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シャーロッツビル事件への一視角 - 米国のアイデンティティ・クラッシュ

シャーロッツビル事件への一視角 - 米国のアイデンティティ・クラッシュ_c0315619_15594116.jpg昨日(27日)、サンデーモーニングの「風をよむ」で、米国の白人至上主義と人種差別がテーマになっていた。また、夜のBS朝日の「いま世界は」でもこの問題が取り上げられ、ゲストが登場して意味や背景を朗々と説明していた。この番組は、先週(20日)も同じ問題を取り上げていて、2週連続で特集を組んでいる。8月12日にバージニア州シャーロッツビルで事件が起きた後、日本でもこの問題に注目と関心が集まって、報道番組で何度も議論されるところとなっている。いわゆる夏枯れの時期で、国内の政治に動きがないため、マスコミがこの問題に焦点を当てているという事情もあるし、とにかく米国の中がこの問題で騒然としているため、属国のマスコミとしては否が応でもその空気に合わせ、日本人の意識を米国人の関心に合わせる操作をしないといけないという任務もあるだろう。米国で起きていることは、日本国内で起きていること以上に大事な出来事なのだ。報ステを見ていると、東京で大雨が降って通勤客が混乱という「事件」が、当夜のトップニュースになって延々中継されることが屡々ある。東京以外の地域は雨の被害も何もないのに、東京の雨だけが全国ニュースとなってキャスターが大騒ぎする。四国や北海道で大雨になって交通機関が止まっても、それがトップニュースになることはない。



シャーロッツビル事件への一視角 - 米国のアイデンティティ・クラッシュ_c0315619_16125747.jpg生来が天邪鬼気質の私は、そんな感覚でこの事件とその報道を眺めていた。最初にニュースを見たときの感想を率直に言えば、どうして、あの白人至上主義の集団とそれに反対する集団が白昼乱闘するのを、警察が制止するべく壁となって割り込まないのかという疑問だった。日本であれば、見慣れた光景だが、在特会としばき隊との抗争の間に警視庁警備部が入って衝突をブロックする。8月15日の反天連のデモのときの九段下交差点も同じだ。シャーロッツビルの衝突では、上空から警戒監視活動していた州警察のヘリが墜落して乗員2名が死亡しており、州知事が非常事態宣言を出すまでの重大事件となっている。右翼の大規模な集結は前日から始まっていて、バージニア州立大学の構内でリー将軍の銅像撤去に抗議する不穏な動きを始めていた。それに反対する側も続々と集まっていて、当日、市街は一触即発の緊張状態になっていたことは間違いない。テレビの映像を見ると、通りを右から歩いて来た右翼集団がそのまま待ち構える反対派とぶつかり、凄絶な殴打暴行の応酬が始まって、リアルな現場の経過をテレビカメラが最前線で撮影している。まるで映画のシーンのようだ。これが米国の標準プロトコルなのかと、正直なところ、警備当局の怠慢と不作為に呆れる気分だった。

シャーロッツビル事件への一視角 - 米国のアイデンティティ・クラッシュ_c0315619_16131242.jpgどうして州警察がバイオレンスのハプンを止める措置を講じなかったのか、そのオペレーションの判断や指示ができなかったのか、よく分からない。結果的に、単に3名の犠牲者と35名の負傷者を出すだけでなく、大きな政治問題に発展し、国内の分断と不信を大きくし、さらには米国の威信低下をもたらす国益毀損の事態となった。言論の自由の国である米国で、本来なら討論によって相互の正当性を主張し合い、相手の意見を聞き、反論を返し、ディベートのゲームを競い、聞く者の評価を奪い合って多数の支持を獲得してゆく、そうしたルールとコードが定着しているはずの民主主義の本家である米国で、思想信条の対立する市民同士が話し合いではなく殴り合いを演ずる場面を現出させ、野蛮な暴力の映像が世界を駆け回った。それを見た中国やインドの人々は、東南アジアや中東やアフリカの人々は、果たしてどう思ったことだろう。明らかに、米国への信頼が揺らぐ効果を導いたに違いなく、米国の劣化と限界を印象づけられたことだろう。今回、バージニア州知事が間髪を入れず白人至上主義者を悪だと断定し、居場所はないと断罪し、米国中のマスコミ言論が異論なく整列したのは、裏を返せば、そうした単純な決着でないと事態が収拾できない米国の危機的内情を示唆している。

