シリアの「化学兵器」とイラクの「大量破壊兵器」は同じだ - 四つの動機

c0315619_17523874.jpg東京新聞が、化学兵器はでっちあげだとするシリアの反体制派の主張を記事にしている。いわば内部告発だ。共同通信が匿名で取材した情報で、タイムスタンプは英米仏の軍事攻撃の直前の13日17時33分。非常に興味深い。テレビで何度も被害の映像が流されるところの、7日に東グータ地区で起きた化学兵器使用の疑惑について、シリア政府とロシアは事実無根だと全面否定している。日本のマスコミの論調は、一部を除いてアサド政権の仕業とする見方に傾いていて、しばき隊などもアサド政権の犯行だと頭から決めつけているが、それは公平な認識とは言えない。事件について、米国も英国もアサド政権が行ったと断定しながら、その証拠を未だ示していない。軍事攻撃に踏み切った確証を正しく説明していない。証拠を握っていると口で言いながら、それを明らかにしていない。われわれがまず想起しないといけないのは、15年前のイラク戦争の真実と教訓だろう。開戦の口実として喧伝された「大量破壊兵器」は、英国の情報機関によって捏造されたウソだった。真っ赤なウソを根拠に米軍はバグダッドを空爆し、多国籍軍がイラクに侵攻した。



c0315619_17533092.jpgフセイン政権を軍事力で打倒した。その結果、8年にわたるイラク戦争が続き、推定で50万人が犠牲となった。とんでもない侵略戦争のためにイラクの人々が血を流し、その後もイスラム国の勃興とテロがあり、恐怖支配があり、戦争の惨禍と後遺症に苦しめられ、暴力に苦しめられている。あのとき、フランスとドイツとロシアと中国は戦争に反対し、国連で米国と英国を相手に論陣を張った。証拠が不十分だから攻撃は制止するようにと主張した。IAEAのエルバラダイは査察の延長を求めたが、ブッシュとブレアはそれを無視して有志連合で戦争に突入した。あのときも、世界中の多くの人々が、米国と英国の言い分を鵜呑みにし、フセインは「大量破壊兵器」を隠し持っているに違いないと信じていた。これも米国の偽情報のプロパガンダだったが、イラクとアルカイダの関係すら真面目に信じこむ者が多かった。何の証拠もないのに、米国と英国が自分の都合のいいフェイクを真実のように言い、それを西側のマスコミが流し、世界中がウソを信じこんでイラク戦争の日々が流れた。われわれは、自分の力で真実を客観的に証明することはできない。だが、理性の力で教訓を顧みることはできる。
 
c0315619_17542781.jpg騙されないように心掛けることはできる。戦争を始めるとき、侵略攻撃する大国は必ずウソをつき、口実となる「事実」をでっちあげる。北爆を正当化するベトナム戦争のトンキン湾事件がそうであり、それはペンタゴンペーパーとなり、現在、シネコンで映画が公開されている。今回の米英仏のシリア攻撃も、理性を持つ者なら、ウソの口実がでっあげられている可能性を疑うべきなのだ。重要な事実は、OPCW(化学兵器禁止機関)が14日から現地で活動を始める予定になっていたことである。10日にシリアとロシア政府の要請を受け、12日に調査団の現地派遣を発表していた。OPCWの現地視察は、満州事変のリットン調査団のようなものだが、ロシアはこれを促す決議案を10日の国連安保理にかけ、米英仏らによって否決されている。米国は、独自の調査団設立の決議案を出しているが、これはロシアが嫌って拒否権を発動した。米英仏が自分たちの都合のいいように調査して報告することを恐れたためだろう。なぜ、米英仏は中立の機関であるOPCWの調査を嫌ったのだろう。ここがよく分からない点で、事件の謎解きの重要なポイントだと思われるが、朝日も含めて日本の報道は詳細を吟味検討しない。

