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呆気なく通りすぎたTPPの強行採決 - 6年間に姿が消えた反対派陣営

呆気なく通りすぎたTPPの強行採決 - 6年間に姿が消えた反対派陣営_c0315619_14175221.jpg昨日(11月4日)、TPPの承認案と関連法案が衆院特別委で強行採決されたが、特に大きな混乱はなかった。強行採決と言うには呆気ないほど軽く、白々とした風景だった。委員会室に詰めかけた野党議員の数が少なく、本気で採決を阻止しようという熱気と迫力が感じられない。委員長席をガードする与党議員の姿がなく、「強行採決の攻防」でイメージするところの激しい肉弾戦がなかった。野党の抵抗が驚くほど小さかったことに拍子抜けさせられる。通常、国会で大きな対決法案が強行採決となったときは、野党の党首は街頭に繰り出して演説をする。有楽町や新宿の駅前に立ち、「国民に直接訴える」絵を作り、それをテレビのニュースで流させる。昨日はその絵もなかった。各局のニュースでは、承認案に反対する論者のコメントの紹介もなかった。国会前や議員会館前では、多少の人数が夜まで反対集会をやっていたようだが、そこに野党の議員や幹部が顔を出して挨拶したという報を聞かない。何と言っても、強行採決はたまたま、山本有二の失言で発生した予定外の事故で、それがなければ合意の上で順当に採決されていたのだ。6年間にわたって論争され、国論を二分してきた重要政策の決着が、こんな軽い形で幕引きされるのかと思うと空しく、無念でならない。



呆気なく通りすぎたTPPの強行採決 - 6年間に姿が消えた反対派陣営_c0315619_14183108.jpg5年前、米韓FTAの批准案が強行採決されたとき、韓国国会は大荒れの様相となり、与党議員が籠城する会議室のドアを野党議員がハンマーで破壊し、それに対して与党議員は消火器の噴射で応戦する場面があり、激しい衝突を伝える報道が世界に配信されて話題となった。野党議員が催涙ガスを本会議場に捲き、白い煙が充満して騒然とする中で可決となる。国会の外では空前の抗議行動が起こり、大田の集会現場では学生が焼身自殺を図るという悲劇もあった。ソウルでは若者が明洞を占拠、5万人の反対集会が開かれている。反対派の農民が賛成派の隣人と口論となってエアライフルで射殺するという事件も起きた。米韓FTAとTPPは同じ政策と制度の体系であり、農業や国内産業や国民生活に与える影響も同じだ。であるにもかかわらず、それが批准されようとしている瞬間に、どうして日本ではこれほど抵抗が小さく、反対の声が弱いのだろうと嘆息させられる。最近は市民連合と「野党共闘」の顧問に収まっている山口二郎は、与野党の議席差が圧倒的なのだから、ここで採決合意に出るのは仕方なく、あまり民進党執行部を責めるななどと脱力のコメントを垂れていた。問題点を一切報道しないマスコミも問題だが、TPPに反対する運動がない。

呆気なく通りすぎたTPPの強行採決 - 6年間に姿が消えた反対派陣営_c0315619_14185912.jpgそれは、6年の間に消えてなくなった。TPPに対する反対運動が最も大きかったのは、2011年から2012年にかけての頃だ。そのときは反対運動に核があり、農協(JA)があり、宇沢弘文を代表世話人とする「TPPを考える国民会議」があった。そこには榊原英輔や中谷巌もメンバーで入っていた。賛同団体の中には、生協だけでなく日本歯科医師会や日本薬剤師会が名を連ね、「国民会議」として堂々たる陣容を誇っていたものだ。今ではHPも消されてしまっている。2011年11月には議員連盟「TPPを慎重に考える会」が180名で発足、活発に活動を続けていたが、今では消息が分からない。菅直人がTPP加盟を言い出して以降、6年間で国政選挙が4度あり、2012年衆院選、201 3年参院選、2014年衆院選、2016年参院選と安倍晋三が4連勝を収め、TPPも決着がついて行った。二大政党である自民党と民主党(民進党)が、政権与党にあるときはTPP賛成派となって政策推進するため、国民は選挙でTPPを潰しようがなく、反対派の方が切り崩されて潰されていった。昨年の農協解体法の成立以来、JAがTPP反対の論を張る場面がない。この6年間は、TPP反対派が表舞台から消えていく6年間だった。シンボルだった宇沢弘文が2年前に逝去したのは象徴的で、プリンセスの舟山康江も政界から消えていた。

