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日本市場にボラティリティが集中増大する理由 - アベノミクスの構造矛盾

日本市場にボラティリティが集中増大する理由 - アベノミクスの構造矛盾_c0315619_15372263.jpg前回、ボラティリティというキーワードを使って、日銀のマイナス金利が円高株安を媒介したメカニズムを説明した。ボラティリティとは、金融市場での不安定性・変動性、相場の値動きの大きさを意味する言葉で、5年くらい前からよく使われるようになった術語だ。もともとの英語の意味を調べると、(1)揮発性、(2)落ち着きのない(うわついた)性質,移り気とある。ここ数年、ボラティリティとか、ポジションとか、投機の世界の用語がそのまま金融経済の理論や報道の中に入ってきて、当たり前のように解説語として使われている。そのことに強い抵抗を感じ、自分から進んで使う気が起きなかったが、今回は逆に、マイナス金利の失敗を批判的に分析する上で有効な概念として援用することができた感がする。敵である新自由主義の言葉を、新自由主義を批判する武器に転轍する試みができた。金融市場の変動性というと、われわれはそれを自然現象として観念し、アダム・スミス的な「神の見えざる手」の調節運動として了解してしまうけれど、実際には、原義の二番目の意味が本質を示しているように、血走った目で息荒く儲かる金融商品を探し、短期で大きな利ざやを稼ぐべくマネー移動させる投機家の心理や行動のことだ。



日本市場にボラティリティが集中増大する理由 - アベノミクスの構造矛盾_c0315619_15373464.jpg自然現象ではなく、生の人間の活動の過程と結果であり、人の意思決定の反映である。自然ではなく作為の契機。NHKや日経は、今回の急激な円高を「比較的安全な資産である円を買う動き」と説明し、マイルドで肯定的な表象に言説化して報道している。しかし、小幡績のコメントが正しく指摘しているように、これは円市場が避難場になっているのではなく、投機マネーの狩猟場になっている現象に他ならず、売り抜けで得る暴利を目当てに日本国債と日本円を暴騰させている投機の動態に他ならない。それが、マイナス金利導入後に発生した急激な円高のボラティリティの中身である。NHKや日経など御用マスコミは、アベノミクスを礼賛し擁護し宣伝する政府機関紙であるため、この異常な円高の投機性について真相を語らず、悪性な実態であることを言わない。黒田東彦の判断と決定が自爆であり、投機マネーを誤って刺激して円高ボラティリティを発生させた失策であったことを隠蔽するため、円高の原因を「海外要因」だと一方的に決めつけ、国民を欺いて責任を他に転嫁する報道に終始している。2週間で10円も急騰する異常な円高に、1/29に発表した日銀のマイナス金利が影響してないはずがない。

日本市場にボラティリティが集中増大する理由 - アベノミクスの構造矛盾_c0315619_15374320.jpgNHKと日経の報道は不当きわまる情報操作であり、グロテスクな日銀正当化の世論工作だ。周知のとおり、マイナス金利は欧州諸国でも導入している。スイス・スウェーデン・デンマークにおいて、中央銀行が政策金利をマイナスに踏み切った。だが、そうしたマイナス金利措置が、各自国通貨(CHF、SEK、DKK)を直後から著しく高騰させて混乱に陥るという倒錯した経緯は起きていない。そもそも、マイナス金利はデフレ対策の非常措置で、自国通貨を為替安に誘導するための政策である。通貨安競争に勝ち抜く最後の手段として、国内への副作用を配慮しつつ講じる奇策だ。だから、マイナス金利を発動すれば、原理的には通貨安に振れなくてはいけないし、通貨高を止める効果を果たさないといけない。実際に、黒田東彦の意図は円安株高の市場期待を刺激するところにあった。だが、蓋を開ければ、2週間で10円の円の暴騰という裏目の事態になるのである。長期金利がマイナスに転じて日本国債の価値が上がり、投機マネーが日本国債と日本円にラッシュした結果だった。思惑と逆の市場ボラティリティを発生させた。欧州と日本でマイナス金利策の結果が違ったのは、日本にアベノミクスという特殊要因があったからだ。

