NHK「マネー・ワールド」第3回 - ミャンマーの農村金融禍に絶句

c0315619_15124073.jpg14日に放送されたNHK「マネー・ワールド」第3回は、とても衝撃的な内容だった。今回の番組の事実上のプロデューサーは水野和夫で、世界のマネーの現実がどうなっているかを「借金」という切り口で見せ、いま世界中の国と企業と個人が膨大な借金を抱え、その借金が経済成長に有効に機能せず、限界に行き当たっている現状を説明していた。水野和夫はこの現実を持論である「資本主義の終焉」論に惹きつけて解説、借入金が成長を促して発展を遂げてきた資本主義のシステムの破綻だと結論を置いていた。特に注目させられたのは、個人の借金の部で描かれたタイとミャンマーの事例である。10年間で1.7倍の経済成長を遂げた新興国のタイに、世界中からマネーが流れ込み、個人相手の消費者金融が活況を呈している。金利は28%という暴利で、借りた者はすぐに返せなくなって多重債務者となり、現在、タイでは7人に1人が返済困難の状況に陥るという深刻な事態になっていた。そのタイの消費者金融市場の4割のシェアを日本のサラ金業者が占めていて、プロミスやアイフルやアコムやイオンなどが大活躍を演じている。




c0315619_15125570.jpg水野和夫とNHKは具体的に説明しなかったが、これは、言うまでもなく黒田バズーカで放たれた日銀の金融緩和マネー、すなわちアベノミクス・マネーが暴れ狂っている姿である。2013年からの異次元緩和マネーが、サラ金業者たちにタイで商売させ大儲けさせていた。経済成長を続ける新興国では、国民の所得が上がり、消費が旺盛になり、需要が借金でカバーされドライブされていく。そのとき、本来なら、まずは国内で有力な銀行資本を育て、そのストックをベースにJCBのようなクレジットカード企業を育てという順番になり、それを通じて消費を促すという形になりそうなものだ。サラ金(消費者金融)はその末端に例外的に位置づけられるものである。番組を一見したかぎり、そうした日本の過去の経済成長と個人金融の経路とは異なり、日本の「サラ金」の後ろめたさを伴う悪性の概念と表象とは違って、タイではかなり自由に、政府が積極公認する形で、外資(日系)のサラ金に商売させている印象だった。タイ政府はなぜこんなことをするのだろう。国内の金融資本が脆弱で、外国の金融資本の資金力が必要だったのだろうか。それとも、軍事政権の高官が日本のサラ金業者から賄賂を受け取っているのだろうか。

c0315619_15130696.jpg日本のサラ金業者のビジネス方式を学んだタイの金融業者が、今度は隣国のミャンマーの村々に入り、貧しい人々を相手に、ほとんど詐欺同然、カルト同然の形の高利貸しをして儲けていた。衝撃の映像を前に絶句してしまったが、返済不能者を大量に産み出しながら、金利(30%)が高いから高利貸し業者は十分に儲かるのである。返せない借金を重ねて多重債務者となったあの若い妻と家族は、これからどういう人生を送るのだろう。あの映像は、いわゆるNHKのやらせ手法がかなり入っていることが窺える。貧村の人々やあの家族には、取材・撮影の報酬として若干の対価が支払われ、効果的な絵作り(構図)が準備され、シナリオと台詞が用意されていたのではないか。だが、その演出が非常に説得的で、NHKのやらせ的作品術の勝利とも言える説得力に仕上がっていた。ミャンマーは30年前まで社会主義国だった国だ。民主化以降も中国の影響力が強い国で、市場経済の国ではなかった。いわば、アジアの中で最も資本主義化の遅れた国だったと言っていい。そのミャンマーの山奥の貧村で、ネオリベの権化のような外国資本の高利貸しがやりたい放題やって暴利を貪り、貧しい村人を返済不能者に追い込んでいる。

