パキスタンの核と北朝鮮の核 - 北朝鮮非核化は後戻りできない動き

c0315619_15594346.jpg4月4日の報ステで、北朝鮮の非核化は本物かというミニ特集を放送していた。過去の非核化の3パターンを紹介し、①パキスタン型、②リビア型、③南アフリカ型を説明、その上で、韓国は北朝鮮を南アフリカ型へ持って行くつもりだという韓国政府関係者(匿名)の意向を報じていた。パキスタン型は先に支援を与える方式、リビア型は先に核放棄させる方式、南アフリカ型は支援と核放棄を同時に行う方式、という整理である。①のパキスタン型は失敗例で、結局、国際社会(米国)はパキスタンの核保有を黙認する結果となったので、②か③でなければならず、③が有効で現実的ではないかというのが番組の報道の趣旨だったと思う。パキスタンの場合、パキスタンの方から支援を求めて核放棄を交渉条件にしたわけではなく、逆に南アフリカの場合は、アパルトヘイト策への制裁で音を上げていた南アフリカが、どうしても制裁解除を必要としていたため核放棄を差し出したのだという解説が与えられ、今回の北朝鮮も自ら非核化を言い出した南アフリカ型と同じだから、巧く持って行けるだろうという韓国当局筋の見通しと自信が示されていた。



c0315619_16003789.jpgこの三類型の説明は、それなりに興味深いし説得力があるけれど、パキスタンの例については説明が不十分で、一面的な議論であり、視聴者をミスリードさせる報道であるように思われる。パキスタンの核を説明するときは、必ずインドの核について触れなくてはいけないし、その要点を欠いた認識は無意味で正しい理解を得ることはできない。簡単に言えば、国際社会がインドの核保有を止めることができなかったから、パキスタンの核も放棄させられなかったというのが問題の本質であり、パキスタン非核化に失敗した真の理由である。支援と核放棄のトレードの順番とかタイミングとかは二の次の問題で、それだけが核放棄の成否を左右する決定的な条件だというわけではない。核放棄が成功したり失敗したりは、各国によって事情が異なり、国際政治の中での力関係が異なっている。国際社会が一致結束して経済制裁で締め上げれば、通常はリビアやイランのような解決に落ち着く。だが、そうでない場合は、イスラエルやインドのような結果になる。インドの核は、米国が積極的に容認したもので、米国の思惑と差配でNPT枠外という例外扱いが与えられたものである。

c0315619_16013569.jpgインドの核を認めてしまった以上、米国はパキスタンの核を放棄に追い込むことはできず、黙認せざるを得なかった。それは当然のことで、片手落ちになるからである。米国がインドに核武装を許したのは、アジア大陸の全体に中国の覇権が及ぶことを阻止するためであり、中国を牽制する有力な大国をアジアの一角に作り、アジア世界をプルーラルな状況にして維持するためだ。インドの核武装の発端はパキスタンの脅威で、パキスタンの核武装もインドに対抗するための措置であり、非核化するならどちらも一緒に同時に非核化させなくてはいけなかった。インドの核保有を認めた以上、パキスタンの核保有にも目を瞑らざるを得ない。そのようにしてパキスタンの非核化は成らなかった。だから、支援を先に申し出たから失敗したとか、先に強く非核化を要求すれば奏功したとか、支援(制裁解除)と非核化を同時にやればよかったとか、そういうタイミングのトラックの設計の問題ではないのだ。パキスタンの核とインドの核はセットの問題で、したがって、単独で片方を取り上げて非核化論の分析を言い、何か法則性を発見したように言い挙げる言説は適当ではない。認識の方法が誤っている。

c0315619_16030027.jpgだが、北朝鮮の非核化を考える上で、パキスタンの例は別の意味で非常に有意味な視野と観点を提供してくれる。それは、非核化の一般論を考える上できわめて有効な材料だ。また、その問題への着目と考察こそ、北朝鮮の非核化の真相と成否を浮かび上がらせると言っていい。それは、その国の核武装が誰を相手にしたものかという問題である。パキスタンの相手はインドだった。インドの相手はパキスタンだった。イスラエルの相手はエジプトやイラクやイランなど中東イスラム諸国だった。イランの相手はイスラエルだった。果たして、北朝鮮の相手は米国なのである。パキスタンは、これまで1998年の1回しか核実験を行っていない。わずか1回しか核実験を行ってないのに、核保有国となり、核兵器を戦力として保持し配備している。核弾頭付き中距離ミサイルの照準を合わせているのはデリーだろう。北朝鮮は、過去6回にわたって核実験を行っている。ちなみにインドは2回。パキスタンは1回、インドは2回しか核実験を行ってないのに、どうして北朝鮮は6回も核実験を行っているのだろう。弾頭の完成度の課題があり、小型化とバリエーションの問題があり、技術開発上の必要があるからだ。

