「流行語大賞」の違和感 - 安保法の対立を解消する機嫌とりの共同体儀式

c0315619_17301285.jpg先週(12/1)、年末恒例の「流行語大賞」の発表があり、トップ10の中に「アベ政治を許さない」と「SEALDs」が選ばれ、受賞式の会場に澤地久枝が出席していた。そのテレビ映像を横目で見ながら、私はとても怪訝な気分になった。できれば、その違和感について辺見庸に言葉をあてがってもらい、代弁を果たしてもらって、すっきり爽快になりたかったが、叶わぬ望みのようなので自分で試みることにする。選考委員長が鳥越俊太郎だったので、こうした結果になるのは自然だとも言えるけれど、何か面妖で不快な感じが残る。奇妙で奇怪だし、人をバカにしていると思うのである。最初に、難しい表現で直観を言えば、その絵はまさに、辺見庸的な意味の「ファシズムの左側からの補完物」の政治そのものだ。以前、10月頃だったか、私は、安保法の政治は年の瀬と正月で一つに丸く纏められ、そこで国民の意見対立は止揚されるだろうという意味のことを言った。和をもって尊しとなす。日本人というのは、(良い悪いを別にして)均質性と一体性を重んじる。共同体に対立を引き摺るのを嫌う国民性を持ち、正月という時間の区切りを利用して、共同体の成員全員が新しく生まれ変わる機会と儀式を上手に使い、対立を忘れる(水に流す)ということをする。勝者と敗者が丸く一つに収まるということをする。



c0315619_17302328.jpgそのとき、日本人独特の知恵をはたらかせ、ウイナー・テイク・オールにせず、敗者に応分の分け前を与え、敗者の立場と名誉を重んじてやり、不平不満が出るのを最小限に抑えようとする。そうやって、支配者の支配を巧みに維持し、被支配者の反乱を防いで共同体の統治をよく保全するのだ。眼前の「流行語大賞」の光景は、まさしくそうした日本の伝統的な支配方式が華麗に遂行される場面であり、日本の思想の原風景が垣間見えた瞬間ではなかったのか。「流行語大賞」を仕切っているのが電通だということは、誰でも知っていることだ。テレビ局と官邸の意思が反映し、政治的な思惑を持っていることは誰にでも察せられる。支配者たちは、リップサービスで敗者に譲歩し、安保法を強行採決で通した代わりに「これで我慢してくれよ」と言わんばかりに、澤地久枝とSEALDsの子どもたちを今年の主役にし、年末の華やかな舞台で祭り上げてやり、敗者の機嫌をとったということなのだ。そうした見え見えの政治的本質を、今、誰も言う者がいない。9月19日の強行採決の後、NHKは急にSEALDsを美化して報道の前面に押し出すようになった。それまで、夏の間、SEALDsについてNHKは一切報道せず、それは専ら安保法案反対局であるTBSとテレ朝の専売特許だった。

c0315619_17303799.jpgテレ朝とTBSのお抱えタレントだったSEALDsを、法案成立直後からNHKが解禁し、国民的なアイドルにした。法案が通過したものだから、NHKは敗者の側に恩情をとばかり、法案反対の(すなわち左翼の)シンボルだったSEALDsを国民的なシンボルに調整していった。NHKに倣って、他の局もSEALDsをお笑いタレントにし、国民的人気者の表象へと加工処理をしていった。鳥越俊太郎が「流行語大賞」の選考委員長になり、澤地久枝とSEALDsがトップ10に入り、反安倍・反安保の政治シンボルが国民的流行現象として地位を認められたことで、政治に負けた者たちは、自分たちのデモが有意義だったという納得感と優越感を持つことができるようで、先週のTwにはそういう書き込みが多かった。SEALDs運動に参加してきた左翼リベラルは、本来、彼らが正しく持つべき屈辱感や敗北感から逃げ、自分たちをデモで民主主義を高度化させた勝利者のように言い上げてきたけれど、こうして、電通がそれをエンドースする年末イベントを騒ぐことで、彼らの勝利感が倍加され、苦痛や憂慮なく新年を迎えることができるという仕組みだ。もともとマスコミで注目されたい、タレント志望だったSEALDsの面々は別にして、この芝居の政治的意味(=ファシズムの統合工作)を心得ているはずの澤地久枝が、どうして堂々と会場に行ってニコニコ笑顔をふりまけるのだろう。よく理解できない。

c0315619_17304830.jpg電通が企画催行している「流行語大賞」は、良くも悪くも国民的なもので、テレビの芸能ワイドショーのネタで、スポーツ新聞の芸能面で娯楽を提供する類のものである。国民的なものであるということは、非政治的な性格を旨とするもので、政治的な立場の露出を抑制したものが好まれることは言うまでもない。例えば、この受賞と式典に、百田尚樹のバカ面があったり、櫻井よしこの妖艶な媚笑があったりすると、リベラルの市民にとっては大いに不興と憤慨の事態だろうし、それだけで「流行語大賞」は国民的娯楽ニュースの意味を失うだろう。今回、右翼方面から反発が上がらず、澤地久枝とSEALDsの派手な登壇に不満が出ないのは、右翼側(安倍晋三と安保法を支持する側)がリップサービスの意味を察知していて、これが「思遣」と「宥和」の政治手法だという真相を理解しているからに他ならない。電通は、年末の国民的娯楽ショーである「流行語大賞」の禁を破り、則を超え、コードとプロトコルを逸脱して、その見せ物の中身を左翼リベラルにサービスし、今年の主役を反安倍・反安保の政治シンボルに据えた。そう意味づけた。そのことにより、反安倍・安保反対も、安倍支持・安保賛成も、一つの国民的ムーブメントに回収され、一つの共同体のバスケットに放り込まれ、賛否両論あったけど、決まったことだから仕方ないねという気分醸成され、国民個々の心構えが新年で切り替わるのである。

c0315619_17305747.jpg結局、9月の強行採決の後、安倍政権の支持率は時間が経つほどに上がっていて、盤石で安定したものになっている。それは私が予想したことでもあった。厳しい言い方をするかもしれないが、澤地久枝も耄碌したものだと思う。こんなイベントに出演してはいけないし、「アベ政治を許さない」の標語をお笑いネタで消費させてはいけなかった。この政治標語は、もっと真剣なものだったはずだし、この標語の下に法案に抵抗する者が結束し、現政権を倒そうとするもので、もっと神聖な政治意思をあらわしたものだったはずだ。どうして、素っ裸のお笑い芸人がポーズするのと一緒の記念写真に収まる芸能ネタになるのだ。悪ふざけが過ぎるし、一生懸命に運動していた者は心を傷つけられると思う。心が傷つかない方がおかしい。9条の代名詞のような澤地久枝がのこのこ出てきて、ヘラヘラ笑っていることに苛立ちを覚える。澤地久枝にとって、あの法案が成立したことはどういう意味があるのか。SEALDsについて言えば、最初から芸能人になるのが目的だったようなところがあるから、この子たちはこれで満足なのだろうなと冷ややかな目で見るだけで、別に苛立ちを覚えることはない。おかしいのは、NHKにしても、今年は政治関係の言葉が多いですねとSEALDsを紹介するのだけれど、本来、それは政治関係というようなニュートラルなものではなく、反政府運動だったはずなのだ。反政府運動だったものが、イデオロギー性を脱色した無色透明の「政治関係」の対象となり、社会現象の扱いになっている。

何もかも、あまりに欺瞞的にすぎる。惨めで歯がゆい思いにさせられる。


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by yoniumuhibi | 2015-12-07 23:45 | Comments(0)


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