二島返還で手打ちの暴挙 - 自画像の損壊、戦後日本の外交の否定

c0315619_14140828.jpg14日にシンガポールで行われた日ロ首脳会談で、北方領土問題について安倍晋三が提案を出し、「1956年の日ソ共同宣言を基礎として交渉する」ことが合意され発表された。歯舞群島と色丹島の二島返還で平和条約を締結するという、いわゆる「二島先行」論である。従来の政府の基本方針である四島一括返還を転換し、二島返還で手を打って国境の線引きをすることになった。マスコミは東郷和彦を画面と紙面に出し、この安倍晋三の「決断」を絶賛し、祝賀ムードを煽っている。後藤謙次も、木村太郎も、安倍晋三の「決断」を賛美し、「今回を逃せば平和条約は永久に締結できなかった」「ラストチャンス」などと言って褒めちぎっている。安倍晋三から小遣いをもらっているのだろうか。最初にこの点は明確にしておく必要があると思うが、日本側が歯舞・色丹の二島返還に譲歩するのなら、いつでも、誰でも、ロシアは日本と平和条約を締結できるし、これまでも締結できた。二島返還は、ロシア側のマキシマムの要求ラインであり、日本側のゼロラインである。ロシア国民は驚いているだろうし、プーチンの外交手腕に舌を巻いているだろう。よくこんな完璧な決着に持ち込めたものだと。



c0315619_14141921.jpg日本国内では、マスコミによる安倍賛美一色で、今回の一方的譲歩と全面的外交敗北を批判する声が全く上がらない。二島返還でOKであるのなら、60年前の日ソ共同宣言の後にそのまま日ソ平和条約を結べばよかった。何のために、戦後日本の対ソ外交の努力があり、四島返還に向けた国民の抵抗運動があり、日ソ共同宣言から一歩一歩押し戻して成果を積み重ねていった歴史があったのか。戦後の対ソ対ロ外交は、粘り強く交渉を続けて、首脳会談後の合意文書に四島の固有名詞を入れ、四島の帰属が平和条約締結の前提だとソ連・ロシアに認めさせてきた過程だった。四島返還の実現に向けて、ソ連・ロシア側を譲歩させ、実績を着実に踏み固めてきた歴史だった。その経緯は、外務省のHPの「北方領土」のサイトに簡潔に整理されている。その長い交渉史の間には、東郷和彦が言っていたようなミスも幾つかあったが、日本側がめざすゴールが動いたことは一度もなく、鋼鉄の意志を堅守して四島返還を迫ってきたのである。日ロが平和条約を結ぶときは、悲願である四島返還が実現するときで、それ以外の問題解決はなかった。

c0315619_14143175.jpg日本側がゴールポストを動かして妥協するなど考えられないことだった。腹立たしいのは、国後島と択捉島をロシアに売り渡した安倍晋三の売国行為だが、それ以上に憤懣やるかたないのは、この売国と屈辱を前にして、何も怒りや憤りが表出することのない日本の世論の現実である。何度も同じことを言うけれど、老人の愚痴のように繰り返すけれど、二島返還で決着して平和条約が締結されたときの、日ロの新国境線がどうなるかを想像していただきたい。現在の日本地図を見ると、国境線は択捉島とウルップ島との間に引かれている。択捉水道と呼ぶ。択捉島の北端は日本領土の最北端でもあり、択捉島の東端は日本領土の最東端でもある。択捉島の位置は、日本領土の北東のコーナーストーンにあたり、日本国の版図をバランスよく成立させている要地である。来年、日ロ平和条約が締結され、再来年には新しい国境線が入った地図が発行されるが、それを見ると、根室海峡に国境を示す太く赤い点線が描かれている。知床半島の東から野付半島の北へ、そして根室半島の北西へと湾曲し、さらに歯舞群島と色丹島の西方沖を北東へ延伸するところの、すなわち国後島と北海道の間の狭い海峡をUの字に描く不気味な線が、日本とロシアの正式な国境線として確定される。

