インドで考えたこと - デリーとニューデリー

c0315619_16142545.jpgインド観光中、アテンド担当のガイド氏からカーストについて説明はなかった。移動中の車窓から途切れることのない、半スラム街と路上の物売りの人々とカーストとの関係について質問して答えを聞きたかったが、それは憚られることだった。インド憲法ではカーストによる差別を禁止していて、表面上は差別のない国作りをめざしている。だが、現実にはカースト制度が生きていて、結婚や就職のときに問題となり、インドはその社会的慣習を廃止していない。ヒンズー教そのものがカーストを認めていて、ヒンズー教徒として生きることは、カースト制度を肯定し、カーストに属し、カースト社会の中に身を置いて人生を送ることを意味する。ヨガと瞑想という表象に注目すれば、積極的なライフスタイルに映り、他宗教に対して寛大で排他性や独善性がなく、自然で宗教本来の姿に見えるヒンズー教だが、それはカーストを固定・再生産する元凶の観念システムでもある。インド国内でカーストが禁忌であり、公論の対象として喋々されるべきものでないことは、3日間の旅行でそれとなく察せられた。堀田善衛はインドに3か月も滞在し、私と同じくカーストに強い関心を持っていたに違いないが、岩波新書(青)には観察と報告が記されていない。現地で得る情報がなく、迂闊な議論ができなかったからだろう。

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# by yoniumuhibi | 2017-02-17 23:30 | Comments(2)

インドで考えたこと - インドの宗教と自律と自癒の社会

c0315619_17220519.jpg堀田善衛は岩波新書(青)の中でこう書いている。「デリー近郊を歩いていると、いや、どこをでも、インドの友人のすすめるがままに見物に行くとするなら、一切は宗教である、ということになってしまう。(略)デリー近辺の広大無辺の半砂漠地帯には、その昔の帝王の実に巨大な墓や回教礼拝堂の廃墟がいくらでもあるが、それらはたとえ廃墟であっても、決して死んではいないという、生き生きとした印象を与える。(略)村の人たちは、観光用説明というのではなくて、それらの廃墟についていくらでも無限に、そして実に楽しげに、現在に生きている対象として話をすることができる」(P.67-68)。デリー市内には、宗教の寺院や施設がとても多かった。想像以上だった。宗教が人々の生活の中に入り込んでいて、人々が宗教とともに生きている。インドを治めているのはインド政府に違いないが、路上に群れて暮らしている夥しい数の末端の人々まで含めて、それを統治しているのは、宗教の自律と自癒の力(Macht)なのではないかと、そのように思われた。宗教の死生観などとは無縁に生きていて、信仰心などというものを軽侮する態度を持ちがちな日本人には、インドの人々と社会は分かりにくい。が、どうやら、インドの人々がシヴァ神やヴィシュヌ神を語ることは、われわれがトランプを語ることと同じくらい関心の高い、意味のある問題事項なのだ。

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# by yoniumuhibi | 2017-02-15 23:30 | Comments(3)

インドで考えたこと - インドへ行くと人生観が変わる

c0315619_16320529.jpg午前3時に寝て、目が覚めたのが午前5時だった。飛行機の中で一睡もしておらず、疲れているはずなのに眠れない。時差が3時間半ある日本だと午前8時半だから、そのせいだっただろうか。窓の外は真っ白の濃霧で、30メートル先の視界がきかない。その日はデリー市内観光が予定され、狭いマイクロバスに押し込められて出発した。そこで見た風景は忘れられないものだ。インドに行くと人生観が変わると言われているが、まことに人生観を変えてしまうほどの衝撃的な風景があった。ネットを見ると、デリーの街について、「街中がゴミ捨て場のようでした」と日本人が書き込んでいる。観光に訪れた女性の感想だろう。これほど当を得た表現はない。一言で真実を言い表している。ゴミ捨て場の中に大きな街があり、家が並び、車が犇めき、無数の人が路上に蠢いていた。ゴミ捨て場とクラクションの嵐。それがデリーの街だ。沿道に商店が並んでいる。どれも間口が狭く奥行きがない小さな店舗で、建物も古く薄汚い。商店と車道の間に歩道のスペースがあり、そこに、自動車やオートバイや自転車が駐車され、さらに露天商の屋台の連なりがある。露天商という日本語では、表象としてきれいすぎて実態を表現しない、派遣村の炊き出しの絵を想起させるところの、もっと粗末な食べものの物売りの姿がある。

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# by yoniumuhibi | 2017-02-13 23:30 | Comments(1)

