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体制保証と不可侵条約 - 文在寅と米保守派とのヘゲモニー争い

体制保証と不可侵条約 - 文在寅と米保守派とのヘゲモニー争い_c0315619_12524036.jpgトランプが米朝会談について「日程と場所は決まった」と記者団に語ったのが5月4日で、それから3日経ったが、現時点で明らかになってない。「数日内に(場所と時間を)決めるだろう」と言ったのが1日で、すでに6日が経過した。交渉が胸突き八丁を迎えていて、日程の先延ばしもあるかもしれないと不安になる。まず、文在寅の訪米が22日になるとホワイトハウスが4日に発表した。当初、文在寅の訪米は5月中旬と報道されていて、中旬といえば10日から20日の間であり、通常は15日前後を指す。一週間ほど遅れる流れとなり、結果的に下旬にずれた。文在寅の訪米は米朝会談に向けての準備と調整のためのものだから、それが一週間延びるとなると、米朝会談もスライドして先に延びると考えるのが自然だ。6月8日と9日にはカナダのシャルルボワでG7サミットが開催される。その予定を考慮すると、G7の前に米朝会談を開催するのは窮屈な日程になる。この件を報じたブルームバーグは、5日の朝鮮日報の記事を紹介し、DCの外交関係者からの情報として、「米朝首脳会談は6月第3週にシンガポールで開催される可能性が最も高い」と報じた。



体制保証と不可侵条約 - 文在寅と米保守派とのヘゲモニー争い_c0315619_12525271.jpg米朝会談にバックラッシュが来ている。板門店が開催場所の有力候補だと示唆したのは、4月30日のトランプのツイッターで、その二日前の28日に文在寅と75分間の電話会談を行った後のことだった。明らかに、この電話会談のときに板門店開催が提案され、文在寅が米朝会談の事務局を買って出る旨がトランプに具申されていた様子が窺える。演出と効果を考えれば、板門店で開くのがトランプにとってベストの選択で、また、遠隔地への外遊が不具合な金正恩にとっても都合がいい。米朝会談の合意のネックは、何より開催場所が決まらないことだった。そこで文在寅がすかさず手を挙げ、板門店を推奨してトランプの歓心を買い、ほぼ決まりの状態になっていたのだった。すべては順風満帆に進んでいるように思われていた。だが、その本命だったはずの板門店開催が危うくなり、シンガポールが浮上している。これは、米国のボルトンとポンペイオの揺さぶりであり、北朝鮮を牽制する駆け引きの攻勢に他ならない。北朝鮮にとっては開催場所が重要で、交渉の取引材料の一部になっていて、米国側は開催場所を妥協することで、交渉で合意する中身を有利にすることができるからだ。場所は場所で合意は合意という別立てではなく、両者が未分離なのである。

体制保証と不可侵条約 - 文在寅と米保守派とのヘゲモニー争い_c0315619_12530377.jpgもう一つの事情は、米政権内部での角逐と綱引きで、ポンペイオやボルトンからすれば、このままだと文在寅の仕切りで何もかもが決まってしまう。5月1日までの米朝交渉の下地は、文在寅の構想と調停の下に進められ、文在寅が事務局長となって万事を運び、それをトランプが嬉々満面で裁可するという形で進んでいた。そのことは、反共右翼のポンペイオやボルトンからすれば、米国の外交が北朝鮮のペースに乗せられることを意味する。トランプは中間選挙だけをフォーカスしていて、平和の英雄として世界から賞賛され、ノーベル賞を受賞し、国内の支持率を上げる一点だけが眼中にあるため、米朝合意の詳細については関心がない。他方、北朝鮮に核放棄をさせた後、リビアのように政権を転覆させて潰そうと狙っているのがボルトンで、当然、左派の文在寅にこの外交の主導権を握らせるわけにはいかないのだ。場所と日程をめぐる報道の揺れは、文在寅とボルトン・ポンペイオの間の左右のヘゲモニー闘争の表出であると分析できる。そのヤジロベエの中心がトランプだが、どちらかというと文在寅の側にスタンスを置いていて、トランプの発言が文在寅寄りで、それを巻き返す意図でボルトン・ポンペイオが右派マスコミにリークする構図になっている。

