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平成最後の終戦の日 - 戦没者追悼式とNHKのノモンハン特集番組

平成最後の終戦の日 - 戦没者追悼式とNHKのノモンハン特集番組_c0315619_14013990.jpg平成最後となる終戦の日の全国戦没者追悼式、そこで天皇陛下がどういう言葉を残すか注目した。結局、「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」という一節が加わっただけで、期待したほどの大きな加筆や提起はなく、従来とほぼ同じ内容のものが淡々と述べられて終わった。もっと何か言い残したいことがあったのではないか、国民に訴えたいものがあったのではと胸中を推し量るが、2年前の退位表明の革命行動以降、則を超えないよう自制と禁欲に努めているようであり、今回もそのように自重を心得たのだろうと想像する。今回、天皇陛下の表情は憮然としているように見えた。昨年、一昨年は、来し方を振り返り感慨に耽っている様子が看て取られたが、今回はずっと固い表情を崩さず、事務に徹しているという感じだった。天皇陛下が憮然としていたのは、おそらく、目の前にいるのが安倍晋三だったからだろう。またおまえか、まだおまえがやっているのか、大事な式典なのに、最後の最後までおまえなのかと、そう言いたげに見えた。そのことが残念でたまらないという心境が表情に表れていた。



平成最後の終戦の日 - 戦没者追悼式とNHKのノモンハン特集番組_c0315619_14021574.jpg天皇陛下の言葉と安倍晋三の式辞とは、並べられている語句は似ているが、そこに含意されている思想は全く違う。一言で言えば、天皇陛下の言葉は平和憲法の精神に即したもので、戦争に対して反省的に向き合っている。安倍晋三の式辞は、戦争肯定の靖国的な「御霊」に向き合う思想で、何度も「御霊」という語句を入れている。安倍晋三の式辞の中には、侵略戦争に対する反省はなく、戦争によって無理やり犠牲となった弱者への内在など欠片もないのだ。戦争を行った大日本帝国と現在の日本国は連続しており、国家を舵取りする支配層の意識は同じままで、要するに、民草たちに対して、よく死んでくれたな、国家繁栄の肥やしになってくれてありがとう、靖国の御霊になれてよかったなと、そう言っている。短い文章の中に「御霊」の単語が4回も登場する。安倍晋三がこのフレーズを強調するのは、8月15日は靖国神社に参拝する日で、靖国神社のイデオロギーに帰依する日だと言わんがためだろう。本来、「御霊」などという神道の言葉は政教分離を定めた憲法の規定からして政府の式辞で使用するべきではなく、避けるのが当然なのに。

平成最後の終戦の日 - 戦没者追悼式とNHKのノモンハン特集番組_c0315619_14055170.jpg安倍晋三が「御霊、御霊」と何度も言挙げし、国家神道のイデオロギーを露骨に押し出すものだから、平和憲法を尊ぶ天皇陛下は気分を悪くしていたのだ。不快が表情に出るのを抑えられなかったのだ。こんな男を何度も選挙で選んで首相をやらせている国民や世論に対しても、失望を抑えられないのだろう。自分はあれほど憲法を守り、平和主義に徹する天皇として誠実に努めを果たしてきたのに、国民はどうしてそれを裏切るような方向に進んで行くのだろう、どうして同じ理想を共有して一緒に歩いて行けなかったのだろうと、そういう無念の思いが内面に詰まったような印象だった。このままではまた戦争になる、同じ失敗と悲劇を繰り返してしまうと、無言のうちに国民に戒めを諭しているように見えた。三選を果たし、終身独裁を盤石にし、天皇の代替わりの後、安倍晋三はこの全国戦没者追悼式をどうするだろうか。平成天皇という邪魔者が消え、平和のカリスマが国家の指導的地位から降りるということで、手を打ってくるのは見えている。この式典をより靖国的な色彩に染め上げ、いずれは靖国神社の祭式と統合させるべく法律を出してくるに違いない。

平成最後の終戦の日 - 戦没者追悼式とNHKのノモンハン特集番組_c0315619_14060488.jpg終戦の日の昨夜、NHKがノモンハン事件の特集を放送していた。苛立ちを覚えたのは、島貫武治ら参謀が残した証言テープで聞こえてくるヘラヘラ口調である。真面目に証言していない。はぐらかし、ごまかしている。与太話にしている。へらへらした傲慢な口調と態度で話をすることで、話していることが嘘だということを伝え、真実を話す気は無いという意思を伝えている。証言で紹介された参謀の全員の語調が同じだった。へらへらとインタビュアをバカにした口調で当時の「説明」をやり、責任を逃げていた。インタビューの音声ではあのような与太話にして逃げ、真実を求める関係者遺族の手紙に対しては、「知らない」「分からない」とハガキの返事で逃げている。以前、司馬遼太郎がノモンハンの小説化を断念した件についてNHKで話し、また文章にも書き残していたが、ノモンハンを書くに当たって、生き残りの参謀たちに面会し、取材してノートを録った経緯を語っていた。その一人が今回の番組にも登場した当時の参謀本部作戦課長の稲田正純で、一日中延々喋りまくったけれど、実のあることは何一つも話しませんでしたと司馬遼太郎は言っていた。