c0315619_15132142.jpg信じられない光景だ。おそらく、タイの高利貸資本は、日本のサラ金業者がタイでボロ儲けしているビジネスモデルを見て、その相似形の小型版をミャンマー奥地で実践したのだろう。ミャンマー軍事政権の高官に賄賂を渡しているのに違いない。考えられない経済の現実で、国家としてあり得ない失態だ。タイの場合は、日本のサラ金資本の導入は完全な失策ではあるが、動機は多少とも理解できる。巨大な信用を創出する資本が国内で未成熟なため、成長を牽引する装置として、また高スピードで拡大する需要を支える金融機構として、あってよいと判断したのだろう。ミャンマーの場合は政策として成り立つ余地がない。村が丸ごと潰れてしまう。今回のNHKの取材と報告は、私には本当に衝撃の事実だった。何より、ミャンマー政府がこのようなことを許して放置していることが驚愕だし、タイ政府のやり方も容認できない。こんなことをしていたら、経済成長を遂げる前に国民の購買力が失われてしまう。すぐに国内消費が力を失うことになる。タイで外資系消費者金融業が儲けている分は、本来、タイ国民の手元に残り、貯金になって住宅購入の頭金になったり子どもの学資になるべき資金だ。国民経済の富だ。それが横取りされているのである。

c0315619_15133381.jpgマルクス経済学で「胎芽的利潤」という言葉があり、大学で日本資本主義論争の講義を受けたときに概念を学んだ。詳しい説明は省くが、日本の場合は胎芽的利潤を寄生地主が横取りするため、農民の自生的な蓄積と成長が抑えられ、大塚久雄的・英国経済史的・デフォウ的な理念図で描かれるところの、農村内の社会的分業の発展が阻害されてしまうのである。だから日本の資本主義は半封建的であると講座派は規定し、寄生地主制の打倒が32年テーゼの趣旨として据えられた。その目標はGHQ占領軍権力によって達成される。ナポレオンの外征でフランス革命の政策成果が輸出され、エルベ以西のドイツから封建領主の土地支配が一掃されたように。NHKの報告のように、ミャンマーの農村に外資の高利貸し業者が入れば、農民の胎芽的利潤は収奪され、農村は疲弊し、ミャンマーに購買力が形成されず、消費市場の成長が挫折を余儀なくされる。農民が経営を拡大できない。あの絵は、途上国の為政者が絶対に許してはいけないことで、経済政策として最悪の自滅行為だ。そういうことが起きているとは想像できなかった。G20をはじめとする新興国は順調に経済発展し、日本や中国の成功体験を手本にして政策を舵取っているものとばかり思っていた。

c0315619_15134540.jpgあのミャンマーの農家の債務はどうなるのだろうか。テレビを見ながら、きっと外資系金融業者は、米国のサブプライムの商売を真似て、ミャンマーの農民の債務を他と混ぜて金融工学の技術で合成債権化し、それを細かく分割して金融商品として市場で販売して儲けるのではないかと、そんな想像が頭を過ぎった。金融業者が政権と癒着していれば、それは可能であり、損失が出た場合はミャンマーの政府予算で補償させるとか、ミャンマーへの外国ODAの一部から補塡させるという巧妙な手もある。ネットを見ると、「タイ王国におけるクレジットカード債権の証券化支援」というページがあり、何やら不気味なものを感じさせられるではないか。何をしようとしているのか。タイ政府にさほどの危機感がないのは、GDPがずっと順調に伸びていて景気がよく、今後の経済成長に自信があり、債務不能者の増加も全体として吸収できるリスクだと考えているからに違いない。確かに経済が高度成長している間は、借金が焦げ付いた者も再チャレンジの機会があるだろう。日本でサラ金の債務不能が問題化したのは、バブルが崩壊して不景気になってからのことだ。だが、あのように、タイの金融資本がミャンマーの農村に寄生して搾取するなどということをやっていたら、ミャンマーもタイも共倒れする。