c0315619_17544153.jpg14日にOPCWがシリア現地に入り、調査をしようとした矢先、トランプは軍事攻撃を決断して実行した。確証が上がってないからと制止していたマティスを振り切るように、強引な軍事攻撃に踏み切った。そして、本来ならOPCWが立ち入りして調査するはずだった、「化学兵器関連施設」の疑惑がかけられていた施設を破壊した。普通に考えれば、OPCWの調査が入ると米英仏の具合が悪いから、アサド政権のシロが立証されるから、証拠が残らないよう、OPCWの調査を無意味化するべく、施設を破壊したと推測するべきだろう。怪しむべきだろう。それが、この問題に対する客観的で合理的な思考態度というものだ。もし、本当に7日の事件がアサド政権によるものであり、その「化学兵器施設」でサリンが製造されていたのなら、中立機関であるOPCWに証拠を発見させればよかったではないか。確証が得られた可能性があったではないか。なぜ、米英仏はOPCWの調査を妨害し阻止するようなことをしたのだろう。自ら「証拠」を破壊することをしたのだろう。この事実こそ、7日の事件の真相を解読する決定的な状況証拠であると私は確信する。つまり、アサド政権とロシアの言い分の方に妥当性があると考える証左だ。

c0315619_17550573.jpg今回の軍事攻撃には四者の四つの動機がある。まず、第一はCIA(軍産複合体)だ。トランプがシリアから米軍を撤退させるのに抵抗し、それを潰そうとする動機が彼らにあった。イスラエルとも繋がっていると考えていい。CIAは政府とは独立した意思と権力を持って蠢いている。米国の裏の国家権力だ。ポンペイオが国務長官になったことも大きい。第二は、英国のメイだ。彼女こそが発端で最も大きな原因だと言える。今回の問題は、例のロシアによる元スパイの暗殺未遂事件(疑惑)から始まっている。3月から始まっていたその問題は、米国やEU諸国を巻き込み、双方による大規模な外交官追放という異常事態に至って緊張が極限までエスカレートしていた。ところが4月5日になって異変があり、何と、(1)ロシアの神経剤に言及したツイッターの投稿を英国外務省が削除するという事件が起きたのだ。(2)4月4日には、元スパイ毒殺未遂の神経剤について、ロシア製だと証明することはできなかったと英国防科学技術研究所が表明した。私をロシアの陰謀論に毒されたプーチンの手先だと誹謗中傷するしばき隊に対して言っておくと、(1)はCNNの報道であり、(2)はAFPの報道である。言うまでもなく、この2件は日本のマスコミは報道していない。

c0315619_17552712.jpg15日のWSJの記事によると、すでに英国では、元スパイ暗殺未遂へのロシアの関与について懐疑論まで起きているとある。こんな状態にまでなっていた。東グータ地区で「化学兵器事件」が起きたのが、4月7日のことである。ロシアは、この事件が英国の情報機関がホワイトヘルメットに指示して起こさせた謀略だと非難している。このロシア側の主張を100%鵜呑みにできないにしても、元スパイ暗殺未遂事件の進行と重ね合わせて時系列を整理すると、一つの推理が成り立つことは誰でも頷くことができるだろう。簡単に言えば、メイが、振り上げた拳を降ろすことができなくなり、このままだと面子丸潰れで、女王陛下の英国政府がEUの仲間と国際社会の前で大恥をかき、内閣総辞職の責任論を問われる始末になるため、失態を打開するべく局面転換の鉾先をシリアに向け、東グータ地区での自作自演の芝居に打って出たという筋書きだ。つまり、目先を変えるべく、スピンのオペレーションに出たという解読である。思い出していただきたいが、2013年8月、英国議会が徹夜の討論の末に、オバマのシリア攻撃に参加しようとするキャメロンの提案を否決したのは、やはり、化学兵器使用疑惑が起きて映像が流され、世界が騒動になった直後のことだった。

c0315619_17553875.jpg第三は、きわめて分かりやすい役者と動機だが、11月の選挙で票が欲しいトランプである。最初、トランプはシリアからの撤兵で人気取りをしようと策していた。内戦はあらかた決着がつき、シリアはロシアのテリトリーとして確保される見通しとなり、イスラム国も退治されたので、これ以上米軍を駐留させる必要はない。コストも嵩むので、シリアから軍を引き揚げようとしたのである。米国第一主義のトランプらしい判断だ。が、シリアを軍事攻撃して、独裁者アサドを叩いて人権派の溜飲を下げさせることも、それもまた票取りにはなる派手な政治演出に違いない。CIA(軍産複合体)は、シリアからの米軍撤兵に抵抗し、トランプがシリアへの米軍駐留維持に改心する魔法の杖を探していた。そうしたトランプに、軍事攻撃を正当化できる条件を与えたのが英国とフランスで、単独ではなく3カ国共同なら十分に正当性を確保できる。メイに誘われ、トランプはあっさり旋回して決断した。このあたり、湾岸戦争のときのサッチャーとブッシュの関係に少し似ている。元スパイ暗殺未遂問題、すなわち外交官追放の応酬が焦げ付き、ロシアに対して振り上げた拳を降ろせず窮地に立っていたのは、メイだけでなくトランプも同様だったので、シリアの化学兵器疑惑と軍事攻撃は渡に船だったのだ。