インドで考えたこと - インディラ・ガンジー国際空港へANA便で

c0315619_18034322.jpg行き帰りの飛行機は全日空だった。格安ツアーながらANAを使うところはさすがに大手代理店であり、逆に言えば、その分、現地の下請け会社がコストのしわ寄せを受けている事情が察せられる。狭いエコノミー階級の座席だったが、ANAのデリー往復は快適だった。機長がいい。機長は正確に到着時間を守り、日本の航空会社のエクセレンスを証明、日本人乗客を誇らしい気分にさせてくれた。デリーからの復路、搭乗は時間どおりに進行したが、離陸直前にアクシデントが発生、チェックインした客の一人が荷物を預けたままキャンセルしてしまい、機内からそれを取り出す作業が入り、出発は2時間ほど遅れることになった。予定では、午前1時25分に出て12時45分に着く。時差が3時間半あり、フライト時間は7時間40分。このトラブルを、機長は航路の変更と加速の凄技で見事に凌ぎ、飛行中に2時間のディレイを取り戻して予定時刻どおりに成田に着陸した。到着時間に変更はないからご安心をと、二度ほど自らアナウンスして、そのとおりに約束を守った。復路は偏西風に助けられるという判断もあったのだろうが、このタイムマネジメントは完璧で、日本人らしい努力に感心させられる。つまり、お客には後の都合があるから迷惑はかけられないという配慮の意識だ。

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# by yoniumuhibi | 2017-02-08 23:30 | Comments(3)

インドで考えたこと - 格安ツアーとインド経済

c0315619_17215577.jpgインドから帰国して数日が過ぎた。成田に到着した翌日から発熱が始まり、重い風邪の症状に苦しまされる日が続いたが、どうやら峠を超えたようで快方に向かっている。インドへの旅を思い立ったのは、大手の代理店が破格値の商品を売り出したのを新聞広告で見つけたからだった。5万円でタージマハール観光ができるのならこれを買わない手はない、ということで衝動買いで飛びついてしまった。もう一つの理由は、年齢からくる体力と健康の衰えで、例えば、もしも辺見庸と同じ身体の条件になってしまえば、そのときどれほど経済的余裕があってもインド往復はかなわない。実際のところ、今回の3泊5日のハードスケジュールを10年後の体で再びやれる自信はない。インドはハワイとは違う。ヨーロッパやアメリカとも条件が違う。インドの旅は体力を要するものだ。体力のあるうちに行っておかなきゃという人生の計算の感覚が、衝動買いを後押しする動機となった。インド旅行は心身ともに疲労困憊になるタフなものだったが、それではもう二度と彼の地へ行く気はないかというと、決してそうではなく、例えばベナレスとブッダガヤが4万円で売り出されたり、アジャンタとムンバイが4万円でセットになれば、年齢も体力も出費も忘れて目の色を変えて飛びつくことだろう。


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# by yoniumuhibi | 2017-02-07 23:30 | Comments(3)

NAFTAの破綻とメキシコの20年 - 合衆国と中南米の「文明の衝突」

c0315619_18291744.jpgペニャニエトが訪米中止を発表し、31日に予定されていた米墨首脳会談が取り止めになった。25日にトランプが「国境の壁」建設の大統領令に署名したことで、衝撃と緊張が走り、世界中が注目していたが、二人が顔を突き合わせて「カネを払え」「払わない」と喧嘩する修羅場は避けられることになった。メキシコでは、ペニャニエトの対米弱腰姿勢に対して国内で反発が高まり、支持率が12%にまで落ち込んでいる。メキシコでトランプとペニャニエトを批判している急先鋒は、民主革命党(PRD)のリーダーのオブラドールで、2018年の大統領選の有力候補の一人と言われている。過去に2006年と2012年の大統領選に出馬、2006年は僅差で破れた。PRDは左派政党で、日本共産党の党大会に代表を送っている。日本国内では、この問題についてメキシコ側から取材した報道があまりにも少なく、状況を客観的立体的に捉えることが難しい。昨年の米大統領選で予測を外し、DC・NYの目線だけで見て判断してはいけないなどと反省の弁を垂れながら、日本のマスコミは、「国境の壁」問題についてメキシコ側の論理や立場に目を向けない。内情を探ろうとせず、メキシコ国民の意見を拾わない。昔の日本はこんなことはなかった。すぐに黒沼ユリ子が出て来て、久米宏の番組で現地をレポートして説明をしていた。

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# by yoniumuhibi | 2017-01-27 23:30 | Comments(9)

TPPの破綻と消滅を祝福する - 中国がRCEPでルール作りの主役に

c0315619_17052692.jpg23日、大統領に就任したトランプがTPPから永久に離脱する大統領令に署名した。このことを率直に喜び言祝ぎたい。米国の市民も歓迎しているだろう。日本の農業を守るため、食の安全を守るため、国民皆保険を守るため、TPPは阻止しないといけなかった。一昨年に大筋合意が発表された「農産品重要五項目」のコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖は、今後どうなるのだろう。現行の関税率が維持され、生産者は将来も安心して事業を続けることができるのだろうか。本来、こうしてTPP発効が不可能になったのであれば、マスコミは、真っ先にTPPに反対してきた農家やJAを取材して声を拾うべきだろう。萬歳章のコメントを聞きたい。だが、NHKは取材をせず、朝日にも全く載っていない。マスコミが報道するのは、TPP推進派の声ばかりであり、米国抜きでも枠組みを続けよとか、米国を説得せよなどと、麻生太郎とか日商とか経団連の幹部の声ばかりを取り上げている。日本が一生懸命に骨を折り、米国のために献身的に尽くしてきたTPPが、米国の気まぐれのために水の泡になり、何とも残念でならないという意味づけにしている。まるで、TPPは国民の総意であり悲願であったかのような構図化だ。マスコミにTPP反対の立場の者がいない。TPPが亡国の道であるという認識の者がいない。

