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ストックホルム合意の「調査結果」 - 背景と安倍晋三の思惑外れ

ストックホルム合意の「調査結果」 - 背景と安倍晋三の思惑外れ_c0315619_16141918.jpgストックホルム合意とその「調査結果」について、マスコミでも少しずつ語られる展開になった。4月の武貞秀士が皮切りだったが、週刊朝日の記事で五味洋治がこの件に触れ、日本政府は「調査結果」を秘密裏に見ているが、中身が公表できるものでなかったため、そのまま据え置いたと言っている。昨夜(20日)のプライムニュースに出演した木宮正史もこの件を取り上げ、「調査結果」の内容が悲惨なものであったため、日本政府はそれを受け取ることができなかったと説明した。これは、共同通信が今年3月に伝えて明らかになった情報だが、次第にマスコミの表面でベールが剥がれるようになり、この国の中で一般認識になりつつある。要するに、ストックホルム合意を履行した北朝鮮政府の再調査作業によって、(1)生存する拉致被害者は2名いるが、いずれも日本帰国を希望していないこと、(2)それ以外の拉致被害者はすべて死亡していること、が判明し、その報告書のドラフトが日本政府に内々に提示されているということだ。不都合な「結果」だったためお蔵入りになった。



ストックホルム合意の「調査結果」 - 背景と安倍晋三の思惑外れ_c0315619_16134071.jpgストックホルムで日朝交渉が行われたのは、2014年5月26日から28日までで、「合意事項」が文書化されて発表された。テレビの報道は毎日この件がトップニュースで、大勢のマスコミ関係者が現地に詰めかけて中継をやっていた。その後、北朝鮮が特別調査委員会を設置し、本格的な作業を始めたが、結局、調査結果は出ず、2016年になって北朝鮮が核実験を再開し、日本が経済制裁を復活させたことにより、北朝鮮が特別調査委員会の解散を発表するに至った。ストックホルム合意履行のオペレーションは頓挫した。その間の出来事として、非常に興味深い宋日昊の証言が日経に上がっている。見逃せない。2015年9月10日の記事だ。合意から1年3か月後の時点である。それによると、最終報告書はほぼ完成しているけれど、調査結果を日本側と共有できないため、報告書の正式版を送付できないのだと言う。北朝鮮側による一方的な発表は望ましくないと宋日昊は言っていて、調査結果を日本側が受け入れ、北朝鮮と共有できるよう、日本側の態度変化を待っている事情が語られている。


ストックホルム合意の「調査結果」 - 背景と安倍晋三の思惑外れ_c0315619_16143247.jpg思い出す必要があるが、ストックホルム交渉の外交というのは、安倍晋三がこの年の内に予定していた衆院選に向けての目玉作りの政治だった。2012年12月に安倍晋三が選挙に勝って第二次政権を発足させた後、「拉致問題に熱心な安倍さん」に対する期待が俄に高まっている状況があった。安倍晋三の選挙公約は「拉致問題の解決」であり、看板の公約に対して何かしら形を作るためにも、安倍訪朝(とその前提となる成果獲得)は必至だと見られていて、当時、週刊誌はさかんに安倍訪朝の憶測記事を書いて売っていた。2013年12月には秘密保護法の強行採決があり、翌2014年には集団的自衛権を合憲化する閣議決定までの政局と国民の反発があり、前年に沸騰したアベノミクス人気も一服を迎えていて、2014年中に行われる解散総選挙の行方は予断を許さない情勢になっていた。そうした政治環境の下で、5月末にストックホルム交渉が行われる。テーマは安倍政権の最重要課題である「拉致問題」だった。北朝鮮側も、この機会に何とか問題解決の糸口を作り、日朝関係を2002年の日朝平壌宣言の状態に戻そうとしていた。


ストックホルム合意の「調査結果」 - 背景と安倍晋三の思惑外れ_c0315619_16145721.jpgここでの安倍晋三の思惑は、すなわち、政府認定の8人の死亡は確定としても、いわゆる「特定失踪者」がアバウトで700人もいるらしいから、5人か10人くらいは北朝鮮の再調査で発見されるだろうと計算であり、日本に連れて帰れば支持率沸騰という図だったろうと思われる。右翼団体の推計によれば「特定失踪者」が700人もいて、うち北朝鮮の拉致が濃厚とされる者が1割の77人に上ると言う。右翼の安倍晋三が同志である右翼団体の推計を鵜呑みにするのは、イデオロギー的に自然の生理だった。このとき、北朝鮮は張成沢を処刑した直後で、中国との関係を決定的に悪化させ国際的孤立化が窮まった状態にあり、日本に対して関係改善のカードを出すならこのときと期待できるタイミングでもあった。北朝鮮が、国内に隠している「拉致被害者」を出すなら今と楽観的予測を立てられる局面だった。結果的に、それは取らぬ狸の皮算用となり、あてが外れた安倍晋三と外務省は呆然となり、意外な「調査結果」に顔面蒼白となって狼狽、ストックホルム合意の日朝外交を途中中断してしまう。翌年、北朝鮮の核開発再開を渡りに船の口実とした。