日本市場にボラティリティが集中増大する理由 - アベノミクスの構造矛盾_c0315619_15375662.jpg日銀が無制限に国債を買いまくるという条件があり、日本国債が短期的にノーリスクの金融資産となり、不安定な世界の金融市場の中で格好の投機対象となったからに他ならない。原油も下がり、NYSEも下がり、リスク要因ばかりが充満し、確実に利益を出せる金融商品がない中で、日本国債だけは日銀買い入れの保証メカニズムがあり、どこまで暴騰させても売却損のリスクがない。そして、その旨味に釣られて円が買われて騰がるから - 日本国債を購入するためには日本円を保有する必要がある - ドルを円に替えて暫く待機すればよいのである。それが、御用マスコミが説明するところの「比較的安全な資産である円を買う動き」の内実だ。欧州諸国とは異なって、日本には別の金融政策の構造と循環があり、欧州諸国とは異なる法則性と矛盾があった。だから、マイナス金利が円安誘導に作動せず、円高のリターンの直撃を受けたのである。アベノミクスというストラクチャーが所与としてあるため、マイナス金利は金融の一般原理とは逆方向のマネーの流れを誘発したのだ。円安をドライブせず、円高期待を高める顛末になったのである。円高はアベノミクスの致命傷であり、通貨安競争の市場ゲームでの一人負けを意味する。黒田日銀は市場の敗者となった。

日本市場にボラティリティが集中増大する理由 - アベノミクスの構造矛盾_c0315619_1538884.jpgこのことはきわめて重要だ。今、アベノミクスの破綻と終焉が言われているけれど、重要なのは、円高株安という市場変動の現象面の危機だけではなくて、日銀が市場をコントロールできなくなり、市場とのコミュニケーションに障害が生じ、両者が対峙して鬩ぎ合うバトルの関係に陥ったことである。これまで、3年間、日銀と市場はアベノミクスの構図の中でWinWinの蜜月関係だった。日銀の緩和政策は市場(投機資本)に常に甘い蜜を提供し、市場は株価を吊り上げて安倍晋三の支持率を維持する原動力になってきた。アベノミクスとは金融緩和と株価上昇と規制緩和の政策体系である。日銀の意思は市場の意思であり、二者は常に同じ方向を仲よく向き、協力し合って互いの目的を達成してきた。3年間、日銀と市場の利害関係にバランスが崩れることはなかった。現在、市場(投機マネー)の欲望は円高を惹起させていて、日銀が求める市場の方向とは真逆になっている。円の暴騰は、当然ながら株の暴落に直結する。投機マネーは株を売って円を買う動きになり、日銀とは敵対的な緊張関係に立つ位置になった。金融資本たる投機マネーの宿命と目的は、自分が暴利を貪ることであって、アベノミクスを祝福することでも安倍晋三と黒田東彦の権力を安定させることでもない。

日本市場にボラティリティが集中増大する理由 - アベノミクスの構造矛盾_c0315619_15382035.jpg資本とは、無限に自己増殖する価値の運動体である(マルクス)。さて、ここで黒田東彦の立場になって考えたとき、何としてもこの円高を止め、1ドル120円の原状水準に戻す必要があるが、その政策の実現はきわめて難しい状況にあると言える。最も有効な手段はFRBとの協調介入だが、果たしてそれが可能だろうか。これまで、ゼロ金利からの出口戦略を言い、順調に緩和から緊縮への転換を進めてきたイエレンが、2/11の会見ではマイナス金利も「検討している」という発言をして、物議を醸す場面があった。米国経済の先行き見通しは、楽観論から悲観論へ傾きつつあり、そして大統領選という時期でもあり、当局は為替を米ドル高に持って行きにくい立場にある。昨年10月、米国の輸出は3年ぶりに低水準となり、439億ドルの赤字を計上した(12月は434億ドル)。中国経済の不振のためだが、為替相場が人民元安に振れている影響も小さくない。トランプのような過激な主張が世論を刺激する中で、当局がドル高に為替を操縦することは難しいだろう。選挙戦のさなか、米国経済のリセッションが囁かれる現状で、しかも、欧州・日本・中国が通貨安競争に拍車をかけている環境で、米FRBがドル高に舵取りする展開は考えにくい。すなわち、日銀と政府が望む円救済の協調介入は無理だ。

