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敵基地攻撃能力から核武装へ - 安倍晋三の前に屈服して沈黙のマスコミ

敵基地攻撃能力から核武装へ - 安倍晋三の前に屈服して沈黙のマスコミ_c0315619_16473905.jpg射程900キロ超の長距離巡航ミサイルの導入を防衛省が決め、来年度予算で調査費を計上した件が報道され、マスコミで少しだけ話題になっている。これは敵基地攻撃能力の保有であり、自衛隊の専守防衛の逸脱ではないかと懸念を示す声が、ほんの少しだけ微かに聞こえる。具体的な装備の内容は、F35Aに搭載する射程900キロのミサイルで、現在の自衛隊機のミサイルの射程の5倍を超える距離になり、北朝鮮の大部分と中国の沿岸部が攻撃範囲に入ることになる。小野寺五典は、これはあくまで日本を防衛するための装備で、敵基地攻撃を目的としておらず、専守防衛に反するものではない、と言っていて、懸念を打ち消す発言をしている。報ステの後藤謙次は、議論が少なすぎるとコメントしていた。国会で議論がなく政府の説明が不十分だと後藤謙次は言いたいのだろうが、国会で議論がないのなら、どうしてマスコミがこの問題を詳しく特集して問題提起しないのだろうと、テレビの前で苛立つ気分を押さえられない。明らかに、今回の措置は敵基地攻撃能力保有の第一歩であり、改憲保守側の長年の悲願であった政治目標の達成であり、自衛隊の専守防衛という国家原則の破壊なのに、その恐ろしい政治的意味についての指摘と警鐘がない。



敵基地攻撃能力から核武装へ - 安倍晋三の前に屈服して沈黙のマスコミ_c0315619_16475734.jpg12月13日の朝日の社説は、「その導入は、敵のミサイル基地をたたく敵基地攻撃能力の保有に向けた大きな一歩となりかねない」という書き方をしていて、敵基地攻撃能力の保有であるという明確な認識を示していない。政府側に配慮した消極的な物言いに見える。実際には、敵基地攻撃能力の保有を一貫して訴え、自民党内を強力に主導してきた男こそ小野寺五典で、今回の予算計上はそれが政府の行政施策として遂に実現した瞬間に他ならない。今年3月、自民党の安全保障調査会は「敵基地攻撃能力の保有」を早期に検討すべきだとする提言をまとめ、それを安倍晋三に提出している。巡航ミサイルがその中身で、提言検討チームの座長は小野寺五典だ。この3月の時点で、巡航ミサイルが敵基地攻撃能力であることが明確にされ、それを保有せよと小野寺五典が提言しているではないか。今回の、射程900キロの巡航ミサイルを敵基地攻撃能力ではないと弁解する小野寺五典の発言は、明らかに3月の提言とは矛盾した卑劣な詭弁だ。3月の提言は、その後、6月に来年度予算案に計上されることが政府内で内定し、フジが報道で告知している。フジの記事には「政府が敵基地攻撃も可能なミサイルを、日本として初めて保有する方針を固め」たとある。こうして着々と既成事実を固め、そして8月、第3次改造内閣で小野寺五典は防衛相に就任した。

敵基地攻撃能力から核武装へ - 安倍晋三の前に屈服して沈黙のマスコミ_c0315619_16484188.jpg3月30日に自民党の検討チームが提言を出したときは、翌31日に朝日新聞はそれを批判する社説を出している。「敵基地攻撃力 専守防衛が空洞化する」というタイトルで、こう書いている。「敵のミサイル基地をたたく敵基地攻撃能力の保有について、検討を開始するよう政府に求める――。そんな提言を自民党の検討チームがまとめ、安倍首相に提出した。首相は『しっかり受け止めていきたい』と応じたが、とうてい賛成できない」。そして、社説の中で、敵基地攻撃能力をめぐる戦後政治の経緯を紹介している。今回の予算計上は、3月からの流れの仕上げであり、政府の措置として事実上確定した重要な問題なのに、12月13日の社説では、3月31日と打って変わったように批判の論調がトーンダウンしている。3月の提言の事実を踏まえ、この動きの主役が小野寺五典である事実を確認すれば、「敵基地攻撃能力の保有に向けた大きな一歩となりかねない」などという曖昧な認識と表現にはならなかっただろう。これは政府自民党による重大な憲法違反行為の実行であり、声を荒げて制止しなくてはいけない問題だ。12月10日のしんぶん赤旗の主張には、自民党が3月に提言を出していたことが触れられ、敵基地攻撃能力の問題が1956年の鳩山一郎の見解を発端としていることも説明されている。だが、記事全体を読んで、それほど強い危機感というか焦躁や反発の感覚が伝わって来ない。

