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不毛な朝日新聞のSEALDs特集 - SEALDsの毀誉褒貶の構造

不毛な朝日新聞のSEALDs特集 - SEALDsの毀誉褒貶の構造_c0315619_17113196.jpg朝日新聞のSEALDs特集を切り抜いて保存することにした。証拠として残しておくためである。石松恒、藤原慎一の署名のある朝日政治部によるSEALD運動の総括が、果たしてどこまで減価償却に耐えられ、時間的に価値を維持できるか確認するためである。私の予想では、かなり早い時期にこの特集記事は意味を失って腐ってしまう。スターリン著の『ソ連共産党(ボ)小史』のような、評価が転覆して読むに耐えられない、陳腐でうしろめたい代物になり、後から検証の槍玉にあげられて指弾を受ける不面目な政治テキストとなるだろう。朝日新聞だけではないが、左系メディアによる判で押したようなSEALDsの偶像化は、歴史の捏造であり真実を隠蔽する政治工作である。異常な美化と称賛の散りばめであり、正確な実像を客観的にジャーナリズムしたものではない。本来、SEALDsの成り立ちについては、2012年のTAZに触れないわけにはいかないはずで、Wikiにも情報が出ているのだが、朝日の特集ではきれいにオミットされている。しばき隊との関係性を跡づける事実がマスクされている。昨年、SEALDsの紹介本として7万部を売った河出書房新社の『高橋源一郎xSEALDs 民主主義ってなんだ』には、TAZの件が登場する。



不毛な朝日新聞のSEALDs特集 - SEALDsの毀誉褒貶の構造_c0315619_18151215.jpgそれによると、奥田愛基は2012年の6月に反原発デモを見学する学生グループを集め、官邸前の運動に接近、そこで五野井郁夫の話を聞き、もっと参加学生を増やそうと行動を起こしたとある。しばき隊の最高幹部である五野井郁夫の名前が出て来る(P.30)。奥田愛基は、「五野井さんが、デモの後の有象無象でみんなが喋っているのを見て『これはTAZじゃないか』って盛り上がってた。俺たちは『TAZとは???』ってなってたけれど」(P.31)と語っていて、SEALDs(SASPL)の前身であるTAZの命名の由来が五野井郁夫の思いつきだったことが証言されている。この時点(2012年6月)で、奥田愛基としばき隊との関係は決定的なものになっている様子が窺えるし、SEALDsがしばき隊のデリバティブ(派生品)である事実も頷ける。昨年の河出のデビュー本では、こうして出自を漏らしていたが、今回の解散記念の朝日の特集ではTAZの原点の経緯が消えてしまった。しばき隊との関係が出るのが具合が悪かったのだろうか。しばき隊リンチ事件が明らかとなり、五野井郁夫もダーティな存在となった。昨年夏の時点では、SEALDsの生みの親として積極的に名前を出していたのが、自重に転じたのかもしれない。

不毛な朝日新聞のSEALDs特集 - SEALDsの毀誉褒貶の構造_c0315619_1711582.jpg奥田愛基の証言にある「デモの後の有象無象でみんなが喋ってる」場というのは、官邸前デモの後の日比谷公園でのミーティングのことで、そこに五野井郁夫が顔を出して話をしていたことが分かる。そのことは野間易通が昨年7月のTwで自慢げに裏づけていて、野間易通もその場にいた可能性がある。朝日の9回シリーズの連載記事は、まるでスターリンの『(ボ)小史』そのもので、SEALDsを持ち上げて神聖化するだけの目的のものだから、昨年の7月から8月にかけての過程も正しく整理されていない。SEALDsのデモは、そもそも昨年8月中旬までを目処に始めたもので、60年安保と並ぶ規模のデモを実現する主役になろうと目論んだものだ。彼らは - 彼らというのは学生たちではなくしばき隊学者だが - 政治を知らない素人で、自らの実力もわきまえない者たちで、ひょっとしたらそれが可能だと妄想していた。また、大規模デモの実現が自己目的で、安保法案廃止が目的ではなかったことは、7月26日にサンデーモーニングに出演した高橋源一郎がうっかり本音を漏らしてしまっている。安倍晋三が国会の会期を大幅に延ばし、衆院3分の2再議決の戦法に出、SEALDsのデモに人が集まらなくなり、安保法案の政治戦の行方は決した。7月下旬のことだ。

不毛な朝日新聞のSEALDs特集 - SEALDsの毀誉褒貶の構造_c0315619_17121156.jpg安倍晋三に会期延長で切り返され、マスコミが法案反対運動の中心に据えたSEALDsのデモの集まりが悪くなり、反安倍・反安保の勢力はすっかり旗色が悪くなった。法案阻止は困難な情勢になり、安倍退陣も全く見通せず、結局、しばき隊学者と左の勢力は野党共闘と翌年参院選の展望にシフトして行くのである。反安保のデモの神輿として失敗したSEALDsは、野党共闘のシンボルとして生きる位置づけを与えられた。8月にその方向性が明確に打ち出される。夏で解散するはずだったSEALDsは、1年間解散を延期して活動を続けることになる。SEALDsの意味と目標が転換した瞬間だが、これを主導したのは中野晃一だ。SEALDsの位置づけと運動の戦略が7月から8月にかけて変化するにおいては、運動を指導する司令塔が小熊英二(高橋源一郎)から中野晃一にスイッチした内情を推測することができる。二人が出た討論会みたいな催しがあって、そこが中継点だった。7月までのSEALDs運動は、小熊英二や五野井郁夫が唱える「デモ=民主主義」の路線であり、選挙では政治を変えられないがデモで変えられるという小熊英二の持論を証明しようとするプリミティブな実践運動であって、1か月ほどの期間が勝負として想定されていた。

