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昭和天皇の戦争責任 - 右翼の神話と化している責任不在論

昭和天皇の戦争責任 - 右翼の神話と化している責任不在論_c0315619_13381584.jpg昭和天皇の戦争責任の問題について、共同が元侍従日記のスクープを地方紙に配信し、その報道を受けて志位和夫が正論のツイートを発して5日が過ぎた。天木氏が言ったように、この志位発言をマスコミは黙殺する対応に出ていて、新聞もテレビも一社も取り上げようとしない。だけでなく、140字で簡潔に結論された志位発言に対して、自民党の大物とか保守論壇の著名文化人とかからの反論や批判もなく、誰もこの問題に触れようとしない。また、さらには、左派の政治家や著名人や学者からもコメントが皆無で、誰からもサポートやエンドースがない状態で放置されている。きわめて奇妙な光景だ。右から批判がないのは当然で、志位和夫の主張が正論であり、歴史研究の豊富な裏づけがあり、ひとたび難癖をつけて論争を始めれば、衆目の中であっさり論破されて恥をかき、不具合な事件として広まるリスクがあって、そんな面倒な手間と責任を負いたくないからだ。また、まともに論争を始めれば、次から次へと具体的な証拠を並べられ、侵略戦争を差配・指導した昭和天皇の実像が露わになるため、それを恐れて沈黙に徹しているのだろう。



昭和天皇の戦争責任 - 右翼の神話と化している責任不在論_c0315619_13341099.jpg一方、きわめて怯懦な姿勢だが、社民党とか立憲民主党とか、左派と目される勢力の政治家から志位発言をフォローする動きがないのは、マジョリティである保守世論からの印象が悪くなることを恐れ、選挙への影響を心配してのことだろうと思われる。立憲民主党については間違いなくそうだろう。この党は、この問題については自民党と立場が同じで、昭和天皇の戦争責任を認めていない。社民党が沈黙している理由は不明だが、勇気と知識がなく、志位和夫ほどの説得力と影響力の自信がないからだろうか。この問題について、志位和夫から果敢な投擲が出たことはよかった。志位和夫の言論と態度には、これまで積み重ねてきた実績があり、保守層まで含めたところの確かな信頼性があり、軽々に噛みついて論難すると敵は火傷を負ってしまう。本来、志位和夫の渾身の一言は、この国の知識人がやらなくてはいけない任務だった。この国に知識人がおらず、やるべきことを大学教授の権威様がやらないから、ステイツマンの志位和夫が代わりにやっている。志位和夫が知識人を代行している。チャラチャラと脱構築の屁理屈を小細工する学者芸人はいるが、本物の知識人の学者がいない。

昭和天皇の戦争責任 - 右翼の神話と化している責任不在論_c0315619_13343276.jpg半藤一利と保阪正康は、依然としてマスコミの表に姿を見せない。コメントを発しない。動かざること山の如し。半藤一利と保阪正康がマスコミに出て、4年前の「昭和天皇実録」のときのように喋り、従来どおり昭和天皇の戦争責任を全否定する言動に出れば、それは平成天皇の意思表明ということになる。二人が宮中と意思疎通をとっていることは明白だから、普通はそのように受け止める。私はそこに変化を期待していて、退位までの間に、あるいは退位時の発言で、昭和天皇の戦争責任を正しく認める歴史認識を示してもらいたいと願っていて、生前退位の革命に続く革命の第二弾を演じ、永久革命の王になって欲しいと念じている。もし平成天皇がそれをやらず、宿題を積み残したまま代を繫げば、それは平成天皇の汚点になるだろう。理想の君主像を具現化し、日本国憲法の象徴天皇とは何かを示して模範となった平成天皇が、やるべきことをやらずに歴史の責任から逃げた瑕疵になる。卑怯だという汚名を残す。そして、宿題は昭和天皇の孫の皇太子に引き継がれることになる。祖父の責任を孫が引き受け、「おまえの祖父はとんでもない男だった、父親も責任から遁走した」と言われ続ける。