体制保証と不可侵条約 - 文在寅と米保守派とのヘゲモニー争い_c0315619_12531319.jpg5月に入ってから、トランプの楽観論の口調とは裏腹に、米朝交渉が難航しているのではと疑わせる徴候が見えてきた。もしそうだとすれば、果たして具体的にどういう課題で暗礁に乗り上げているのだろう。まず気づくことは、北朝鮮側が非核化でどのように要求に応じるかについては、次々とマスコミにリーク報道されているけれど、北朝鮮が米国に何を求め、米国側がどう応じているかが全く報じられていない事実である。日本のマスコミもネットも、米朝交渉について、北朝鮮を一方的に非核化(核ミサイルの武装解除)させる機会だとしか観念しておらず、二つの国家の取引の場であるという真実を見失っている。北朝鮮にも求める果実があるのだ。私の推測だが、おそらく北朝鮮は、最初にどんどん米国の要求を受け入れ、平壌に飛んだポンペイオが想定していた以上の満額回答を与えたのだろう。それは、外交上手と言われる北朝鮮の戦術であり、練り上げた老獪な方法である。米国は深みに嵌まるように、どんどん要求を押し込み、IAEAの査察と検証を受け入れさせ、ICBMの廃棄を了承させ、保有核兵器の全廃を確約させ、その期限を2020年までとコミットさせた。完全な核放棄であり、事前に予想してなかった、これ以上ない成果を(水面下で)得られた。

体制保証と不可侵条約 - 文在寅と米保守派とのヘゲモニー争い_c0315619_12532879.jpg北朝鮮が予想を超えて大胆に譲歩するから、米国(ポンペイオ)はここぞとばかり、手を抜かず押しまくって丸裸にさせることに成功したのだ。短期間にそこまで北朝鮮を譲歩させ、すなわち自己の要求を達成したとき、米国はすっかり自分が何を北朝鮮に与えないといけない立場なのか忘れていたのに違いない。非核化の内容ばかりに夢中になり、その確定と徹底のみに熱中するあまり、これが取引の場である現実を失念したのだろう。今度は北朝鮮が要求を出す番になり、米国が北朝鮮に与える条件を検討する番になった。5月に入ってからの足踏みは、現在、北朝鮮が得るものを得ようとして米国に迫っている内情を反映している。北朝鮮の作戦は、米国側を喜ばせて非核化の妥結内容をトランプにリークさせるところにあった。トランプは、北朝鮮が譲歩した内容(=米国が勝ち取った成果)を上機嫌でリークし、会談の成功を世間に印象づけ、会談への期待を高めて行った。それはすなわち、北朝鮮非核化の既成事実化であり、米朝会談成功の既成事実化である。トランプはそうすることで、米国内の慎重派(保守派・強硬派)を押さえ込む政治をやっていたのだ。文在寅と二人三脚で。後戻りできないように。邪魔が入らないように。会談成功という結果以外の事故が起きないように。

