AIがホワイトカラーの労働をリプレイスする - その意味を考える

c0315619_13534596.jpg最近、AI・ロボットの技術進化と人間労働の問題について考えることが多い。10月に放送されたNHKの「マネーワールド」第2集で、新井紀子が説明したAIの未来像に啓発を受けたことと、最近の外国人労働者の議論が契機になっている。できれば、新井紀子と井上智洋と3人で語り合う機会を持てればいいなと思ったりする。まず、最初に外食店舗とコンビニ・スーパーの無人化から想像を始めよう。20年後、間違いなくマクドナルドのハンバーガー店は自動化していて、カウンターでの販売対応も、キッチンでの調理配膳も、機械がオペレーションをこなしているに違いない。店舗に常駐する人間は、システム監視とトラブル対応を担当する店長一人だけになっているはずだ。Macだけでなく、KFCも同様だろう。もともと、この種のアメリカンファストフードのビジネスというのは、全工程をアルバイトの単純労働者ができるようにマニュアル化されていて、すなわちAI・ロボットにとって親近性が高いというか、代替を試みることが簡単な労働現場だと言える。米国の外食だけかと思いきや、日本の外食もスタイルは同じなので、吉野屋や丸亀製麺天丼てんやもすぐにAI・ロボット化を追求するだろう。



c0315619_13535651.jpg回転寿司の店も、もう少しのところまで来ている。今はオーダーとデリバリーが自動化されていて、次に調理場での食材製品のアセンブリの工程をロボットに置き換えれば、もう人間がやる仕事はなくなってしまう。今はブラック企業として評判の悪いゼンショーなどの外食チェーンは、ことごとくAI・ロボットの最先端企業として活躍する将来になるかもしれない。そこから想像を伸ばして、現在、職人がやっている本格的な手打ち蕎麦の業態というのも、AI・ロボットに置き換えるのはさほど難しくないのではないかと思われる。熟練のマイスターをテクノロジーに還元してしまうのがAI・ロボットの要諦で、有能な職人のノウハウは簡単にNC化され、プログラム化されてしまう。気温・湿度の変化を見越してのつなぎの調合とか、職人が長年の経験で蓄積した技能を発揮するこの仕事は、すぐにAI・ロボットが代替してしまいそうな予感がする。30年後、ロボットが生地を練り、棒で丸めて平らに延ばし、包丁でトントンと切って製麺しているチェーン店が出現しているだろう。できれば、そのときは、中国資本ではなく日本資本での事業成功となり、世界に出店して商売繁盛となっている図を願いたい。

c0315619_13540899.jpg今年はAIについての議論が流行した。ファストフードの外食チェーンがAI・ロボット化するのは確実だが、AI化の影響を最も大きく受けるのはホワイトカラーの労働だと言われている。日経新聞とフィナンシャル・タイムズが共同で行った調査研究によれば、人が携わる仕事(業務)のうち、3割はロボットへの置き換えが可能で、日本に限った場合は5割強の業務を自動化できるという結果になったとある。NHKの「マネーワールド」でも、AI化が最も仕事に影響の受ける国は日本だという報告をマッキンゼーが発表していて、2030年までに最大52%の作業が自動化されるという予測を出していることが紹介されていた。こうした外国の調査機関が出した数字が脅威となり、巷でのAIへの関心の高まりを呼び起こし、出版市場での需要を作る状況となっている。日本人の観点からすれば、非常に悪質で嫌味なムーブメントだが、外国の目から見れば、日本の企業にはホワイトカラーの数が多すぎるように見えるのであり、そう見られても不思議ではない要素が確かに日本にはある。それは、井上智洋が自身の職場環境を見回して、半ば愚痴を漏らすように指摘している「日本人の無駄な労働」とも関係する。

