太陽政策と受容主義の教育 - 北朝鮮が自ら変わることを信じること

c0315619_14394865.jpg中学生だった頃、クラスの中にいわゆる不良の子がいた。同級生に暴力をふるったり、放課後にシンナーを吸ったり、店で万引きしたり、手がつけられず、生徒指導の教師はずいぶん手を焼いていた。今から考えると、あの女性教師はどれほど自分の家庭生活を犠牲にして、夜遅くまで駆けずり回り、不良生徒の面倒を見ていたのかと、その苦労を想像して感慨深くさせられる。当時の学校教師は今のようなブラック職業ではなく、部活の残業地獄もなく、モンスターペアレントの理不尽な対応もなかったが、一人の生徒が闇に墜ちるのを防ぎ、更生させるために、懸命に献身的に努力していた。サラリーマンとは対極の、全人格を子どもにぶつける熱心な教育者がいた。北朝鮮の問題というのは、そういう問題だと考えることができるのではないか。教室でナイフを投げてクラスの子を脅したり、花火を教室の窓から校庭に向けて何発も発射したり、そういう悪さを繰り返してきた悪童。担任も生徒もどうしようもなく、皆から嫌われて、一日も早く処分され来なくなる日がいいやと願われている不良。



c0315619_14395897.jpg北朝鮮は、単に核で国際社会のルールを破っていただけではなかった。「スーパーK」と呼ばれる精巧な偽札(米100ドル紙幣)を大量に印刷し、在外公館を通じて各国の金融市場に流通させていた。国家ぐるみで偽札製造の犯罪を行っていた。また、覚せい剤を国内で製造して密輸、日本の暴力団に卸して荒稼ぎしていた。北朝鮮の覚せい剤は国家が精製するものだから、他のどこのものよりも純度が高く「品質」がよいという評判だった。偽ドル札と覚せい剤で国家収入を上げていた北朝鮮。まさに、公共敵の烙印を押されながら国際社会で開き直る、主権国家の原則の盾に守られた「ならず者国家」の確信犯そのもの。最近の仮想通貨の詐欺事件も北朝鮮の仕業ではないかという噂が立っているが、過去の犯歴と罪状からすれば、疑いをかけられても仕方がないと言えよう。ソ連が崩壊する頃から、国家の運営に金正日の性格が露骨に投影された頃から、世襲権力支配に抵抗する反対派が根絶やしされて息絶えた頃から、北朝鮮は分別のない犯罪国家となった。ルール無視の恣意と逸脱で暴走し、これ見よがしに国際社会に迷惑をかける不良となった。

c0315619_14401022.jpg北朝鮮の国家のあり方は、金正日の精神構造と密接不可分に関係していて、それが現在でも金正恩の所作と挙動に引き継がれている。暴力団の組長のような未熟な暴君の振るまいであり、反知性主義の態度であり、エゴの論理を剥き出しにした開き直りと押し通しである。40年前に起こした日本人拉致事件も、重大な国家犯罪ではあるが、金正日の粗暴な人格という本質からストレートに現象形態化した問題で、金日成と金正日の親子の毒性が強く影響している。金正日はルールを守るということが苦手で、わがままを強引に押し通して愉悦する生き方だけを身につけ、そこは安倍晋三と酷似している点だが、ルールの前で自制する理性を教育で躾けられなかった。そうした人格類型と支配権力の負の関係性が、北朝鮮の国家の構造として固まっていて、何十年も同じ型で日常が動いているから、外交もその体質でパターン化され、北朝鮮は国際社会で拗ねた悪役としてしか自己を表現することができない。クラスの不良の子というのは、周囲から悪役として定着し、暴力人格・迷惑分子としての表象が固まると、その軌道と生態から逃れられなくなるものだ。

c0315619_14402098.jpg北朝鮮は、いわば片親の子であり、父親のソ連は子どもの北朝鮮が幼かった頃に早く逝った。母親の中国が一生懸命に子育てし、ひねくれ者に育たないように心掛けたものの、小さな店を経営する母親は仕事が忙しく、子どもの面倒に手が回らず、やがて北朝鮮は母親に反発して、言うことを聞かなくなり、母親に甘え、かまって欲しくて悪さを重ねる。勉強も苦手で友人もできず、どうしようもないいじけ者の少年に育って行った。父親が生きていた頃、店は社会主義饅頭を売っていて、父親が開拓したお得意さんが贔屓にしてくれ、親子3人はそれなりに幸せな家庭を築いていたのだけれど、父親が死んで饅頭が売れなくなり、母親は心機一転、資本主義ケーキを作って新たな洋菓子店へと業態を変えて行く。その商売が当たり、店は繁盛して大きな会社に成長、母親は企業を切り盛る社長になって多忙をきわめることになる。子どもの世話は二の次になってしまった。母親とコミュニケーション不全になった北朝鮮は、母親の成功と多忙が裏切りに映り、亡き父親の饅頭屋時代が懐かしく、その記憶に孤独にしみつき、幸せだった家族の過去から離れられないのだ。