昭和天皇の戦争責任 - 右翼の神話と化している責任不在論_c0315619_13345181.jpg天木氏は、日本国が昭和天皇の戦争責任を正しく認めることはないだろうと論評したが、私の見方は逆で、それをしないと日本国は生き延びられないだろうと思っている。志位発言のあと、2chでは延々とこの問題のスレが続き、匿名の(主に右翼の)ネット雀が書き込みをしていた。それを見ると、意外なほど、われわれより若い世代には昭和天皇の戦争責任は常識の範疇で、われわれが若かった頃とは感覚が異なっている事実に気づく。昭和天皇が宮中の大本営作戦会議で戦略戦術に具体的に口を出していたこと、近衛上奏文を蹴って一撃後の講和に固執していたこと、国体護持(命乞い)のために終戦工作であらゆる権謀術策を練っていたこと、等々が、すでに今では一般常識になっている。そのため、従前から言われてきたところの、昭和天皇は戦争に一貫して反対した平和主義者だったとか、聖断で終戦が実現して平和日本が到来したとか、そういう言説の神話性と虚構性が露骨になっている状況を否めない。右翼の定番のプロパガンダという範疇に固まってしまっている。右翼の伝統的信仰の一つになり、いわば、米国の宗教右翼にとっての、神による天地創造が真実だと確信する「歴史認識」と同じだ。それだけ、昔と比べて歴史学(山田・豊下・吉田)の研究が進み、史実の詳細が明らかになり、世間の意識が変わったのだ。

昭和天皇の戦争責任 - 右翼の神話と化している責任不在論_c0315619_13350699.jpg2chでさえそうなのだから、国際社会では尚更だろう。ヨーロッパの戦争が「ヒトラーの戦争」であったように、アジア太平洋の戦争は「昭和天皇の戦争」だった。そこで何千万人もの無辜の人々が犠牲になった。最も犠牲者数が多かった中国は、10年後には米国を凌ぐ世界一の経済大国になるのが確実な情勢で、国際社会とこの地域での地位を決定的なものにしつつある。中国の歴史認識 - 抗日解放を原点とする自己認識 - は、国際社会とこの地域全体の歴史認識に大きな影響を与えるだろう。また、これまで開発独裁的な環境条件下にあり、経済優先や反共の論理のために自由な言論や歴史教育が阻害されてきたアジアの国々が、例えばフィリピンやシンガポールが、過去の戦争の事実に正面から向き合い、日本軍が自分たちに何をしたのか克明に発掘し、その子孫としてアイデンティファイするようになるだろう。アジア諸国で骨太に確立していく自己認識および歴史認識と、日本人のそれとが齟齬・違背するようなことがあってはいけないのであり、トランスペアレントでコンパチブルでなくてはいけない。われわれは村山談話に正しく即く必要があるし、村山談話の向こうには、昭和天皇の戦争責任を認めて総括し前進するという歴史認識の課題がある。

昭和天皇の戦争責任 - 右翼の神話と化している責任不在論_c0315619_13352381.jpgそれにしても、戦局が悪化してからのアジア太平洋での日本軍の戦い方というのは、1944年9月から11月までのペリリュー島の戦いがそのままコピーされたもので、最後まで降服せずに抵抗し、米軍を少しでも消耗させ時間稼ぎしようとするものだった。沖縄戦では住民までそこに巻き込んだ。本土決戦で沖縄戦の拡大版をやろうとしていた。何のために消耗させ時間稼ぎするのか。昭和天皇のためである。昭和天皇の命を守るためであり、国体護持の講和条件を勝ち取るためだ。そのために、昭和天皇は軍(統帥部)にこの戦法を指示し、軍隊は機械なので命令されたとおりに忠実に動き、兵士は餓死したり米軍の火炎放射器で焼き殺された。手榴弾を抱えて戦車の腹に飛び込んだ。広島と長崎では原爆を落とされた。毎年毎年、綾瀬はるかに戦争の真実を教えてもらい、残酷きわまる地獄図を知りながら、その後で、昭和天皇の戦争責任を明確にすることは絶対にできないだろうなどと、そんなことが言えるだろうか。同じ第二次大戦の敗戦国でありながら、ドイツと日本とがこれほど違っているのは、ドイツがヒトラーとナチスの責任を明確にしているからで、日本が昭和天皇の責任を曖昧にしているからではないのか。昭和天皇の戦争責任を正しく自覚するなど、現代の国際社会で協調して生きようとする日本人の態度としてイロハのイではないのか。

