汚辱の歴史として残るポーランド戦 - 法規範の逸脱と正当化の詭弁

c0315619_15181385.jpg今日(4日)の朝日新聞の社説がW杯日本代表を取り上げていて、28日のGLポーランド戦での戦い方について、「子どもに『代表を見習いなさい』と言えない」と書いている。朝日は、30日の記事でも忠鉢信一が「『規範』守らぬ西野監督、世界のサッカーを敵に回した」と書き、手厳しい批判を述べていた。私はこれが正論だと思うが、一瞥したところ、日本国内ではこうした批判は例外的な少数で、特にテレビ報道では、西野朗の今回の件を「戦略」だの「高度な判断」だのと言って褒めちぎる論評で一色だった。29日の報ステに登場した新自由主義者の千葉功太郎も、西野朗と日本代表を絶賛するコメントで埋め、それを富川悠太がエンドースして唱和するという放送が流された。NHKも同様で、西野朗を英雄として讃え、まるで経営の神様のように持ち上げていた。この言説と空気については、左右の区別なく国民的に一色になっていて(ナショナリズム)、しばき隊シンパの作家が忠鉢信一に噛みついている場面に遭遇して愕然とさせられる。「憲法守れ」と叫んでいる左翼リベラルの中に、規範を守る倫理意識というものがまるで見られない。



c0315619_15182673.jpg西野朗を擁護し評価する主張で顕著なのは、ルールを守った上での戦術と結果だからいいじゃないかという論法である。西野朗はルールを守ったことになっている。ルールを守ったという事実認識があり、それが正当化の根拠にされている。が、それは大きな誤解だろう。誤解でなければただの詭弁だ。レフェリーの笛が鳴らなかったからルールを守ったということにはならない。FIFAにおけるルールとは、まず第一にFIFA行動規範のことだろう。FIFA行動規範には、「どのような試合でも勝利が目的となる」と明記されていて、「勝つためにプレーせよ」と書かれている。「全力を出さないことは相手への侮辱である」という規定もある。西野朗の姑息な戦術は明らかにFIFA行動規範の逸脱で、スポーツにおいて最も大切なフェアプレーの精神の否定に他ならない。だからこそ、世界から非難を浴びることとなった。客観的に見て、28日のポーランド戦の醜態は、日本サッカーの汚辱の歴史となって刻印される出来事で、世界のサッカーファンの記憶に残り、日本の恥として思い返されるものだ。

c0315619_15183806.jpgどうにも看過できないのは、最近の日本人の「ルール」についての認識と感性である。ルールという概念を誤認していて、法の逸脱を正当化するように欺瞞的に表象を細工している。そういう悪い風潮と思考法が、右翼だけでなく左翼の中にもすっかり定着し、法を逸脱しながら「ルールを守っている」と強弁して開き直る癖をつけてしまっている。スポニチの阿部令も書いているが、サッカーの試合の競技規則が法律だとするなら、FIFAフットボール行動規範やJFAサッカー行動規範は憲法だろう。28日の試合での西野朗と日本代表の行動は、まさしく憲法違反なのである。憲法違反の行動が糾弾されず非難もされない。世界のサッカーファンの憤懣と軽蔑の中で、日本国内が違憲行為の正当化と賛美であふれかえっている(左翼まで含めて)。これほど異常な光景はないと思われるが、そのことに対する反省や自覚は微塵もなく、決勝トーナメントに進めたからよかったとか、見事な英断だという話になっている。このサッカーで見られる日本の光景は、実は政治の世界の日常とそっくり同じではないか。

c0315619_15185147.jpgruleという単語について辞書の説明を見ると、規則や規定という意味の他に、常習、習慣、慣習の意味を持っていることが分かる。その語源はラテン語の regula で、「真っ直ぐな棒」「物差し」の意味だったとあり、明らかに規範の意味が含まれていることが察せられる。ポーランド戦について、日本代表がルールを守ったというようなルールの意味や使い方は、およそ rule の語の正しい使い方ではないことが分かるだろう。世界の常識から見て、日本代表は rule を守っておらず、アンフェアで卑怯な戦い方をして決勝Tに進出したのである。レフェリーが個々のプレーを裁くマニュアルとなる競技規則の上に、最高位の法としてFIFAフットボール行動規範がある。今回の件は、日本代表がルールを巧く使ったのではなく、いわば競技規則の不備であり、前例がないから大会中に審判委員会から処罰の判定を受けなかっただけだ。試合で負けているチームが10分間も延々と自陣でパス回しするとは、誰も思ってないのだ。競技規則が想定してない壮絶な異常事であり、前代未聞の事態の出現であり、大会中に対処できないからお目こぼしとなった。前例として合法化されることを恐れるFIFAは、何らか対策に出るだろう。

c0315619_15190202.jpg同じことは政治の世界で起きている。昨年、安倍晋三は憲法53条に規定されている臨時国会を召集しなかった。初めてのことだが、明らかな憲法違反である。野党は53条の条件にある4分の1以上の数で要求したが、安倍晋三の側は詭弁で拒絶して応じなかった。内閣は臨時国会の召集を拒絶できるという、とんでもない前例を作った。同じく、昨年、共謀罪法案を国会で強行成立させた際、委員会採決をすっ飛ばして本会議で中間報告して可決するという恐ろしい暴挙をやってのけた。さらに、今年は、高プロ法案(働き方改革法案)の強行採決の際、野党からの委員長解任動議を受け付けず、却下して、本会議に回す手順を踏むということをやらなかった。国会の慣例となっている rule を破った。いずれも憲政史上例のないことで、議会制民主主義の重要な規則のバイオレートである。立法事実のない法案の上程・審議・採決もそうだ。安倍政権は民主主義政治の法を守らない。法を守らず、違法行為を重ねて開き直っている。そして、それぞれの重大な違法行為について、あれこれと意味不明な正当化の屁理屈をつけ、それをマスコミで撒いて押し通している。モリカケ問題もそうだ。法が踏みにじられ、法規範が蹂躙されている。

