チキンゲームに勝利した北朝鮮 - 米朝交渉の政局でボルトン失脚

c0315619_16290573.jpg先週18日、トランプが記者会見で北朝鮮への体制保証を初めて明言、非核化した場合には「強固な保護(protection)を得るだろう」と述べた。さらに「我々は『リビア方式』の適用を考えてない」とも言った。週末のテレビ報道でその場面が何度も流れたが、会見の場にはボルトンが陪席していて、カメラがボルトンの表情を捉え、ボルトンが赤恥をかいて失脚した政治演出になっている。明らかに、トランプが北朝鮮に対して妥協のメッセージを送っていて、北朝鮮の要求を受け入れて「ボルトン外し」に応じた格好だ。「リビア方式」など論外だと私も論じたし、右翼の手嶋龍一とケント・ギルバートでさえ「リアルではない」とプライムニュースで評しているのを耳にしたが、果たしてそのとおりの結果となった。北朝鮮の非核化が完全に実現するまで何も対価を与えるなというのが、2月からの日本のマスコミの論調であり、朝日新聞すらそうした論説で一貫していて、右も左も日本中が「リビア方式」を肯定し期待する空気だったが、ここへ来てすっかり様子が変わってきた。



c0315619_16384832.jpg前回の記事でも述べたけれど、どうやら、平壌で交渉をしているCIAの担当者から、トランプは正しい報告を受け取っていなかったようだ。トランプはなるべく早い時期に米朝会談を開催したいと考えていたし、合意内容はアバウトな形にして、北朝鮮が完全非核化に応じたという結論だけを大々的に打ち上げ、世界と国内に宣伝しようと構想していた。だが、平壌に乗り込んだCIAの担当者たちは、そのボスはアンドリュー・キムだが、具体的な非核化内容の詰めから交渉を始め、半年以内に全核兵器を搬出して核施設と開発データを廃棄せよとか、数千人の核関連技術者を海外移住させよとか、人工衛星の開発も断念せよとか、無理難題を次々に迫っていたのだ。北朝鮮政府が譲歩の姿勢で話を聞くものだから、どんどん要求を釣り上げて押し込んで行き、これでもかとハードルを上げて具体論を迫っていた。だけでなく、それを朝日新聞ソウル支局の牧野愛博にリークして報道させ、恰も「リビア方式」で交渉が決着するかのような工作報道を世界に撒いていた。

c0315619_16385832.jpg北朝鮮側は、いつまで経っても「体制保証」の要求に対して米国側(CIAの担当者)が回答を返さず、一方的に要求をねじ込んで来るばかりなので、これはおかしいと感じ、逆襲に出て、習近平の元に飛び、アンドリュー・キム主導の交渉実態を暴露して、習近平からトランプにダイレクトに電話で不満と要望を伝える策に出た。同時に、金桂冠を使って反論を上げ、米朝会談は流してもいいぞと大胆に覚悟を示す態度を示した。「体制保証」に応じよと正面から要求を突きつけ、応じないのなら首脳会談は延期だとメッセージを発した。狼狽えたトランプが自ら収拾に出て、北朝鮮の要求に応じる旨を発言し、チキンゲームの攻防に北朝鮮が勝った状況が出現している。米朝会談開催の動機は、北朝鮮よりもトランプの方が強いのである。だから、チキンゲームになれば北朝鮮の方が立場が強い。トランプの動機は11月の中間選挙にある。そこに向けての選挙戦略の一環として米朝会談があり、和平の成功者としての自己宣伝の戦略があった。そのため、トランプはこの政治目標と日程を潰すことができない。成功させなくてはならず、北朝鮮と合意せざるを得ない。

