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15年ぶりに到来した米朝戦争の危機 - 予想外の韓国市民社会の安閑

15年ぶりに到来した米朝戦争の危機 - 予想外の韓国市民社会の安閑_c0315619_16134835.jpg空母カールビンソンが西太平洋を北上し、朝鮮半島の近海に接近している。11日に政府関係者がマスコミに流した情報では、海自の艦艇がカールビンソンの空母機動部隊に合流し、日米で「共同訓練」を実施する予定だと言う。北朝鮮を牽制する狙いだと朝日の紙面記事(12日の1面)にある。普通なら、この軍事行動は「共同訓練」と言わず「合同演習」と言う。マスコミの使う言葉、政府が流す言葉には注意が必要だ。例えば、米韓合同軍事演習という言葉はあるが、「米韓共同訓練」という言葉は検索しても引っ掛からない。演習を訓練と呼んでいるのは、戦車を特車と呼んだ例と同じ姑息と欺瞞だろう。今回の行動は、2015年の新・日米防衛ガイドラインと安保法制(戦争法)の下での、新たな段階での Joint Exercises だから、欺瞞を排する意味で「合同演習」と呼ぶことにしよう。ついでながら、「空母打撃群」という新しい用語も、古い世代の者としてすぐには馴染めないので、感覚が慣れるまでは「空母機動部隊」と呼ばせていただく。「北朝鮮を牽制する狙い」というマスコミの表現も、政府の意向に従ったもので、「北朝鮮に軍事的圧力をかける狙い」というのが正しい。敵国の領土領海の間際に集結しての軍事演習だから、当然、すぐに戦争に移行する性格と含意を持った行動なのだ。



15年ぶりに到来した米朝戦争の危機 - 予想外の韓国市民社会の安閑_c0315619_16141881.jpg今回のカールビンソンの空母機動部隊の作戦行動は、シリアへのトマホーク攻撃と期を一にして始まった。イラク戦争開始直前の、2002年の「二正面作戦」の空気を想起させられる。二正面とは、フセインのイラクと金正日の北朝鮮のことで、この2国はブッシュが「悪の枢軸」と呼んだ3カ国のうちの2国だった。9日の報道によると、NSCが対北朝鮮政策として検討している選択肢は、韓国への戦術核の再配備と金正恩の「斬首作戦」があり、NSCからトランプに報告が上がっていると言う。6日の安倍晋三とトランプの電話会談の後、安倍晋三が「すべての選択肢がテーブルにある」とトランプの発言を紹介した中身は、この二つに空母機動部隊の作戦を加えたものを指すと考えていいだろう。「斬首作戦」について、一部の報道では、特殊部隊SEALSを北朝鮮領内に潜入させて、金正恩を殺害することだと説明されているが、これは囮の報道で、実際には岡本行夫がサンデーモーニングで言及したような、カダフィを狙ったときと同じ、事前予告で脱出の猶予を与えた上で独裁者の寝所をピンポイント爆撃する手法だと推測される。私は、この作戦が発動される可能性が高いのではないかと危惧している。いかにもトランプとマティスが考えそうな戦術だ。

15年ぶりに到来した米朝戦争の危機 - 予想外の韓国市民社会の安閑_c0315619_16143181.jpg今回のカールビンソン北上の作戦は、中国に圧力をかけ、中国に対北朝鮮石油禁輸を決断させる狙いの動きだろう。この制裁措置の要求は、フロリダでの米中首脳会談で持ち出していて、中国はその席でこれを蹴っている。中国が応じなかったため、カールビンソンを動かして威圧し、カウントダウンの脅迫外交に持ち込んでいる。トランプの真の動機は支持率だ。国内での政策がどれも失敗に終わり、入国制限は裁判所に反撃され、米墨国境の壁建設は予算で頓挫し、オバマケア代替案は撤回を余儀なくされ、連邦政府の人事は難航と、新政権は船出して2ヶ月であえなく失速して支持率低迷の苦境に追い込まれていた。政権を立て直すべく採った策が、ロシアとバノンを斬ってアサド政権潰しに旋回することと、中国を手玉に取って調略しつつ金正恩政権を潰すという「二正面作戦」の軍事外交戦略である。それは同時に、マティスとペンスに政権運営を丸投げするというトランプ生き残りの選択でもあった。この方策は確実にトランプの支持率を上げる。「強いアメリカ」の復活を渇望する保守層にカタルシスを与えて溜飲を下げさせ、NYや西海岸のリベラルに対してもアサド潰しとプーチン叩きのアピールで点数を稼ぐことができる。軍事外交を利用して人気を挽回する古典的な方法だ。