資本だけが勝利する前途に暗澹とさせられる。


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by yoniumuhibi | 2018-10-17 23:30 | Comments(6)
Commented by 七平 at 2018-10-18 02:20 x
(1の2)
先進国からの余剰資本は一部後進国に流れ、対象国を助けるどころか全く免疫性のない貧しい対象国民からの搾取に使われているようです。野放しの資本主義は弱者を餌食に肥え太り、資本の集積が成されるのですが、資本主義の弊害を既に心得ているアジアの先駆者、日本はナイーブな人々が犠牲にならない様、手を打つべきだと考えます。 ましてや、大戦中アジア諸国に多大な被害をもたらした日本の立場を考えると、日本政府が介入して、ヤクザ絡みのサラ金輸出を停止するのは簡単な事だと思います。悪い芽を摘んでおかねば、善良な日本人、NGO, 日本企業からの援助、善行を中和してしまうと考えます。

満たされる事を知らない人間の盆欲を善とし、それを原動力に作動する資本主義は共産主義を確かに打ちのめしたのですが、成熟期を通過すると、非常に醜い面が現れ、成熟期を通過した先進国での資本主義は自滅もしくは修正に向かって迷走を初めているのが昨今の状況だと思います。露骨な資本主義を卒業し、先に進んでいるのは、一部の欧州諸国だと思います。その要因は、国を構成する国民全体の教育レベル、公的マインドが高く、資本主義が生み出す諸問題、弊害を把握し、国政、国策を通じて軌道修正しているところにあると思います。
Commented by 七平 at 2018-10-18 02:21 x
(2の2)
日本の教育レベルは高いとよく言われますが、私はそう思いません。 確かに、読み書きそろばん的な教育は幼稚園から東大法卒に至るまで行き届いていますが、日本人の人間的な資質を形成する 博愛性、創造力、洞察力、理想追求力、正義感、自分で考え実行に移す自立性を育む教育、に関しては後進国だと思います。いずれも受験勉強や教育勅語を通して得られるものではありません。

先進国では、資本がだぶついて、お金についた値段 ”金利” はゼロ同然。先進国の株式会社の多くは保留資産を使っての有効投資対象はもう見いだせず、競争会社を買い取ったり、自社株を買戻して、株価を吊り上げています。株式市場のそもそもの役割は、資本を一般から集め企業が有効投資に転用るところにあったのですが、資本がだぶつく昨今では、有効投資対象の無いお金を吸収する、自画自賛の資本のため池(賭博場?)の役割を果たしています。日本では国民の老後年金まで政府がため池に流しています。米国では国民年金は株式市場から隔離されていますが、401KやIRAのような自己管理年金は、同じため池に流れる仕組みになっています。 米国の401Kポンプが毎月 Wall Street に注入する貯金額は莫大なもので、資本を一層だぶつかせ、株価を押し上げるのですが、本質的な ”富の保存性” を考え また、有効利用されていないため池の様子を見ると、将来、配当付きで戻ってくるか疑問です。缶詰や漬物でも有効期限があり、ため池の水も流れがないと腐ってしまいます。 

富裕国で発生している、余剰資本が掲題の記事にあるように悪用されたり、破壊と殺人を通して新たな投資対象を生み出す戦争につながらない事を祈ります。
Commented by 愛知 at 2018-10-18 04:16 x
30年前、タイ北部、Phayao県のMaeChaiという農業中心の小さな田舎町に住んでいました。町の人たちの最大の現金収入は果物のリンチー(日本ではライチー)でした。稲作もしておられましたが、輸出して外貨を稼げるのはリンチー。皆さん、一生懸命で。私自身の移動の足はChiangRai空港のレンタカー屋で調達したコロナかサナニー。MaeChaiから国道を北に走るとChangRai(チェンライ県)。さらに北上すればミャンマーの国境で、時折、ドライブがてら嗜好品の安いミャンマーまで買い物に。軍事政権下でしたが、15メートルほどの国境の川の橋を渡れば、ミャンマー。MaeChaiからミャンマーまで130キロくらいと記憶。当時、タイの銀行にも口座を開設していましたが、その頃は農民銀行とか軍人銀行で、普通預金で利回り6%程度と信じ難い高利回りでした。当時、その周辺に日本人はいませんでした(私の行動範囲で)。むしろ漢字新聞を読む華僑の老店主が店を営み、タイの人たちが働いているのが一般的でした。国境沿いのミャンマーは好景気らしくビルの建設ラッシュで、日本から輸出された日本の会社名そのものの建設重機が活躍。最初にミャンマー訪問では輸出中古車とわからず、日本企業の進出と勘違いしました。当時は日本人からすれば、時間がゆっくりと流れ、素敵な地域で。あのゆったりとした「時間」が失われたのであれば本当に残念です。とりとめのない想い出を書き連ね、申し訳ありません。
Commented by Ju at 2018-10-18 10:12 x
世の倦む日々様、はじめてコメントさせて頂きます。

