金正恩はトランプの前で非核化宣言する - 米国と北朝鮮の思惑と戦略

c0315619_16422904.jpg中朝会談の結果の意味づけについて、4月1日のサンデーモーニングで、遠藤誉が、中朝軍事同盟の確認と復活という本質をついたコメントを述べていた。日本のマスコミ報道では、米朝会談を前に中国の後ろ盾を得たとか、米朝会談が決裂しても大丈夫なように中国の保険を確保したとか、そういう抽象的な表現で纏めている論評が目につく。平井久志や平岩俊司がテレビでそうした解説を流している。この言い回しも間違いではないけれど、国際政治の分析としては曖昧で、この政治の実相について正確な認識を視聴者に供しているとは言えない。不足がある。新華社の報道が伝えた習近平の言葉、「我々は中朝の伝統的友誼を絶えず伝承していくべき」の「伝統的友誼」とは、中朝軍事同盟のことを指すと判断すべきで、北朝鮮の安全を保障する中国の集団的自衛権の存在と行使が暗示されていると考えるべきだろう。今回の中朝首脳会談の意義は非常に大きく、北朝鮮の戦略的立場からすれば、正月から始めた一連の平和攻勢プロジェクト(=非核化外交)を、半ば成功させたと言い切ってよいように思われる。



c0315619_16424450.jpgなぜなら、米朝会談が決裂しても恐いものはないからで、中国による体制保証を得たからである。北朝鮮は中国に対して非核化を約束し、中国から見返りとして体制保証(=核の傘)を調達した。今回の中朝会談の意義については、こう考察して結論づけるのが正鵠を射た見方だと言えよう。すなわち簡単に言えば、金正恩はトランプと向き合って5秒後に、北朝鮮は非核化しますと宣告すればいいのである。大統領のお望みどおりに、ご要望に沿った時期と手順と検証方法で、非核化をプロセスしてゴールしましょう、それで結構です、異存はありませんと、そう言えばよいのだ。そして、こちらはそうしますが、そちらはどうしてくれますかと取引内容を尋ねればいい。軍事攻撃しないと確約をもらえますか、米韓合同軍事演習は中止してくれますか、金融制裁の解除と国連制裁決議の白紙化をお願いできますか、休戦協定を平和協定に変える和平会議を始動していただけますかと、そう聴いていけばいい。そこでの合意を求めればいい。合意が得られなかった場合も、国際社会に対して非核化を宣言して、具体的な実行プロセスを明示し公約すればいい。

c0315619_16425866.jpgそうすれば、米国が共同歩調しなくても、中国と韓国とロシアが四カ国協議を開催し、北朝鮮の非核化を正式にエンドースし、北朝鮮への経済制裁の緩和を決議して、国連安保理決議の一式を解除させる環境作りに動くだろう。EUが韓国と中国に同調するのは明らかだから、米国が協調しない場合は米国が孤立する。もともとトランプは、11月の中間選挙の集票を目的にして北朝鮮との対話に舵を切ったのであり、金正恩が非核化をコミットしてテーブルの上に差し出せば、必ずそれで何らかの合意に応じ、二人で握手する絵を世界に配信するだろう。トランプの狙いは、何度も言うように、中間選挙に向けて宣伝材料となる外交実績である。オレは北朝鮮を屈服させて非核化を勝ち取ったぞ、オレの前で金正恩は頭を下げたぞ、オレは無能なクリントンやオバマのような外交失敗はしなかったぞ、オレは北朝鮮にびた一文払うことなく非核化を約束させ、米国の安全と同盟国の平和を守ったぞ、これがオレの MAKE AMERICA GREAT AGAIN だぞと、選挙キャンペーンで自画自賛したいのであり、そのアピールの目玉として米朝会談を位置づけている。

c0315619_16432111.jpgだから、よほどのことがないかぎり、トランプが米朝会談を反故にする可能性はないし、必ず米朝会談成功という華々しい外交舞台を演出し、金正恩と握手するツーショット映像を全世界に発信して派手にプロモーションするだろう。おそらく、トランプはあまり具体的な中身を詰めた合意はしないはずで、北朝鮮の非核化を米国が認め、関係改善に向けた協議をスタートするというアバウトな成果に止めるものと私は予想する。なぜかというと、11月の中間選挙が終わったら、トランプにとって北朝鮮はもう用済みだからだ。使い捨てにするだろう。だから正直なところ、どこまで実のある米朝融和になるかは不透明で、体制保証の中身となる軍事演習の中止を約束するとか、国連制裁決議の撤回に応じるかどうかは疑問だと言わざるを得ない。歴史的な米朝会談でのトランプの派手なパフォーマンスのあと、具体的な外交実務を引き継ぐのが、極右分子のボルトンとポンペイオの二人だという事実も、首脳会談以後の予測を悲観させる条件である。私は、11月を過ぎたらトランプは再び元に戻り、米朝危機を再現再演する方向に変わり身するのではないかと懸念している。