ここではまさに国際標準が求められる。戦争の歴史認識はスタンダードなものでなくてはいけない。右翼の神話と化した不合理で非互換な言説にいつまでも付き合うのはやめよう。責任不在論は言論の生命力をすでに失っている。

昭和天皇の戦争責任 - 右翼の神話と化している責任不在論_c0315619_13355116.jpg

by yoniumuhibi | 2018-08-27 23:30 | Comments(3)
Commented by 私は黙らない at 2018-08-28 06:10 x
今上天皇が、昭和天皇の戦争責任を認められないのは、皇室存続の大義を失うことのほかに、それが安保体制否定につながるからではないかと思う。
皇室の存続が反共の砦としての日本のために積極的に認められ、その後の安保体制につながったことを今上天皇が知らないはずがない。
日米安保は彼にとってもアンタッチャブルなのではないだろうか。
ただし、このイシューをアンタッチャブルのままにし、最高権力者としての天皇の責任を認めない限り、日本が抱える矛盾は解消できないし、アジア諸国との健全な将来は描けない。

Commented by りえこ at 2018-08-28 17:43 x
満蒙開拓開拓団の悲劇を語る時、中立条約を破ってソ連が突然侵攻してきたことによる大混乱という流れに最近違和感を覚えていました。
日本は明治以来ずっとロシア、ソ連を敵と想定してきた。にわかの中立条約など役に立たないことは政治家や軍人ならわかっていたはず。どちらかといえば挑発してきたのは日本の方である。日露戦争、シベリア出兵、ノモンハンと・・。
この点に触れたのは私の狭い読書範囲では家永三郎氏の著書『戦争責任』だけです。家永氏は「日本よい国、神の国」と叫んだ小学生にも戦争責任はあるという立場で、中立条約を破ってソ連が侵攻してきたことを一方的に責める、あるいは満蒙の悲劇をそこから見ようとする見方に異を唱えていました。
ドイツと日本の戦争責任の在り方で決定的に違うのはヒトラーは第一次大戦後の失業者のあふれるミュンヘンのビャホールあたりから浮上してきた人物であったのに対して、昭和天皇は日本の長い歴史の中から特に明治以降神格化された一族の中心であったという違いからではないでしょうか。
ヒトラーはいくら叩いてもいい存在。それに対して神格化された昭和天皇をたたくことには躊躇がある。
ドイツより日本の方が支配する方法が功名だともいえます。
世に倦む氏のおっしゃるとおり、平成天皇最後の仕事として「昭和天皇の戦争責任」を真正面から断定してほしいものです。
Commented by 長坂 at 2018-08-29 11:13 x
久間章生の「原爆投下はしょうがない」はこの部分が切り取られ散々叩かれましたよね(擁護する気はないが)。「國體がぁ〜國體がぁ〜」と言ってる間に、広島、ソ連参戦、長崎、さらに約一週間でやっと玉音。その最高責任者が「原爆投下は遺憾、広島市民は気の毒、でも戦争中の事だしやむを得ない」って!
不幸な出来事を乗り越え、復興を果たし発展すれば責任はチャラか。朝日の8月15日の社説もそう、シールズの歴史観もそう、平和国家になったんだから過去は水に流し、これからは未来志向で。本島長崎市長が原爆ドームが世界遺産になって、広島よおごるなかれと言ったのは、核兵器こそ使わなかったが化学兵器や生物兵器を使った大量虐殺の事実を忘れるなと言う意味でしょう。今でも中国(日本にもだが)で遺棄された毒ガスで被害にあってるのに、、、そう言う事も含めて、チャン・ヒョンジョンさんが指摘したらああいう被害に。アッツ島玉砕後にアリュート人を小樽に強制連行とか北大教授による中国人生体実験(睾丸で染色体観察)などは今年出てきたニュース。これからまだまだ出てくるでしょう。戦争責任問題は避けられないし、「遺憾」や未来志向では誤魔化せない。


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