平壌南北首脳会談の不足感 - 金正恩は国連総会に出るべきだった

c0315619_14371114.jpg文在寅が平壌を訪問しての三度目の南北首脳会談、今日20日の朝日の社説はこう書いている。「平壌での共同宣言は、戦争の危険の除去と敵対関係の解消などをうたった。冷戦の残滓といわれた南北が対立の歴史を乗り越え、和解を深めることは歓迎すべきことだ。ただ、(略)非核化問題を棚上げしては真の改善は望めない。この前向きな機運をさらに広げ、国際社会が抱く懸念の解消に向けて努力を続ける必要がある」。この意見に私も同感だ。もう少し非核化について踏み込んだ内容が欲しかったし、期待を満足させる結果を出してもらいたかった。朝日の2面記事によれば、「文在寅韓国大統領はトランプ米大統領からの依頼を受け、米側の主張を受け入れるよう首脳会談で正恩氏を説得した」とある。非核化対象のリストと行程表の申告、それの検証という米国側の要求に妥協するよう金正恩を説得したが、金正恩は米国への不信感をぶちまけて応諾しなかったと書いている。2面記事はCIA工作員の疑いのある牧野博愛のもので、どこまで信用していいか眉唾だが、文在寅にはもう少し粘って説得し、具体的な進展を得たと認められる北朝鮮の譲歩を引き出して欲しかった。



c0315619_14372107.jpg今回の平壌訪問は2泊3日の長い旅程であり、首脳会談は初日と2日目の午前に予定され、いわば半分の日程がパフォーマンス行事になっていて、私はてっきり、この糊しろ分が会議の延長時間として設定されていて、ギリギリまで交渉が詰められ、文在寅がソウルに帰る直前に合意が発表される緊迫した展開になるのではと予想していた。それは、金正恩が譲歩の決断をする場面があることを意味する。だが、蓋を開けてみれば、19日午前の会談は1時間であっさり終了、すぐに共同宣言の発表、記者会見となり、予め事務方が調整したとおり、シナリオどおりの進行と結果となった。白頭山登山という演出上のサプライズは入ったが、非核化交渉の中身での有意味なハプニングはなかった。そのことが、率直に私の失望感となっている。平壌での時間がたっぷりあるのだから、二人で膝詰めで折衝できるのだから、ここまで譲歩しないかと提案を出し、それが無理ならせめてここまでならどうだと妥協案を迫り、妥協してくれたら韓国はこれをプレゼントすると秘策を示し、金正恩を世界が納得する非核化の軌道へ導いて欲しかった。レイキャビクでのゴルバチョフのような渾身の外交を演じて欲しかった。

c0315619_14374007.jpg前にも述べたが、こういう世界全体の平和がかかった意味の重い首脳会談というのは、表面上の成功的合意が重要ではないのだ。たとえ形の上では失敗に終わっても、あのレイキャビクのように、世界中の人々を感動させ昂奮させるドラマを作ることが重要なのである。レイキャビクのあと、欧州中の若者がゴルバチョフを応援して反核運動に立ち上がった。熱意の物語を見せることが大事なのだ。4月の板門店での首脳会談では、文在寅が金正恩を青い歩道橋の散歩に誘い、テーブルに座って懇々と説得する絵があった。あの民族の外交は素晴らしかった。あのとき説得したように、再度、金正恩を説得し、勇気を出してリスクを取る決断をするよう促すべきだった。そのために時間を使うべきだった。今回、合意された「南北軍事分野合意書」は確かに画期的なもので、目を見張る内容で驚くばかりだ。韓国政府側が言うように、事実上の南北間の終戦宣言と言っていい。だが、世界の人々が待望していたのは、北朝鮮の非核化の具体的進展であり、米国が身を乗り出してくる事態打開の提案だった。南北だけが融和と友好を深めても、米国を動かすことができなければ問題は解決できない。

c0315619_14375380.jpg米国を動かすとは、米国の世論を動かすことであり、世界の人々の支持と共感を得ることである。その点で、今回の平壌会談の南北外交には私は合格点を付けられない。どうするべきだったか。聯合通信が前に報じていたように、金正恩がNYの国連総会に出席するべきだったのであり、世界が注視する総会演説の場で非核化の決意と方針を述べ、具体的な計画を明らかにし、今後の経済建設の抱負を言い、アフリカ諸国代表など満場の賛同と歓呼を受ける図を作るべきだった。そして、やむを得ず核武装を選択せざるを得なかった歴史的経緯と国家の生存論理を説明し、今後、小国がこのような誤った方向に進むことのないよう国際社会の配慮と協力をお願いすると、そう反省を語ればよかった。その演説の最後に壇上に文在寅を呼び、二人で並び立って非核化を再度コミットし、東アジアの平和を誓って拍手喝采を浴びるという演出をすればよかった。韓国と北朝鮮の歴史は、国連の歴史と深く重なっている。国連軍の名において行った戦争で、総数500万人の血が流れた現代史を、席場で聴く各国代表たちは知っている。こういう大胆な政治を演じれば、意義深く、歴史に残る国連演説になっただろうし、世界の人々の心を動かし、米国(政権と世論)を動かすことができただろう。

