忖度ではない、権力犯罪だ - 公文書管理法ではなく刑法の問題だ

c0315619_15384760.jpg森友問題をめぐるマスコミ報道の論調と態度で、気になる点が幾つかある。その一つは、この問題を官僚の忖度の物語に仕上げようとする言論が目立つことだ。やたらと忖度という言葉を使って問題を説明する者が多く、そういう場面に出くわすことが多い。19日のプライムニュースに出演した岩井奉信の発言が顕著だったし、参院予算委の集中審議で質問していた民進党の大野元裕もそうだ。野党が質疑で、官僚が忖度したのではないかとか、官僚の忖度を招いたのではないかという質問を発すると、安倍晋三は嬉々満面の得意顔になり、答弁でも「忖度」という言葉を連発して、そのようなことは分からないと言う。忖度とは「他人の気持を推し量ること」の意味だから、相手がこちらのことをどう推量しているか、どのように意思を汲み取っているかは、こちらは明確に分からないし、そういう二者の関係になる。二者の関係は物理的には切断されている。つまり、安倍晋三と官僚という関係の中で、官僚が何か忖度して行政の行為を起こしたとしても、それは官僚が勝手にやったことで安倍晋三には責任はないという構図になる。



c0315619_15390006.jpgだから、野党側が「忖度」という言葉を頻用すると、安倍晋三は大喜びでそれに乗り、答弁でも「忖度、忖度」と言い散らし、この問題を「忖度の物語」に演出し印象づけようとするのである。安倍晋三を擁護する側は、意図的に「忖度」の言葉を多く使い、「忖度」をキーワードとして強調し、官僚の忖度で全てが終始した事件であるかのように表象化に努めている。その意図するところは、安倍晋三の責任を無化することであり、背任や文書偽造から免責することである。官僚が勝手にやったことで、責任は忖度した官僚の側にあるという結論で総括することだ。そのために、繰り返し「忖度」という言葉をマスコミ空間で捲き散らしている。この問題を「官僚の忖度の物語」に描く言説は、真実から人々の目を逸らす撹乱工作であり、事件を矮小化するものだと言えるだろう。昨年、TBSの時事放談だったか、藤井裕久がコメントで、森友か加計かどちらだったかは忘れたが、こうした問題で官僚が忖度などするはずがなく、上から指示を受けての対応であると断言する場面があった。18日のフジテレビの番組でも、片山善博が出演して同じ認識を示していた。

c0315619_15391136.jpg例えば、盲点として以下の指摘をしたいが、12日に仕上がって国会に配布された財務省の78ページの報告書である。NHKがウェブサイトに公開し、朝日新聞は13日の紙面を2面使って全体を掲載した。この報告書は誰が承認して完成したものなのか。その点を質問する者はいない。現在、報告書に収められた14の文書のうち、特に安倍昭恵の関与が記されている本省案件の改竄前文書が怪しいということで、疑惑の焦点になっていて、野党が、一部ではなく全部を見せろと要求している。この報告書も政府文書なのだ。当然、12日早朝に印刷して製本する前に、これでいいかという査閲と承認のプロセスが入っている。形式的には、大臣の麻生太郎が責任者となるだろう。であれば、野党は、いつ麻生太郎がこの報告書を承認したのかを問うべきで、9日から11日の3日間の作業の間、官僚側から何度ドラフトが上がったのか、どういう整理と要約の方針になったのか、経過を追及して突き止めるべきだろう。これが改竄前の文書ですと提出された文書は、実は真正な原本ではなく、作業過程で加工編集されたもので、重要な一部が隠蔽されている可能性がきわめて高い。

c0315619_15392411.jpgすなわち、リアルに想像を廻らせば、週末9日に佐川宣寿が辞任して、週明け12日に改竄について報告書を出すとコミットした時点から、理財局内で報告書作りの突貫工事が始まり、どういう内容にするか、どこまで見せるか、辻褄を合わせられるか、破綻する心配はないか、そういう密議と細工がずっと行われ、全体が入念にチェックされ、78ページに纏めたはずなのだ。菅義偉が原稿に目を通してないはずがないし、途中報告を受けてないはずがない。ここをこう変えろと指示も出しているだろう。この報告書は、ずっと国会審議で使われるもので、野党とマスコミが政府を追及する材料になるものである。菅義偉が監査してないはずがないではないか。真正と言いつつ、実は改竄や隠蔽をしたものならば、その指揮命令ができるのは菅義偉と安倍晋三だけだ。理財局長以下の役人は、ただその指示に従って動くだけで、いわば精密なロボットであり、主人を最後まで守る飼われたイヌである。私の推測を言えば、きっと3日間の作業中に何度か改訂版が上がり、バージョンが更新されていて、途中の段階のものを官僚が(命令に背いて破棄せず)秘かに隠し持っているだろう。

