敗北を勝利とスリカエて自己陶酔する「デモ=民主主義」の倒錯した光景

c0315619_17102413.jpg高橋哲哉の「靖国問題」の中で、「感情の錬金術」という問題が論議されたことがあった。戦死者を出した遺族の感情が、靖国の儀式による意味付与を媒介して悲しみから喜びへ、不幸から幸福に180度変わる、国家神道のイデオロギーによる観念倒錯の心理を説明した言葉だった。何やらそれと似たような精神状況が、安保法に反対した人々の間で横溢しているように見受けられる。政治戦に負けたのに勝ったと言い、崖っぷちに追い詰められたのに勝利を達成してバラ色の地平に立ったような、そういう言説がマスコミとネットを覆って踊っている。完敗を喫した側に敗北感がなく、虚脱感が寸毫もない。本来、これほど長い政治戦を戦い、エネルギーを投入し、勝てるはずの戦いを落としたのだから、もう少し挫折感や無力感がストレートに表れてよく、結果を深刻に受け止め、何が敗因なのだろう、どこで間違っていたのだろう、どうすれば勝てたのだろうと、真摯に総括と反省を始めないといけないはずが、そうした本来あるべき営みの方向感覚が絶たれている。まるで日系ブラジル人の「勝ち組」のように、敗北を認めず、屈折した共同幻想に浮かれ、敗者が勝者のように振る舞っていて、精神をハイテンションに高揚させて自画自賛の昂奮に耽っている。「勝ち組」の言論に違和感を感じて小言を垂れた江川紹子は、逆に左翼によって袋叩きの目に遭った。



c0315619_17101413.jpgその集団狂躁(ウェーバーの宗教社会学のオルギー)には中身があって、その象徴にSEALDsがあり、その根拠に共産党の「選挙共闘」がある。そういう構図になっている。「勝ち組」に最初に言って頭を冷やさせないといけないことは、成立したのが戦争法だということだ。私も含めて法案反対派は、その法案を戦争法案と呼んでいた。国会で成立し、制定施行されれば、戦争が始まるという意味に他ならない。この法案が戦争法案なのかどうか、その規定が当を得ているのかどうかが政治戦の論争の一つだった。安保法が国会を通過すると、反対派は急に法の性格づけを弱めた議論を始め、デモで運用を抑えられるとか、違憲訴訟で無効にできるとか、選挙でねじれを起こせば海外派兵を止められるとか言っている。果たして、そう楽観的に言えるだろうか。第一に時間の問題がある。この関連法の施行は来年2月だ。この法律は自衛隊が海外で戦争することに法的根拠を与えるものである。来年になれば、自衛隊は法(戦争法)に従って粛々と行動する。参院選は7月。その間に戦争が起きればどうするのか。第二にオーナーシップの問題がある。この法律のオーナーは誰か。言うまでもなく米国(米軍)である。個人名を挙げれば、アーミテージとナイである。集団的自衛権行使を含む安保関連法案の整備は、米国がアーミテージレポートで指令してずっと待っていた「成果」に他ならない。

c0315619_17103616.jpg地球上のどこでも自衛隊が展開して、米軍の二軍となって血を流すことが、この関連法の「立法事実」に他ならない。オーナーは米国(米軍)であって、防衛省でも安倍晋三でもないのだ。先に日米ガイドラインがあって、それを法的に担保するために安保関連法がある。審議を通じて中谷元と安倍晋三が、何度も「事態の適用は総合的に判断する」と言ったのは、法律(すなわち国会や裁判所)に縛りをかけず、軍のフリーハンドにするという意味で、そのことは左翼リベラルもよく承知している。考えなくてはいけないのは、そのフリーハンドの手は実際には米国(米軍)だということで、運用の実権は米国(米軍)が握っている点である。日米ガイドラインは非常に抽象的な文言が並んでいるけれど、軍の行動というものは常に具体的で、戦争するときは相手がいる。敵と戦場が特定されている。おそらく、あの日米ガイドラインは表向きの文書に過ぎず、きっと裏に、独ソ不可侵条約と同じような秘密議定書があるのだろう。密約が隠されているはずだ。統幕から共産党に漏れ出た南スーダンPKOは、自衛隊独自の公式の活動計画で、自衛隊のみで完結する「国際貢献」の範疇のものである。日米ガイドラインの秘密議定書には、米軍が主導し関与する極秘の作戦計画があり、中東と南シナ海での任務分担が書かれているに違いない。法の発動は、官邸の判断と命令で行うのではなく、米国(米軍)の都合と要請で行われる。