ストックホルム合意の「調査結果」 - 背景と安倍晋三の思惑外れ_c0315619_16150856.jpg20日にプライムニュースに出演した木宮正史は、北朝鮮政治を専門とする東大教授の肩書きだから、それなりに外務省にも影響力のある立場だと考えてよいだろう。その男がテレビでストックホルム合意の「調査結果」に言及し、3年前の宋日昊の証言を裏づける発言をしたわけで、このことは「調査結果」を世論に定着させる地均しの意味があると受け取っていい。オーソリティによるオーソライズだ。それにしても、2002年から16年も経ち、この間の「拉致問題」の政治をずっと目の当たりにしているはずなのに、左翼が家族会に騙され続け、「拉致問題」のイデオロギーの呪縛から抜け出せないままでいるのが信じられない。「早紀江さんがかわいそう」とか、「家族会は安倍に騙されている」などと、左翼が本気で言い続けている。右翼と全く同一のメンタリティに凝着し、家族会への同情を続けている。私には理解不能だ。北朝鮮への圧力を要求し続け、北朝鮮の対日交渉を拒絶し続け、北朝鮮への不信を扇動し続け、安倍晋三の北朝鮮政策をサポートしてきたのが家族会だった。それがあり、左翼が家族会を支持し続けてきたから、「拉致問題」は国民的課題になり、安倍晋三の支持率は高止まりになったのである。


ストックホルム合意の「調査結果」 - 背景と安倍晋三の思惑外れ_c0315619_16592537.jpgもう16年も経っているのだ。常識で考えれば分かりそうなことだが、もし生存する拉致被害者が北朝鮮内にいて、その存在を発見して、日本への帰国希望を確認したのなら、当然、北朝鮮はそれを外交カードに使おうとするだろう。日本に送還するだろう。第二次安倍政権の前でも、「拉致問題」は常に日本政府の最重要課題であり続けたし、国民的関心の高い問題であり続けた。そして、小泉純一郎の二度目の訪朝の後も、日朝両政府は幾度も接触の機会を持ち、「拉致問題」の協議をやってきた。恰も、日本とソ連・ロシアの間の北方領土交渉のように、北朝鮮は「解決済み」とシャットアウトしては、日本側の変化に応じて態度を微妙に調節し、交渉に向き合う機会を繋げてきた。もしそのようなカードがあるならディールしているはずである。私が北朝鮮政府であれば、ハト派の福田政権に変わったときか、民主党政権に変わったときに、カードを切っていただろう。物理的に存在しないから、カードを切りたくても切れないのだ。北朝鮮側にとって、「拉致問題」解決をめざす日本側との交渉というのは、帰国希望の拉致被害者が存在しないことを日本側に説得することであり、その共通認識の上で善後策を協議して合意することである。


無い袖は振れない。そんな簡単なことが日本の左翼は分からないのだろうか。日本の左翼はとことん劣化した。知性を失い、客観的で合理的な思考態度と判断力を失った。まさにウェーバーの言う「呪術の園」への埋没そのもの。左翼を含めて、日本国民とマスコミは家族会と救う会の言いなりになり、したがって安倍晋三の言いなりになり、青バッジ右翼に言論を制圧され、洗脳されてタブーを作られ、世論を操縦され、日本の政治は一歩も前へ進めなくなった。

ストックホルム合意の「調査結果」 - 背景と安倍晋三の思惑外れ_c0315619_16152181.jpg

by yoniumuhibi | 2018-06-21 23:30 | Comments(2)
Commented at 2018-06-21 23:08 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 長坂 at 2018-06-22 01:41 x
しかし、北朝鮮は1990年の金丸訪朝の時には拉致に言及しただけで激怒して嘘だとしていたのに2002年に中国と関係悪化した際には拉致を金正日は部下がやったとすることで認めました。北朝鮮は体制を上手く活用して駆け引きするので、来ないだの調査のようにアメリカや日本では残念ながら信頼が低いのかもしれませんな。


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