c0315619_16411231.jpg北朝鮮はどうしてチキンゲームに勝てたのか。三つほど理由がある。第一に、今回は韓国と中国の二国が北朝鮮の味方に与している点だ。文在寅政権が誕生するまでは、北朝鮮の味方は一国もなく完全孤立状態だった。現在は韓国と中国が味方し、ロシアも味方し、EUも味方に入る可能性がある。周辺国で敵なのは日本だけで、米国が北朝鮮と和平すれば、今度は日本が北朝鮮と入れ替わりで完全孤立の国になる。第二に、それと関連して、仮に米朝交渉が決裂したとしても、北朝鮮は非核化を国家方針として決定済みで、それを中国がエンドースし、事実上、中国からの体制保証を得ているからである。北朝鮮が核放棄して丸腰になった暁には、中国が安全保障措置を積極的に講じ、北朝鮮の保護者としての役割を明確にするだろう。先週、北朝鮮高官が率いる代表団が中国を訪問し、習近平に会って「改革開放を習いに来た」と言明した。北朝鮮は中国型の改革開放に本格的に踏み出すのであり、中国が描く理想の北朝鮮像に身を合わせる意思を示している。北朝鮮は舵を切った。米朝会談の成否とは無関係に非核化を進める。

c0315619_16435450.jpg第三に、仮に米朝交渉が決裂しても、米国は北朝鮮を軍事攻撃できない。まず、ここまでの過程で韓国の世論が大きく変わり、金正恩を信頼できるという国民が8割に上る状況に至った。韓国国民は、米国が北朝鮮への体制保証を提供して、米朝が国交正常化することを望んでいる。朝鮮戦争の終結が宣言され、休戦協定が平和協定に移行することを求めている。そうした韓国の国民世論を無視して、米国が一方的に軍事オプションの方向に政策を戻すことはできない。そのような動きを見せれば、韓国で大きな反米運動が起き、在韓米軍撤退と韓米同盟破棄を求めるデモが起きるだろう。コリアハンドラーズが解体消滅する危機に遭遇する。軍事オプションの方向へのバックラッシュを望んでいるのは、未だに北朝鮮不信を煽っている日本の右翼論者と、それに頷いている右傾世論だけだ。2月から4月までの北朝鮮の変化と、それを後押しする文在寅と習近平の努力は、東アジアの情勢を変え、非核化と米朝和平を待望する空気を日毎に濃く醸成し、いわば既成事実を積み上げた。この既成事実を壊すことは容易ではない。

こうした事情と条件を押さえた上で、北朝鮮は今回の米朝交渉で強気に転じ、チキンゲームを制する結果を得たと観察できる。滑稽なおまけだったのは、韓国大統領府が朝日新聞を出入り禁止措置にしたことだ。牧野愛博のCIAリーク記事(デマ)に対する仕置きが下った。青瓦台に拍手。溜飲が下がる一挙だった。


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by yoniumuhibi | 2018-05-21 23:30 | Comments(2)
Commented by a at 2018-05-22 01:43 x
安部一強の日本に対して、韓国と北朝鮮が、一番の頼もしい“野党”にさえ感じてしまいます。北朝鮮の非核化・終戦は、改憲阻止の強力な追い風になりますし。
韓国の文大統領のたくみな外交の“電撃戦”の鮮やかさに感心しました。
Commented by 七平 at 2018-05-23 03:55 x
(1の2)
本日のNYTはトランプが、捕らぬ狸の皮算用で、すでに米朝会談成功を記念してコインまで作ったと伝えています。
リンクを入れると、Excite Blogが投稿妨害に出ますので キーワード Trump's  North Korea summit coin で検索してください。まあ、何と幼稚な発想で、金正恩 が子供騙しのコインをもらって喜ぶとでも、思っているのでしょうか?

明らかに、会議を目前に控え、前のめりになっているのはトランプの方です。ロシアゲートの真相がお金の流れを追う事により明らかになりつつあります。窮地に立っているトランプにはホームランが必要です。北朝鮮が貧しい中、苦労して開発した核を、よほどしっかりした体制保障と経済援助をトランプが約束、実行しなければ、核を手放すとは思えません。 


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