c0315619_13542011.jpg文藝春秋から出ている『人口減少社会の未来学』という本の中で、井上智洋が小論を寄せていて、その中に「無価値な労働に時間を費やす日本人」と題した一節があり、次のように書いている。「今、日本人は頭脳を働かせて価値を生み出すことに十分な時間と労力、お金を費やせていない」(P.98)。「誰しも、『この会議は無駄に長い』とか『この書類作成は必要ないんじゃないか』と思ったことがあるだろう。」「日本は無価値労働時間が異常に長くて、有価値労働時間や余暇時間を押しのけているのではないかという仮説を筆者は立てている」(P.99)。「大学教員の本務は研究と教育であるが、研究時間の方は昨今減少している。2002年には46.5%だった研究時間が2013年では35%まで減っているのである。その分増大しているのが教育に要する時間、つまり講義時間とその準備時間である。(略)準備について言うと、パワーポイントで講義を行う教員が多くなり、その作成に長い時間を費やすようになった。(略)そうした取り組みを筆者は真っ向から否定するわけではないけれど、教員が教育に多くの時間を費やすことによって、学生が著しく賢くなっているかというとかなり疑問の余地がある」(P.101)。

c0315619_13543119.jpg「乱暴な話だが、学期末試験を難しくして、単位の取得を難しくすれば、学生は必死になって勉強してくるものである。(略)それに対し、研究時間の減少による研究成果の減少は目に見えて現れている。(略)日本は、論文数の相対的なシェアを減らしているどころか、論文の絶対数を減らしており、2016年の論文数ランキングで6位にまで転落している」(P.101-102)。この主張には全くアグリーだ。無意味な事務(雑務)が増えていて、研究者が大学経営幹部と文科省を喜ばすための媚びへつらいの事務労働をしているのである。昔はこんなことはなかった。教授会が経営者だったから。これは大学という職場の問題点だが、日本のホワイトカラーの場合、会議の資料作成にせよ、上部への報告書の提出にせよ、ご機嫌取りのため、組織のパワーストラクチャーの調整のため、無駄に定型的ペーパーが量産され、時間が浪費されすぎている点は否めない。しかも、それを英語で強制されたり、無能な米国人が上司で(会社の取締役で)パワーストラクチャーに居座ったりした場合は悲惨で、二重の無駄な手間をかけて事務労働をしなくてはならなくなる。20年前くらいから、日本はこの無価値な労働を「国際標準」の有価値な労働と信じ込んでしまった。

c0315619_13550960.jpg前後して恐縮だが、学生に阿るために教官が講義のプレゼンの工夫をしなければいけなくなり、無駄に思えて仕方がないという話は、掘茂樹教授と対談させていただいた際、対談後の歓談時に聞く機会があった。同感である。自然科学、社会科学、人文科学を問わず、戦後の日本の碩学や先哲はそんなことはしなかった。ホワイトカラーの事務労働のAI化と人員削減については、私は二つの問題を考える必要があると思う。一つはマイクロソフト社のOfficeのソフトウェアであり、もう一つは英語労働である。Officeによる事務労働の定型化と標準化は、そして無駄化は、時を経て、AI技術がそれを無人化する条件を作ったと言える。インターネットでの情報検索、データマイニング、(VBAのマクロの)Excelを使った数値分析と統計解析、変化や動向の類型化と概念化、パワポでの報告資料作成、等々の一連の事務労働、それの英語処理は、現在では高度なホワイトカラーの労働であり、各人の成果や速度で能力差が出る労働に違いないが、これはAIが置き換えてしまう。基本的に定型業務だから、専門技能と経験値をアルゴリズム化して、コンピュータに作業させることができる。ビッグデータとIoTの基盤が整って行き、経験値が蓄積されるほどに、その業務の世界が、羽生善治をAIがリプレイスする将棋の情報世界になる。

AIが最もよく仕事ができる生産活動主体になる。嘗て、米国IT資本が世界を(日本を)席巻する際、彼らが言っていた「ワークプレイス」とか「デスクトップ」とかの言葉の意味が、今、AI時代のとば口で、日本人はようやく理解できたのではないか。それは世界の(日本の)事務労働の定型化・標準化であり、日本の職場全体を支配するための米国化であったのだ。そして、日本人がAIで事務労働を大きく削減できる理由は、英語労働(日英言語調整)の負担が他の国より重い現実があるからであり、AIがその負担を取り除いてくれるからだ。


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by yoniumuhibi | 2018-12-05 23:30 | Comments(0)


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