緊急消防援助隊と警察災害派遣隊 - 初動で待機の役立たず

c0315619_16225992.jpg前回の記事で、西日本豪雨災害の救助活動における消防と警察の不作為について論じた。この問題は、特に自衛隊の活動に焦点が当てられ、マスコミでもネットでも「初動の遅れ」という表現が与えられて議論されている。だが、この言葉は問題を正確に認識する上で不適当であり、あくまでザインではなくゾルレンの視角から考えるべきで、法的観点から問題を捉えた場合、「不作為」という言葉で説明と理解がされ、責任が追及されなくてはいけないだろう。災害対策基本法という法律がある。政府と自治体は、この法律の規定に則って対応しなくてはならない。法律を守らなくてはならない。災害が発生した場合は、国民の命を守るため、しかるべき立場の者がしかるべき行動をしなくてはならないのであり、それは、ドライバーとして車を運転する者が、ハンドルを握っている間、道路交通法を守らなくてはならないのと同じである。「初動の遅れ」という議論は、法的な義務と責任を曖昧にするもので、災害対策基本法の拘束から責任主体を免責する、すなわちゾルレンの次元をザインにする、日本人らしい無責任化の思考として注意する必要がある。



c0315619_16231454.jpg緊急消防援助隊という組織と制度がある。私もこれまで知らなかったが、今回の政府の初動を調べるうちに注目するところとなった。大規模災害が発生した際、被災地自治体の消防の能力ではカバーできないから、全国から機動的に緊急の応援部隊を投入できるように編成されたものだ。1995年の阪神淡路大震災の経験と教訓を元に創設され、2001年に消防組織法を改正して正式に位置づけた。したがって、すでに20年の歴史がある。自治体の組織として始まった歴史と伝統を持ち、市町村によって運営されている日本の消防は、全国に733の消防本部があり、16万人の消防職員が動いて「119番」の任務を遂行している。そのうち、4万6000人がこの緊急消防援助隊に登録されていて、消防庁長官の命令一下、全国どこからでも瞬時即応に大災害が起きた地域に出動できるよう構えと備えができている、という前提になっている。実際、災害現場では、オレンジのユニフォームにどこの隊か所属が記されていて、テレビ報道の映像で隊名を確認できる。消防庁長官の出動指示は、被災地となった都道府県の知事の応援要請に基づいて行われている。

c0315619_16232606.jpg自衛隊の災害派遣の形式が消防でも応用されていることが分かる。消防庁長官の指示と言っても、これは手続きの問題で、実際のところは、政府の初動対応は官邸の危機管理センターが行っている。このことは東日本大震災で見たとおりで、映画「シンゴジラ」に描かれているとおりだ。内閣官房がこの行政を担っていて、平素は内閣府の防災担当が準備と調整を司り、非常時は内閣危機管理監が指揮を執る態勢になっている。消防だけでなく警察や自衛隊に対しても一括で。総務省消防庁の組織は、本庁でわずか132人の職員しかおらず、全国の自治組織である消防本部を財政等で支援する机仕事の事務しかやっていない。この国で、災害対策が政府・国家の中で重要な位置づけになったのは、阪神淡路大震災からで、ちょうど橋本龍太郎の行政改革の時期と重なっている。そのため、内閣府がこの行政を一手に仕切って制度を固めるところとなり、官邸が全権を握るシステムになった。仕組みとしては悪くないが、安倍晋三という男が首相となったため、また、弱者切り捨てのネオリベラリズムが基本ポリシーになったため、政府の災害対応の初動は「待機」のみに収斂した。

c0315619_16233786.jpg警察の方を見てみよう。通常、大災害の現場では、オレンジの消防隊、ライトブルーの警察隊、迷彩服の自衛隊、この三つの救命救助部隊が活動していて、よく連携がとれているのがテレビ報道の絵でも分かる。日本人らしく、実働末端はコミュニケーションよくスムーズに動き、国民のために懸命に救助作業をやっている。警察にも、実は消防の緊急消防援助隊と類似した組織と制度があった。全国から即応で災害発生現場に救助部隊を送りこむ体制が構築されている。警察災害派遣隊という名称だ。東日本大震災のあと、警察庁が広域派遣の部隊を創設して、現在は1万人まで拡充されている。この1万人の中に、ヘリで活動する500人の広域警察航空隊と地上での救出救助を担当する3000人の緊急災害警備隊が含まれており、ライトブルーの制服で救助活動しているのはこの隊に所属する者たちだ。根拠法はなく、警察庁の通達で編成されており、警察らしくと言うべきか、公開されている資料や情報がほとんどない。救命救助の使命は同じだが、自衛隊や消防とは法的な位置づけが異なっており、警察災害派遣隊は自治体首長・都道府県知事の要請で派遣されるものではない。