c0315619_14144327.jpgこの新しい国境線が、われわれの日本地図の姿となり、日本地図の北東の端っこの輪郭と形状となり、それが未来永劫に法的に固定されてしまう。現在と比べて、きわめて歪な形をした日本地図が出来上がり、何やら北東の一角が強引に削り取られ、北海道が毀損されそうになった、不完全でグロテスクな印象の日本地図になってしまう。バランスが悪い。プロポーションが不全で、まさに領土の一角を侵食された奇形的な姿そのものだ。これほど奇妙かつ異常に、外国が日本領(日本列島)に接近して国境線を描く場所は他にない。西南端の与那国島と台湾との距離は110キロあり、海峡の国境線は垂直の直線である。対馬と韓国との距離は49キロで、朝鮮海峡に引く国境線は斜め直線である。これらの国境線が、日本地図をバランスのよい安定感のある形に仕上げている。よく考えれば、われわれが親しんできた日本地図は、近代日本の自画像そのもので、自分自身の姿を鏡に映した身体のプロポーションなのだ。だからこそ、それを作成する者(徳川幕府・明治国家)は、井能図を基にして、意識的に安定感のある四境の版図の設計を作為したのだろう。竹島(獨島)を島根県に編入した理由も、経済ではなく、地図の視覚上の均衡と国境線の位置が動機ではないかと思われる。

c0315619_14145469.jpg国境線が配された自国地図というのは、国民(nation)の自画像であり、その国民の自信と満足の根拠になるものだ。疎かにできないものであり、美意識に関わり、形に拘らなければならないものである。われわれは、ずっと日本地図に誇りを持ち、日本地図に描かれた列島の姿と形を愛してきた。択捉島から北海道の間に横たわる海域と島々は、日本の一部であり、ソ連・ロシアが第二次大戦のどさくさの火事場泥棒で不当に軍事占領して居座っている地域であり、いずれは外交交渉で、そして買収で取り戻すべき領土である。択捉島とウルップ島との間に引いた国境線は、日本(徳川幕府)とロシア(帝政旧露)が平和裏の交渉で決めたもので、日露修好通商条約でシェイクハンドした成果である。ここに近代日本の出発点があり、日本が近代の国際社会に船出した礎の一つがある。この国境線を考えるにおいては、司馬遼太郎の『菜の花の沖』の物語が想起されるべきで、高田屋嘉兵衛とリコルドの二人の友情と努力が顧みられなければならない。日露修好通商条約の原点に復初するということは、日本とロシアが互いをリスペクトして関係を築いた原点に戻るということである。日ソ共同宣言の二島返還を認めるということは、スターリンの暴力と侵略と征服を認めるということだ。

c0315619_14150522.jpgそれは絶対にしてはいけない。1941年の大西洋憲章は、戦争で領土変更することを禁じ、戦争による領土拡大を否定した。大西洋憲章の原則が後の国連憲章の基礎となっている。英国や米国は基本的にこの原則を守ったが、スターリンは憲章に参加表明しながらこの原則を乱暴に踏みにじった。スターリンによる蹂躙を英米も認めた。日ソ共同宣言後の戦後日本が、二島手打ちを拒否して四島を求め続け、粘り強い交渉でソ連・ロシアを少しずつ妥協へ導いて行ったことは、ロシア人にスターリンの無法で野蛮な侵略の歴史を認めさせ、反省を促していったということでもある。そのことをわれわれは確認しないといけない。ここで二島返還に戻り、これまでの努力を水の泡にすることは、スターリンの侵略を認め、ロシアの居直りを容認し、領土問題は武力以外では解決できないと世界に宣言することでもある。今回、二島返還でピリオドを打つという安倍晋三の売国外交の独断専行に対して、国民から非難と反発が起きなかったことは、私にとっては耐えがたい苦痛であり、呆然とさせられる事態である。30年間にわたる日本のアカデミーの脱構築教育が、すっかり国民に定着し、日本国民は日本国民ではなくなった。

途方に暮れるばかりだ。あのグロテスクな新国境線を、スターリンの悪魔が降臨したような面妖な新国境線を、今の日本の「国民」は大歓迎している。傷ついていない。沈痛に感じていない。近代日本が滅び崩れて無化することを、脱構築化して廃人になった今の「国民」は大喜びで歓呼している。肝心要の北海道の住民でさえ、この暴挙に対して抗議の声を上げてくれない。伊能忠敬と髙田屋嘉兵衛がこの光景を見たら、どれほど絶望的な気分になるだろう。私は、安倍晋三とプーチンの「二島返還」には絶対反対だ。容認できない。無力な老人になったけれど、司馬遼太郎が愛した国の国民であることをやめない。転向しない。脱構築で脳を犯された廃人にはならない。