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# by yoniumuhibi | 2017-01-25 23:30 | Comments(5)

トランプの戦争 - 三つの敵を軍事攻撃して「アメリカを再び偉大にする」

c0315619_17054433.jpg今日(1月24日)の朝日のオピニオン面(15面)に、「トランプ政権への期待」と題したオリバー・ストーンのインタビューが載っていて、その冒頭でこう言っている。「ヒラリー・クリントン氏が勝っていれば危険だったと感じていました。彼女は本来の意味でのリベラルではないのです。米国による新世界秩序を欲し、そのためには他国の体制を変えるのがよいと信じていると思います。ロシアを敵視し、非常に攻撃的。彼女が大統領になっていたら世界中で戦争や爆撃が増え、軍事費の浪費に陥っていたでしょう。第3次大戦の可能性さえあったと思います」。そして、トランプのアメリカ・ファーストの路線に期待を寄せ、米軍を海外から撤退させ、介入主義を弱め、自国のインフラ改善と経済再建を進めることをトランプに期待している。全体として、トランプの今後に期待を寄せ、政策が善い方向になるよう見守ろうとする姿勢であり、21日にDCの反トランプデモに参加したマイケル・ムーアやマドンナとは一線を画した立場を滲ませている。昨年、サンダースとクリントンが戦った予備選があり、その後にクリントンとトランプによる本選となる中、敵味方の関係が微妙に移動し、リベラルの議論と争点が複雑に屈折したことが影響しているのかもしれない。このオリバー・ストーンのスタンスは、私と少し近いようにも見える。

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# by yoniumuhibi | 2017-01-24 23:30 | Comments(1)

トランプの暗殺と軍産複合体のクーデターの予感 - 実験国家の黙示録

c0315619_15424189.jpg大統領就任式の翌日(1月21日)、首都ワシントンで50万人、全米で300万人規模となる反トランプの抗議デモが行われた。一方、就任式の参加者は20万人ほどで、デモの人数の半分以下で、しかも白人ばかりであり、就任演説のマイクに会場からの抗議の声が拾われるという異例の事態となった。日経新聞は19日の記事で就任式に90万人が集まるなどと書いている。NHKを筆頭に、トランプの大統領就任を祝賀報道しようとした日本のマスコミは、すっかり予測が外れて恥をかいた格好になっている。全米で300万人の動員を実現した反トランプの市民は、自信を深め、ニューヨークタイムズなどマスコミと連携してさらに気勢を上げ、政権に対して圧力の手を強めるに違いない。退陣へ追い込む「市民革命」めざして追撃することだろう。何もかも異例ずくめの米国大統領就任の進行。米国の政治がこのような目も当てられない惨状になるとは、いったい誰が想像したことだろう。これが現実。トランプ時代の始まりは米国政治の激動の始まりであり、一寸先は闇の熾烈な権力闘争が続く混乱の始まりである。昨年の選挙戦の状況がそのまま続き、米国政治は安定を見ることなく、国民はトランプ支持と不支持に分かれて争うことになる。

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# by yoniumuhibi | 2017-01-23 23:30 | Comments(3)

戦後日本の中間層システムを憎悪する小熊英二 - 朝日新聞の説教3連発

c0315619_16431355.jpg前年比で5分の1の動員規模となった「安倍政権NO」の渋谷デモ。そのデモ行進の映像に小熊英二が出ていた。偶然に撮られたというより、自分の姿を故意に見せていたという雰囲気で、隊列の先頭に近い位置で歩道寄りの左端を歩いていた。カメラを意識した視線だった。2012年の官邸前デモのときもそうで、わざと目立つように国会記者会館の前庭に入り込み、連れてきた子どもを抱き上げて遊ぶところを、窮屈な歩道で立ちんぼしているデモ参加者に見せつけていた。こちらに親密さを誇示するように、金平茂紀や長谷川幸洋と話し込んでいた絵を思い出す。狭い歩道上には広瀬隆も一人で立っていたけれど、なぜか小熊英二は、一般市民が立ち入りできない国会記者会館の敷地にいつもいた。朝日の論壇編集の地位を持っていたからだろうか。その朝日が、今回の「安倍政権NO」のデモを記事にしなかったことは、小さいながらも一つの事件であると思われる。しばき隊学者には分担があり、SEALDs事業部と「野党共闘」事業部は中野晃一の担当だが、反原連事業部はずっと小熊英二が面倒を見ている。野田佳彦との官邸内会談を周旋したのも小熊英二と菅直人のコンビで、反原連事業部(Redwolf)が事務局を仕切る「安倍政権NO」デモには、こうして二人は必ず顔を揃えるのである。