呆気なく通りすぎたTPPの強行採決 - 6年間に姿が消えた反対派陣営_c0315619_14194052.jpgTPPが国政の争点として最も盛り上がった時期は、2011年の11月から12月にかけてで、ちょうど韓国での米韓FTA批准の時期と同じであり、同軌がとれている。政権にあった民主党の中が二つに割れ、TPPを推進する執行部と反対する小沢派の間で厳しく対立、「TPPに関するPT」の意見集約をめぐって大いに紛糾したことがあった。会議場で両派が物理的に衝突し、多数派である執行部側が反対派を部屋から追い出した場面を覚えている。小沢派は消費税をめぐっても野田執行部と鋭く対立、結局、この1年後に「未来の党」を結成するに至る。その「未来の党」が衆院選で大敗して、2年余り続いたTPPの政治戦がほぼ終焉を迎えた。マスコミだけでなく日本人の多くにとって、TPPは決着済みの問題であり、国会での批准をめぐる騒動は「あとの祭り」にすぎないのかもしれない。夜の報ステはこの問題をきわめて小さく扱い、トップニュースにせず、コメンテーターからの発言もなかった。思い返せば、6年前にTPPが最初に問題になったときから、報ステはTPPに賛成の論陣を張り、農協と農家の農業をやめ、海外に輸出する企業の農業をやらないとだめだと宣伝していた。TPPに反対したマスコミ報道は記憶がない。その点、その後に出て来た秘密保護法や安保法制とは状況が異なり、TPP反対は世論の多数を制することができなかった。

呆気なく通りすぎたTPPの強行採決 - 6年間に姿が消えた反対派陣営_c0315619_14202486.jpg敗北感がいっぱいで重苦しい。11月8日には米国で大統領選の投開票がある。新しく大統領に選出された者が、TPP反対、TPP脱退を大声で言い出したとき、そのとき日本の衆院で承認案が可決してなければ、日本国内でもTPP反対世論が確実に高まり、国会の審議に影響が生じる。日本ではもう衆院を通過し、あとは30日後に自然成立を待つだけで、要するに国内手続きは済んだのだとアピールせよと、安倍晋三がハンドラーズから指示されたのだろう。既成事実を固め、TPPはもう後戻りできないぞとオバマと連邦議会に圧力をかける意図がハンドラーズにあったに違いない。また、民進党は採決合意していたのだから、採決反対はポーズだけで、マスコミも国民もその真相を見破っているから、支持率に影響はないだろうという楽観も安倍晋三にあったのだろう。ただ、一昨夜(3日)のNHK-BSで米大統領選の特集を見ていたら、取材で登場したブルッキング研究所の論者が、米国でTPPが成立することは考えられないと一蹴していて、日本とは逆の意味で、TPPはすでに決着済みだと見解を述べていたことだ。米国も日本と同じで、TPPを締結せよという市民の運動はない。民衆の運動は反対派の抗議ばかりだ。日本のマスコミがTPP賛成派ばかりなのに対して、米国のマスコミはそうではないのだろう。そこに淡い期待を繋げたいと思う。

米国で批准されなければTPPは発効しない。漂流となる。各国政府も対応を練り直しとなるだろう。


呆気なく通りすぎたTPPの強行採決 - 6年間に姿が消えた反対派陣営_c0315619_14211510.jpg

by yoniumuhibi | 2016-11-05 23:30 | Comments(6)
Commented by 長坂 at 2016-11-05 17:37 x
右も左も重宝していた「TPP亡国論」の中野剛志とか「拒否できない日本」でアメリカ様の年次改革要望書にスポットライトをあてた関岡英之とかどこ行っちゃったんでしょう?賞味期限切れ?「透析患者に投石を!」の長谷川何某の自己責任論はまさにTPP後の日本の医療制度に要求されるものだという危機感も特になかったし、既に郵便局でアフラックですし。アメリカ一人勝ちのISDS条項やホルモンビーフや遺伝子組み換えに "NO" だったはずがあっさりイエス。
確かに高江や南スーダンに気を取られてはいたが、、、
自分は犬のように扱われて来たと言う大統領もいるのに、ちぎれてももっと尻尾を振りたいらしい。
賢いEUはアメリカとのTTIPをどう攻防するか見もの。
Commented at 2016-11-07 00:35 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 七平 at 2016-11-07 10:03 x
(訂正版)

TPP に関しての詳細は一般に公開されていませんが、Trump、Clinton 共に現行の内容には反対の意を大統領選の演説にて表明しています。安倍政権が強行採決を急いだ理由は、Trump、Clinton どちらに転んでも今までObama政権とのネゴ以上に悪条件を押し付けられるとの読みからだと思います。そこで、野党を説得談合して強行採決してしまったと思われます。体重50kgの人と150kg の人とを全く平等のルールで相撲をとらせて、Fairなルールと呼ぶ事自体、私は違和感を感じます。日本の大企業は他の加盟国の企業よりも力があり、米国市場への販売も規制が緩むと読んだのでしょう。  言うまでもなく、TPP のお陰で日本でも少数の勝ち組(大企業)と 頭数では遥かに多い負け組が発生すると思います。 

2日後に迫った選挙ではHilaryが勝つとは思います。しかし、Trump は共和党の後押し無しに彼女の選出を脅かす程の非組織票を集めました。Hilaryは、その背景は無視できないと思います。 Trump の最も強力な支持層は一連のGlobarization に負け組として取り残された、教育レベル、所得の低い白人系の米国人です。 従って、Hilary又民主党の方針として、Wall Street や大企業の押しにブレーキをかけ、米国内のブルーカラー労働者の職を守る、追加案をTPPに導入すると考えます。私がRetirement の地として選んだPennsylvania の田舎では、圧倒的にTrump の支持者が目立ちます。周辺の様子を見ているとTrump が圧勝するような錯覚に陥ります。

