昨日１６日、国会議員団の現地調査に応じた籠池泰典が、安倍晋三から１００万円の寄付金を受けたと爆弾発言をした。２０１５年９月に安倍昭恵が塚本幼稚園で講演した際、「主人からです」と言ってカネを渡したと証言。この証言を受けて、自民党は態度を急変させ、「首相に対する侮辱だ」（竹下亘）だと激高し、来週２３日に国会で証人喚問の場を持つことで民進党と合意した。一昨日、菅野完がマスコミの前で仄めかした「現職閣僚がカネを渡した」という疑惑の人物は、安倍晋三本人だった。昨日はテレビもネットもこの問題で一色となり、今日１７日のテレビも余韻が続いている。森友学園の問題が噴出した後、安倍晋三の初期の答弁で、自分も妻も寄付をしたことはないと言い切った場面があったに違いなく、であれば虚偽答弁になってしまう。これに対して、菅義偉は午後の会見で、安倍晋三が昭恵を通して寄付をした事実はないが、昭恵個人が寄付したかどうかは確認中だと発表した。歯切れの悪いコメントだ。もし、昭恵が１００万円の寄付をした事実がなければ、即、そのような事実はないと否定しただろう。この反応を常識で解釈すれば、安倍昭恵が寄付をした事実はあり、それをどうやって揉み消すか画策中という意味になる。



１００万円の寄付をした事実はあったに違いない。だが、どうやら確たる物証はないようで、籠池泰典の自宅を訪問した４人の野党議員の会見では、福島瑞穂が、２０１５年９月の寄付金名簿の氏名は空欄で、安倍晋三や安倍昭恵の名前はなかったと白状している。４人の表情には、絶対的な証拠を得られず残念だったという心境が浮かんでいる。だが、一昨日の菅野完の会見では、メールのやり取りを見て信憑性を納得できたという認識が語られていて、おそらく、籠池泰典が昭恵に謝礼のメールを送り、「総理によろしくお伝え下さい」などと書いたテキストが残っていたのだろう。籠池泰典は、視察した議員団の前で、「名前は書いてないが日付が入ったものはある」と話していて（朝日１面記事）、つまり、寄付金が安倍晋三からのものだったことを推断できる状況証拠があるという示唆だ。証人喚問に呼ばれたときは、そのメール文を印刷して提出するのだろう。マスコミには直前に配布されるかもしれない。確たる物証とはならないかもしれないが、証言台での籠池泰典の説明も含めて、安倍晋三のクロ（ウソ）を認定するには十分の材料が提供され、安倍晋三は窮地に追い込まれるだろう。籠池泰典が偽証罪となる可能性は考えられない。

ネットでは、自民党が証人喚問の反撃に出たことで、これで籠池泰典の偽証罪は決定的で、野党は落とし穴に嵌まるだろうという右翼の声が出ている。だが、私はそうは思わない。証人喚問で切り返したことは、たしかに安倍晋三と菅義偉の強気を示していて、籠池泰典の側に確証がないことを見切った上でのカウンターには違いないだろうが、国会の証人喚問は裁判の場ではなく政治の場だ。籠池泰典の生々しい証言は、１００万円の寄付金の授受を確信させるに十分な当時の状況が並べられ、それを聞いた国民とマスコミの心証は安倍晋三のクロ（虚偽）という結論になるに違いない。加えて、未投下の爆弾が幾つあるのか知らないが、籠池泰典の口から証言されていない重大な疑惑が何件もある。例えば、１５日に菅野完がリークしたところの、佐川宣寿が２月下旬に弁護士を通して、籠池泰典に１０日間ほど潜伏してくれと要請した疑惑も、２３日の国会で詳しく説明されるはずだ。この暴露が出た直後、弁護士は辞任を発表して籠池泰典と関係を切った。弁護士は、官邸･財務省と籠池泰典との間を繋ぐ役割を果たしていた工作員だった。国有地払い下げに関しては、当事者で利益を得た籠池泰典の側に物証は腐るほどあるだろう。２３日に大型爆弾が次々投擲されれば、安倍政権は火の海となる。

今週、稲田朋美が森友学園の顧問弁護士を務めていた件で虚偽答弁が明らかとなり、本会議と予算委で惨めに謝罪訂正し、新聞の社説で叩かれた。週末に緊急世論調査が行われる可能性が高く、内角支持率は５ポイント以上低下するだろう。現在、朝日の数字は４９％なので、４５％を切るだろうと予想される。これに加えて、来週２３日に証人喚問が行われ、大型爆弾が何発か炸裂される事態となれば、さらに５ポイント以上下がり、２年前の安保法制のとき以来の４０％割れという危機的な局面が現出する。安倍晋三は怯えているだろう。さて、それでは、この動きが今後どうなるかだが、証人喚問までは一週間も長い時間がある。私は、この長い時間を利用して、籠池側と官邸が水面下で交渉し、直前で話を纏めて証人喚問を流すのではないかと考えている。急病になって入院すれば、証人喚問はキャンセルされる。このバトルにおいて、１００万円の寄付金の暴露もブラフだし、証人喚問のカウンターもブラフだ。互いに突っ張り合っていて、収束への落としどころを探っている。事態が逼迫し、日本会議の三者 - ①籠池泰典、②安倍晋三、③松井一郎 - が責任のなすり合いと蜥蜴の尻尾切りを演じ合わなくてはならなくなり、自己保身のため骨肉の争いをする顛末となった。籠池泰典は、尻尾切りをされて破滅寸前の位置にある。

