SEALDs運動の神通力が消えた大阪ダブル選挙 - 共産党の挫折と失速

c0315619_17212996.jpg些か古い話に戻って恐縮だけれど、11月22日に投開票された大阪ダブル選挙の結果は、無視できない重要な問題だと思われる。これまで快進撃を続けてきた共産党の勢力が、ここで大きな壁に突き当たり、逆風の事態を迎えることになった。ぐんぐん党勢を伸ばしていた共産党が、突然、何かの選挙でブレーキがかかって失速するというのは、これまで一度ならず目撃してきた光景で、1990年代末にも遭遇したし、1976年の衆院選の衝撃は今でも生々しく記憶にある。あのとき、それまで破竹の勢いで議席を増やし、大都市を次々と革新自治体に変え、「民主連合政府」への期待に国民を昂奮させていた共産党が、一気に38議席から17議席に半減、手痛い敗北を喫した。その躓きは、そのまま2年後の1978年の京都府知事選に繋がり、大きな大きな関ヶ原の戦いで左翼は敗れた。釜座の落城。以後、残酷で苛烈な政治の掃討戦が始まり、あの、凄惨をきわめた都教組分裂劇を含む80年代の「労働戦線の右翼的再編」に至る。信仰を守り、意地を貫き、左翼の立場に踏み止まった者は、長い長い負け犬の人生を歩むこととなった。『借りぐらしのアリエッティ』の家族のように。レーガン・中曽根による新自由主義の開幕。そして、バブル・ポストモダンへ。時代が変わることを告げるように、若者たちに改宗を促すように、1980年12月8日、ジョンレノンが射殺されて姿を消した。



c0315619_17213964.jpg10月時点での大阪ダブル選の下馬評は、府知事選は届かないが、橋下徹が出ない市長選は「オール大阪」で確実に取れるというものだった。私もそう予想していた。10/1のプライムニュースを見ていると、松井一郎と伊藤淳夫が出演して、分裂した維新の今後を論じる企画で議論が進行したが、とにかく、司会の反町理の維新大阪組への批判の舌鋒が凄まじく、維新大阪組はもう中央政界には戻れないだろうという前提がくっきりした論調だった。反町理が松井一郎を一刀両断に斬って捨て、反論の余地を与えないほど徹底的にやりこめていた。政局屋で生きている反町理がここまで叩くのは、大阪市長選での維新の敗北が必至の情勢で、確かなデータの根拠があるからだろうと、テレビの前で私はそう思い、前途を楽観、ようやく橋下徹が消えてくれると安堵の気分でいた。ところが、それが暗転するのが、10月末か11月初に出た読売の情勢報道で、両方ともおおさか維新が取るという意外な予測が記事で出る。私は驚いて狼狽したし、そのときは理由が分からず首を捻ったが、3週間前のマスコミの情勢報道でこう出てしまうと、そこから選挙をひっくり返すのは難しい。当時は、SEALDs(SADL)が大阪の街頭で奮戦中という情報がネットを埋め、SEALDsの若い槍が橋下維新を討ち取るだろうという期待感が充満、まさか橋下徹が巻き返せるとは思いもよらなかった。

c0315619_17214925.jpg自共共闘の候補で立った柳本顕は、識見・人物ともに申し分なく、若くてスマートで、こういう政治家がまだ自民党にいたのかと思うほど好感の持てる、ぜひとも大阪市長に就いて欲しい適材だった。これほどの人物を擁立して、自民、民主、共産の大連合が担ぎ、どうして橋下徹本人でもない新人に負けたのか。それはやはり、マスコミの解説で言われていたように、保守有権者における共産推薦候補へのアパシーという要素を看過できないだろう。街頭での選挙運動は、自民より共産の主導だったと言っても過言ではなく、5月の都構想住民投票を制し、安保法反対運動から「国民連合政府」構想で上げ潮にあった、共産の支持者がエネルギーの中心だった。今回、共産は国民的人気者となったSEALDs(SADL)を選挙の前面に押し立て、そのプラスイメージの訴求で集票を図る作戦を敢行した。左翼リベラルの側からすれば、SEALDs(SADL)を錦の御旗に掲げるのは、パーフェクトな戦略の設計と布陣だっただろう。豈図らんや、蓋を開けてみれば、結果は大差の負けとなり、SEALDsのシンボルは奏功しなかった。しばき隊No.3の木下ちがや(明治学院大学非常勤講師)は、投票前々日の11/20に、「この一週間で僅差まで追い上げてきている」などと根拠のないプロパガンダを撒いていて、今から見れば失笑のタネとなっている。選挙活動とはいえ、荒唐無稽なデマの発信でしかなかった。