シャーロッツビル事件への一視角 - 米国のアイデンティティ・クラッシュ_c0315619_16134222.jpgそうすることで、州知事は警備の不作為責任から逃れることができ、全米の言論も、クリティカルな議論が錯綜して泥沼化することを免れた。米国の自己矛盾と自信喪失に直面しなくて済んだ。絶対的な悪であり、全米に存在を許容されない公共敵が、どうして小銃を所持して自由に集会することが認められ、デモ行進することが合法的に許可されたのだろう。また、さらに急所を衝くなら、全米の敵であると烙印を押された白人至上主義者(inc.ネオナチ、KKK)は、今後、米国の都市で小銃を所持して集会を開くことは禁止されるか未然に阻止されるのであろうか。同じ衝突は二度と起きないと保証されたのであろうか。バージニア州知事の宣告は、何らかの法的なあるいは治安行政上の制度的担保があるのだろうか。警備の不全と欠落について、事件を解説する米国と日本のマスコミからは特に論点として指摘されない。今のところ、トランプだけが悪者になった結論で問題が整理され、それが一般認識となって表面が撫でられている。問題はもっと根深く、米国のレゾンデートルに触れる本質的矛盾を孕み、今世紀の世界史の基底的方向性に関わるものと直観するが、そこに踏み込む問題提起を試みる論者は一人もいない。サンデーモーニングでも、「差別はいけません」というシンプルなメッセージで終始していた。

シャーロッツビル事件への一視角 - 米国のアイデンティティ・クラッシュ_c0315619_16135701.jpgサンデーモーニングに較べれば、木佐彩子のBS朝日の番組の方は、もう少し複雑な現象を複雑に捉えて掘り下げていて、前回はジェームス・バーダマンを、今回は会田弘継と小西克哉とパックンを呼び、この問題を解剖する道具となる言葉を並べさせていた。ファーマティブ・アクションと逆差別とか、ポリティカル・コレクトネスとオルタナ右翼とか、アンティファ運動の過激性についての知見と考察の提供である。同じメンバーをもう一度集めて、2時間くらいのワイドな討論番組をやってもいいように思われる。とまれ、ここですべてを端折り、中間項を敢えて省略してワープして直言すれば、私自身はサンダースの見解と立論と同じで、ソリューションはサンダースの社会主義の構想と政策しかないと確信している。すなわち、マルクスの「存在は意識を規定する」の命題に依り、新自由主義の格差拡大を止めて中間層の経済的主体性を再建しないかぎり、このレイシズムやバイオレンスの問題は揚棄されないという認識に立つ。「差別はいけません」という、サンデーモーニング的な、また脱構築的な、道徳論の教育啓蒙と意識改善だけではこの現象を止められない。存在の劣化を止めないかぎり意識の劣化は止められない。日本でも、中間層がぶ厚く広範に存在し、一億総中流社会と呼ばれた時代には、ネット右翼(草の根右翼)の存在の契機はなかった。

シャーロッツビル事件への一視角 - 米国のアイデンティティ・クラッシュ_c0315619_16143402.jpg会田弘継と小西克哉の分析は興味深く、語彙も豊富で、専門家の議論として参考にはなるのだけれど、サンダース的な基礎に立脚したパースペクティブとスコープを持たないかぎり、問題の本当の理解や把握には至らないのではないか。「衣食足りて礼節を知る」であり、中間層の倫理を媒介するのは中間層の経済である。中間層の人生の希望がないから、人は弱者を苛める代償行為に転倒するのであり、他者や外国に矛盾の原因と責任を転嫁して攻撃の矛先を向けるのであって、悪質な右翼のイデオロギーに誘惑・感化・誤導されるのに他ならない。ところで、今回のサンデーモーニングの「風をよむ」の特集は、形の上では「人種差別はいけません」という一般教義の訓導だったが、企画した制作者の動機はむしろ別のところにあり、例の、コロンブスの銅像の撤去というところまで米国の論議が進んでいるという事実への衝撃だったのではないか。NEWS23でも放送されていたが、TBSが紹介する映像では、NYの白人男性が「コロンブスは虐殺者だから撤去は当然」と明言していた。ヒスパニックや黒人ではなく、白人が当然のようにその歴史認識をカメラの前で述べていて、私は少なからず驚かされた。この点について、番組のコメンテーターは何も感想を言わなかったが、米国人の内面で大きな地殻変動が起き、アイデンティティの混乱と崩壊が起きている状況を無視できない。

