中国による北朝鮮への核の傘の提供 - 3年前の李敦球の提言と献策

c0315619_14534283.jpg浅井基文のHPのコラムの中に、「中国による北朝鮮への核の傘」について考える上で興味深い情報がある。3年前、2015年8月20日の記事に、中国青年報に掲載された李敦球の文章が紹介されていて、そのタイトルが「条件付で朝鮮に『核の傘』を提供する可能性如何」というものだ。李敦球は中国における朝鮮半島情勢の専門家で、浅井基文の評価によれば第一人者なのだそうだ。ここ数年、環球時報などに活発に論考を寄せている。現在の肩書きは、国務院発展研究センター世界発展研究所朝鮮半島研究センター主任で、プロフィールには、吉林省延辺大学朝鮮問題研究所で修士、浙江大学韓国研究所で博士の学位を取得とある。国務院とは中国政府のことで、発展研究センターは政府系シンクタンクであり、世界発展研究所は外交部が管轄する研究機関だろう。社会科学院とは別に、あるいはクロスオーバーして、こういう政策アカデミーが動いている。この記事は、当時の韓国議会の国防委員長が、DCで開かれた国際セミナーの場で、中国は北朝鮮に核の傘を提供したらどうかという問題提起を発した事件があり、それに対して李敦球が論評したものだ。3年前からこういう議論がされていた。引用しよう。



c0315619_14535601.jpg「韓国議会国防委員会の黄震夏委員長は最近、朝鮮核問題を解決するため、中国が朝鮮に対して核の傘を提供する案を考慮の中に入れる必要があると提起した。この提案は直ちに議論を巻き起こした。ある論者は、この提案は中国の一貫した核政策に合わないのみならず、朝鮮も中国の核の傘の受け入れを望まないだろうとしている。(略)筆者としては、黄震夏の提案は極めて問題があるにせよ、簡単に全否定することもできないと考える。この提案の利点は2点ある。一つは、韓国の中にも、朝鮮核問題に関して、中国は単なる調停者の役割に留まっていることはできず、さらに大きな役割を発揮すべきであり、朝鮮に核の傘を提供することまで含みうると認識するに至っているものがいることを明らかにしているということだ。もう一点は、アメリカに対して全幅の信認がおけないこと、少なくともアメリカに完全に頼っていては朝鮮核問題の解決は難しいことを認識するに至っていることを暗々裡に示しているということだ。ということは、朝鮮核問題及び朝韓関係問題における韓米両国の利害は必ずしも同じではないということを意識するに至ったということかもしれない」。

c0315619_14541250.jpg李敦球は、韓国議会国防委員長が中国に「核の傘」の水を向けて来たのに対して、「簡単に全否定することもできないと考える」と返し、積極的に掬い取る姿勢を見せている。浅井基文が注釈しているとおり、この黄震夏の提起に対して否定的な見解を示した中国側の論者は、李彬(清華大学国際関係研究院教授)である。李彬のコメントが環球時報に載り、李敦球のコメントが青年報に載っているところから、中国政府の公式の反応は李彬の「拒否回答」だったと窺える。李彬はこう正論を言っている。「核の傘の提供は、安全保障に関心がある一定の国々が核兵器を開発することを抑制する働きを持つことは確かだが、核拡散防止の万能薬というわけではない。なぜならば、ある国家が核の傘を受け入れる場合には提供国による様々な条件を受け入れる必要があり、独立した安全保障政策を奉じる国家としてはそうした拘束は受け入れがたいからだ。(略)朝鮮からすれば、中国の核の傘を受け入れ、中国の外交政策の影響を受けるよりは、自ら核兵器を開発することの方が割に合うということだ。朝鮮が核の敷居をまたいでしまった今では、朝鮮に核の傘を提供する見返りに核を放棄させるということはもはや時すでに遅しである」。

c0315619_14544473.jpg私は、3月30日のブログ記事で「北朝鮮は中国の核の傘に入る」と書き、この結論と視点が、今回の北朝鮮の非核化外交を読み解くコロンブスの卵だと述べた。北朝鮮への核の傘という問題が、このようにすでに中国と韓国の間で議論されていたことを知らなかった。3年間の時の流れがあり、昨年のトランプと北朝鮮との間の激越な挑発の応酬があり、中国による本格的な経済制裁があり、正月からの旋回があり、どうやら中国政府の対応が、李彬から李敦球の方向へ重心が移動したと、そう分析することができるのではないか。3年の間に中国の権力の構造も変容し、李克強がすっかり失脚して習近平の一極支配となった。永楽帝的・乾隆帝的な「中国の夢」を追う習近平の独裁体制となった。李敦球はその記事の中でさらに次のように言っている。「実際のところ、カギとなる当事者であるアメリカは、朝鮮核問題を解決する誠意は一貫してなく、朝鮮核問題を利用して中露を牽制しようとする戦略的意図が露骨で余すところがない。朝鮮半島が緊張をほどよく保つことがアメリカの戦略的ニーズに合致しており、朝鮮に対する『戦略的忍耐』政策の目的は、アジア太平洋におけるリバランス戦略の展開に奉仕させることにある」。