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# by yoniumuhibi | 2017-01-18 23:30 | Comments(4)

人数が昨年の5分の1に減った「安倍政権NO」デモ - その原因と真相を探る

c0315619_17594276.jpg3年ぶりの共産党大会が熱海で開かれ、初めて他野党の党首が招待されて挨拶を述べた。NHKの7時のニュースでも大きく取り上げられ、共産党を中心にした「野党共闘」が安倍政権に対抗する図が強調されていた。だが、共産党大会に出席したのは安住淳で、肝心の代表の蓮舫は北九州に姿があり、NHKのカメラの前で、共産党の「野党連立政権」に否定的なコメントを発していた。朝日の3面記事を見ると、蓮舫が入った福岡9区というのは共産党の比例現職(真島省三)が立つ重点区で、ここには同じく民進党の比例現職(緒方林太郎)が出馬を予定し、二党間で競合区だという説明がされている。蓮舫は、わざわざ共産党大会の初日を選んで福岡9区に入り、現地の会合に出席して選挙応援の檄を飛ばし、その行動をマスコミに書かせたのだ。意図的で姑息な計略であり、連合への配慮と言い訳であり、国民に向けてのメッセージの発信である。共産党と連合と、二つにバランスをとるという意思を明確に表明し、共産党と連立政権は組まないという態度を示している。福岡9区(若松・戸畑・八幡)に入らせたのは、野田佳彦の差配と演出だろう。こうして、共産党大会と「野党共闘」のニュースは、サプライズのアピールに冷水がかけられて相対化された。

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# by yoniumuhibi | 2017-01-16 23:30 | Comments(0)

トランプの会見 - 精神構造と行動様式が瓜二つなトランプと安倍晋三

c0315619_16502505.jpg日本時間の12日未明にトランプの大統領就任前会見が行われ、12日夜のテレビのニュースで大きく報じられていた。夜8時から放送のフジのプライムニュースでトランプのロシア疑惑が詳しく説明されていて、バズフィードとCNNが暴露した秘密文書の問題の概要を知ることができた。トランプが4年前のロシア滞在時にハニートラップに引っ掛かって弱みを握られているらしいことや、選挙スタッフがロシア側と何らか接触し、サイバー攻撃あるいは虚偽ニュースの世論工作の支援を受けていた疑惑が浮上していて、真偽は定かでないが、印象としてはかなり信憑性が高いように思われた。番組に出演したデーブ・スペクターの解説によると、ロシアはトランプの資産情報や税金逃れの実態も掴んでいて、それを脅しに使ってトランプを自在に操ることができるのだと言う。トランプは会見で疑惑に関する質問に答えようとせず、話をはぐらかして逃げていた。事実ならば驚愕の事態であり、外国から介入を招いた大統領選挙の正統性が根本から問われ、また、外国に弱みを握られた大統領が就任することになる。米国のマスコミは、この機にトランプへの反転攻勢を強め、選挙で屈辱を味わされたリベンジに出るものと予想される。

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# by yoniumuhibi | 2017-01-13 23:30 | Comments(3)

サンダースを捨象した長谷部恭男と杉田敦 - アカデミーの不毛な大衆蔑視

c0315619_16013757.jpgウェーバーが死んだのは56歳のときだった。社会科学の二大巨頭のもう一人のマルクスより8歳も若い年齢で世を去っている。マルクスは貧困と病苦の果てに苦しみ続けて64歳で逝ったが、ウェーバーは当時流行したスペイン風邪(インフルエンザ)にかかってあっと言う間に息を引き取った。ウェーバーは、まさか自分が56歳で死を迎える運命になるとは思わず、さぞかし無念だっただろう。結局、死の前年に講演した『職業としての政治』が遺作となり、その内容もまさに遺言のような響きを放っている。そのウェーバーに自分を重ねて何事かを想念するなどと、畏れ多いというよりも、あまりに不遜な自意識肥大のようで羞恥と恐懼を覚えるのだけれど、最近、1920年に死ぬ前年のウェーバーの心境が私にはよくわかるような気がする。1919年の『職業としての政治』のとき何を見ていたのか。ウェーバーが見ていた政治的現実と今の日本の政治が同じものに思われて仕方がない。ウェーバーが見ていたのはロシア革命であり、ボルシェヴィズムの暴力の嵐だった。俗にウェーバーは保守論者と言われ、『職業としての政治』の論調も、『プロ倫』と同じくペシミズムで覆われている。私の前にはしばき隊の暴力がある。

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# by yoniumuhibi | 2017-01-12 23:30 | Comments(1)

