誰が9条改正を阻止してきたのか - この国の護憲派と改憲派の論争の真実

c0315619_16171236.jpgこんな内容のメールが届いた。「自分も烏合の衆に成り下がってしまっていたことに気づいておりませんでした。一番大事なことは憲法9条の理念なのに、多くの言説と一緒にSEALDsを新しい動きとして肯定していたのですが、貴方のおっしゃる通り運動体としては間違いなく失敗してるし、反省も無い。9条の本質を見ていなかった自分の浅はかさを今回の新9条の批判解説で理解できました。目を覚まさせていただきありがとうございます」。烏合の衆というか、付和雷同型の人間が本当に多くなっていて、踏み止まって理性的に思考する人間が少なくなった。スマホとSNSの普及と習慣がその状況に拍車をかけている。TwのRT数やFBのLike数の多さがその主張の価値や優劣の基準になっていて、SNSの数のゲームの勢いに乗らないと孤立と不安を感じる世の中になっている。嘗て、筑紫哲也はNEWS23で「少数派になることを恐れるな」と言ったが、SNSの群れの中で少数派になることを恐れず、勇気を出して正論の立地に踏ん張ることは本当に難しい時代になった。プラトンとアリストテレスが説いたように、民主政(Democratia)とは常に衆愚政(Ochlocratia)でもある。SNSへの依存を深める言論状況は、日々、確実に人を無思考にさせ、衆愚的惰性の度を強めさせ、安易なブランド信仰や徒党の暴力と威圧への恐怖が全体を支配する傾向を強めている。



c0315619_16172482.jpg想田和弘らの「新9条」論の扇動に対しては、少しずつ批判が広がっているようだ。今年は戦後70年で、8月には多くのテレビ番組の特集が組まれた。皇后陛下が誕生日の所感で、あらためて戦争についての知識を深め、当時の日本と世界について学んだと述べているけれど、私もまた、戦争と9条についてあらためて思い直すことがあった。それは、憲法9条を守り支えているのは、社会全体の階層の下の部分に属する無名の人々だという確信だ。上に行けば行くほど、憲法9条は変えた方がいいという明文改憲を主張する者が多くなる。これまでは、世代的に高齢者に護憲が多く、若者ほど改憲が多いという図式が私の見方だった。もう一つの真実がある。下に位置する庶民ほど、すなわち戦争になったときに犠牲になる確率の高い弱者ほど、言わば動物本能的にその危険を悟り、「平和に生きる権利」「政府に戦争させない権利」を保障した9条を懸命に固守しようとする。社会階層の上に立つエリートほど、国家の安保責任の論理と心理の高みから、9条をお花畑の絵空事だと貶下し、個別的自衛権の容認を当然視する。9条の理念を、国家や社会に無責任な愚衆のナイーブな妄想だと切り捨てる。この傾向は間違いなく看取できよう。東京新聞が「新9条」を打ち出した後の言論動向を見たとき、反対の声を上げているのは無名の者ばかりだ。大学教授とか新聞記者などのブランド文化人がいない。

c0315619_16174420.jpg戦後70年の夏のテレビ報道で感銘を受けたのは、幼い頃に戦争を経験して、親を失い、身体に傷を受け、逆境の苦しみの中で70年間を生き抜いてきた者たちの証言だった。特にTBSが取材して重い口を開いた人々。「戦争というものは口で言うても分からん」と綾瀬はるかに言った広島の女性。東京大空襲で顔に火傷を負い、「これで70年生きられますか」と語った男性。一人一人の言葉と人生が凄絶で、思い出して表現するのも容易でない圧倒的に強烈な映像。彼らの願いこそ、二度と戦争をしないことであり、平和憲法を守ることである。そうなのだ。それが真実なのだ。とても単純なことだけれど、そういうことなのであり、それが日本の戦後70年の事実なのだ。こういう人たちがいて、社会の底辺で憲法9条を支え、どんなことがあっても妥協しなかったから、理想論の憲法9条が守られ続け、どれだけ改憲派が上から世論工作の攻勢をかけても変えることができなかったのである。どれほど自衛隊が定着し、日米安保の体制が固まっても、誓いを掲げた憲法9条を否定する流れにはならなかった。アーミテージは、憲法9条を日米の道を塞ぐバリケードだと言っている。障害物だと言った。道を塞いだバリケードとは、紙に書かれた9条の文言ではなくて、実際には人の意思に他ならない。戦争によって人生を奪われた者たちの痛切な思いが護憲の一線を譲らず、アーミテージらの恣意と野望を自由にさせなかった。

