護する立場からの意見である。巷でよく言われているところの、日本は国際化が遅れたガラパゴスだとか、外国人から見て制度が不透明で不具合だから改善しろという主張であり、異文化の外国人と共生するカナダのような国をめざせという一般論が述べられている。現在の左翼リベラルの基本的な考え方であり、今度の移民法(=入管法改悪)の政局報道においてマスコミが一貫して示してきた姿勢と同じである。外国人労働者問題についての現在の日本の「常識」といってもいいだろう。だが、その記事を見ながら、私は逆に、脱構築主義の学者や論者たちは何を守りたいのだろうという疑問を素朴に覚えた。それは、特に労働組合や左翼政党に面と向かって発したい質問だ。君たちは何を守りたいのか。日本の労働者を守るのが日本共産党ではないのか。単純労働の外国人が大量に流入すれば、当然ながら国内の賃金は下がる。ただでさえ劣悪な労働環境がさらに悪化する。



c0315619_14294622.jpgそんなことは、あらためて言うまでもなく分かりきったことだ。中学生でも分かる経済の常識だ。それなのに、なぜ、共産党や社民党は外国人材受け入れ拡大政策に対して基本的に賛成の立場をとるのか。なぜ、反対だと明言しないのか。政府や与野党やマスコミは、「外国人材」という言葉でゴマカしているが、これは移民のことであり、今回の法改定は移民を解禁する措置である。移民政策は資本が労賃を引き下げるために行うネオリベ政策であり、格差社会をさらに構造的に固定化し不可逆化するための政策に他ならない。それが本質であって「人手不足」は単なる口実だ。この政策が遂行されれば、非正規の下に外国人という階層ができる。正規・非正規・外国人の三層の構造が形成され、最下層に位置する外国人は常に非正規(日本人)にとっての脅威の存在となる。「国のかたちが変わる」と言うとき、最も重要なのはこの労働経済と社会構造の問題だ。本質論はそこにあり、その是非こそが問題にされなくてはならない。それなのに、共産党と左翼は外国人の権利の問題にばかり焦点を当て、マスコミも技能実習生の人権侵害という一面だけを強調する報道に終始した。

c0315619_14295741.jpg本当に無意味で欺瞞的な議論ばかりしている。ベトナム人やミャンマー人の本音からすれば、日本人と同じ労働条件で雇用されるなどと思って来ているわけではない。タテマエ(理想論)はそうでも、実態は違うことは百も承知だし、日本の労働基準法がそのまま自分たちに適用されるとは想定していない。しかし、そうであっても貨幣価値が全く違うから、それがインセンティブになって目の色を変えて働くのであり、我慢して円を稼ぎ貯める生き方を選ぶのである。人権にせよ、報酬にせよ、彼らの基準は自国(ベトナム・ミャンマー)にある。日本人になりたいと思って来るのでもないし、日本社会に貢献したいと思って来るわけでもない。動機は金銭だ。マスコミの報道も、野党と左翼の議論も、外国人労働者を奇妙に美化し、日本の人手不足を補い、少子高齢化で衰退する日本に活力を与えてくれる天使のように一方的に描いている。改悪された入管法が来年4月に施行されれば、実習生は特定技能1号の在留資格を認められ、職業移動の自由を持つことになる。最早、実習生ではなく労働者であり、権利と立場は日本人と同じだ。すぐに左翼と人権派弁護士が家族帯同を認めろと言い出すだろう。