空回りして響くエスタブリッシュメントの一般論 - 脱構築主義の黄昏

c0315619_16092320.jpg昨年、E.トッドの著作の翻訳者として有名な掘茂樹氏のお話をうかがう機会があった。そのときに印象深く残った議論として、主権国家の再評価、国家への回帰という問題がある。トッドの所論がどのようなものか、ブログの読者はすでにご存じの方が多いと思われるのでここでは繰り返して説明しないが、今後の世界の動向を予測するとき、国家の復権と国家主義はキーのモメントだろうと思われる。国家への回帰とか、国家主義の再定置とかいうと、この国ではたちまち右翼反動のレッテルを貼られ、しばき隊と左翼から「ネトウヨ」認定され、袋叩きされるリスクを負う羽目になる。この国のアカデミーの標準理論と基本認識では、国家はデフォルトで悪の存在であり、国家や国民なるものは解体脱構築せねばならぬ負の遺産であり、多文化共生主義の真性敵であり、根絶されるべき前時代の悪性ウィルスの如き表象と価値づけになっていて、これを肯定的に捉えて言論する者は、即座に不穏な異端分子として糾弾駆除されてしまう。脱構築主義がアカデミーのヘゲモニーを握り、脱構築主義の研究者以外の生息を許さず、戦後社会科学(丸山真男・大塚久雄)の系譜を引く者を絶滅させてしまった現在、右翼と名指しされることを恐れずに、国家や国民の概念の積極的意義を敢言できる者は少ないだろう。

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# by yoniumuhibi | 2017-01-11 23:30 | Comments(5)

艱難甚だ恨む繁霜の鬢(杜甫)- 1年間のご愛読ありがとうございました

c0315619_17303826.jpg個人的な方面で、今年の最大の収穫は、健康診断でLDL(悪玉コレステロール)の値が下がったことだった。この5年ほど基準値を超えてC判定をもらっていて、医師から要注意の指導を受けていたが、今回、めでたく基準値の中に収まってA判定となった。毎日のランニングの効果が出て、血中脂質の濃度を下げる結果に繋がった。中性脂肪の値も下がった。血圧も下がった。2年前にランニングを始めた目的の一つは、運動不足を解消してLDL値を下げるところにあったから、大いに満足できる達成を得たと言える。親族に循環器系の急性疾患で倒れた者が何人かいて、その遺伝体質を私も持っているため、生活習慣病発症の原因となるそのリスクは放置できない問題だった。ランニングを始めた当初は、今よりも持久の負担が重かったが、そういうときに頭の中で念じていたのが、「心臓や脳で倒れて周囲に迷惑をかけませんように」とか「車椅子になりませんように」という言葉で、そうやって自らを励まして三日坊主にならないように努めた。脳をやられると半身不随になる。歩けなくなる。自分で身の回りのことができなくなる。それは、資産のない貧乏人には大変なことだ。60代でそうなったら絶望だし、70代でもやはり困る。

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# by yoniumuhibi | 2016-12-30 23:30 | Comments(6)

日米同盟真理教のカルト祭り - 亡国政治が人を憂鬱にして塞がせる年の瀬

c0315619_16510313.jpg辺見庸が、安倍晋三の真珠湾訪問と「和解」演説について感想を書いている。「焼き火箸…そうとしか形容しようがない。といったって、この比喩にもあきてきた。さりとて、焼き火箸を焼きごてにかえたら、ちがうのだ。どうしようか。激痛のなかでも、なごむことにはなごみ、はらだたしいことははらだたしい。あのおとこのことなんか口にすべきじゃない。ことばを舌にのせただけで、吐き気がしてくる。あのおとこと仲間たちなんぞこの世に存在しないものとして、ひとり激痛をいためばいいのだ」「このばあい、いわゆる『盗人たけだけしい』というのではない。あまりにも白々しいのだ。あくどいまでに、白々しい。(略)開戦の詔書をはっした戦争犯罪人をそもそも処罰していないではないか。『降り注ぐ陽の、やわらかな光に照らされた、青い静かな入り江』……そらぞらしいレトリック。ありがたがって全文を載せる新聞」。辺見庸は、安倍晋三の演説の全文に目を通している。さすがに文筆家だ。私は全文を読んでいない。NHKのニュースで、何度も映像が出て、画面の下にテロップが出て来るので、反射的に右手のリモコンを操作して、別のチャンネルに切り替え、30秒ほどしてからNHKに戻していた。

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# by yoniumuhibi | 2016-12-29 23:30 | Comments(3)