c0315619_14403076.jpgそれでも母親は子どもの立ち直りを諦めず、妥協せず厳しい仕置きで臨みながら更生の契機を模索する。何と言っても、母親の中国にとって北朝鮮は、60万人とも90万人とも言われる人民義勇軍の血の犠牲を払って建国を助けたところの、つまりは自分の腹を痛めて生んだわが子なのだ。だから、この子の人生には責任があるのであり、国境を挟んで永遠に隣り合う実の親子関係なのであり、まっとうな人間にして国際社会で生きていけるよう教育する義務と使命がある。今、その北朝鮮が変わりつつある。北朝鮮の国内には数十ヵ所の核関連施設があり、数千人の核関連技術者がいて、膨大な核関連データが蓄積保管されているという。それらを全て廃棄して、北朝鮮の核放棄を完全化しないといけないけれど、IAEAも証言しているとおり、その実行と検証には大変な手間と時間がかかり、想像できないほどの工数を要するものと推測されている。IAEAだけの技術者の動員では到底足りない。その気になれば、北朝鮮はどこかにデータを隠すことができるし、アセットを物理的に棄却しても一から核開発を再スタートさせることができる。そう疑うことができる。

c0315619_14404195.jpg北朝鮮から核を一掃するためには、北朝鮮が自らの意思で自らのためにやらないといけないのだ。外国からの強制では無理なのである。北朝鮮が自らその将来を選び、国際社会と協調する国家像を求め、中国型の改革開放を志向しないかぎり、そして、米国をはじめとする国際社会がそれを歓迎し、北朝鮮に和平と援護をコミットしないかぎり、北朝鮮の核放棄は実現しないのである。つまり、ここに太陽政策の意味がある。金大中と盧武鉉と文在寅は、いわば、問題児に対して理想の受容主義を実践し、荒んだ子どもの心の再生を図ろうとする、戦後民主主義の時代の学校では屡々見かけたところの、哲人教師たる教育者範疇と考えてよいだろう。太陽政策の理念は、受容主義の戦後教育の思想と通底している。子どもが自ら変わることを信じて教育のはたらきかけを行わないといけないように、今回の非核化外交では、北朝鮮を信じてやらないといけない。悪ガキの北朝鮮が模範生徒に変わることを信じ、北朝鮮に政策変更を迫り、その利益を説得し、北朝鮮に新しい未来を選択させないといけない。ボルトンのような脅迫は無意味であり、日本右翼のような揶揄や野次は無意味だ。

孔明が孟獲を七度捕らえて七度放したように、人が生まれ変わり、自ら新しく出直すことを信じないといけない。性善説で向き合うことが必要だ。

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by yoniumuhibi | 2018-05-17 23:30 | Comments(1)
Commented by 読者 at 2018-05-17 21:34 x
あの、感動的な南北会談と青い橋でのシーンや
文氏と抱き合う正恩氏を見て誰しもが、朝鮮半島の平和と安定を願ったが、韓国民は最も強くそれを望んでいただろう。
しかし、南北融和と太陽政策は、それによって、当然次の
疑問が湧く。果たして韓国の人は,在韓米軍を今後どうするつもりなんだろうか。米主導の軍事演習を続けながら、
北との和解、核廃棄なんか進めるだろうか。
南と北に主導者がいて円滑に融和が進めるだろうか。
そして果たしてボルトン、トランプというやつが
心から朝鮮半島の平和や核廃絶を望んでいるだろうか、
とてもそうは見えないんですが。
北が改心して心変わりを待つという発想は
ますます、米国を増長させ、米国の悪質さには
中国、ロシアとも、舌を巻く恐ろしさがある。
北がどんなにチャライ不良少年国家にせよ、
プーチンが聖人君子ではないにせよ、米国内に燻ぶる
二重の驚愕する闇の支配をプーチン自身は気付いており、
それと闘っているのも共感します。
韓国文在寅大統領は、オバマ氏と同様にその
影の勢力から切れ目のない嫌がらせを受けていると思います。


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