かれこれ10年以上、いつも貴重な知見を得られる場として拝見しております。普段、ミャンマーを含めた東南アジアで金融関係のビジネスに一部従事しておりますが、今回の番組に関しては、事前にNHKが取材していることを聞き及んでおりました。私も視聴しましたが、当初より、このようなテイストの番組になることを予想しておりました。

なぜならば、取材の段階で、取材手法が非常に一方的・一面的で、今回の番組の趣旨に合う農村のみをピックアップされていたことを知っていたからです。その他のエリアで、いままはなかった金融サービスがきちんと行き届いた結果、生活水準の改善や金融リテラシーの向上に寄与している例がいくらでもあるのに、そのエリアの農村についてはスルーして番組が制作されております。もちろん、これらの例はミャンマーの一側面でしかありませんが、今回の番組もまた、一側面でしかないことを申し伝えたいと思いご連絡させて頂きました。

これからも楽しみにしております!!
Commented by 長坂 at 2018-10-18 10:43 x
ミャンマーにサラ金、日本にグラミン銀行。日本じゃ6人に1人が貧困ライン以下の生活。「もう欲しい物は何もないんですよ」ってなんではっきり「給料安過ぎて欲しくても買えない」と言わないんでしょう。子供の腹を満たす「子供食堂」大盛況。ビザなし渡航最多の日本のパスポートは最強、日本すごい⁉︎若者はバイト2つ掛け持ち、日曜も休みないのに誰が海外旅行だよ。学校のバザー、未開封品未使用品の提供をお願いしたら全然集まらないんだそうです。消費税10パー、、、あり得ない。

七平さんの(2の2)にある「博愛性〜〜自立性」本当にその通りだと思います。日本人にあるのは損得だけ⁇
田中さんには、ぜひマネーワールドを含めマルクス語って欲しい。お願いします。
Commented by 私は黙らない at 2018-10-31 05:11 x
マネーワールド第一集 お金が消える、たちが悪い。例えば、ベネズエラのハイパーインフレ。番組では、ベネズエラ政府が通貨を発行しすぎたため、価値が下落したと言っているが、そんなことはあたりまえで、そのような状況にベネズエラを追い込んだ経済制裁については一言もない。トルコも然り。
これではまるで、全世界的に展開する、キャッシュレスプロジェクト、経済活動のサイバー化推進のためのプロパガンダみたいだ。通貨が経済成長を妨げるという主張は、このプロジェクトを正当化するためではないだろうか。
米国の経済活動の約7%が地下経済だと番組で言っていたが、所謂不法移民労働者は基本的に現金生活しかできない。7%には、彼らの経済活動が含まれている。キャッシュレスにしたら、彼らはどうなるのか。
物々交換にちかい経済で生業をたてていたミャンマーの村民が、現金をとびこえ、いきなりキャッシュレス世界に入ったら、一体どうなってしまうのか。
日本でも、消費増税にともない、カードでの支払にポイント還元とか議論されているが、これも高齢者のキャッシュレス化プロジェクトだと思う。
バーコードを皮膚下に注射器でいれる図、醜悪だ。私は、人間がバーコード化する世界になんか生きたくない。


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