米国経済のディレンマ - 株暴落を導く高金利と中国制裁の二政策

c0315619_14094904.jpg昨日(11日)のNHKの7時のニュースは、米日の株安とバリ島ヌサドゥアのG20でのラガルドの会見映像を流し、米中貿易戦争を懸念するコメントを伝えていた。一昨日(10日)のブログ記事に書いた冒頭部の記述が、株価暴落という事件の発生を経て、そのままNHKのニュースになった感じがする。NHKの報道は、今回の株安について、①米国の長期金利の上昇と、②米中貿易摩擦の二つが原因だと端的に説明した。そのとおりだ。米国の株価高騰が一本調子で推移してきた背景も簡単に触れたが、できればもう少し具体的な数字を挙げ、トランプが大統領選に当選した2年前の11月時点のダウが1万8000ドルで、今月3日につけた最高値が2万6828ドルで、2年間で50%も騰がっている事実を指摘してもらいたかった。トランプバブルの現実である。米国の景気が好調で、失業率も48年ぶりの低い数字を記録し、実体経済が順風満帆であることは間違いない。だが、それでも2年間で株価が50%も騰がるのは異常で、実体経済を反映していないバブル現象であることは歴然だ。だからこそ、景気が過熱気味だとして、FRBは政策金利を引き上げ続けてきたのである。



c0315619_14073546.jpgこれは、バブルの膨張と破裂を恐れての判断と決定であり、バーナンキ、イエレンと続いてきたFRBの堅実で慎重な金融操縦が、現議長のパウエルにおいても踏襲されていることが窺える。FRBにとって、百年に一度の惨事であるリーマンショックを惹き起こしたサブプライムの暴走と破綻こそが痛恨の一事であり、住宅バブルを無闇に増殖させて放置したグリーンスパンの失敗を二度と繰り返してはいけないというのが教訓なのだ。ラガルドも11日の会見で、株価について「相場は極めて高かった」という認識を示している。同日(11日)、トランプは金融引き締め策を執るFRBに対して「クレージー」だと口汚く非難、金融緩和策に転換しろという恫喝をかけたが、ラガルドは11日のCNBCとのインタビューで、「パウエルFRB議長と「クレイジーさ(狂気)」は結びつかない」と明言、FRBを擁護してトランプを批判する姿勢に出ている。経済政策および中国問題をめぐって、ラガルドとトランプの立場の対立が際立つ。15日に米財務省が半期に一度の報告書を出し、そこで中国を為替操作国に指定するのではないかという噂が囁かれていて、日米の反中右翼系から熱い期待と声援が送られているが、為替操作国に認定されると、さらに厳しい経済制裁の処罰が発動される。

c0315619_14074655.jpg市場では、この措置(為替操作国指定)の発動が世界金融を混乱させるのではという不安の声が上がっていて、中国経済と密接な関係のある豪州ドルが下落すると予測されている。ラガルドの11日の会見の記事を読むと、「われわれは(通貨の)柔軟性に向けた中国の動きを支持してきた」とか、「IMFは中国当局が『その道を進んでいくこと』を奨励している」という発言があり、ラガルドが中国政府を支持し、トランプ政権が15日に中国を為替操作国指定しないよう、牽制の意思表明をしていることが明瞭に察せられる。昨夜(11日)のプライムニュースに出演して株安問題を解説した第一生命経済研の長濱利廣も、15日の米財務省の報告書に神経を尖らせていて、為替操作国指定が実行された後のインパクトの大きさに危機感をつのらせていた。今日(12日)の早朝、WSJが、11月末にアルゼンチンで開かれるG20会合で米中首脳会談が行われる可能性があると報じ、米国側が中国側に打診したと伝えた。トランプによるWSJを使ったリークの政治であり、動機と意図は明白で、二日連続で下がった株価暴落を止めることだ。が、このシグナルは、為替操作国指定を猶予するという意向の暗示かもしれない。

c0315619_14075807.jpgトランプにとっては11月6日の中間選挙が全てで、ここで勝つためには株価をこれ以上下落させるわけにはいかないのである。トランプの40%超の高支持率は、実は株高によるものだという「土台」の事情は、昨年、朝日新聞の金成隆一がよく取材して真相を説明していた。中西部のリタイアした没落白人労働者に話を聴くと、製造業の復活だとか、ラストベルトの再生だとか、そんな表向きのスローガンを信じてトランプを支持しているのではなく、とにかく毎日の株価上昇が気分がよくてたまらず、神様仏様トランプ様なのだと、そう正直に本音を語っている。米国では個人が株で資産を保有し運用するケースが多い。銀行口座の預金が2年間で1.5倍も増えたら、誰だって富を増やしてくれた為政者を崇めて喜悦することだろう。アベノミクス以上にトランプノミクスは中身のない経済政策で、宣伝オリエンテッドなものだが、金融資本は空気を上手に利用して、期待感を株式市場に注いでドライブするルーティンワークを2年間続けてきた。その基盤というか前提条件は、新興国からの止まらない資金流入(QEの資金還流)で、それは構造的なものだから、米政府が何もしなくてもマネーは米国の株市場に溜まり続ける仕組みだったのだ。