c0315619_16173380.jpg9条改正を唱える改憲派は、右からの者も、左からの者も、同じように、想田和弘のような地位と名望のある者が、訳知り顔で上から説教を垂れてくる。9条は理想だけれど、そろそろ空疎な夢物語にしがみつくのはやめようじゃないかと、護憲派の「無知」を諭して啓蒙してやるような口調で言い、個別的自衛権を明文化した方が解釈の暴走を防げるとか、国民の平和と安全を守る現実的で責任ある方向だとか言う。子どもの頃から半世紀間、ずっと護憲vs改憲の論争を見てきたが、改憲派の口上と態度は常に同じだった。そこには、護憲派は固陋で幻想に取り憑かれた愚民で、世界の現実から取り残された盲目の孤児であるという決めつけがあり、自分は知識があって国を正しい方向に導く判断力を持ったエリートだという、護憲派を小バカにした視線と自意識があった。そして、論争はいつも新しく装いを凝らして登場する改憲派からの切り出しで始まり、マスコミが世論工作する改憲キャンペーンとして展開し終始した。マスコミが洗脳工作を繰り返すほどに改憲派の数は増え、改憲論のニューフェイスとして活躍した者は業界で出世を遂げて行った。論争は常に改憲派が上から仕掛ける。そして、改憲派の狙いは基本的に9条を改定する攻略だ。今回もそうだ。そうして、護憲派は常に下から無名の者が反発の声を上げて抵抗する。戦争を経験した者が拒否を言い、また、無名の者が戦争被害者の立場を代弁して改憲派を批判する。今回もそうだ。

c0315619_16175463.jpg改憲派は、マスコミという管制高地を押さえていて、好きなときに好きな理屈と役者を準備して作戦を開始する。だから、論争の主導権は常に改憲派が握る構図になる。けれども、70年間、何度も調略を試みながら、最終的に改憲派は護憲派を切り崩せず、国民の多数を説得することに成功しなかった。今回、想田和弘や東京新聞が始めた策動がどういう結果に終わるのか、それは不明だが、彼らもこの政治戦に本気であり、必ず「新9条」の国民投票で改憲を実現する思惑なのだろう。緒戦の今がこの政治戦の重要な正念場であり、ここで護憲派の反論が弱まれば、機を窺っている者たちが必ず「新9条」支持に出てくる。高橋源一郎とSEALDsは改憲派であり、想田和弘と同じ9条改正が持論だ。SEALDsの後見であるしばき隊も明確な改憲派で、その主張の中身も全く同じだ。小熊英二も同じだろう。民主党の顧問の山口二郎も同じだろう。大江健三郎や澤地久枝がこの9条改正論に靡くとは思えないが、SEALDsを絶賛する佐高信はどこかで姿勢を転換しておかしくない。現在の左翼リベラルの空気は、SEALDs信奉者にあらずんば人にあらずの熱狂状態になっていて、SEALDsを神として崇拝し帰依する宗教共同体のごとき環境になっている。SEALDsに近い者ほど価値が高く、遠い者ほど価値が低い。SEALDsやSEALDsに近い者への批判や陰口は厳禁で、肯定と賛美しか許されない。SEALDs運動を媒介にして、左翼リベラルが根こそぎ9条改正に頷く可能性は小さくないと危惧する。

c0315619_1618578.jpg一方、共産党の動きの方だが、9/19の安保法成立の当日に、狙いすましたように「国民連合政府」を打ち上げ、その1か月後、東京新聞が「新9条」を紙面で提案した直後に、日米安保を容認する方針を会見で発表した。「国民連合政府」を実現した暁には、現在の自衛隊と在日米軍の運用を認めると言って本気度をアピールしている。左翼リベラルでは歓迎一色の空気で懸念は上がってないが、このとき、共産党は日米地位協定をどうするのだろう。オスプレイの飛行訓練や思いやり予算はどうするのだろう。「国民連合政府」を組むときの連立が民主党なら、この問題では相当に隔たりがある。それだけでなく、TPPの政策も民主党とは180度違うし、原発再稼働や消費税増税についても違う。もし、来年の参院選がダブル選挙となり、仮に「国民連合政府」が実現となったら、2017年4月からの消費税増税は認めるのだろうか。共産党は、安保法全廃以外の政策の違いは横に置くと言っている。しかし、連立政権を組むのなら、これらの政策について横に置くと言うわけにはいかない。当然、民主党の路線に合わせるということになるだろう。選挙が近づけば、それらの具体的な問題についての対応も言わなくてはいけなくなる。予想できるのは、個々の重大な政策項目について、機会を窺いながら共産党が「柔軟路線」の続きを発表することである。例えば、次のタイミングではTPPについて従来の方針の凍結を言う。さらにその次のタイミングでは原発再稼働について容認を言うという寸法だ。

半年かけて、あらゆる重要政策について方針転換を発表して民主党との一致を宣言、公約し、「国民連合政府」の本気度を高め、抵抗野党から脱皮するというシナリオである。


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by yoniumuhibi | 2015-10-23 23:45 | Comments(0)


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