陳腐な「日米和解」プロパガンダ - ハルノートの歴史認識を隠すマスコミ

c0315619_14560360.jpg安倍晋三の真珠湾訪問とそれに関する一連のマスコミ報道には、強い違和感と脱力感を覚える。この噴飯で侫悪きわまる猿芝居に対して、何も反論や抵抗をせず黙って見ている左翼や右翼に対しても、言いようのない不信と軽蔑を感じる。真珠湾での安倍晋三のスピーチのキーワードは「和解」だった。朝日も、NHKも、この真珠湾の政治を宣伝しまくって、「和解、和解」と滑稽に騒ぎ続けている。いつから日米関係で和解がイシューになったのか。われわれは、米国との歴史認識で和解を求められる立場にいつから立ったのか。戦後の二国間関係で和解が問題になっているのは、中国であり、韓国である。米国との間で和解が政治案件に上った記憶はなく、何で今さらこんな的外れな言葉を拾い上げ、上から押しつけなくてはならないのか得心がいかない。日米戦争で和解の宿題が残っているとすれば、米国による広島・長崎への原爆投下であり、10万人が焼き殺された東京大空襲であり、1945年に行われた米国による非人道的な大量殺戮の戦争犯罪だろう。米国の公式謝罪が必要であり、日本はそれを求めなくてはならない。真珠湾攻撃の歴史から「和解」という問題が提示されるのは、意外で唐突であり、政府とマスコミがいくら強調しても素朴に腑に落ちない者は多いはずだ。

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# by yoniumuhibi | 2016-12-28 23:30 | Comments(1)

やまゆり園の大量虐殺と倫理 - 悪への怒りと拒絶が弱いのは何故なのか

c0315619_13375071.jpg2016年は大きな事件が多かったが、特に衝撃が大きかった事件として相模原障害者施設で起きた大量殺人がある。19人が死亡、26人が重軽傷を負った。戦後に起きた事件として最も犠牲者が多く、この事件について触れないわけにはいかない。最初に思うことは、被害の大きさや深刻さに対してマスコミの扱いが小さく、世間の関心がとても小さく、釣り合いがとれていないことだ。事件が起きたのは7月26日。リオ五輪が始まる10日前で、テレビ報道の関係者の関心はリオ五輪を盛り上げる演出ばかりだった。安室奈美恵の「君だっけのぉー、ためーのヒィロォー」のフレーズがNHKで繰り返し鳴り響き、威勢のいいリフレインによって気分はお祭りの方に持って行かれ、事件について丁寧な思考を向けることをしなかった。安倍晋三はカメラの前でコメントを発することをせず、現場となった障害者施設を訪問することなく、献花台の前で手を合わせることをしなかった。臨時国会が9月末に開会されたが、国会の委員会質疑でこの問題が取り上げられ、政府との間で論戦になったという報道を聞かない。「安倍総理は、やまゆり園に行って献花をするつもりはないのですか」と、素朴な疑問を発して答弁を聞き出してくれる議員は一人もいなかった。

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# by yoniumuhibi | 2016-12-27 23:30 | Comments(2)

国連は中立だったのか、欧米はシリア内戦を止める意思があったのか

c0315619_17283627.jpgシリア政府軍が東アレッポをほぼ制圧したのは12日だったが、翌日の13日に虐殺事件が起き、政府軍と親アサド派民兵によって82人の民間人が殺害されたという報道が出た。犠牲者には女性11人と子供13人が含まれているとされ、国際社会から大きな怒りの声が起こり、世界各都市でロシアを糾弾するデモが行われた。この虐殺については、国連人権高等弁務官事務所が声明を発表しており、その信憑性を疑うということは普通の感覚ではできないものだろう。だが、19日付のロシア・インサイダーの記事は、虐殺の証拠が何も出てないではないかと反論を上げている。言われてみれば、目撃者が複数いて、数が具体的にカウントされているにもかかわらず、路上の遺体の写真とか、射殺の現場を遠方から撮影した動画とかを未だ見たことがない。目撃者の証言も私は目にしていない。国連人権高等弁務官事務所は、「信頼できる複数の目撃者が証言した」と言うのだが、果たしてどこまで正確な根拠を確認した上での断定なのだろう。5年間の内戦の間、あれほど頻繁にSNSを使った映像で政府軍の非を証明し、西側に告発してきた反政府軍側の「市民」が、この「虐殺」については1枚の写真も開示せず、被害者の特定もしないというのは奇妙なことだと思わざるを得ない。

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# by yoniumuhibi | 2016-12-22 23:30 | Comments(3)

ナイラ証言を想起させるアレッポのバナ・アベド - 戦争とプロパガンダ

c0315619_17114590.jpgアレッポの悲劇を伝える7歳の少女バナ・アベドが、マスコミやネットで頻繁に登場して話題になっている。昨夜(20日)のNHK-NW9でも映像が紹介されていた。一見して、自然に家族が撮ったという感じではなく、プロの人間が周到に演出し編集した作品のような印象を受けた。ネットで検索して調べると、やはりと言うべきか、少女の実像について疑念を抱かせる情報が出ている。アレッポから彼女を避難させようとしたシリア政府寄りの活動家が、本人に接触した経緯を示した上で、英国の情報機関と繋がったプロパガンダの道具だと確信したと、そう証言している。無論、この活動家は、政府側の人間であり、この記事もロシアの通信社であるスプートニク発のものだから、その点は注意して総合的な判断をしないといけないのだが、バナとTwでコンタクトしたとき、「母親」であるはずの返信者がアラビア語での交信を嫌がり、もっぱら英語でのやりとりを求めてきたことを明かしている。バナのTwも英語での発信で、だからこそ全世界から同情を集め得たのだが、アレッポで普通に暮らすシリア国民なら、日常使う言葉はアラビア語であるはずだ。テレビに登場する映像でのバナの表情を見るかぎり、カメラを向けているのが肉親(母親)とはとても思えず、プロパガンダの制作物の被写体(子役女優)になりきっている。