今回の大統領選の特徴ですが、知人友人から "I must vote for the lesser of two evils." とのコメントを数回聞かされました。 要するに、候補者二人とも悪魔であるとの前提で、少しでもましな悪魔に投票しなければならぬとの、皮肉を込めた表現です。 政治家の大半は ”嘘つきで汚い” との認識は米国でも一般に浸透しています。 
Commented by おにぎり at 2016-11-07 12:24 x
TPPで一番重要なポイントは「累積原産地規則」なんです。
詳しくはネットで探せば幾らでも出てきますけど
簡単に言うと、農業・食料から工業製品・中間財に至るまで、どの国で作られ加工されたかが記録され
TPP域内国と域外国で分けてポイントがふられ累積され、一定以上のポイントとなるとに課税される。
工業国と加工する側の国とでは立場が違うので、どれ位までとするかで揉めてたのですが。
これでだいぶ変わって来ます。

今まで人件費の安さで商売してた国、たとえば韓国の工業品は韓国企業ブランドですが
中間財から、工場のライン機器に至るまで丸ごと日本製に依存しています。
サムスンは金を集めて、その時の最新の(日本企業の)技術を集め、日本の工場機器で製品を作り、人件費の安さで
日本のメーカー品には性能面ではやや劣るが、中身は日本製の製品を作って日本よりも安く売る商売で
極端な話、サムスンって工場でボタンを押してるだけだったんです。
関税でも、韓国製品という事で日本製より優位に立てた。
しかしこの原産地規則で、関税を相当程度排除した経済圏ができる。
原材料に至るまで極力域内国で収める事で、域外国との間に優位性が保てるようになる。
だから日本企業としては参入するしかなく、韓国もようやくそれに気付いて参加したいと言い出したのです。

お分かりだと思いますが、これブロック経済化なんです。
単に商品製造だけではなく、勿論農業やら法律やら膨大な分野にまたがる話なのですが
「累積原産地規則」を考えた場合、域内国の方がコストや価格競争力で優位になってくるので
それまで域外国で製造していた工場や投資先も、やがては域内国への移転や変更となってきて
インパクトとしてはEU圏のような、投資や金融や総合的な経済戦略も含む広域の経済共同体ブロックの創設って話なんです。
だから難しいですね。
参加しないと、それだけで価格面での競争力と環境ががらりと変わってしまうし
逆に現状だと日本の工業・産業力は参加国でも抜けてますから、日本がTPPのハブになる可能性もある。
米国側の試算だと、日本が第二位の利益を享受するといい、米国には逆に利益もあるがマイナスも大きいとのことで嫌がってるようですが。
個別の品の±だけでない大きな話で、国や企業とすると参加せざるを得ないとは思いますが。
Commented by 私は黙らない at 2016-11-08 04:27 x
日本で反TPPが盛り上がらないのは、そのコンシクエンスについての想像力の欠如が原因だと思う。TPPを農業の問題として矮小化してきたマスメディアは、無知なのか、はたまた故意なのか。私が渡米して一番ショックだったのは、こちらでは医療、教育といった基本的人権に係るサービスまでもがマネーの論理で運営されていること。要は、カネがなければまともな医療も、教育も望めないということだ。自由な貿易を阻害する国家に対する企業の訴訟も可能になるそうだが、タガがはずされた強欲はやりたい放題だろう。
今日、アメリカの大統領選が決する。残念ながら、クリントン大統領、TPP批准は既定路線だと思う。もともとクリントンはTPPの熱心な推進者で、彼女の反TPP宣言をまともに信じているアメリカ人は誰もいない。
Commented by 私は黙らない at 2016-11-08 04:32 x
(続き)金曜、CSPAN(政治番組)を見ていた連れ合いが言っていた。番組に電話してきた視聴者15人のうち、クリントン支持者は2人だけだった。残り13人は、トランプに投票すると言っていたが、興味深いのは、13人に、グリーンパーティーの支持者が含まれていたことだ。彼女曰く、今までステインに投票してきたが、ロシアとの戦争回避のため、当選の見込みのないステインではなく、あえてトランプに投票する。本来の政治姿勢を犠牲にしてまでも、戦争回避のために苦渋の選択をした彼女に、私は共感する。
日本のマスメディアでは、トランプ支持者=経済的にとりのこされた白人のブルーカラーというステレオタイプがまかりとおっているが、実は、シリアの飛行禁止区域設定問題であきらかになったクリントンの安全保障政策に危惧を抱いているアメリカ人は多い。日米マスメディアでは、故意にか、この問題に焦点を当てることがないが、このことを心配する人は多い。こういう人たちは、ブルーカラーとは限らず、現に私の知人は、アジア系の博士号をもつ知識人だが、彼も左の人間にもかかわらず、戦争阻止のため信条を犠牲にしてもトランプに入れると言っている。ただ、公にすると職を解かれかねないので言わないだけだ。


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