証人喚問に出て真実を喋っても、籠池泰典に得なことは何もない。右翼世界から切り捨てられて消える運命が待っているだけだ。籠池泰典が要求しているのは、おそらくカネの補償だけでなく、身の安全の保障と次の起死回生の展望だろう。例えば、長男の佳茂を次の選挙の近畿比例ブロックで公認してくれとか、そういう要求を出しているのではないか。日本会議の大阪支部長だった籠池泰典には、内側の論理と動機からの意地と面子があり、そう簡単には妥協して頭を下げられない自意識がある。右翼世界（日本会議のコミュニティ）の中で、自己の序列と功績と立場は決して安倍晋三の下だとは思っていないのだ。ヤンキーのチンピラ右翼の松井一郎など、自分よりはるか下っ端の小僧だと蔑んでいる。だから、それ相当の対価を払わないと引き下がらないぞと強情を張って示威するのである。安倍晋三にとっても、籠池泰典は旧知の同志であり、功労者であり、権力で叩き潰すという選択はできない。籠池泰典は、事件発覚のあと、ずっと生き残りのために駆け引きを続け、突っ張りながら着地点を計っていたと思われるが、官邸とのパイプで交渉役の弁護人の態度を見て、官邸と維新が蜥蜴の尻尾切りに来ているのを察知し、代理人を菅野完に切り替えたのである。

反安倍（左翼）を味方に取り込み、擬似的に「正義の味方」の表象を得、国民世論の追い風を受ける立場を仮構して、官邸と再交渉に出たのだ。菅野完は、そういう「左翼取り込み」の「戦略」を籠池泰典に提案したのだろう。新右翼の菅野完らしい。籠池泰典はそれに乗った。１６日の豊中の私邸前の映像は異様としか言いようがない。あの場所は、旗棹地の区画になっている玄関前のアプローチで、籠池宅の敷地（庭先）だろうが、籠池泰典がこれまで悪魔として呪ってきた左翼（共産党と社民党）と仲よく写真に収まり、安倍晋三を追及するぞと気勢を上げてマスコミに絵を撮らせている。有印私文書偽造で公金を詐取し、カルト教育で児童虐待をしてきた右翼の悪党が、いきなり反安倍のシンボル・キャラクターに化学変化した。小池晃と福島瑞穂と森裕子は、雁首並べていそいそと大阪まで出向き、籠池泰典の反共教育の持論を拝聴し、籠池泰典を「正義の味方」にイメージチェンジする記念写真を撮影、手ぶらで帰京した。籠池泰典に利用され、籠池泰典に振り回されている。正直なところ、目を気分だ。この事件の発生以降、共産党はずっと渦中にある猛毒の右翼に利用されている。口利き実行犯の鴻池祥肇に道具にされ、鴻池祥肇が自らを上手に免責して逃げる政治工作を手伝わされた。

共産党も民進党も、疑惑を解明する独自の調査能力が全くない。情報を収集分析する力がない。一つ一つ事実を積み上げ、事件の構図を正確に描いて説明しようとせず、犯罪行為や違法行為のカタログを整理して関係者の法的責任リストを確定させず、足を使って（諜報努力をして）証拠を集めようとしない。民進党の議員にその能力がないのは理解できるが、共産党がそれをできないのはどうしてだろう。不思議だ。それができるのが共産党だった。共産党のエクセレンスと存在感はそこにあった。だから共産党は優秀な党であり、どれほど議席は少数であっても国民の信頼と期待を集め得た。支配層と右翼反動から恐れられた。単に正義の党であるだけでなく、実力のある党だった。「確かな野党」という意味は、何でも反対という意味ではなく、不正を明らかにする実力を持った党という意味だ。共産党がこの事件に本気で食いついていない。共産党だけでなく、左翼のジャーナリストがそれをしていない。単に事件を煽って騒いでいるだけで、安倍晋三の支持率を落とすことだけが念頭にあり、政治的動機だけで表面的に追いかけている。だから、菅野完に主導権を握られるのであり、右と左をバンク切り換えする菅野完の狡猾な手品と口舌に揺さぶられ、籠池泰典をロンダリングする手伝いをさせられ、籠池泰典を反安倍の英雄として喝采する倒錯に陥るのである。

共産党が言論をリードしていない。共産党に意志と能力がなくなった。共産党が劣化し、ただの野党になった。残念だ。