平成最後の終戦の日 - 戦没者追悼式とNHKのノモンハン特集番組_c0315619_14065353.jpgそれがどういうことか、よく掴めなかったが、今回のNHKの放送の音声を聞いてよく分かる。参謀たちは、司馬遼太郎に対してもあの調子だったのだ。参謀たちのヘラヘラ口調を聞いてすぐに思い出したのは、昭和天皇が1975年に記者会見の席で戦争責任について質問されたときの映像である。「そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究もしてないので、よく分かりませんから、そういう問題についてはお答えができかねます」と笑って答えた。コードとプロトコルが同じなのだ。精神と思想が同じと置き換えればいいか。簡単に言えば、へらへらと不真面目に無責任を貫徹している。稲田正純は昭和天皇のことを「天さん」と呼んでいた。番組の反応についてツイッターを検索してみると、右翼が、天皇をバカにしてけしからんなどと怒りの声を上げている。そうではないのだ。昭和天皇は統帥権集団のグルなのであり、辻政信や稲田正純の責任が不問に付されているのは、昭和天皇がトップにいて人事を総攬していたからである。お仲間のボスで馴れ合った人間関係だから、「天さん」と呼べるのであり、その言い回しを通じて、稲田正純は陸軍と昭和天皇とノモンハンの真相を自嘲的に示唆しているのだ。

平成最後の終戦の日 - 戦没者追悼式とNHKのノモンハン特集番組_c0315619_14071004.jpg番組では、フイ高地を死守する働きをしながら、辻政信らに責任を押しつけられ、自決を強要させられた現地軍守備隊司令官の井置栄一の悲劇を紹介していた。見ながら思ったのは、今年春の森友問題で自殺させられた近畿財務局職員のことである。決裁文書改竄の責任をとらされ、自殺に追い詰められた。そして、職員自殺後に国会に出て来た張本人の佐川宣寿や太田充は、あのように証言台で知らぬ存ぜぬを繰り返し、へらへらと虚弁の舌を回して責任を認めず、追及をかわして逃げ切った。太田充は「論功行賞」で主計局長の座を射止めて出世を遂げ、佐川宣寿は5000万円の退職金を受け取って平然としている。何もかもノモンハンと同じ。何も変わらない。参謀たちが太田充や佐川宣寿ら安倍官僚であり、板垣征四郎が麻生太郎であり、昭和天皇が安倍晋三だ。井置栄一が実務を担った近畿財務局職員だ。同じことをやっていて、同じことがまかりとおっている。責任のある者に責任が届かない。無責任が貫徹される。やはり、丸山真男が言ったとおり、日本人は天皇制を廃して新しい生き方をしないといけないのかもしれないと、そう思う。切断と飛躍。

平成天皇は日本国憲法の象徴天皇制の理念を具体化したけれど、その努力は実を結ばず、日本人は無責任の牢獄の限界を打ち破って主体的に生きることがなかった。丸山真男が1945年に発した言に、素直に帰るしかないのだと思わざるを得ない。

平成最後の終戦の日 - 戦没者追悼式とNHKのノモンハン特集番組_c0315619_14072837.jpg


by yoniumuhibi | 2018-08-16 23:30 | Comments(1)
Commented by 長坂 at 2018-08-16 17:27 x
私にとって、昭和天皇ってオウムの麻原。散々弟子達のせいにしてなんとか死刑回避しようと。辻の次男が言ってましたよね、「父親は少佐なんですよ、もっと位の高い軍人の責任は?」みたいなこと。インパールの牟田口は「部下が無能のせいで」って。そりゃそうだ、アメリカの傀儡になって生き延びてる天皇の責任に比べたら、自分のやった事なんてでしょ。東京新聞の「象徴天皇と平成」に保坂や半藤が「昭和天皇は戦線不拡大の方針だった」との見方を示すと天皇は深くうなずくという一文があるけど、そうかもしれないが早々に終戦にする気全然ないじゃない。吉田裕さんが戦死の9割が44年に入ってからだと。ラスト一年でどれだけ死に殺されたのか。ルサンチマンを抱えてひたすら反中国韓国朝鮮の竹田ナニガシに比べて(その内こういう天皇が出て来ても不思議ではない)現天皇美智子皇后は人間的に立派だとは思うが、戦争責任は「言葉のあや」と言い切ってしまった人の子供だという事実は重い。南京やハルピンや西大門やマニラその他は政治的過ぎてダメなら、せめて金子ミツさん(あの手が如何に過酷な戦後だったか物語る)や残留孤児や空襲被害者、臣民にされた旧植
民地出身者の手を握って謝って欲しい。戦争被害は国民が等しく受忍しろは余りにも無慈悲。留学や婚約や結婚もめでたくて結構だけど、、、


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