不毛な朝日新聞のSEALDs特集 - SEALDsの毀誉褒貶の構造_c0315619_17122576.jpg60年安保闘争が、5月19日の強行採決から6月19日の自然成立まで1か月である。2012年の官邸前の反原発デモの経験を踏まえても、デモの盛り上がりを維持できて政治闘争の決戦に持ち込めるのは1か月が限度であり、それ以上時間をかけても爆発のピークが訪れることはない。会期延長によって「デモ=民主主義」の路線は意味を失ってしまう。それ以上に、SEALDsのデモには参加者を昂奮させ感動させる要素がなく、しばき隊方式の単純コールだけで、言葉がなかった。代弁されず、期待外れの感覚だけが残り、7月15日の衆院通過時のデモの後は国会前から人数がどんどん減って行く状況となる。SEALDsに与えられた新たな意味は「野党共闘の接着剤」であり、8月にその戦略に転じている。中野晃一の影が急に濃くなった。朝日の連載は、SEALDsが最初から野党共闘の接着剤として動いたように書いているが、これはミスリードだ。「デモ=民主主義」の路線は破綻しつつ、アリバイ的に8月30日の国会前の8万人集会を「決壊」で絵作りし、その意味を生き残らせて神話化する政治が周到に作られる進行となる。8月30日の時点では、勝負は完全に終わっていた。8万人は既成左翼である「総がかり」が集めた人数であり、全国からロートル左翼が集まったお祭りイベント(後夜祭・残念会)に過ぎない。9月からは、左翼の運動は反安保運動ではなくSEALDs愛護運動になった。

不毛な朝日新聞のSEALDs特集 - SEALDsの毀誉褒貶の構造_c0315619_17123612.jpgSEALDsとは、「自由と民主主義のための学生緊急行動」の意味である。緊急行動だから1年で終わりと説明しているが、安倍政権は続いているし、憲法改正の危機が迫っている。安保法制は施行されて自衛隊の運用段階に入っているし、彼らが団体を立ち上げた趣旨から考えれば、こうした政治運動の必要性はむしろ増していると言っていい。解散するにしても、同じ中身の運動が若者の間で続くよう、火を絶やさないように努力しておくのが本来のあり方というものではないか。今のところ、SEALDsを引き継ぐ学生の運動は起きてないし、鳴り物入りで登場した10代のT-ns SOWLも活動を停止した。関西や東海や東北のご当地SEALDsも解散して消えた。朝日はSEALDsの画期的意義を強調するのだけれど、SEALDsに影響されて反安倍あるいは護憲の立場の新しい若者の政治運動が活性化したという兆候はどこにもない。若者が政治に抗議の声を上げる運動の種を蒔いたのなら、どこかで影響された動きが萌芽的に見られてもよいはずだ。SEALDsに対する讃辞を送っているのは、マスコミと学者と政党としばき隊だけである。草の根の市民からの評価の声がなく、触発されて今度は自分が運動を始めるという若者が全く出現しない。参院選も若者の投票率は低かった。若い世代ほどSEALDsに対して関心が低く、コミットが薄く、存在意義を認めていないのは明白だ。

不毛な朝日新聞のSEALDs特集 - SEALDsの毀誉褒貶の構造_c0315619_17124950.jpgSEALDsについての言論は毀誉褒貶が甚だしく、イデオロギー過剰で、まともな考察や分析が少ないのが特徴である。右翼論者によるSEALDs批判は単なる悪口であり、無意味な罵倒のみが書かれている。右翼によるSEALDsへの感情一般が吐き散らかされたものばかりで、政治記事として読み応えのあるものはない。SEALDsという経験が、われわれが今後の政治を考える上での財産になっていない。本来、必要なのは、アカデミーからのSEALDsの対象化なのに違いないが、昨年よりアカデミーがSEALDsと一体化し、内田樹の態度が典型的なように、両者即自無媒介に結合しているため、緊張関係を持った認識の契機が発生し得ないのだ。アカデミーも、マスコミも、政党も、SEALDsとべったり結合した関係にある。そして、アカデミーも、マスコミも、政党も、社会の上部権力層であり、上位の言論機構であるため、地べたの草の根市民の多くは、自らの実感とは異なるところの、上位回路からのSEALDs礼賛シャワーに反発し、その神格化と無謬化の言説に抵抗を覚えるのである。SEALDsの評価の分裂をめぐっては、社会の上と下との対立という問題が存在する。SEALDs信仰は、実のところ、上位機構(アカデミー、マスコミ、政党)が底辺の大衆に刷り込んでいるイデオロギーだ。

その一方、SEALDsの毀誉褒貶については、手に負えないほどの左右の分裂と対立が目の前の現状としてある。SEALDsをめぐる言論状況とは、ツイッターでの右翼としばき隊の粗暴な言い争いであり、二つの間の中立の立場というものが発見され得ない。感情的な憎悪と盲目的な信仰の二つだけが存在する。この意味を考えるなら、何より社会のプロレタリア化という問題が大きく、人々が中間層の正常な理性や良識を失って、動物的な薄い大脳皮質の生きものに劣化したということだろう。SEALDsについての客観的対象化が困難で、感情的な喧騒と混乱だけが渦巻くのは、SEALDs評価をめぐって上と下の隔絶があり、右と左の断絶があり、二つの構造的な対立が輻輳しているからである。


不毛な朝日新聞のSEALDs特集 - SEALDsの毀誉褒貶の構造_c0315619_1713351.jpg

by yoniumuhibi | 2016-08-25 23:30 | Comments(1)
Commented at 2016-08-26 02:06 x
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