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# by yoniumuhibi | 2016-12-21 23:30 | Comments(2)

「共同経済活動」の欺瞞 - 真相を言わず安倍礼賛のみのマスコミ

c0315619_17533884.jpg長門で行われていた日ロ首脳会談は、北方領土での「共同経済活動」が焦点になっていた。この問題で日本政府は、「特別な制度下の共同経済活動」を合意目標にして、この線でのステートメント化を狙ったようだが、ロシア側が折れず、結局、「専門家レベルでの協議開始」という先送りの方向になったようだ。朝日の今日(16日)の1面記事には、「ロシアのウシャコフ大統領補佐官は(略)『活動はロシアの法律の下で行われる。もちろん島はロシアに属している』と語った」と書いていて、NHK国際部の報道でも、「ウシャコフ補佐官は『島々での共同経済活動はロシアの法律の下で行われることになる』と述べた」と書いていて、ロシア側は北方四島での主権について妥協していない。昨夜(15日)までのテレビ報道では、主権を曖昧にした法律適用で「共同経済活動」が可能になるような言い方をして、安倍晋三の側の楽観論をそのまま撒いていたが、これが一蹴された格好だ。簡単に言えば、今回は何も成果がなく、派手な演出が空振りに終わった失敗外交というに尽きる。四島での共同経済活動、すなわち、水産加工とか観光開発とかの日ロ合弁事業は、マスコミが言うように、ロシア側が日本に強く求めたものではなく、逆で、日本側に強い動機のあるものだった。


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# by yoniumuhibi | 2016-12-16 23:30 | Comments(1)

北方領土の返還を阻む要因は日米同盟 - 真相を報じた朝日の記事

c0315619_16365777.jpg25年前の1991年1月、納沙布岬まで行ったことがある。JRの根室駅を降りてバスに乗り、平らな根室半島を45分ほど走ると終点に到着する。この年、ゴルバチョフの訪日が決まっていて、海部俊樹との首脳会談で領土返還の合意がなされるのではないかと期待が高まっていた。日本に島々が返ってくる前に、ソ連が占領支配している北方領土を一目見ておこう、北の国境の緊張した情景を目の当たりにしておきたいと、そう思ったのが足を運んだ理由だった。歯舞諸島の一つである水晶島が目の前に見える。テレビでよく見るところの、鳥が飛んでいるような、蛙が地面につぶれたような独特な形の小さな島だが、横から遠望すると、隆起がなく、海上に水平に島の地表が伸びている。一面が乾いた枯れ草の色で、根室半島沖に点在する島々はどれも同じであり、スコットランドを連想させる異郷の地形をしている。そこにソ連の国境警備隊の監視所があり、望遠鏡で覗き込むと、歩哨の一人が屋外で立ち小便をしているのが確認できた。納沙布岬から3.7キロ。想像以上に距離が近い。左側の視界には国後島が長々と入り込んで水平線を遮り、納沙布岬を押し包むように横たわっている。日本の領土の先にソ連の島があるというより、ソ連領内の懐深くに納沙布岬が突き出しているという印象だった。

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# by yoniumuhibi | 2016-12-14 23:30 | Comments(2)

2016年を振り返る - 天皇陛下の生前退位

c0315619_15453165.jpg今年の10大ニュースの私案を並べてみた。1.天皇陛下の生前退位 2.相模原障害者施設で19人の大量虐殺 3.大口病院で約50人の連続殺人 4.トランプ現象とサンダース旋風 5.カストロ逝去 6.山城博治の逮捕 7.参院選で安倍晋三圧勝 8.英国のEU離脱 9.熊本地震 10.『君の名は。』大ヒット。私の中では、やはり、天皇陛下の生前退位が最も大きな事件になる。この事件の衝撃は大きかった。その中身については、夏にブログに書いたとおりで、特に付記することはない。その後、政府の有識者会議の動きがあり、安倍晋三が懸命に抵抗の画策を行い、極右の論者を動員して天皇陛下に反撃する一幕があった。それについて、御厨貴やマスコミが何かくらだらないことを言い、安倍晋三に媚びへつらってこの問題の矮小化に努めていた。不愉快なので一つ一つを追いかけていないし、有識者会議は論評する価値のないものだと思われる。大日本帝国時代の皇室典範とそのイデオロギーを絶対視する極右が、今の天皇陛下の人格を貶め、天皇陛下を侮辱している。政府が憲法第1条をバイオレートし、日本国の国家の権威を傷つけている。安倍晋三と天皇陛下は国家観と天皇観が異なる。安倍晋三ら極右は、日本国憲法を認めず、大日本帝国の原状に国家を復そうとしていて、そこで天皇陛下と真っ向から対立している。