c0315619_16020894.jpg北朝鮮の核は、相手(安全保障上の脅威)が米国だから、パキスタンのようなシンプルな核兵器では済まないのである。具体的に言えば、ICBMに搭載して北米大陸を狙う核だけでなく、潜水艦発射のSLBMの核も開発しなくてはならない。在日米軍基地やグアムを狙う中距離核もある。米国に対抗するという目的があり、軍事計画として多種多様の核を量産する目標があり、技術的な水準と難易度が高いから、核実験を何度も繰り返さないといけないのだろう。そしてどうやら、未だ有用な小型化には成功していないように見える。北朝鮮の核は、米国と軍事的に対抗するためのもので、気宇壮大な規模と能力をめざして開発が進められていたという事実と前提、この点を押さえることが重要ではないか。それはそもそも不可能なことで、どこかの時点で中止を決断しなくてはいけない事業で、機会を捉えて和平交渉(非核化外交)に転じて成果(体制保証)を得なくてはいけない戦略だった。おそらく、金正恩は、それを韓国に文在寅政権ができた今だと判断し、平昌五輪を助走路にして戦略転換に打って出たのだろう。米国の軍事力から自国を防衛する核装備など、小国で最貧国の北朝鮮にはもともと無理なのだ。核の開発と維持には膨大な資金が要る。

c0315619_16031310.jpg核開発と核装備に必要なのは資金力だけではない。核実験のための国土が条件として要る。核保有国はほぼ例外なく広大な面積を持ち、あるいは海外領土を持っていて、自国住民に害が及ばないような遠隔の島嶼や砂漠を実験場として使っている。北朝鮮は小国で、面積は北海道と同じという狭さである。昨年、北朝鮮の核施設で坑道の崩落事故が起き、山岳地形が崩壊して多くの犠牲者が出たという報道があった。また、放射能漏れで住民の健康被害が発生しているという情報も流れている。事実であれば、国土の狭い北朝鮮はこれ以上の核実験を続行することができない。正常な判断力を持った国家指導者ならば、そう考えて当然だろう。日本のマスコミや右翼や左翼が言うように、たしかに、北朝鮮の核は30年の長きにわたって国家を挙げて営為してきた事業で、あらゆる犠牲を払って手に入れた財産である。けれども、その核は周辺国の軍に対する抑止力ではなく、米軍に対する抑止力であり、そうでなくてはならないものだ。その構想と目標からして現在の到達水準はあまりに低く、早い話が使いものにならない。そして、核実験場の土地がなく、中国による経済制裁で締め上げられた環境では、満足できる核軍事力の保持達成は困難である。

c0315619_16032302.jpg金正恩はそう判断したのだろう。現時点は、もうすでに、北朝鮮の核放棄は本物かなどと詮索して喋々するような段階ではない。北朝鮮非核化は、国際政治のリアルにおいて半ば done されたマターであり、刻一刻と既成事実化が進んでいる。北朝鮮非核化は、一人歩きするように、コックリさんの自動制御運転のように、国際社会の期待を霊力のエネルギーとして、推進力がついて前へ進んで行く。仮に、米国が体制保証にコミットせず、取引が成立せず、5月の米朝会談で北朝鮮の非核化が破談になっても、北朝鮮は核実験の挑発に戻ることはしないだろう。喫緊の最優先課題であるところの、中国による経済制裁の解除を得るべく、中国との間で非核化外交を成就させ、中国と韓国の導きに拠って非核化の工程を実行して行くはずだ。米国が頑として体制保証を与えず、軍事オプションを示唆する態度を示した場合、そのときは、韓国・中国・ロシアが4カ国協議のスキームを作り、そこで北朝鮮非核化のプロセスを具体化し、制裁解除と支援の道筋を決めるものと予想される。その枠組みが出現したときは、最早、北朝鮮への圧力を声高に唱える勢力はなくなり、米国もその流れに追随せざるを得ない。

この動きは後戻りできない。
前へ進むしかない。誰か一人の意思で(トランプの意思で)方向と着地を決められるものでもない。

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by yoniumuhibi | 2018-04-06 23:30 | Comments(1)
Commented by 愛知 at 2018-04-23 04:54 x
27日の南北会談に備え、DPRKからパンムンジョム(板門店)で携帯電話が使えるようになることを韓国側に求め、韓国側もそれに応じるとして、通信を可能にする特殊車両(電波の中継車)の持ち込みを進めると、タカ派の聯合通信が伝えていました。聯合通信ですら―――青瓦台関係者は北朝鮮が携帯電話の使用について協力を要請してきたことについて、「首脳会談で積極的に何かを成し遂げようとする思いがあるようにみえる」―――と結んでいます。日本の軍産学巨大メディアには都合が悪いのでしょうが、南北の和平交渉が動き出すことに期待します。貴下、記事における正鵠を射たメディア批判に感謝します。


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