ペンス・ドクトリン - 同盟国日本への対中国経済制裁協調の押しつけ

c0315619_15074972.jpg昨日(9日)、IMFが世界経済見通しを発表し、米中貿易摩擦が与える影響について試算を出した報道があった。その予測では、インパクトは2020年に米国のGDPを1.0%押し下げる結果となり、経済制裁を各国に仕掛ける米国が最も大きな打撃を受けると警告している。中国は2019年に1.6%の悪影響が及ぶが、長期的には成長率を鈍化させる効果は薄いと結論した。この発表は、明らかに4日にペンスが演説した新冷戦宣告を意識したもので、ラガルドがそれに対して異論を発したものと意味を考えられる。報告はIMFがバリ島のヌサドゥア・リゾートで開催した年次総会で出されたものだが、それに先立つ4日、ラガルドは日経新聞のインタビューで、「貿易摩擦は機会の損失」だと言い、「影響は中国だけでなく、同じ供給網を築いている近隣国にも及ぶ」と指摘、「米国でも消費者を中心に悪影響が広がる」と述べた。G20全体の協調で従来どおり安定的に世界経済の成長を図ろうとするラガルドにとって、ペンスの新冷戦宣告演説は忌まわしい衝撃だっただろう。IMFが分析し推計しているのだから、予測の数字はひとまず信用してよいと思われる。



c0315619_15080890.jpg先月の27日、ブログで「米中貿易戦争は米中経済戦争の緒戦」という記事を上げ、今回のトランプの関税措置が単なる貿易戦争の範疇に収まるものではなく、経済戦争の意味と目的を持ったものだという見方を示し、さらには軍事衝突まで発生する可能性があると書いて警鐘を鳴らしたが、それからわずか10日の間に、その予想がきわめて明確な現実と化した。4日のペンスの演説は、それを肯定的に受け止める者から、チャーチルの「鉄のカーテン」演説に擬えられたり、レーガンの「悪の帝国」の反ソ演説に類比されて好意的な論調で紹介されている。マスコミ報道を見るかぎり、ペンス演説を批判したり反論している記事は一つもなく、右派は歓迎、左派は容認という反応になっていて、ラガルド的な視角からの懸念や警戒を示している者はどこにもいない。7日のサンデーモーニングの論評がまさにそうだった。田中秀征と岡本行夫が全面肯定の賛同コメントを発し、中国叩きのプロパガンダを絶叫しまくったのに対し、リベラルを代表して席に座っているはずの目加田頼子と松原耕二がそれに抵抗せず、中国叩きに基本的に同調した言動でお茶を濁していた。この番組はいつもそうだ。中国叩きで左を決壊させ麻痺させる。

c0315619_15081977.jpg私の観測では、この「ペンス・ドクトリン」が米国の今後の基本方針として措定され、中間選挙のあと、かなり露骨に具体化され、中国攻撃の諸政策が繰り出されるものと思われる。対中敵視政策は、単に中間選挙の人気取りではなく、まさに公約であって、選挙の後にむしろ猛烈に拍車がかかるはずだ。ペンスは副大統領、トランプは大統領だから、一見すると、このペンスの脅しはトランプの駆け引きの一環であり、ボス交で中国を譲歩に引き出すカードの如く映る。ボス交しか外交の手法を知らない中国は、そのような期待と幻想を抱きがちだ。だが、おそらくそうではなく、21世紀の覇権国家の地位を譲りたくない米国の、本気で長期の国家戦略の意思表明であり、中国は米国側の真意を見誤ってはいけないだろう。何となれば、このまま米国が何もせず10年の時間が経てば、GDP世界一は中国となり、IMF本部は北京に移転してドルは基軸通貨の地位を失ってしまうのだから。何より、ロシア疑惑でトランプが辞任に追い込まれたとき、大統領に即くのは誰なのか。中間選挙で負けたとき、ホワイトハウスで力を持つ人物は誰で勢力は何なのか。それを単純に考えれば、ペンス演説の政治の意味と背景を読み誤ることはないだろう。

c0315619_15083147.jpg白人中間層が没落する中、人種で分断され、宗教が理性を失ってカルト化し、求める経済政策や社会理念が果てしなく左右に分裂が広がる現在の米国で、国民の意識と国家の目的を一つに統合できる方向性は、中国叩きしかなく、覇権国家の座を中国から守るという一点にしかないのだ。中国叩きだけが米国を一つにできるのであり、共和党と民主党の対立を超えて一致でき、白人層とヒスパニック・黒人層の不協和音を抑えて結束を得られる基本路線なのである。米国という国家は、常に外側に敵を作り、敵を打倒する目標を掲げ、そのエネルギーを国家の推進力にして世界征服を成し遂げてきた。遠心力がはたらいて分解しがちな国民の統合を果たしてきた。ソ連という軍事的イデオロギー的脅威を倒し、日本という経済的脅威を倒し、反米イスラム諸国を倒し、イスラム過激派という脅威を殲滅してきた。イスラム国の掃討を終えた昨年12月、米国は新たな「国家安全保障戦略」を決定し、中国とロシアという二つの大国を主要敵として設定、「米国土の防衛」、「米国の繁栄推進」、「力による平和」、「米国による影響力拡大」を四つの柱に据えた。米国の新しい敵は中国・ロシアだ。この二国にソ連や日本やイラクやリビアの運命を与えようと動く。