英雄だったコロンブスが虐殺者になった。この事実は、米国の自己否定の意味を持つ。誰もがレーニン像が引き倒されたソ連末を想起するに違いない。その思想的問題について、今のところ特に突っ込んだ議論はなく、日本人は見て見ぬふりをしている。言挙げせぬ属国だからその礼儀作法が当然であり、左翼までがオバマ信奉者となって神のようにオバマの偶像に拝跪し、米国民主党の出先機関のように振る舞っている日本だから、そうした米国様への忖度は自然で不思議ではあるまい。だが、少しずつ何かが変化している。小西克哉にせよ、町田智浩にせよ、誰にせよ、日本のマスコミで論者が米国社会について何か話題にするときは、必ず米国を頭から美化して持ち上げ、日本をガラパゴスだとして貶めて対比するという卑屈な態度に出、米国様を崇め奉る基調で纏めるプロトコルが定番だった。不文律だった。今でもNHKがそれに徹している。それが、今、少し変容を見せ始めている。秋の気配が漂い始めた。最後に、事件以来言われてきたところの、例の、「どっちもどっちはやめろ」というフレーズについてだが、果たして、ロシアや中国やインドやアフガニスタンや中東のイスラムの人々は、それをどう聞いてどう感じたことだろう。



シャーロッツビル事件への一視角 - 米国のアイデンティティ・クラッシュ_c0315619_16145044.jpg

by yoniumuhibi | 2017-08-28 23:30 | Comments(4)
Commented by 宮澤喜一や河野洋平の頃は本当に良かった at 2017-08-28 17:50 x
吉田~岸までの間は、モノクロ映像がしっくりくるすさんだ社会で、貧乏に苦しみ、弱い者いじめに舌なめずりし、夜の暗がりは強姦の的
こう表現しても過言ではない冷淡さと抑圧と欺瞞が浸透していた時代
この時代をアメリカ南部に当てはめると、とてもジミー・カーターのような優しい心を育むことは簡単なことではない

私は池田勇人総理がいい政治をやってくれたおかげで、中間層が増え、人々の心に余裕がうまれ、治安が本質的に改善し素直に暮らせた時代と思います。
治安をよくしたいのなら、まずは衣食足りることが肝要で、頭ごなしの抑圧は効果がないです。
中華人民共和国とも部分的とはいえ関係が良好となり、戦後はまさに日本がファッショになれば中国も比例してファッショになるのですね。
Commented by 私は黙らない at 2017-08-29 02:44 x
シャーロッツビル事件についての考察、大変興味深く拝読しました。サンダース的なアプローチでなければ問題の本質に迫れないとのご指摘、全くその通りです。
私は、全米に吹き荒れる白人至上主義対反差別の衝突の裏に大変作為的なものを感じます。強いて言えば、これは政争であって、民衆は、利用されているのではないかと。
民衆は煽られている。分断を煽っている者は、レイシズムというかくも安易な怒りの表現方法を政争の具としている。
反差別とは、結局のところ誰も反論できない最強のウェポンだということです。問題の本質がこのウェポンに巧妙にすり替えられている。問題の本質は、グローバリズムと貧困だ。
民衆は、白人至上主義などという安直な道に走ってはいけない。それでは、連中の思うつぼだ。
オバマの反差別ツイート、この偽善者ぶりに反吐が出そうだ。オバマにマンデラを引用する資格なんかない。そんなに良い人なら、自伝の契約金全額、6千万ドル、貧困家庭に均等にばらまいたら?
Commented by 私は黙らない at 2017-08-29 05:19 x
ブログ主様への個人的なメッセージです。
ポールクレイグロバーツの論考が大変興味深いです。既に読まれたかもしれませんが。
もともと右派の論客ですが、アメリカの左派がエスタブリッシュメントの代理人に変質してしまった今、彼の糾弾するリベラル/急進派/左派というのは、ブログ主様の常々おっしゃる脱構築と通じるのではないかと思っています。反レイシズムが、こうした左派の暴力装置になっているという指摘は傾聴に値すると思います。

paulcraigroberts.org/2017/08/21/trump-american-history-assassinated/
Commented at 2017-08-29 22:14 x
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