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ニーメラーの警句と左翼のしばき隊化 - 30年代の二つの悪魔と欧州のリベラル

ニーメラーの警句と左翼のしばき隊化 - 30年代の二つの悪魔と欧州のリベラル_c0315619_1702226.jpgしばき隊のリンチ事件について、ネットでの反応を見るかぎり一般の左翼リベラルの関心は薄く、特に注目が集まっている状況にない。しばき隊に対して批判的な意見を上げる者が少なく、逆に、私や高島弁護士に対して、何でそんな問題に首を突っ込むんだと不興を言う声が多く聞こえる。警察に任せておけばいいとか、もう済んだ事件だから混ぜっ返す必要はないとか、しばき隊の粗探しをするなと声高に言う者がいる。左翼リベラル一般にとって、野間易通や李信恵は極右在特会を退治する正義のリーダーであり、反ヘイト法案を成立させた功労者であり、右翼とファシズムに対抗するシンボルなのだ。しばき隊は自分たちの味方であり、自らの陣営の頼もしき前衛部隊であり、手法は荒っぽいが、政治的成果を上げてくれている強力なパートナーという認識なのだろう。敵は安倍政権であり、右翼とファシズムであり、それに対抗する左派勢力は結束しなくてはならず、その中でしばき隊は確固とした地位と評価を得ている集団なのだから、功績と実力を認めて積極的に連携するべきで、少々の不具合には目を瞑ってやるべきだというのが、今の左翼リベラルの心理と態度なのである。



ニーメラーの警句と左翼のしばき隊化 - 30年代の二つの悪魔と欧州のリベラル_c0315619_170372.jpgだが、私たちは、連合赤軍の山岳ベース事件という恐怖の事実を忘れてはいない。その詳細を知った後の、長い長い、重苦しい二日酔いの経験を思い出すことができるし、その事件がその後の日本の政治や自分自身の世界観に与えた影響を忘れてはいない。山岳ベース事件はリンチ事件だった。今回の事件もリンチ事件である。被害者は1人で深夜に呼び出され、そこには5人が待っていて、3人が暴行に加わり、1時間にわたって60発の鉄拳を顔面に叩き込まれる凄絶な制裁を受けた。被害者の写真を見、録音を聞いた辛淑玉は、「鼻を骨折させ、顔面を損傷し、血だらけになったMさんを放置したまま宴会を続けている。その音声は狂気のようでした」と証言している。1時間、無抵抗な1人の人間が殴り続けられている。殴打の刑を執行した中心人物は1名だが、残りの4名は傍らで刑を見届けているのであり、刑の執行を肴にして酒宴を続けているのだ。そういう戦慄の現場を実際に見た経験のある者はいるだろうか。しばき隊を擁護する左翼リベラルに聴きたい。瀕死状態の被害者に対して、李信恵は「まぁ殺されるんやったら店の中入ったらいいんちゃう」と冷酷に言い放った。こういう冷血鬼を自分たちのリーダーとして仰げる思考の根拠は何なのだろうか。

ニーメラーの警句と左翼のしばき隊化 - 30年代の二つの悪魔と欧州のリベラル_c0315619_1705127.jpg本当なら、被害者を介抱しなくてはならず、傷の応急手当をしなくてはならず、救急車を呼ばなくてはいけないところである。その前に、偶発的な暴行事件であったのなら、場を仕切る権力者である李信恵が、暴行を止めなくてはいけなかった。1時間のリンチ制裁のあと、鼻骨が折れて血まみれの被害者に冷酷な言葉を投げつけ、被害者を放置して店を立ち去ることができる精神構造を考えなくてはいけない。そんなことができるのは、過去に同じことをやったことがある人間だけであり、将来も同じことができる人間だけだ。暴力の共同体の中で生きている常習者だけだ。しばき隊のNo.1である野間易通は、事件が明るみに出て証拠が開示されたあと、何と、被害者の実名を含む個人情報をネットで晒し、被害者を罵倒して傷つけるという驚くべきセカンドレイプの行為に出た。本来なら、世間に向かって謝罪し、これまで隠蔽していた責任をとらなくてはいけない立場である。逆に、自ら率先して二度目の刑の執行に出て、部下たちに被害者叩きを続けさせた。こんな異常なことは普通の人間ではできない。理性と常識のある人間ではできない。これは重大な犯罪で人権侵害だ。私が言いたいことは、このリンチ事件の残虐さではない。被害の事実が大きかったということではない。