敵基地攻撃能力から核武装へ - 安倍晋三の前に屈服して沈黙のマスコミ_c0315619_16494420.jpg実は、敵基地攻撃能力の政治がこれほど長い歴史を持っていることを、私は最近までよく知らなかった。2年前の安保法制の論議のときに、本かネットの情報を見て知識を得た。私が敵基地攻撃能力の語を初めて知ったのは、小泉政権末期の2006年の国会論議のときで、ブログに記事を書いている。やはり具体的には北朝鮮のミサイル基地に対する攻撃がテーマになっていて、国会で論戦が行われ、記憶では、日本を攻撃するミサイルの発射が準備され燃料が注入され始めた段階で、北のミサイル基地を攻撃するのは、自衛権の行使であり専守防衛の範囲だから構わないなどと答弁されていた。想定がトマホークによる攻撃だったか、飛距離を伸ばした戦闘機による空爆だったのか、よく覚えてない。結局、落としどころというか目論見はミサイル防衛で、PAC3配備予算を正当化するための敵基地攻撃論議の宣伝工作であり、また、将来(=現在)の専守防衛の原則破壊へ向けての布石でもあった。それに反対する田岡俊治が、200発のノドンが日本に一斉に発射されたらどれほどミサイル防衛の能力があっても防ぎようがなく、防衛は成り立たず、北朝鮮と外交で解決するしかないと論じ、一方、森本敏が、トマホークまで政策を進めるのは時期尚早なので、当面はPAC3配備を万全に進めるべしと説いていた。そこから10年が経ち、ミサイル防衛の次の段階が到来した。

敵基地攻撃能力から核武装へ - 安倍晋三の前に屈服して沈黙のマスコミ_c0315619_16500497.jpg敵基地攻撃能力というのは、ずっと改憲保守側が狙っていた政治目標なのだ。1956年から59年にかけて論議され、2006年に再び政治の表面に出て論議され、今回が三度目の正直となった。あるいは、1959年から2006年の間に何かあったかもしれないが、私にはその記憶が全くない。つまり、60年安保の後の自民党政権は、平和外交を基軸として高度成長に舵を切り、少なくとも表向きは憲法9条に忠実な路線に準拠していた。72年には日中共同声明があり、95年には村山談話が発表されている。だから、1956年から59年の時点で敵基地攻撃能力の論議があったことを知り、え、そうだったのかと、高度成長前の緊迫した冷戦下の日本の真実を知って驚くのである。敵基地攻撃能力とは、物理的に特定の軍事力のことではなくて、抽象的な性格の政治的イデオロギー的な概念であり、専守防衛の自衛隊をやめ、先制攻撃して戦争する軍隊に切り換えるという、すなわち「普通の国」の条件となるメルクマールなのだ。専守防衛を否定して離脱する里程標なのであり、憲法9条の本丸の外濠を埋める政策に他ならない。1970年代からずっと議論され、2000年代に遂に制定された有事立法と同じ位置づけをなす。2015年に立法化された集団的自衛権もその一つと言える。そうした重要な意味づけが、今回、マスコミでは説明されなかった。本当なら、テレビ報道の特集で、1956年の鳩山一郎のモノクロ映像が登場してしかるべきだった。

