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マルクスと日本人 - 世界一の右翼大国、世界一のマルクス大国

マルクスと日本人 - 世界一の右翼大国、世界一のマルクス大国_c0315619_13124146.jpg前回の記事で、イプソスというマーケティング・リサーチの会社が行ったところの、社会主義の理念と価値に対する評価をグローバルに尋ねた意識調査を紹介した。世界28カ国を対象に調査した結果、社会主義を肯定すると答えた割合の平均は50%で、新興国が50%台前半、先進国が40%台後半という結果になっている。28カ国の中で極端に数字の低い国があり、21%という例外的な値を出した日本である。私は常々、日本は世界一の右翼大国であるというツイートを発して、その警告的表現を目にする者に覚醒を試みているが、その指摘が決して不当なものではなく、われわれ自身の客観的な真実であることが証明された統計データと言えよう。大規模市民デモで左派政権を樹立したお隣の韓国では、社会主義への肯定度は48%で、ほぼ平均並みの位置であり、日本はその半分以下しかない。資本主義の総本山の国である米国よりも低く、世界の中で突出した反共国家であると認めてよい。日本では社会主義の思想が異端化されている。公共空間の中で絶対悪の表象となっていて、デフォルトで排斥され、禁忌の扱いの存在になっている。だから、生活保護の水準を切り下げられても不満が出ない。



マルクスと日本人 - 世界一の右翼大国、世界一のマルクス大国_c0315619_13125353.jpgわが日本では、どうしてこれほど社会主義の理念を拒絶する者が多いのだろう。なぜ、日本のイデオロギー状況は世界と比べてこれほど異質なのだろう。反共傾向が先鋭なのだろう。その意味と理由を政治学は説き明かし、説得的な仮説を提示して理論化しないといけないが、そうした作業を試みている職業政治学者は一人もいない。7年前に米国でOWSのデモがあったとき、プラカードを掲げてNYの街頭を行進する若い女性の写真があり、そこに堂々と「THE WORKING CLASS MUST UNITE」と書かれているのを見て驚かされた。さらに、「FIGHT FOR SOCIALISM」の標語もあったし、資本主義に対する真っ向からの批判の言葉が並び、「REVOLUTION NOW」と書いたプラカードが氾濫していた。日本ではおよそ考えられないラディカルな思想的光景であり、7年も時間が経ったが、あらためて彼我の差を感じさせられ、日本と比べて正常な米国の価値観の位相に安堵し、新鮮で楽観的な気分を覚える。そのとき街頭で噴出した資本主義批判の動きは、5年後に社会主義者を自認するサンダースの大統領選挙の運動となって全米で盛り上がる事態となる。

マルクスと日本人 - 世界一の右翼大国、世界一のマルクス大国_c0315619_13131044.jpgそもそも社会主義とは資本主義を批判する理念だ。資本主義を否定する、改造する、修正する、そうした意思と目的を持った思想と運動が社会主義で、資本主義が続くかぎり社会主義も生き続けることになる。資本主義があるところには、裏返しとして社会主義があるし、資本主義の生き方や社会のあり方に矛盾を感じる者は、それをひっくり返したところに理想のイメージを対置させ、新たな社会像の理念を言葉で表して共有しようとする。人類はその営みを止めることはできない。そして、マルクスが150年前に残した言葉を使うことになり、マルクスの言葉を思考材料にすることになる。資本主義という言葉そのものが、マルクスが批判的に現実の経済社会の仕組みを言い表した術語であり、したがって人がこの言葉を使うときは、どうしても否定的で批判的な観念が介入せざるを得ない。資本に無限に自由を与え、資本の活動を欲するまま無制限にさせ、資本中心の方向づけで制度と法律を組み立てると、富が遍在して社会の多数にしわ寄せが生じ、貧困化する弱者に不幸が押しつけられてしまう。そうした弊害への問題認識が、資本主義という言葉(概念)には最初から埋め込まれている。