ニーメラーの警句と左翼のしばき隊化 - 30年代の二つの悪魔と欧州のリベラル_c0315619_17147.jpgこのリンチ事件(第1次、第2次)の加害者たちが、左翼リベラルの世界では指導者扱いされ、有名出版社から本を出し、朝日新聞で紹介されて脚光を浴び、論壇の名士のような地位の者たちだということだ。このことは、あまりにギャップのあることである。朝日新聞やAERAで英雄視され、左翼リベラルの救世主のように振る舞っている男が、残酷に犯罪被害者を痛めつけている。そのことを、左翼リベラルの多くの者たちが黙って見ていて、遠巻きに黙認していて、野間易通や李信恵と同じ立場に立っている。しばき隊を応援し、しばき隊批判を批判している。野間易通や李信恵の自己正当化の言葉を - きわめて非常識で噴飯な言い草だが - 自分自身のものとして肯定して自己同一化している。教室でのいじめの進行に、その他大勢として幇助しているマジョリティと同じ態度だ。その左翼リベラルの言い分は、きっと、もっと大きな敵がいる、敵は安倍晋三だ、安倍晋三と戦うためにはしばき隊と隊列を共にすることが必要だ、だから小さい事件に目を奪われることなく大局的な立場に立たないといけないという、そういう歪んだ論理と主張だろう。大きな敵の前では内側のリンチ事件は些事だという認識と判断である。その論理に引っ張られて、リンチ事件の意味を矮小化している。

ニーメラーの警句と左翼のしばき隊化 - 30年代の二つの悪魔と欧州のリベラル_c0315619_1711971.jpg構図を俯瞰し透視したとき、この政治的現実はどういうものに意味づけられるだろう。前に書いたが、私は、しばき隊としばき隊を支持する左翼リベラルの思想現象を、ファシズムの時代における異端の側(左の側)の強制的同質化の契機として捉える見方をする。今はファシズムの時代だ。分かりやすいアナロジーとして、アンジェイ・ワイダの『カチンの森』を想起していただきたい。作品の中で、西から侵略してきたドイツ軍に追われて東へ逃げる民衆と東から侵攻してきたソ連軍に追われて西へ逃げる民衆が、ブク川で鉢合わせになる場面がある。独ソ不可侵条約の秘密議定書によって、ポーランドはヒトラーとスターリンの手で分割占領されてしまう。ポーランドは挟み撃ちにされ、西と東の悪魔の餌食となった。1930年代の欧州を想像したとき、そこで生きているリベラルな市民は、ファシズムと闘うための政治行動に身を投じなくてはいけなかったが、その具体的な立場の設定は、第一義的には、ヒトラーの宿敵であるソヴェト共産主義を支持し、スターリン共産党と立ち位置を同じくするということだっただろう。他に考えられる選択肢はあったかもしれないが、ソヴェト共産主義の同志となること、その同調者や協力者となることが、ヒトラーとファシズムに抗する個人の生き方となった。

ニーメラーの警句と左翼のしばき隊化 - 30年代の二つの悪魔と欧州のリベラル_c0315619_1733264.jpg今、われわれ自身に起きていることは、日本のネット市民社会の政治空間の実相と情景は、まさにそういう問題の進行ではないのか。左翼リベラル世界を支配した感のあるしばき隊に、誰も批判を言えず、しばき隊の言説を自分のものとして受け入れ、しばき隊の幹部のTwをRTして黙々と追従している。しばき隊の仲間になっている。歴史を振り返って考えたとき、欧州の自由な市民たちはスターリンを支持してはいけなかった。それは、辺見庸的に言えばファシズムの変種でしかなかった。もう一つのファシズムの選択だった。原理的思想的には、ヒトラーのファシズムにも反対し、スターリンの共産主義にも抵抗するという理論的な足場を確立し、そこで運動をしなくてはいけなかった。当時の欧州でも、ソヴェト内部の粛清については情報が漏れ、一部で批判は上がっていたのだが、左側の大勢はスターリンに寛容で目を瞑った。反ファシズムの旗幟を鮮明にすることは、同時にスターリンと共産党の味方につくことを意味していた。スターリンを批判することは敵であるファシズムに加担することだと、そういう単純な敵味方論ですべてを裁断し、独裁者にコミットして思考停止していたのだ。なぜかわからないが、左翼リベラルのネット世界にはしばき隊のシンパが増殖している。さて、ニーメラーの警句を思い出そうではないか。