15年ぶりに到来した米朝戦争の危機 - 予想外の韓国市民社会の安閑_c0315619_16144779.jpg私は、トランプは、米国内の分断を対外戦争による統合へと活路を求め、外に作った敵の悪玉を攻撃して人気再浮上に出るだろうと予想したが、早くもその端緒があらわれる事態が出現した。内政で無能なトランプの場合、「対外戦争」を中断すると鍍金が剥げて支持率が落ちてしまう。だから、「対外戦争」はずっと継続せざるを得ない。おそらく、北朝鮮については間断的に緊張を作って介入を続け、体制崩壊へ導く中期計画を立て、自身の支持率安定化装置として利用するだろう。今回の目標は、中国を石油禁輸に合意させることで、その成果が得られれば、トランプは Make America Great Again を誇示でき、東アジア政策でのゲームの勝利を米国民に納得させられる。中国が蹴った場合は、「斬首作戦」を決行してピンポイント爆撃の映像を見せ、米国民を喝采させる必要がある。石油禁輸を中国が拒否し、半島有事的な絵が何もなく、手ぶらでカールビンソンがサンディエゴに帰港する結末になると、米国の世論はトランプの弱腰を叩いてチキンだと詰るに違いない。西部劇のカルチャーが本来的な米国の国民性には、話し合いではなく殴り合いで問題を解決する単純さと粗暴さがある。そこには、勝つのは常に自分だという自信と傲慢があり、圧倒的な超大国の軍事力という根拠と背景がある。振り上げた拳は簡単には降ろせない。

15年ぶりに到来した米朝戦争の危機 - 予想外の韓国市民社会の安閑_c0315619_16150166.jpgそのように分析すると、ピンポイントであれ平壌が空爆される可能性は高く、朝鮮半島が嘗てない有事の状態に入る公算が高いと考えざるを得ない。ところが、どういうわけか、韓国政府と韓国マスコミと韓国世論がこの緊迫に対して異常に鈍感だ。中央日報の11日の社説を読むと、米朝の緊張など何もないような論調で文章が書かれ、外ばかりが無意味に騒いでいると言いたいかのごとく筆致であり、実に奇妙に感じられる。今の状況は、まさしく2002年のブッシュ政権の「二正面作戦」を彷彿とさせるもので、当時よりも北朝鮮の体制打倒を目論む米政権の意思は固いように窺える。米本土の安全保障の脅威となった核ミサイルの開発を止める決意は固く、トランプ政権が外交交渉で妥協する余地を持っている気配は寸毫も感じない。北朝鮮問題を主担する国務省の高官すら姿が見えず、舵取りはマティスの手に握られている。金正恩も外交がどういうものか分かってないし、有効な知恵を授ける側近もいないだろう。金正恩に諫奏して献策できる部下はことごとく処刑されてしまった。最高人民会議で外交委員会を設置したという報道があったが、少しでも金正恩の機嫌を損ねる発言や態度をしたなら、すぐに家族もろとも銃殺刑に処されてしまう。怖くてまともな政策提案はできないだろうし、金正恩が素直に聞く耳を持って頷くとは思えない。