c0315619_14081085.jpg基本的に、現在、米国の株価は暴落する条件下にある。NHKが一番目の原因に挙げた金利上昇は、FRBがインフレ抑制のため政策金利を上げることで導かれるもので、日本から見れば何とも羨ましい経済状況だけれど、このインフレ圧力は、景気の過熱に加えて、トランプが行っている高関税策(輸入物価高)によって拍車がかけられているのであり、トランプとFRBの政策が矛盾しているところに最大の問題がある。トランプ自身の政策が矛盾していて、米中経済戦争を固定化させれば、当然、世界のGDPは萎縮方向となり、金融市場が先行き不安で下振れするのは必至となる。パックンは、米国民は大統領の戦争指導に従って生活を我慢するだろうと言ったが、株高で1.5倍に増えた資産が目減りするのは米国民には耐えられない苦痛だろう。それでは、トランプの指示にFRBが従って緩和策に転換すればいいかというと、FRBはその選択は簡単にできない。なぜなら、QEこそが非常策だったのであり、QEによってFRBはバランスシートを悪化させ、銀行資本としての信認を毀損させていたからだ。FRBあってこその基軸通貨ドルであり、覇権国アメリカの地位である。FRBが信用不安に陥ったら、それこそ世界金融市場は未曾有の大混乱となり、中国人民銀行が主導権を握ってしまう。米国経済が絶好調の今、出口戦略は当然だ。

c0315619_14082279.jpgトランプもディレンマにあり、FRBもディレンマにある。二律背反。それでは、ラガルドの勧告に従って、中国への関税措置をやめればよいかというと、それはトランプの敗北になる。米国が面目を失う事態となる。そもそも、これはトランプが一方的に始めた策動で、突然言い掛かりをつけ、WTOのルールを無視した制裁を課してきたことから問題が始まった。経緯を正しく認識する必要があるが、トランプの口上を整理するとこうなる。a.中国は米国の知財を盗んでいる、b.米国は不当に利益を奪われたから中国に報復する、c.中国の輸入品に関税をかける、d.中国が応酬してきたらさらに倍返しで関税を追加する、e.この貿易戦争に米国は必ず勝利する、というものだ。注意が必要なのは、トランプは中国にゴールを示していない点である。こうすれば剣を鞘に収めるという具体的な条件提示がない。単に抽象的に屈服せよと吠えている。すなわち、知財の件は口実であって、本当に知財の問題解決が目的ならば、それはWTOの場で交渉すればよいことなのだ。要するに、これは貿易交渉の要求ではなく、経済戦争の挑発と宣告であり、紛争そのものが自己目的の政治に他ならない。真珠湾のような先制奇襲攻撃である。中国に対する要求はアバウトで、通商上の真意を示していない。

c0315619_14083233.jpg真意は巧みにペンスに言わせている。ペンスに言わせ、国際社会には真意を伝え、同時に自分は、その冷戦宣告(国家のグランドストラテジー)に無責任な位置を標榜し、中国とフリーハンドで交渉する余地を演じている。ボス交で中国に譲歩をさせようと誘き出している。トランプは狡猾だ。が、この狡猾さは共和党と軍産複合体の狡猾さでもある。おそらく、下院で民主党に過半数を握られても、共和党はトランプを見捨てず、弾劾から守り抜くだろう。共和党にとって、トランプ以上に票を集められるカリスマはいない。ここでトランプを欠けば、共和党は没落して米国は二大政党制ではなくなる。トランプが共和党を支えている。トランプの脱ポリコレ言動だけが、反マスコミ・反エスタブリッシュメントの心情を組織でき、疎外された没落白人層保守派を昂奮させ、彼らのシンボルとなって屈折した共感を糾合できる。11月の中間選挙を境に、米国の政治と経済は一層混沌とした状況になる予感がする。リベラル派は、下院の選挙勝利を機に再び反トランプの攻勢を強めるだろう。この一年ほど、反トランプの大きなデモが大都市で起きていない。普通のリベラルの米国人にとって、セクハラしまくり、脱税しまくり、暴言しまくり、差別しまくり、身内贔屓しまくりの、小学6年生の知性と語彙の男が、合衆国の大統領として君臨していることが、どれほど耐えられないことか。


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by yoniumuhibi | 2018-10-12 23:30 | Comments(0)


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