ニーメラーの警句と左翼のしばき隊化 - 30年代の二つの悪魔と欧州のリベラル_c0315619_1722121.jpg「ナチが共産主義者を襲ったとき、自分はやや不安になった。けれども結局自分は共産主義者でなかったので何もしなかった。それからナチは社会主義者を攻撃した。自分の不安はやや増大した。けれども依然として自分は社会主義者ではなかった。そこでやはり何もしなかった。それから学校が、新聞が、ユダヤ人が、というふうに次々と攻撃の手が加わり、そのたびに自分の不安は増したが、なおも何事も行わなかった。さてそれからナチは教会を攻撃した。そうして自分はまさに教会の人間であった。そこで自分は何事かをした。しかしそのときにはすでに手遅れであった」(未来社 『現代政治の思想と行動』旧版 P.475)。ナチをしばき隊に置き換えたらどうか。ここでの共産主義者を高島弁護士や私に置き換えたらどうか。ここでの社会主義者をはるのしっぽに置き換えたらどうか。ヒトラーを暴力カリスマの野間易通に置き換えて考えてみたらどうか。左翼リベラルの世界が、しばき隊一色に染め上げられ、しばき隊を批判する者が誰もいなくなっていること、誰もそれができなくなっていることに気づくのではないか。最近、何やら野間易通に対する個人崇拝のような不気味な現象が起きている。気持ち悪いとしか言いようがないが、これがファシズムの時代の空気というものだろうか。左側が狂っていて一つの束(fascio)になっている。信じられない光景だが、暴力カリスマの野間易通が反安倍のアイコンになって左の愚衆から崇められている。

ファシズムの時代の思想状況というのは、結局のところ、時間と空間を超えて同じなのだ。丸山真男の分析が正しい。


ニーメラーの警句と左翼のしばき隊化 - 30年代の二つの悪魔と欧州のリベラル_c0315619_16561110.jpg

by yoniumuhibi | 2016-05-20 23:30 | Comments(4)
Commented by 長坂 at 2016-05-21 14:49 x
在日の歴史は理不尽な事だらけ、淑玉さんの手紙は涙無くして読めなかった。だからこそこのまま沈黙を貫き通すのは得策ではないし、きちっと説明すべき。2014年、「東京大行進」に参加、淑玉さんをはじめ(信恵さんもいたと思う)サポーターの著名な方々、沢山見かけた。去年の「大行進」は(ネットでしばき隊の狼藉ぶりを知り参加しなかったが)このリンチ事件を隠蔽して行われたという事⁉ 参加者の殆どは裏でこんな事が起こっていたとは全く知らず、国内外のメディアも大々的に取り上げた。デモの主催者側の「Mが原因の仲間内の喧嘩」だの「罰金刑と不起訴で終わった事」だの「ヨニウムはデマ野郎」で済まされる問題ではない。Mさん死んでいたかもしれない!殴り馴れているからそんなヘマはしないってか?
Commented by おむすび at 2016-05-21 15:21 x
これは右も左もない話で、これはまだ内輪の数人のグループの話ですが
もっと大きな人数を持った勢力となった場合に、もっと過激で凄惨な事件を起こさないとも限らない訳です。
過激派やカルト集団が先鋭化して危険性が露見し始めたのが、しばき隊の今の段階であって
やはりもっと大きく取り上げられ追及されて、ここで手を撃っておかないともっと大きな事件を起こしそうな気配があります。
前から言動にそうした危うさは見え隠れしていて
記事で触れられてる様にマスコミが持上げて英雄視している事は、集団内での意識としても
社会の中での政治集団としても小さからぬ影響を与えていた筈で、それこそ業界ぐるみでのファシスト的な体質と批判されてもしょうがないのでは。

本来の左派思想は、理想主義的である事ではなく、内省・自省的に歴史や社会を考察し
権力側だけではなく自己をも律する意識と覚悟が必要なはずで、その点での二元論的善悪観や独善を排して
政治を考察する姿勢の事だと思うのですが、この集団とその取り巻き達は狂信の徒にしか見えないですね。
Commented by A at 2016-05-22 04:34 x
世に倦む日々さんが声を上げているのは、放置したら必ずこれ以上の凄惨な事件を起こすと危惧されているからでしょう。よくわかります。
1時間に渡り被害者が殴り続けられ、その傍らで傍観し酒宴を続けるのはまともな人間ではない、鬼畜の所業です。
18歳選挙権が認められ、モラトリアム期で社会との接点が薄く過激化しやすい学生も巻き込まれかねないことを私は非常に恐れています。
リベラル団体の活動はしばき隊のような暴力集団を排除できるか、重大な岐路に立たされていると感じずにはいられません。
Commented at 2016-05-29 22:38 x
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