第四は、言うまでもなく、てめえの旧植民地をロシアから奪回したいフランスの卑しい泥棒根性である。小物のフランスは姑息に立ち回り、今回の軍事攻撃で米国を嗾ける急先鋒に立ってあくせく扇動していた。地上軍をシリアに出す軍事力もなく、イラクの米軍のように治安維持の泥沼のリスクも負えず、何の責任能力もないくせに、英米仏と3カ国揃うと正当性の格好がつくので、お先棒を担いで米国を引っ張り込んだのだ。15年前、安保理での華麗なスピーチとディベートで世界を唸らせ、国連憲章の意義を訴え、侵略戦争反対を唱えて人々の溜飲を下げたところの、あの映画俳優のようなドビルパンの活躍が嘘のようだ。人権が、国内の弾圧が、強権独裁が、と言うのなら、イラクのサダム・フセインも同じだったではないか。あのとき、IAEAに時間を与えろと言ったのはフランスだった。なぜ、今回、OPCWに時間を与えよと言えないのか。フランスには恥を知れと言いたい。


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by yoniumuhibi | 2018-04-16 23:30 | Comments(4)
Commented at 2018-04-18 03:48 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 七平 at 2018-04-18 12:29 x
今晩 NY 時間、午後9時52分付けで CIA 長官兼、国務長官候補のポンペイが キムソンイルと Trump-Kim の会談設定の為、直接会談を持ったと New York Times が報じています。 Google 検索、キーワード ” Mike Pompeo, C.I.A. Director, Is Said to Meet With Kim Jong-un in North Korea” で検索すると該当記事に到着します。

明らかに Korean War を終結する方向で米国、中国、韓国、北朝鮮が動いており、北朝鮮の脅威を売り物にしてきた、安倍晋三は相変わらず蚊帳の外、足元が完全に救われた状況です。 米国内で窮地に立たされているトランプは、自らの保身を計るためにホームランが必要であり、北朝鮮に対して強硬策はとれないと思います。 

安倍晋三と取り巻きがトランプ訪問の為、用意していた筋書きと原稿は大半使えない状態になり、バランスを失った晋三が大変な譲歩を強いられ、役にも立たない武器の購入に対しコミットしなければ良いのですが、、、、。 とてもゴルフをするような雰囲気ではないはずです。

今までのトランプに対する、安倍晋三のゴマすりが如何に無意味であったかが判明すると考えます。 この21世紀に教育勅語を売り物にするような人物が、刻々と変わりつつある世界情勢についていけるはずがありません。 
Commented by Columbites at 2018-04-19 22:15 x
筋の通った論説、お見事です。確かに今回は英仏が仕組んだものかもしれません。一方、米CIAの悪事はなぜ追求されないのでしょうか?「◯◯の春」の名の下に内政を掻き回され、内戦状態にされた国は枚挙にいとまがありません。夥しい数の犠牲者や難民を生んだ責任を誰が取るのでしょうか?
Commented by 読者 at 2018-04-20 14:51 x
今回の騒動、事務次官が記者クラブと一体となった貢物と捉えた云々に同意します。
記者クラブというありかたに疑問を持っています。諸外国みたいに、フリーランスの記者含めて、記者会見で真剣勝負すればいいんですよ。夜、何回も呼び出されてオフレコでネタをもらおうとするとか、そういう日本のマスコミの在り方がおかしいです。なので、今回の件では特にかわいそうとか、そういうふうには思いません。
気の毒なのは、麿とか呼ばれていた、どこがいいのかわからない男アナウンサーの被害に遭った女性とか、避けられない立場の人ですね。
麿なる人は札幌放送局勤務の時に、釧路とかそういうところへ出張して、出先の契約キャスターにと。弱い立場の女性に、最低です。釧路なんて本当に仕事もありませんし。こういう悪事をしていて、よく、フリーになれると思ってたものですね。


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