敵基地攻撃能力から核武装へ - 安倍晋三の前に屈服して沈黙のマスコミ_c0315619_16502697.jpg国会で議論されなかったことがおかしいと後藤謙次や朝日の社説は言う。抜き打ち的に安倍政権が予算措置に出たように言う。だが、実際はそうではない。ずっと、この問題は報道されていたし、特にプライムニュースなどの保守系の番組では、小野寺五典や中谷元が登場し、何度も何度も敵基地攻撃能力についてプロパガンダし、視聴者を洗脳して必要性を説得していた。たしか、1年前の昨年の時点から、プライムニュースの場を利用した地均しは始まっていたのではなかったか。だが、野党も、反安倍側のマスコミ(朝日など)も、敵基地攻撃論について本格的な批判や反撃に取り組まず、春から年末までずっと、森友問題と加計問題ばかりやっていた。自民党が提言を出して予算措置に動いていたのは察知していたのだから、首相の姿勢と政府の方針を問い質し、国会論戦で追及することはできたはずだ。予算化が決まったこの時点で、反安倍側・護憲側の反応はきわめて弱く、怒濤の猛反発という空気になっていない。三度目の正直は、きわめてあっさりと、呆気ない形で通過してしまった。これまで二度、自民党政府による敵基地攻撃能力の保持を阻止し、押し返し、自衛隊の専守防衛を明確にしてきたことを考えると、あまりにも淡泊で無抵抗な惨状に脱力させられる。敵基地攻撃能力の次は核武装だ。早速、悲願の獲物を射止めたプライムニュースは、次の大きな獲物をとばかり、石破茂を出演させて布石を打ち始めた。

敵基地攻撃能力と同じく、じわじわ世論工作を進め、気がつけば議論なく予算化という、今回のパターンと同じ進行を狙っているのだろう。NHKの世論調査では、信じられないことに、長距離巡航ミサイルの導入を「必要だ」が39%、「必要ではない」が17%、「どちらともいえない」が35%となり、圧倒的多数が賛成という驚愕の結果になっている。マスコミがこの問題の意味の重大さを国民によく伝えず、戦後政治史の真実を正しく教えず、自衛隊の専守防衛の原則について正論を言わなかったからだ。富川悠太と後藤謙次では、正論を言えと言ってもそもそも無理だったかもしれないが。

敵基地攻撃能力から核武装へ - 安倍晋三の前に屈服して沈黙のマスコミ_c0315619_16504720.jpg
 
by yoniumuhibi | 2017-12-14 23:30 | Comments(6)
Commented by 愛知 at 2017-12-15 23:15
東京女子高等師範学校(現御茶の水女子大)卒業後、国立東京聾唖学校教諭を務め、結婚後中国へ。1948年、NHKラジオで「婦人の時間」などのレポーターを担当―――これは昨年4月6日、放送ジャーナリストの草分け、秋山ちえ子さん(享年99歳)の訃報を伝えた毎日新聞記事の一部です。
車を運転しながら、東海ラジオを聞いていますが、今日のニュースパレード(文化放送)は、北の脅威と安倍の防衛大綱の見直し一色。戦争法の審議中は安倍政権の暴走を止めるとまで言っていた番組で。『かわいそうなぞう』(土岐由岐雄)の朗読を続けてこられた秋山さん。童話の評価は分かれているにせよ、戦争の悲惨、不条理を伝えることに異議はないはずです。貴下記事の最後に紹介された長距離巡行ミサイルの導入が「必要だ」39%とさせた言論人はペンを折るべき。
Commented by かな at 2017-12-15 23:34
憲法の精神はわかるのですが、現実的に北朝鮮と米国とで戦争が起こった場合、日本は確実に戦争に巻き込まれるわけです。
たくさんミサイルが飛んでくるとして、どうやって国民の生命を守るのかを護憲の立場から説明できないとダメです。現実を見ないと9条で具体的にどうやって守るのか説明できないと相手にもされないでしょう。
Commented at 2017-12-16 17:32
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2017-12-16 18:39
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ロシナンテ at 2017-12-19 23:44
「米と北で戦争が起こったら」
そういう危機感を感じたなら、戦争を起こさせない働きかけを自分のテリトリーの中でこうじるのです。
起きてしまったら日本のぜい弱性はミサイル何十発有ろうが無意味なのです。
戦争を起こさせない事、それが国家任せの外交だけではなく、民意で止めろの声を上げ行動していく、そういう覚悟が必要なのです。

まあ、北からの先制は無いにしてもアメリカからの先制の可能性ゼロではない。
Commented at 2017-12-27 16:42
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