マルクスと日本人 - 世界一の右翼大国、世界一のマルクス大国_c0315619_13132238.jpg日本はなぜ他国よりも社会主義の理念から遠く、資本主義を肯定する意識が圧倒的なのだろう。それは、日本人が過去から逃げ続けているためだ。社会主義に共鳴する一部に属していた自らの過去を否定し、転向した後ろめたい自我を懸命に防衛し続けている社会心理があるためだ。転向・改宗・裏切りという事実を認めたくないという動機が作用し、自己欺瞞を正当化するために、資本主義を肯定する全体主義的な流れを棹さすのである。1970年代の選挙で、自民党の得票率は40%で残りを野党が占めていた。種類は異なるが、「社会主義」を看板にする政党への投票が全体として多かった。東京や大阪など大都市は革新自治体になっていた。当時は革新候補に投票した者たちが、今では反共・新自由主義の政党に投票していて、彼らが育てた子どもたちや孫たちは安倍自民党の支持者となり、マンガ右翼の愛読者となり、ネットで毒々しい極右の言動を吐いて生息している。夢のない萎れた生活空間で人生を沈ませながら、右翼大国日本の繁栄を支えている。結論を言えば、嘗て社会主義の空気が濃厚だったから、改宗後の反社会主義の傾斜が強くなるのである。逆転の弾みと逆流の推進力があるからだ。フランスにもその特徴がある。

マルクスと日本人 - 世界一の右翼大国、世界一のマルクス大国_c0315619_13133601.jpg日本の過去の思想状況がどのようなものだったか、どのような教育がされていたのか、どのような生き方を理想にしていたのか、その事実を正しく確認する必要がある。最近、ブレディみかこの『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』という本が話題になっていた。欧州の左派の台頭、特に英国労働党の新社会主義路線の動向に触れながら、要するに、日本の左派もマルクスに即き直すときではないかという問題提起が示されているらしい。この本に食指が動かないのは、日本人のいつもながらの作法だが、欧州で流行っているから、米国でトレンドだから、日本もその思潮を導入したらどうかという姿勢で説得がされ、主張の宣伝がされている点である。私はこういう議論が苦手だ。アカデミーに研究して欲しいのは、過去の日本がどれほど世界を凌駕するマルクス大国であり、マルクスが大学生の必須の知識であり、マルクスの思想がそれなりに(東大を通じて)霞ヶ関の公共政策に反映されていたかの確認である。そして、どうして世界一のマルクス大国だった日本が急速に変貌し、現在のような世界屈指の極右国家になってしまったのかの検証である。日本のアカデミーに必要なのは、その謎解き(自己対象化)なのであって、欧州の流行現象の紹介ではない。

日本でマルクス・エンゲルス全集が出版されたのは1928年で、改造社から全27巻が日本語で翻訳刊行されている。これは、ドイツやソ連より早く、世界で最初のマルクス・エンゲルス全集だった。戦前の日本で、どれほどマルクス主義の影響力が強く、アカデミーを席巻していたということが分かる。プロレタリア文学というものもある。小林多喜二という若い小説家は、時代の寵児の売れっ子作家で、現在の大衆的感覚でいえば、ジャニーズの芸能タレントに近いアイドル的存在だったと考えてよいのではないか。だからこそ、特高(ファシズム権力)はこの人気スターを標的にして捕縛し、拷問で惨殺して世間の見せしめにした。世の中の価値観が変わったんだぞということを、誰にも分かりやすく象徴的に知らしめた。


マルクスと日本人 - 世界一の右翼大国、世界一のマルクス大国_c0315619_13135292.jpg

by yoniumuhibi | 2018-10-25 23:30 | Comments(1)
Commented by 長坂 at 2018-10-25 20:19 x
フランシス・フクヤマが「マルクスは正しかった」「社会主義はカムバックすべき」と言っていると芦原省一さんのTWで知り、のぞいてみた。ネオコン政治学者がそこまで言う程格差が深刻なのだが、この人アメリカ版佐藤優っぽくてイマイチなんだか。
アメリカの大学で使われるテキスト2位がプラトン「国家」4位マルクス「共産党宣言」5位アリストテレスと文系の新入生は今でもまずあの薄い「共産党宣言」を読まさせられているらしい。感慨深い。バーニーやアレキサンドリア・コルテスを支援するアメリカ民主社会主義者(DSA)のメンバーは2008年に6千人が今では5万人。「共和も民主も崩壊、アメリカには抜本的な解決策が必要」「お金が、政治を含め全てをコントロールする状態が終わって欲しい」が支持者急増の背景にあるらしい。(Globe) 小さな政府、基本Self Help のアメリカですらこう。宗教ないマルクスない、政党・マスメディア・アカデミーが三位一体で崩壊中の日本には「自己責任」しか残っていない。” Mr. 自己責任” の安田さんが無事帰国、「人命は地球より重い」ってひと昔の日本じゃみんな納得したのに。


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