c0315619_15393534.jpg今回の問題は「忖度の物語」ではない。事件を概念化するキーワードとして設定されるべきは、「忖度」ではなく「権力犯罪」である。マスコミ論者は「権力犯罪」という言葉を使ってこの問題を説明しないといけない。権力犯罪とは、「権力を有する組織や個人が、その権力を乱用して罪を犯すこと」である。文書を偽造したのも、国有地を不当に安く払い下げしたのも、官僚が政治権力者の意向を慮って勝手にやったことではなく、権力者が官僚を動かしてやったことだ。そこには指示と服従の契機がある。法的な権力関係がある。人事権と地位と立場がある。安倍政権を擁護する者たちは、「忖度」という言葉を派手に振り回し、この問題の言論空間に氾濫させ、下の者の主体性で事件が起きて積み重なったかのような絵にしようと言説工作している。「忖度」という言葉は、安倍晋三の権力犯罪の真実を隠す目眩ましの語であり、安倍晋三の責任を不問にする言語道具である。この事件は、「忖度の物語」ではなく「権力犯罪のデパート」と呼ぶべきで、容疑は、(1)刑法247条の背任、(2)刑法104条の証拠隠滅、(3)刑法156条の虚偽公文書作成と並ぶ。意思のベクトルは上から下への方向だ。

c0315619_15394955.jpgもう一点、安倍晋三を防護しようとするマスコミの手法で目につくのは、公文書管理の制度論に焦点を合わせる言説工作である。三宅弘を前面に立てて、官庁の公文書管理のシステムに不備があるとか、役人の心構えに欠陥があるとか、そういう的外れな議論で埋めている。これもスリカエであり矮小化だ。お茶濁しだ。17日のTBS報道特集でもそうした説明を延々とやっていて、見ていて不愉快な気分になった。公文書管理法というのは、国民への情報公開のサービスを問題にした法律で、情報開示を正しくするために文書をこう保管せよとか、開示請求にはこう対応せよとかを細かく規則に定めたものだ。新しい法律で、制定されてまだ10年しか経っていない。今回の問題は、財務省の文書改竄の一件についてさえ、NHKが検察のリークで伝えているように、虚偽公文書作成と行使の容疑で捜査が準備されている。刑法156条の違反なのであって、公文書管理法の違反ではない。公文書管理法のマターではない。中身がまるで違う。本質が異なる。三宅弘が専門で解説する行政の問題ではなく、立花隆が分析・推理しなくてはいけない巨悪の問題だ。大きな権力犯罪があり、その一つの側面として虚偽公文書作成があったという問題だ。

忖度の物語ではなく権力犯罪の物語である。公文書管理法の問題ではなく刑法の問題である。

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by yoniumuhibi | 2018-03-22 23:30 | Comments(3)
Commented by memoryofart at 2018-03-22 21:09
同感です。
「秘書がやった」との政治家の弁解と同じロジックだと思います。
Commented by 愛知 at 2018-03-23 00:59 x
貴下ご指摘の通りです。自身が決済に関係する事案は多額でも3億円程度です。これは珍しくも何ともない金額だと思います。そんな中で、自民党国会議員秘書の名刺を持つ方などが年に数回、いろいろ「厳しいご意見」を寄せられます。自分が関わっている業界では、右翼団体からのご意見もひとまとめに「厳しいご意見」と称しています。それは今に始まったことではなく30年も前からありました。ただ仕事を覚える頃、そういった「厳しいご意見」を受け入れることは、クライアントの株主、ひいては公への背任だと教わってきました。忖度などという言葉を聞いた覚えはありません。前回の貴下記事、イデオロギーへの背信というよりも、やはり今回ご教授の通り、市民への背信というべきであり、忖度など政権側のご都合に過ぎないと思います。
Commented by 長坂 at 2018-03-25 13:56 x
2月のシンゾー・トランプの電話、「1時間以上にわたって主に北朝鮮情勢について、率直な意見交換を行いました。」更なる圧力で一致、「経済対話についても少し話しをしました。」トランプの税制改革で日本企業の投資が増えるヨイショ。で最後はお決まりの日米同盟は決して揺らがない。官邸の発表だと殆どは北朝鮮対応だったと。その時の田中さんのツイートが確かそんな事の為にトランプは1時間も電話しない、鉄鋼関税の話しだ。覚悟しろよみたいな、、、ビンゴですね! 朝日の駒木論説委員があの電話でトランプは「習近平は良い奴だ。彼のことは好きだ。だが、貿易でやってきたことはとんでもない」と言った後で、「それは日本も同じことなんだぞ」と警告していたとツイート。
日本のメディアも外交専門家も二言目にはトランプは予測不能と言うが、ここ1ー2カ月の「世に倦む」をちゃんと読んでと言いたい。米朝対話にしろ貿易制裁にしろかなり前から的確に分析、予測されてますよ。


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