c0315619_16435855.jpgトランプという男はそういう思想と個性を持った政治家で、目先の選挙での勝利しか眼中になく、支持率と票数しかフォーカスしていない。政策だの外交だのはすべてテンポラリーな道具であり、使い捨ての駒であり、直近に迫ったゲームやバトルに勝利することを目標とし、その達成のために動員し統合しオプティマイズする要件でしかない。だから、選挙のためなら、あれほど親密な信頼関係を誇示した安倍晋三の悪口も平気で言うし、日米関係のモードをフレンドシップからフリクションへと一変させるのである。そうしたトランプ流の政治行動様式が、ビジネス型の「脱DCの政治」と表象され、米国の保守層や没落白人層から支持と人気を得ている現実がある。もう少し深読みして予測を言うと、おそらくトランプは、核放棄(非核化)にあたって北朝鮮から経済支援の要求を出させ、それを日本に肩代わりで支払わせるという外交演出をやるのではないか。米国はびた一文払わない。見返りの経済支援は与えない。だが、それを敢えて要求させ、その巨額の代金を日本に支払わせる。たとえば1兆円。そのことを米国民にアピールする。日米同盟の価値を米国の有権者にデモする。

c0315619_16441191.jpgこうした外交演出は米国民にウケるのだ。トランプは中間選挙でこう演説する。武力がなく無能な日本は北朝鮮を非核化させる力がなく、オレと日米同盟に頼ってきたので、オレは力を背景に北朝鮮を締め上げて金正恩に核放棄を約束させた。そこで対価を求められたので、これは安全保障のコストだぞと言って安倍晋三に請求書を回して払わせた。当然のことだ。米軍は血を流して日本を守ってやっている。日本がカネを払うのは当たり前じゃないか。1兆円で北朝鮮の核脅威を取り払えるんなら安いものだ。安全はただでは買えない。こういうトランプの侮日トークを、米国の保守層や没落白人層は飛びついて喝采するのであり、日本に対して「巧く騙されている」とか「掠め取られている」という根拠のない非合理的な被害者心理 - それは製造業の競争で負けたコンプレックスの裏返しだが - がくすぐられ、米国人の優越意識を満足させ、トランプに一票入れる動機が形成されるのである。トランプはその真実をよく心得ていて、大統領選のときもキラートークの一つに据え、繰り返し反日スピーチを捲き散らして票を稼いだ。だから、北朝鮮に金銭対価を要求させることは戦術上必要なのだ。

c0315619_16442400.jpg一方、日本の方はどうなるかというと、トランプと金正恩が握手する絵が大々的に報道され、世界が祝賀ムードに染まるわけだから、そこから空気がガラッと変わり、日朝対話一直線へとマスコミの論調がシフトするだろう。1兆円払うのは国益にプラスだなどという言説をマスコミが刷り込んで世論を誘導し、圧力のための圧力は無意味だったとか反省の弁を垂れ、日朝平壌宣言に立ち戻ろうと言い、利権目当てに我先に訪朝する者が出てくるだろう。いずれにせよ、仮に5月の米朝対話が破談になり延期になったにせよ、あるいは、5月の歴史的合意のあとで再び米朝が不具合に変化したとしても、北朝鮮は非核化を国際社会にコミットするのであり、そこからの後戻りはないのだ。核放棄を宣言し、IAEAの査察を受け入れ、時間をかけて段階的に非核化を実現する。その枠組みを中国と韓国とロシアの三カ国が構築して保全する。習近平が平壌を訪問する。北朝鮮の輸出入の9割を占める中国が交易解禁へ向かう。中国が国連の主導権を握り直して制裁解除へとドライブする。中朝軍事同盟に対して米国が正面から歯向かうということはできない。その間、南北間の交流と対話もディープにテンポよく進展する。

追いかけて日朝対話も進み、平壌に日本政府の連絡事務所が置かれる。経団連やアカデミーの代表団が訪朝する。日朝平壌宣言の第2項に基づいて日本が北朝鮮に経済支援するであろう1兆円は、過去の植民地支配の清算の名目のものだが、北朝鮮の高速鉄道や高速道路や工業団地などのインフラ整備に使われ、日本企業(ゼネコンJV)が現地で工事を請け負う事業形態になるだろう。11月以降、ボルトンとポンペイオが不逞な画策をして米朝関係再悪化の挑発を試みても、北朝鮮の非核化は揺るぎない構図と進行に固まっていて、周辺国(中韓日)による支援競争と投資競争と利権競争が活発化する状況となっているに違いない。期待をこめて、私はそう観測する。


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by yoniumuhibi | 2018-04-02 23:30 | Comments(1)
Commented by りょう at 2018-04-04 10:57 x
韓国の文在寅の巧みな外交があったからこうなったのか、それとも文在寅なしでも、結局はこうなっていたのでしょうか?


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