c0315619_14301062.jpg家族を呼び寄せて一緒に住むことは、人権の上ではよいことだが、日本に来た小さな子どもは日本語ができない。日本で生まれた子どもも同様で、小学校の教室で何も分からないまま座っていないといけなくなる。それでは不都合だということで、左翼が要求し、学校にベトナム語・ミャンマー語・ネパール語のできる教師を配置せよという動きになる。予算が必要となる。自由な労働者となった外国人は、雇用の調整弁として使われるから、それだけ境遇が不安定で、欧州諸国のように生活保護の対象になりやすい。そうすると、今度は右翼が騒ぎ出し、何で外国人にばかり多くの税金を使うのかと不満を爆発させることになる。そのうち、500万人、1000万人の移民規模になり、多文化共生主義の理念からして、万葉集を学校で教えるのはよろしくないと誰かが言い始め、天皇の御製は天皇制イデオロギーの刷り込みだからやめようとか、国民国家礼賛のナショナリズム教育だとか、そういう面倒な話になってくるだろう。源氏物語は皇室賛美のお話だから、個々の文化とアイデンティティを尊重する多文化共生教育にはそぐわないとか言い出し、また右翼が猛反発するという事態になるかもしれない。

c0315619_14302156.jpg森永卓郎がこう言っている。「経済企画庁の試算では外国人労働者が50万人入ってくると単純労働者の賃金が14%、100万人流入で24%下がる。(略)一方で政府は70歳まで働けと言い出している。高齢者が働く場所に外国人が入ってくれば、ただでさえ定年後に年収激減で苦しんでいるのに、さらに賃金が下がることになる。私は外国人の働き手は必要ないと思う。労働力が足りないなら機械とかコンピューターとかロボット、AIに置き換えないといけない」。私はこの意見に同感で正論だと思うが、テレビ(地上・BS)の番組でこうした発言をする者は誰もいなかった。面白いのは、この数字を経済企画庁が出したのが1990年で、まだ日本が格差社会化する以前だったという事実だ。製造業への派遣が解禁になる前の、日本が一億中流社会だった当時は、外国人単純労働者の流入は社会全体の脅威だった。それがコンセンサスだった。どれほどバブルで人手不足でも、外国人を入れようなどと発想する者は、経済界の一部以外はいなかった。現在は、むしろ野党や左翼の方が外国人労働者を歓迎し、外国人と共生する社会を理想に掲げ、そのエバンジェリズムに努めている。警戒論や脅威論は皆無だ。

c0315619_14303239.jpg私の持論の一つに、脱構築主義と新自由主義の癒着という問題意識がある。左の脱構築のイデオロギーが右の新自由主義の政策や制度を導き入れ、それを正当化する上での先兵となったという主張だ。長くお付き合い下さっている読者の皆様には耳にタコの議論だろう。戦後日本が作り上げてきた経済社会が叩き壊されるとき、実は、左が左を説得(偽計)工作したのであり、「多様な働き方」だとか、「薄く広く」だとか、「右肩上がりは終わった」とかは、まさにその言説工作のフレーズだった。政治における小選挙区制の導入も同じである。今回の「多文化共生」も、まさにその典型的な「理念」の一つだと言えよう。「多文化共生」の言葉がなかった時代は、経済企画庁の報告書のように、移民は国内労働者の脅威であり、選択してはならない賃下げ政策だった。今、意味もよく理解されないまま、中身を吟味されないまま、この「理念」が無条件に絶対視され、有無を言わせず同意と服従を強いられる水戸黄門の印籠になっている。誰もこの言葉に異議を唱えることができない。どうして日本人で人手不足を解消してはいけないのかと、そう言えない。この言葉を奉じた左側が自ら武装解除し、築き上げてきた日本の労働環境を棄てようとしている。

脱構築主義と新自由主義は一つのコインの表と裏だ。車の両輪だ。双面神のヤヌスの神だ。



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by yoniumuhibi | 2018-12-10 23:30 | Comments(1)
Commented by 愛知 at 2018-12-11 01:02 x
私は貴下のご意見に賛同します。今回はご教授に感謝ではなく、純粋に賛同です。私たちの意見の代弁に感謝します。1号の子、2号の子、移民の人たちが将来、浴びせられる差別です。なんで、こんな愚かなことが許されるのか。南米ドミニカ他、棄民政策の再現でしかないでしょうに。


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