c0315619_172207.jpg大阪ダブル選の惨敗は、自民の敗北というより共産の挫折である。そして、意味において重要なのはSEALDsの威光の限界の露呈という点だ。大阪の選挙の結果は、基底のトレンドとして、安倍内閣の支持率上昇とシンクロナイズするものであり、そして、半年間続いた安保法闘争の総括が反映されたものである。もっと直截に言えば、SEALDs運動の化けの皮が剥がれた政治の一幕だと結論できる。SEALDsはマスコミが作り上げた虚像であり、左翼系の学生政治団体をマスコミが国民的な中立表象に細工したものだ。嘗て、辺見庸は橋下徹のことを「テレビがひり出した糞」と呼んだが、安倍晋三を支持する右翼の視線からは、SEALDsはそれに近い実体に見えるに違いない。SEALDsの本質は、単に左寄りの立場の学生たちが、マスコミの表面で目立ちたい動機で活動し、その目的を達成したものである。若い学生でも政治的な意思と主張を持っている。それは、決してマスコミの報道と世間の通念であるところの政治的無関心や右寄り(ネトウヨ)の立場だけではない。だから、(希少価値である)自分たちの存在をマスコミは正しく世間に紹介するべきで、意見発信の場を与えるべきだ。というのが、SEALDsの言い分で、「かっこいいデモをしたい」とだけ繰り返し、マスコミ論者や政党幹部に「オシャレなデモ」だと賛辞を言わせていた。立場とイメージは持っていたが、議論は何もなかったのである。タレント志望だった。

c0315619_17221289.jpgマスコミとしばき隊のフェローズたちは、SEALDsに入念に化粧を施し、マスコミとネットをSEALDs礼賛の声ばかりで埋め、国民的英雄に祭り上げ、SEALDs批判をタブーにして封じたけれど、この子たちが何の知識も教養もなく、政治を指導するに必要な理論も哲学もなく、ただ裏の黒子に操られている人形であり神輿であることは、マジョリティの保守だけでなく、多くの国民が7月から薄々気づいていたことだった。気づきながら、不審の声を上げることができなかったのは、安保法案を阻止したかったからであり、SEALDsへのネガティブな言論が法案阻止にマイナスの影響になることを恐れたからだった。法案反対運動がSEALDs運動として固められてしまったため、それに対して悪口を言うことは憚られた。法案反対運動を分断してしまう利敵行為になるからである。だが、よく目を凝らして観察すれば判明したことだが、憲法学者による立憲主義からの反安倍の言説と、「デモ=民主主義」のエバンジェリズムであるSEALDs(しばき隊・フェローズ)の言説と、その二つは別物の思想で、二つは決して同じではなかった。憲法学者はデモの扇動はせず、立憲主義の説得で安倍政権と安保法案の正当性を根本から突き崩し、安倍晋三の支持率を落としていたが、SEALDs(フェローズ=小熊英二)は汎デモ主義で、極論すれば、法案のことなどはどうでもよかった。7月下旬にサンデーモーニングに出演した高橋源一郎が、「ボクは法案はもう諦めているが、若者の民主主義のデモに期待している」と言った一事が、SEALDs運動の正体を示している。

左翼リベラルはSEALDsに騙されたが、11月の大阪の市民は欺瞞に気づいたということなのだろう。大阪の人々だけでなく全国の人々が、SEALDsと今夏に一世風靡した「デモ=民主主義」の運動の欺瞞に気づき始めている。その証拠に、マスコミ各社の世論調査では、安倍政権の支持率が上がっているだけでなく、共産党の支持率が下がっているのだ。毎日の世論調査では、8月に5%だった支持率は、10月に4%となり、12月に3%に落ちた。TBSの世論調査でも、共産党は前回から1.9ポイントも下落して3.4%に落ちている。大阪の結果は、全国のトレンドを象徴的にあらわした政治となった。反動の季節が到来した。だが、この反動と低迷は、7月から9月にかけての左翼リベラル自身の政治的錯誤(SEALDs運動の欺瞞)が招来させたものである。結果には原因がある。


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by yoniumuhibi | 2015-12-09 23:45 | Comments(0)


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