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by yoniumuhibi | 2018-11-17 23:30 | Comments(2)
Commented by 七平 at 2018-11-22 07:43 x
​北方領土返還に関する日本側の譲歩も論理性と言う背骨が欠落している一連の日本政府の動きと受け止めています。 安倍晋三の譲歩を聞いて米国側も呆れていると思います。 自分の事しか考えず、何も解っていないトランプは、カジノ法案、武器購入、食料輸入自由化を代償に大目に見るかもしれませんが、次期米国政権は日本を信用できない属国との認識を一層高め、その枠内で対応してくると思います。現在の延長線を引くと、西を向いても、東を向いても、信用されない国、東アジアで孤立する日本になってしまうのではと懸念しています。

魚は頭から腐るとは良く言ったものです。 政府の要人が発する虚がまかり通る国、日本ではその余波で、教育機関から企業に至るまで、嘘が伝染病の様に広がり、日本文化自体が腐っていくと思います。 日本の医科学界でも、 小保方 晴子 に続き 佐藤能啓まで、日本からの嘘論文の発行者として科学雑誌サイエンス8月号にて紹介され、世界の舞台で叩かれています。 彼らが犯した罪は将来の日本の研究者にとって大きな打撃、足枷になってしまいます。通りで、グルーバルに著名な研究所では、日本からの研究者の数が激減しているわけです。

マスコミが国民の目を覚まし、司法が憲法、法律に準じて犯罪者を裁く事によって国の腐敗にブレーキをかけるべきです。 しかし、日本のマスコミは政府の御用聞き、司法府は安倍政権の顔色を窺い、一旦出した逮捕状まで揉み消す始末。そんな様子は地球の裏側まで伝わってきます。

ゴーン氏の逮捕はそれなりの証拠があった上での事と進展を見守りますが、日本の司法府を信用する特派員、外国政府は少なく、当然、日本の検察/司法府のあり方にも世界の注目が集まるでしょう。良い事だと思います。 日本の検察が慣れない司法取引をどのように使い逮捕に踏み切ったのか興味のある所です。
Commented by 七平 at 2018-12-04 22:35 x
又、憲法で保障されている表現の自由に反する投稿妨害が政府の指示に従ってか?ExiciteBlogよりなされており、先日投稿した私のコメントが承諾なく消されています。日本での報道の自由が如何に出鱈目であるかを世界に示すため、下記、再投稿しておきます。本サイトに目を通すのは、日本国民だけではありません。

北方領土返還に関する日本側の譲歩も論理性と言う背骨が欠落している一連の日本政府の動きと受け止めています。 安倍晋三の譲歩を聞いて米国側も呆れていると思います。 自分の事しか考えず、何も解っていないトランプは、カジノ法案、武器購入、食料輸入自由化を代償に大目に見るかもしれませんが、次期米国政権は日本を信用できない属国との認識を一層高め、その枠内で対応してくると思います。現在の延長線を引くと、西を向いても、東を向いても、信用されない国、東アジアで孤立する日本になってしまうのではと懸念しています。

魚は頭から腐るとは良く言ったものです。 政府の要人が発する虚がまかり通る国、日本ではその余波で、教育機関から企業に至るまで、嘘が伝染病の様に広がり、日本文化自体が腐っていくと思います。 日本の医科学界でも、 小保方 晴子 に続き 佐藤能啓まで、日本からの嘘論文の発行者として科学雑誌サイエンス8月号にて紹介され、世界の舞台で叩かれています。 彼らが犯した罪は将来の日本の研究者にとって大きな打撃、足枷になってしまいます。通りで、グルーバルに著名な研究所では、日本からの研究者の数が激減しているわけです。

マスコミが国民の目を覚まし、司法が憲法、法律に準じて犯罪者を裁く事によって国の腐敗にブレーキをかけるべきです。 しかし、日本のマスコミは政府の御用聞き、司法府は安倍政権の顔色を窺い、一旦出した逮捕状まで揉み消す始末。そんな様子は地球の裏側まで伝わってきます。

ゴーン氏の逮捕はそれなりの証拠があった上での事と進展を見守りますが、日本の司法府を信用する特派員、外国政府は少なく、当然、日本の検察/司法府のあり方にも世界の注目が集まるでしょう。良い事だと思います。 日本の検察が慣れない司法取引をどのように使い逮捕に踏み切ったのか興味のある所です。


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