c0315619_14551395.jpg「朝鮮核問題が長期にわたって解決が得られず、現在の軍事演習、核実験、制裁、対峙という局面が無限にくり返されるままとなると、アメリカは、これを口実にして米韓及び米日同盟のネットワークを強化して中国を抑止する力を増強できるだけではなく、これを口実にして何時でも東北アジアにおける軍事行動を実行し、紛争を作り出すことも可能となる。(略)ある意味で、中露朝韓はアメリカのアジア太平洋リバランス戦略及び対朝『戦略的忍耐』政策の被害者であり、中朝の被害は特に甚だしく、しかももっとも直接的被害者であるが、これは地縁政治の『宿命』によって決定づけられている。現在の膠着状態は無限に続けることはできず、必ずチャンスを探して打破しなければならない。(略)筆者は、6者協議の枠組みの中で、中国が条件付きで朝鮮に核の傘を提供することが可能であると考える」。この部分の主張は、私と全く同じだ。ドンピシャの正論だと同感する。そして、この認識は、4月20日にプライムニュースに出演した志位和夫が同じ意味のことを言っていた。北朝鮮核問題の本質と言える。水面下であれ何であれ、六カ国協議を北朝鮮が抜けた後、なお米国が北朝鮮と交渉を続けていた間は、北朝鮮は核ミサイル開発を止めていたのである。

c0315619_14553052.jpg北朝鮮はまだるっこしい六カ国協議を抜け、米国との一対一の直接交渉を望み、そこで体制保証の確約を得ようとしていた。ところがオバマ政権になって、「戦略的忍耐」と呼ぶ放任路線に舵を切ったため、相手にされなくなった北朝鮮は、特に金正恩が張成沢を粛清して独裁を固めた後、それならカードを豊富に蓄えて将来の対米交渉に有利に備えようとして、次から次へと核ミサイル開発をアクセラレイトさせて行ったのである。李敦球が言うように、米国は半島の非核化と平和にとことん無関心で無責任だったし、その無責任はどこに由来したかというと、台頭して太平洋に進出しようとする中国を封じ込めるためのリバランス政策だった。志位和夫は、オバマ政権後半の「戦略的忍耐」を控え目な口調で批判したが、まさにその過程を通じて、米国は韓国に圧力をかけ続け、中国寄りに立ち位置をとっていた朴槿恵に脅しをかけ、米国寄りに引き戻して南北を緊張させる方向に仕向けていた事実を想起しないといけない。あの佞悪な慰安婦問題の日韓合意もオバマの仕業だった。リバランス政策の一環だ。オリバー・ストーンが言うとおり、「オバマはヘビのような男」である。李敦球の言う「チャンス」のときは、トランプ政権の誕生によって偶然もたらされることになったと言える。

c0315619_14554190.jpg李敦球はこう言っている。「朝鮮の停戦メカニズムを恒久的な平和メカニズムに転換するプロセスが起動したあとに、朝鮮は核放棄を起動し、その際に、中国あるいは数カ国が連合して朝鮮に対して核の傘を含む安全保障上の保護を明確に提供し、朝鮮が安全保障上の後顧の憂いがないようにする。こうすることは、中朝友好協力相互援助条約第2条の精神にも合致する」。李敦球がこう書いて3年近く経ったが、結局、李敦球が書いた方向に現実が進んでいる。中国政府(習近平)が李敦球の提言と献策を採用したと、そう言うことができるだろう。今、李敦球は「我が意を得たり」と男子の本懐で有頂天の気分だろう。中朝軍事同盟の復活だ。実際に、北朝鮮はそうした安全保障上の前提がないかぎり核放棄はできない。これは、殺される前に張成沢が暖めていた北朝鮮の新方針でもあった。李敦球と張成沢の認識と思考は平仄が合っている。張成沢が処刑されたことは、李敦球にとっては断腸の事態だっただろう。が、李敦球は諦めず、北朝鮮が再び中朝友好と非核化に戻ることを忍耐強く待ち続け、チャンスの到来を待機していた。「戦略的忍耐」とは、まさに中国の北朝鮮に対する六カ国協議破綻以降の立場と態度こそを正しく指す言葉だ。

このことは、米朝会談の後に続くところの平壌での中朝会談で明らかになるだろう。


c0315619_14555227.jpg

[PR]
by yoniumuhibi | 2018-04-25 23:30 | Comments(0)


カウンターとメール

最新のコメント

岡山の者です。6日の夜か..
by 村山 at 11:26
東京五輪ボランティアのひ..
by 読者 at 10:02
今時の不作為は、行政トッ..
by アラ還 at 21:12
右傾化に強い影響を与えた..
by すずしろ at 23:44
岡山県で高校生が行方不明..
by ケン at 19:16
プッシュ型支援なんて言葉..
by 読者 at 00:46
TVでは今のところ何も..
by 荻原 理 at 03:36
天災は忘れた頃にやって来..
by 東北人 at 20:07
(先ほどのコメントを削除..
by ドローン at 17:24
色々言うけれど、この傾向..
by N at 16:03

Twitter

以前の記事

2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月

記事ランキング