c0315619_16234855.jpg警察庁長官の指示で動き、現地警察をサポートするよう任務づけられていて、いわば警察の自前の組織でフリーハンドのミッションとなっている。したがって、責任も非常に限定されているというか、法的拘束性が消防や自衛隊よりも弱い。その所為なのか、今回の西日本豪雨の災害対応を検証したところ、7日以前の初動についても、8日以後についても、政府報告書に具体的な活動記録がほとんどなく、無責任の性格が貫かれている。誰もが記憶しているとおり、7日午前の真備町の水没現場では、消防も警察も活動していなかった。わずかに倉敷市消防局が救命救助に動いていただけで、政府が予算をつけて整備してきたところの、ご自慢の広域派遣諸隊(消防・警察)は現場に入っていない。上空に救助のヘリは飛行していなかった。どうやら、この1万人の警察災害派遣隊は、7日は全く初動に動いていないのだ。もし、上から指示が出て具体的に動いていれば、それは実績になり、アリバイにもなるから、どこの部隊がどこの現場に入ったと政府報告書に記録を残すだろう。無論、警察災害派遣隊も、非常時は内閣危機管理監の指揮下に入るのであり、つまり安倍晋三の命令で動いていた。

c0315619_16240119.jpg安倍晋三の命令が「待機」だったから、従順に何もせず待機したというわけだ。自衛隊も消防も警察も、特に大災害の非常時の活動は軍隊の如く機械的に上からの命令に従うのであり、要するに内閣総理大臣の指示・不指示に従って行動するのである。彼らの7日の不作為(=国民への無責任)は、安倍晋三の不作為によって惹起・媒介されたものだった。前後するが、警察の災害対応行政を所管するのは、警察庁の警備局で、公安と外事を管掌する治安警察の組織である。戦前の内務省の特高警察。ここが災害とテロの対策を司る警察の現業組織となっていて、嘗ての平和な日本では仕事がなく暇だったのが、最近になって急に繁忙になり、予算を取って組織と機能を拡充強化する現状になってしまった。近年、地震や大雨や(原発や)の大規模災害が続発しており、そのたび多くの犠牲者が出て、災害対策が叫ばれ、行政機構では災害対策を名目にした予算の分捕り合戦が激化することになる。災害対策を名目にすれば予算要求が通り、新しい権益(法制度)を作ることができる。今回も、国土強靭化や救命救助を口実にしたところの補正予算が組まれ、官僚と業者たちがウハウハ踊る秋になるだろう。

c0315619_16241135.jpg阪神淡路大震災を機に緊急消防援助隊が作られた。東日本大震災を機に警察災害派遣隊が作られた。どれも国民の税金で作ったものだ。だが、そのどちらも今回の西日本豪雨では機能せず、何の救命救助の成果も上げられなかった。自衛隊と同じく黙って待機していただけだ。戦艦大和や戦艦武蔵と同じで、役立たずの宝の持ち腐れになった。どれほど救命救助の災害対応機構を完備していても、それを動かす政府トップの指導と決定がなければ何の意味もない。飾り物でしかなく、納税者国民への平時のエクスキューズでしかない。気象庁(国交省)の雨量計測・災害予測のスパコンも同じだ。気象衛星も同じだ。一体、この10年ほどで、どれほど巨額の予算が投じられ、気象庁の防災態勢がハイテク整備されたことだろう。そうやって、役人たちは災害対策の名目で税金を分捕り、ピカピカの災害対策の機構装置を積み上げて行くのだけれど、テレビでは、災害対策の専門家なる大学教授たちが出て来て、とにかく避難しろ、何でもいいから避難しろ、政府がどう言おうが言うまいが、とにかく先に避難しろと口を酸っぱくして説教している。正常性バイアスがどうのこうのと喚き散らし、避難しない者の自己責任だと刷り込んでいる。

足の不自由な、要介護の高齢者が家の一階で溺死しても、避難しなかった奴が悪いのだと学者が言っている。そして、コミュニティがどうのと言い、助け合いの精神だと言い、自治体で何とかしろと責任を下に押しつけている。何もかも、自己責任と自治体責任の体系。自治体への責任の丸投げで話を済ませている。徹底的な政府の無責任。無責任の貫徹と正当化。自助と共助のプロパガンダ。そのくせ、増税のときは防災だの災害対策だのを理由にするのだ。おまえらのためだからカネを出せと。

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by yoniumuhibi | 2018-07-18 23:30 | Comments(2)
Commented by アラ還 at 2018-07-18 21:12 x
今時の不作為は、行政トップによる未必の故意で告発対象になりませんか?
Commented by 読者 at 2018-07-20 10:02 x
東京五輪ボランティアのひどさは有名ですよ。ツイッターでも随分前から話題です。ボランティア管理の元締めはPソナ(ここに莫大なお金が入るらしい)。
で、ボランティアは、交通費も自分持ち、研修にかかる費用も自分持ち、「五輪のためなんだから有難くやれ」とばかりに、タダ働きを強要させ、お人よしを使うという魂胆です。
しかもボランティアが集まらないので、各地の大学にボランティア募集の要請をかけています。そのうちボランティアを出さない大学には個別に指導が入りかねませんね、今の文科省がそうやって締め上げてるのは、この前の裏口入学の件を見れば明らかです。
若い学生が、M喜朗、I原慎太郎、D通、Pソナ、T中といった面々の犠牲になるのは耐えられません


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