c0315619_17104814.jpg第三に、戦争には相手(敵国・敵勢力・敵軍)がある。いちど交戦状態に入ってしまえば、最後まで戦い続けるしかない。戦争は一度始めてしまうと、片方の一存でやめるわけにはいかず、終わるまで続くことになる。戦争法は自衛隊を海外で動かして戦争をする法律であり、その法的根拠を定めたものだ。だから、法律の運用は一国内部で完結するものではなく、運用を実際に始めれば、その時点で相手(敵国・敵勢力・敵軍)との関係性が発生してしまう。そこがこの法律が他の法律と違うところであり、国会通過後に左翼リベラルが言っている議論は私には気休めにしか聞こえない。例えば、南シナ海でフィリピン軍を支援して海自が警戒行動をしているときに、中国軍と衝突を起こして交戦状態に入った場合、日本側からすればどれほど国際法に則った正当防衛であっても、そこを自国領とする中国軍からすれば軍事侵略であり、柳条湖事件と同じ侵略戦争の勃発である。当然、日本軍の攻撃を撃退するまで戦うという作戦行動が選択される。今回の法制は、自衛隊のその活動を法的に保障しており、自衛隊がその行動を任務とする根拠を与えている。そして、実際の命令を指揮発動するのは米国(米軍)だ。米国(米軍)は、日本の安保法制の成立を1年以上首を長くして待っていて、すなわち予定の作戦計画が山のように溜まっている。米国からすれば、これでようやく英国軍と同じ「使える軍隊」になったのであり、早速テストを始めるだろう。

c0315619_1710597.jpgこの間、マスコミとネットでは、SEALDsの神格化が一気に高まった。そして異口同音に、法案反対運動を通じて「日本の民主主義のレベルが高まった」とか、「主権者意識が高まった」とか、「嘗ての左翼の暴力的なデモとは違う運動が定着した」とか、「普通の市民がデモに参加するようになった」などと言い、日本の民主主義の質が上がったという積極的な総括が繰り返されている。どこを見ても同じバラ色のフレーズが並んでいる。小熊英二の「デモ=民主主義」のイデオロギーが撒き散らされ、それに左翼リベラルの信者たちが恍惚となって頷いている。撤退と転進と言い換えた大本営と同じであり、神風が吹く逆転勝利を信じた皇国臣民の態度と同じだ。異常な倒錯としか言いようがない。この国の民主主義は、政治戦を通じてレベルが上がったのでも新しい地平を獲得したのでもない。敗北によって民主主義は死滅状態に追いやられ、勝利したファシズムが全権を掌握したのが真実ではないか。9/18の夜、元自衛隊の古庄幸一がNEWS23に出演し、嘗ての統帥権が復活したかのような不気味な勝利宣言を発していた。今後は、国会とか民意とか、そういうものが国家を動かす割合は小さくなるのであり、一握りの国家エリートが(米国と共に)この国の政治を動かすのだと、そう言っていた。日本国の神聖な国家目的の実現を軍部(官邸+J-NSA+自衛隊)が遂行するから、国民とマスコミは黙って見てろと、そう言っていた。まさに戦前。戦前に戻った。

それにしても、あの大きな政治戦の敗北を正面から総括する言葉が一つもない。不思議な光景だ。


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by yoniumuhibi | 2015-09-24 23:45 | Comments(0)


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