c0315619_15084238.jpg先週、テレビを見ていたら、何かの報道番組にパックン(パトリック・ハーラン)が出演していて、今回のペンス演説とトランプの貿易戦争について興味深い発言をしていた。パックンはトランプ拒絶派の民主党支持者だが、今回の件は戦争であり、大統領が国民に向かって戦争を呼びかけているのだから、少々の経済的打撃や不利益が生じても、国民は我慢して大統領に従うし、戦争に勝つことを優先して生活を忍耐する選択をするだろうと、そう言うのである。米国民は貿易戦争によって生じるところの、消費者として生産者としての不利益に不満を言わず、大統領の指導に従って戦争を戦い抜くのだと、そうリベラルのパックンが説明していた。質問を向けた番組司会者は、パックンがトランプを批判し、貿易戦争など双方にとって無意味だからやめるべしと、そう応答することを想定していたはずで、期待に反したトランプ追従の見解に戸惑ったに違いない。視聴者の私も不意討ちを食らった印象だったが、驚きつつ、これは一つのメッセージの示唆ではないかとも思われた。日本のテレビに毎日登場する好感度の高いリベラル系の米国人タレント。この男に背後関係(CIA)がないはずはないと疑う。洗脳工作の任務を裏に持っていておかしくない。

c0315619_15093280.jpgつまり、ペンス・ドクトリンが日本にダウンロードされ、同盟国の義務に従って中国と戦争しろと命令され、具体的な指示が届くということだ。どういう指令を受けるか。次のようなデューリストが思い浮かぶ。①中国人留学生は受け入れるな、②中国への頭脳流出は止めろ、③中国企業は日本から締め出せ、④中国で事業している企業は撤収させろ、⑤中国関連の投資は中止しろ、等々。実際に、米国が国内に対中国制裁として①-⑤を課した場合は、同盟国である日本にも(100%ではなくても)足並みを揃えた対応を要求してくるだろう。そのとき、右翼化した日本のマスコミは、サンデーモーニングの田中秀征や岡本行夫のように、両手を上げて対中制裁に賛成し、国内の企業や学校に中国排斥と中国撤退を求めるものと思われる。これらを本当に実行した場合は、日本の産業・経済に与える打撃は重大で、GDPマイナス1%どころではない非常事態になる。が、米国から見れば、日本にこれを実行させることが、中国に対する経済制裁のとっておきの有効策になるのであり、中国経済を締め上げて潰す上でこれ以上の妙手はないのだ。日中経済関係の遮断こそが肝だ。これらのことは、今はただの空想にすぎないが、これから徐々にリアルな問題になるだろう。

さらに、経済戦争への参加と協力以上に、自衛隊の南シナ海・台湾海峡への出撃と、南シナ海を作戦担当範囲とする海自艦隊(空母打撃群)の創設が大きな問題になって浮上するに違いない。

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by yoniumuhibi | 2018-10-10 23:30 | Comments(1)
Commented by 長坂 at 2018-10-10 19:07 x
ポンペオにばかりスポットライトがあたり、存在感を示したいペンスとトランプ政権で冷や飯中のジャパン・ハンドラーズがタッグを組んだのでしょうか? (日本はアーミテージやナイの老後の面倒も見なきゃいけないのか!)
このペンスのスピーチ、中国に対する「恨み節 」。逆にアメリカの凋落感で涙を誘う。アメリカにとってソ連や80年代の日本って脅威と言ってもたかが知れているが今後の中国は「ガチでヤバイやつ」。中東に中途半端に足を突っ込み、グチャグチャにしてISというモンスターを誕生させ後は知らんぷり。これからは太平洋西南部だとやたら航行の自由作戦。あれだけウロウロしてたらうまくいけば第二のトンキン湾。イラン合意を維持したいEUに散々嫌がらせしているのだから、仰るように日本の対中政策に凄い圧力かけて来るのでしょう。それに対して日本が冷静な判断なんて、、、できるわけないわ。リベラルも一緒になって中国の脅威を煽って、結果憲法改正なんじゃないかと。
アイビーリーガーで「白い」パックン、アメリカのリベラル(民主党)そのものっぽい。


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