体制保証と不可侵条約 - 文在寅と米保守派とのヘゲモニー争い_c0315619_12534031.jpgだが、北朝鮮には米国に対して具体的な要求があり、合意文書に刻まなければならない国家の至上命題がある。それは、経済制裁の解除と米国による体制保証だ。それを米国がどうコミットするか、会談後にどう実効プロセスを進めるか、いつまでのタイムテーブルで完遂させるか、その中身の攻防に入っているのだろう。ボルトンとかポンペイオとかは、これまで一度もその問題を真剣に考えたことがない人間である。反共右翼のイデオロギーでしか北朝鮮を認識したことがなく、北朝鮮は武力攻撃で殲滅すべき邪悪な対象でしかなく、対話など発想したこともない。北朝鮮との平和共存などあり得ない図だ。まして、北朝鮮の要求に米国が譲歩して、体制保証の具体的措置を講じるなど、どういうコンセプトの政策かもイメージできないに違いない。経済制裁の緩和なり解消については、平井久志がテレビで解説しているように、段階的な相互の手続きで解決を図ることができる。だが、体制保証については、やはり、この米朝会談の一発勝負で包括的で決定的な合意が実現しないといけない。北朝鮮は、20年間遮二無二に、米国からそれのみを得るために、国際的孤立化と経済的窮乏化のあらゆる犠牲を払って核開発を貫徹敢行してきたのである。まさに、それこそが北朝鮮の目的の核心だ。

体制保証と不可侵条約 - 文在寅と米保守派とのヘゲモニー争い_c0315619_12535251.jpg北朝鮮が米国に求めている体制保証の具体的措置とは何なのか。以前から報道に上がるのは、不可侵条約の締結という言葉である。おそらく、シンプルにそれが本命なのではないかと推測する。「相互に相手国に対して侵略行為を行わない事を国際的に約束し、条約によって明文化するもの」。前時代的で前世紀的な響きのする言葉であり、いかにも北朝鮮らしい古典的な外交形態だが、これを米国との間で即時締結することが、北朝鮮の第一の狙いであり、核完全放棄の見返りに求めている内実なのではあるまいか。米国と国交正常化のプロセスに入る前に、平和協定移行の入口で、その前提として、これを取り交わしてくれと要求しているように見える。なぜかというと、国交正常化の事務作業はどうしても長期間になるからだ。トランプが途中で弾劾を受けて失脚し、DCを去る可能性も否定できない。そうなると国交正常化どころではなくなる。トランプが2年後の大統領選に負け、民主党政権が米朝合意を覆す可能性もある。オバマがキューバとの間で行った関係正常化をトランプが壊したように、今度は民主党政権にリベンジされ、北朝鮮との合意が白紙化される恐れがある。そのリスクを含んで計算すれば、時間をかけずに締結できる不可侵条約を結んだ方がいいという判断になるのは道理だろう。

しかしながら、相手の米国政府の方は、不可侵条約などというアイディアは全く奇想天外で、そんなものを他国と結んだ経験も前例もないし、真面目に要求されたことも検討したこともない。第二次大戦前の歴史上の知識でしかなく、米国の外交政策の範疇になく、国務省の関係者は戸惑うばかりだろう。米朝交渉はそこで行き詰まって膠着しているのではないか。


体制保証と不可侵条約 - 文在寅と米保守派とのヘゲモニー争い_c0315619_15382661.jpg

by yoniumuhibi | 2018-05-07 23:30 | Comments(2)
Commented by 七平 at 2018-05-08 08:57 x
本日、Washington Post に安倍晋三のイスラエル訪問に関し、面白い記事が目につきましたのでお知らせしておきます。  靴にデザートを入れて出すとは、、、、、、。  どうもイスラエルからも見切りをつけられたようです。

下記のリンクで記事と写真を見る事が出来ます。

https://www.washingtonpost.com/news/worldviews/wp/2018/05/07/netanyahu-puts-wrong-foot-forward-by-serving-japans-abe-dessert-in-a-shoe/?utm_term=.d8fa3a196a29

Commented by takahashi at 2018-05-08 15:16 x
ポンペオ、ボルトンの位置、米朝不可侵条約(?)など、するどい分析、予見で、事態がわかりやすく飲み込めました。ツイッターにも書いておられた、今訪朝すべき人物なども話題も含め、まさにこれ政治!おもしろいものだなあとつくづく思います(日本もこのレベルでできる政治家が全面に出てきてほしいものですね)。ありがとうございました。


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