15年ぶりに到来した米朝戦争の危機 - 予想外の韓国市民社会の安閑_c0315619_16153005.jpg2002年の米朝緊張のとき、ソウルでは大規模な反米反戦デモが起き、386世代が主力となった街頭運動が最高潮に盛り上がる中、12月の大統領選で左派が勝利して盧武鉉政権が誕生した。感動的な政治だった。そこから韓国外交部の活躍が始まり、米朝の間に韓国が身を割り込ませて衝突を防ぎ、中国が主導する六カ国協議の和平の方向へと着地する。韓国が華麗に外交の実力を発揮した瞬間だった。あのときの緊張感と民族のエネルギーが、今の韓国政府と韓国市民社会にない。それが不思議でならない。米朝がいざ開戦となれば、間髪を置かず軍事境界線に張り付いた数千門の高射砲が砲弾を発射、ソウルが火の海になることになる。北朝鮮の国家安全保障とは、つまるところソウル市民を人質に取っている事実であり、その条件だけで北朝鮮は国家として存立できている。核だのミサイルだのは外交カードにすぎない。朝鮮人民軍とは、ソウルを火の海にする能力を持った軍隊のことで、他のことは何もできないが、首領の号令一下、それだけは実行できる軍隊のことだ。北朝鮮軍に防御の型はなく、ソウル攻撃のみで、領内の人民の生命と財産を守る使命や能力はない。そのようなプログラムも装備も訓練もない。実力が非対称すぎる北朝鮮軍と米韓軍とでは、開戦と同時に勝敗は明白で、北朝鮮軍はソウルを火の海にするだけで消滅する。

15年ぶりに到来した米朝戦争の危機 - 予想外の韓国市民社会の安閑_c0315619_16154698.jpgそのことを最もよく認識し、恐怖を恐怖として意識した上で、北朝鮮と対峙していたのが韓国でありソウル市民だった。事情は不明だが、今回は韓国市民の中に開戦前夜の緊張感がない。米国の危険な軍事行動に対する批判や反発がない。15年前にわれわれを刮目させた民族のエートスがない。今、韓国軍の参謀は何を考えているのだろう。2010年の延坪島砲撃事件の後、韓国軍の対北軍事戦略の指針は大きく変容したかに見える。それまでは、如何にしてソウル市民の生命と財産を守るかに注力していたのが、その後は、どうやって一気に北朝鮮軍を壊滅させるかという攻撃的なシナリオに変わった。おそらく、今の韓国軍の部隊はそのようにプログラムされていて、戦端開始と同時に陸海空の圧倒的な戦力で北朝鮮軍を屠りにかかるだろう。平壌を含めた軍事目標を一瞬で攻略し、1日か2日で殲滅作戦を完了させると予想される。だが、その戦略の遂行で、本当にソウルを狙う高射砲やスカッドを無力化できるのだろうか。「花神」の蔵六のように、ソウル防衛をパーフェクトに成功させられるのだろうか。軍事境界線からソウルまでは40キロしかない。標的の照準はすでに据えられ、実弾が装填されていて、兵士は指令のみを待機している。命令から5分あれば発射できるだろう。強盗犯が人質を射殺するのと同じで、着弾したらソウルは地獄だ。



15年ぶりに到来した米朝戦争の危機 - 予想外の韓国市民社会の安閑_c0315619_16160657.jpg

by yoniumuhibi | 2017-04-13 23:30 | Comments(4)
Commented at 2017-04-13 19:07 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2017-04-13 20:30 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2017-04-14 00:40 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by jdt01101 at 2017-04-14 10:56
常識的に考えると、アメリカ大使館の周りで100万人デモだよねー。でも、俺がハンギョレとかで煽っても、誰も行く気配も見せないのは何故だろう?そういえばこの間の朴槿恵弾劾デモでは、アメリカ大使館が後ろからエールを送ってたが…。


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