c0315619_15191458.jpg昨日(3日)の赤旗新聞に加藤節が登場し、「現代日本にはびこる『非合法性』」と題して安倍晋三を厳しく批判している。「非合法性」という言葉がキーワードとして適当かどうかよく分からないが、加藤節が言わんとすることは理解できるし、その指摘には納得と共感を覚える。ただ、問題なのは、法規範を平気で逸脱する態度というものが、単に安倍晋三や右翼だけの範疇や様式ではなくて、反安倍の左翼左派リベラルにも染みついてしまっている点だ。西野朗を賞賛したしばき隊系作家の倒錯した口上が典型だが、他にも、例えば、佐川宣寿の虚偽公文書作成の犯罪を問わなかった法曹家たちの問題がある。郷原信郎も、落合洋司も、根幹部分での改竄を問うのは難しいと奇妙な説明を垂れ、宗像紀夫と同じ見解を示して大阪地検の決定を容認した。要するに、屁理屈を捏ねて佐川宣寿の行為を合法化する手助けをし、安倍政権と検察庁の恐ろしい違法行為に目を瞑ってやっているのだ。結局、迫田英典の背任の方までお咎めなしとなった。左翼を含めた世間一般は、法律の専門家がそう解釈を言うのだから仕方ないという結論で済ましている。彼らを批判しようとしない。

今の日本人の「ルールを守る」は、以上のような詭弁と歪曲の構造になっていて、違法行為・不法行為を「ルール」の名の下で正当化する態度を許容してしまっている。法の抜け穴を詭弁の解釈で探すことが法律論だと思い込んでいる。法規範に対する基本的な緊張感が消え、法を遵守する主体性となる健全な倫理観と正義感の精神が失われている。脱構築を過剰にやりすぎた結果、われわれは本当に近代以前の人間性と社会性に戻ってしまった。

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by yoniumuhibi | 2018-07-04 23:30 | Comments(4)
Commented at 2018-07-04 21:15 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 読者 at 2018-07-06 16:03 x
高橋シズエさんが言っておられましたよね、「麻原の死刑は当然のこと。でも、遠藤、土谷、新実、井上、中川、早川の名前を聞いた時は動悸がした。彼らにはもっと話してほしかった」
首謀者の麻原と、マインドコントロールの末に使われてしまった実行犯の間には責任に差があります。それをほとんどの人がわかっていないのが残念です。
高橋シズエさんが一人ずつ、遠藤、土谷、新実、井上、中川、早川と名前を読み上げた思いを、受け止めるべきでした。
もっといえば、事件を謀議した者の責任が軽すぎます。数年の懲役で出ていますよね、父親が大物政治家の後援会長。
Commented by NY金魚 at 2018-07-07 14:44 x
NY金魚さんの連続ツイート @nyckingyo
◆ 7月1日
アベ政権と官僚が大犯罪続けたくせにニゲまくり、日大アメフトコーチもニゲまくり、トーデンは7年間ニゲつづけ、詩織さん事件の犯人もニゲている。今回の西野監督とサムライたちがポーランド戦でニゲたのは、現代日本の状況で当然の非道徳。FIFAが許してもサッカー神は許さない。W杯決勝Tで必ず報いがある!
◆ 7月2日
今さらながらにアベをニゲ分析すれば、『戦争責任』からニゲ、『平和憲法』からニゲ、『拉致問題』からニゲ、自ら犯した犯罪からもニゲ、アンポにすがり本当の『戦い』からもニゲ…まさに『我ニゲる故に我あり』。西野監督とブルーサムライたちは、ただそれをコピペして戦わずにニゲた。カルマの反転。
◆ 7月2日
ニゲることでその刹那の勝利(決勝T進出のための負け)は確実になったが、以降の勝負に執着する概念が、ガラリと変わった。案の定、サムライのきょう決勝T対ベルギー戦は2点を先行しながら逆転された。両チームの気の流れをみると、この逆転負けは必然。カルマ神が確実な采配をしていた。
◆ 7月3日 ところで肝心の『アベのニゲ』に話をもどすと、もともと『ニゲ馬ヅラ』とは彼のことをいう。とことん策略的なニゲのため膨大なウソで覆った無間地獄。サッカー場などと比べるべくもない超遠距離の地獄からの逃亡。野党や国民から必ずニゲ切れると思い込み。カルマ神のお告げは彼の『オウンゴール』だと
◆ 7月4日 祖父・大叔父の遺伝子を受け継いだアベのニゲ技術は超一流だが、使えば使うほどウソが増幅しツジツマが合わなくなる。無間地獄は、寸暇の休む間もなく苦しみ続ける、地獄の中でも最も苛酷な世界。トップや幹部は耐えられても選手たちはどうだろう? カルマ神の言うオウンゴールは案外簡単に決着がつきそう。
Commented by ヒヤシンス at 2018-07-09 12:43 x
真備町の一面に浸水した様子、そして住宅の二階から布をもって救助を求めて手を振っていたのはぱっと見たところ若い人が多かったですから、高齢者は…というのは容易に予想していました。
高齢者は一階で就寝することが多いですし。逃げ遅れたのでしょう。
市長の失態ではないでしょうか。死者数百人になる恐れもあると思っています。そして、先週木曜日の夜、大雨情報を一切流さずウインブルドンを放送していた国営放送にも責任があるでしょう。金曜日のうちに仮に避難所に避難していたとしても、避難所そのものが浸水した可能性もありますが、金曜日のうちに避難しなければ遅かったのです。


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