日本市場にボラティリティが集中増大する理由 - アベノミクスの構造矛盾_c0315619_15383163.jpgこれまで、日銀の金融緩和策は「黒田バズーカ」と呼ばれ、市場(投機資本)に歓迎されてきた。1/29のマイナス政策金利は、待望のバズーカ第3弾の発射のはずだった。だが、結果は裏目に出て、円高が企業収益を悪化させ、株価低下の圧力をかける局面になり、日銀は何も手を打てない窮地に追い込まれている。マイナス金利の金利幅を拡大させれば、連動して長期金利のマイナス幅を拡大させ、日本国債のさらなる高騰に直結し、日本円が急伸するというスパイラルを導いてしまう。協調介入が不可能なら、日銀はお手上げで市場に全てを任せるしかない。すでに、いわゆる金融アナリストと称する方面から1ドル100-105円という厳しい観測まで出始めた。アナリストたち - 機関投資家という名の投機資本の代弁者 - の口調は、決して黒田東彦を擁護したり援護する感覚ではなく、何やら意地悪に突き放した冷ややかな態度が印象的で興味深い。彼らは、市場のボラティリティが高まれば高まるほど暴利を得る好機なのであり、相場が上下に激しく変動するから面白いように儲かるのだ。損を出すのは、振り回されて右往左往する個人トレーダーであり、ババ抜きのゲームの最終責任を引き受ける日銀である。ハゲタカとその仲間の日本の金融大手に損はない。非情な守銭奴である彼らが、WinWinの相棒だった黒田東彦を見限り始めた。

アベノミクスの破綻なり終焉を象徴づける図である。最後に、あらためて、同じマイナス金利措置でも、欧州は通貨高にならず、日本のみが通貨高を現出させている事実に注目されたい。日本にはアベノミクスの政策体系があり、特異な金融構造の条件と論理矛盾があるため、マイナス金利が円高に結果するのである。日本市場にボラテリティが集中する由縁だ。


日本市場にボラティリティが集中増大する理由 - アベノミクスの構造矛盾_c0315619_15384433.jpg

by yoniumuhibi | 2016-02-15 23:23 | Comments(3)
Commented at 2016-02-15 18:28 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by アベノミクスは死んだ at 2016-02-15 18:40 x
日銀のマイナス金利の直後、円高株安が、なぜ起きたのかが、マスコミの解説では、全く分からなかった。マイナス金利という実体を持った政策(しかもそれは一瞬とはいえ円安株高をもたらした)をひっくり返すこれほどの大きな動きが、誰か(イエレン等)の言葉だけで引き起こされるものなのか、と疑問に思っていた。
このブログの解説で納得した。
「アベノミクスとマイナス金利が合体したからこその結果」だったのですね。つまり、現政権(安倍)と現日銀(黒田)の経済政策が完全に失敗したわけだ。

もともと、アベノミクスで上がったように見えた日本株は、NYダウに引っ張られていただけだ。そのタイミングに合わせてただ「アベノミクス」と言っただけで、実際には安倍と黒田の政策には、初めからほとんど何の効果もなかった。NYが下がったのに日経は上がったことなどあったか?

さて、参院選前に安倍は消費税10%を引っ込めざるを得まい。自分で上げると言って、自分で引っ込めるのだから、全く安倍の手柄ではない。が、御用マスコミ(国谷、古館、岸井がいない)は、安倍を礼賛するのだろう。

本当の問題は、民主主義の「主」である「民」が、それに騙されてしまうか、否かにある。
あのアメリカの大統領選に「社会主義」を標榜する候補者が出現している!この時に、日本の有権者はどんな選択をするのだろう。
Commented by 愛知 at 2016-02-16 00:20 x
いつもながらの正鵠を射たご教授に感謝いたします。2月15日の日経平均の急反発をSputnik日本が、「投資家たちが、日本政府による追加の景気刺激策に期待したことを背景に起こった」と評価しており、狐につままれたような気分に。何かしらのジョークでしょうか。

民主党、前原誠司氏は1月25日のブログの中で、「憲法改正の王道」を説き、緊急事態条項についても、どうしても必要だと言及されておられ。本日の国会での表現の自由と経済の自由などの白熱の憲法論議とのギャップに驚かされました。貴下昨年5月の「手を繋がなかったメーデー」の記事より、それなりの理解はしていたつもりでしたが。こちらも狐か狸につままれているのではというギャップです。


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