c0315619_14380536.jpg6月のシンガポールでの米朝首脳会談から3か月も経っている。あのとき期待させたほどに非核化は現実に進捗しておらず、米朝会談の意味を否定し貶価した保守派のマスコミ論者たちを勢いづかせている。なぜ、金正恩はもっと精力的に外交の努力をしないのだろう。あの当時、私が言っていたのは、金正恩はロシアに飛んでプーチンと会談するべきだということで、モスクワを訪問したついでに、欧州に足を伸ばしてモゲリーニと会談して非核化の意思を伝えるべきだということだった。世話になってきたスウェーデンとスイスにも立ち寄って挨拶してくればよかった。プーチンは力強いエンドースを与えただろうし、6月の直後の時点なら欧州は歓迎のニュースで沸いただろう。10月のノーベル平和賞へのモメンタムを高める効果を得たに違いない。非核化の進展とか、非核化の評価とか、非核化を判断する政治の尺度は、何も具体的なリスト申告とか行程表の提出だけではないのだ。世界の市民や各国政府が、北朝鮮の非核化努力を肯定的に認めれば、それは非核化の政治の前進であり達成なのである。北朝鮮の非核化の評価は世界の世論が決めることで、米国や日韓の保守マスコミが決めることではない。

c0315619_14381629.jpg私が金正恩なら、平壌でポンペイオと交渉する合間を縫って、モスクワに飛んでプーチンの援護と助言をもらい、ブリュッセルでモゲリーニとツーショットを撮っただろう。さらにモンゴルを訪問し、社会主義国のベトナムを訪問し、キューバ訪問の意向を表明してDCを動揺させただろう。相次ぐ外遊攻勢で国際政治上のマスコミの寵児となった座を離さず、日本政府からアプローチが来た瞬間に - 実際に北村滋がコンタクトしたが - 間髪を置かず金与正の大阪派遣を決定して返答、韓国マスコミにリークして報道させただろう。8月某日、関西空港は大変な騒動になったに違いない。そうして、期待感の空気を外側に作り出し、国際社会を味方に付けることで、米国との具体的交渉で有利な立場を得た。これは、ベトナムの外交教訓の実践に他ならない。米国と対峙し米国に抵抗する小国は、常に世界から判官贔屓の追い風を受ける必要がある。米国側と密室で一対一の交渉となり、非核化のリストと行程表を要求されたら、北朝鮮側が分が悪いのは決まっている。国連決議という法的所与がある以上、米国側が有利に出て北朝鮮を追い詰められる条件は揺るがない。それを打破して環境を変えるためには、外交で世論を作るしかないではないか。

c0315619_14382825.jpg本来、米国との直接交渉は北朝鮮の望むところで、一対一で対面して押しまくれば、米国が譲歩して狙いどおりの果実を得られると北朝鮮側は踏んでいたのだろう。米国を甘く見ていた。現在、DCで対北朝鮮外交のヘゲモニーを握っているのはボルトンで、トランプの融和政策は支持率低下と共に宙に浮いた状況にある。そもそも、オバマはCIAに金正恩暗殺を検討させたし、オバマの後を受けたトランプも暗殺作戦の訓練をミズーリ州で行っている。北朝鮮との融和は、中間選挙の票を睨んだトランプの選挙対策の一環で浮上したもので、トランプの胸先三寸で全てが覆って元に戻る危うい外交だ。北朝鮮がやらなくてはいけないことは、リストと行程表を出して丸裸になっても、米国から確実に攻撃を受けない安全保障環境を作ることであり、そのための外交に傾注することである。おそらく、国連総会に出よと文在寅は促していたことだろう。中国とロシアにとってもその策が一番いい。それが潰れたのはなぜなのかよく分からない。米国が妨害した可能性もあるし、金正恩が断った可能性もある。どうやら、父親の時代と同じ思考と固定観念で、金正恩は米国ばかりを過剰な片想いで見ているようだ。問題解決のカギは米国だけだと。

米国に戦争か和平か二者択一を迫ればいい、そうすれば何とかなる、これまでも何とか凌げてきたからと、そう単純に思い込んでいるように見える。それが間違いだと気づいてない。


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by yoniumuhibi | 2018-09-20 23:30 | Comments(0)


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