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# by yoniumuhibi | 2016-12-12 23:30 | Comments(5)

フィデル・カストロの死を悼む - 堀田善衛『キューバ紀行』の紹介

c0315619_14161280.jpgカストロの死を悼み、堀田善衛が書いた『キューバ紀行』を読んでいる。初版は1966年。64年に訪問したときの旅行記であり、時期的に考えて、政治宣伝の要素を割り引いて慎重に読まなくてはいけないかなと最初は警戒した。だが、読み進むほどにそうした意識は消え、どんどん中身に没入して行ってしまう。さすがに堀田善衛。この本は古典の価値がある。決して古くない。カストロとキューバ革命をどう評価すればいいか、肯定と否定の両面が交錯し、イデオロギーの座標軸で悩んでいる者は、一度、虚心坦懐に半世紀前の堀田善衛の文章に接してみるといいだろう。第1章にカストロが32歳のときの、1959年10月に行われた演説が抜粋されている。バチスタ政権を倒して10か月後のときだ。長くなるが、煩を厭わず引用しよう。「彼らはキューバの人々を脅し上げようと思っている。一方で、彼らは砂糖の輸入割当てを減らして、キューバの経済を締め上げるぞ、といって、キューバの人々を威かしている。他方で、彼らは新たなテロでキューバの人々をおびやかし、キューバ人に、生命を吹き込むような革命の過程と、わが国に正義を打ち立てようとする努力とを放棄させよう、と考えている(拍手)」(P.48)。

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# by yoniumuhibi | 2016-11-28 23:30 | Comments(3)

共和党と民主党の自由貿易の考え方の違い - TPPの復活はない

c0315619_16592370.jpg11月22日の朝日の2面に、ペルーとチリがRCEPに加入するという記事が出ている。この情報は、夜のテレビ報道では取り上げられた記憶がなく、新聞を購読する価値を再認識させられた。ペルーはAPEC首脳会議の議長国の立場だが、大統領のクチンスキーが注目の記者会見でその方針を明らかにし、会議閉幕の記念写真では前列中央で習近平と並んで撮影、ペルーの中国への接近を世界にアピールしている。さらに、ペルーに続いてチリがRCEP加入の意向を示していることを中国外務省が明らかにした。周知のとおり、RCEPは東アジア地域の包括的経済連携のことで、パートナーとなる諸国は日中韓3カ国とASEAN10カ国と豪州とNZとインドである。南米の国々は構想の中に含まれていない。だが、TPPが潰れたため、TPPに加盟していたペルーとチリが、TPP代替のプラットフォームとしてRCEP入りへと舵を切った。RCEPを推進する主軸は中国だから、RCEPに入ろうとする諸国は中国と接触して意向を伝えることになる。もし、ペルーとチリがRCEPに入れば、TPPはリバースをかけられた形でRCEPに切り替えられ、主役だった米国が外れて中国が主役になるという、恐ろしく劇的な物語が現実になることになる。

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# by yoniumuhibi | 2016-11-25 23:30 | Comments(3)

「ディールの政治」のミスリード - 極右トランプ政権の猛毒のイデオロギー

c0315619_15433318.jpgトランプが大統領になってどのような政治と外交をするか。11月8日の当選から2週間、マスコミに登場した論者たちはほぼ例外なく、「ディールを重視する」と分析と予測を述べてきた。姜尚中(13日)もそう言ったし、中島岳志(18日)もそう言った。「ディール」がキーワードだった。ディールとは取引きという意味である。つまり、持論となる信念や理想などなく、そうした思想信条を政策過程に反映させず、単にそのときそのとき自国の利益獲得が最大になる結果を目指し、従来の関係に拘束されることなく、誰とでも自由に手を結んでWinWinの取引きをするというイメージである。イデオロギー・フリーの政治像、それがトランプの政治の本質的特徴だという言説が繰り返し流され、現在の一般的な通念となっている。こうした言説を論者たちが撒く根拠となっているのは、ロシアのプーチンに対するトランプの賞賛の言葉であり、選挙期間中、オバマよりも優れた指導者だとする評価をテレビで公言してきた。その言葉にプーチンが反応してトランプを持ち上げ、米ロ関係の修復に期待するという経緯があったため、トランプはディールの政治家だとする見方が広まって行った。北朝鮮の金正恩との会談に意欲を示したという件も同列である。

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# by yoniumuhibi | 2016-11-21 23:30 | Comments(2)

極右政権を前に自信喪失の米国マスコミ - 耄碌したウォーラスティン

c0315619_17151276.jpg選挙で新しい大統領が決まり、勝利演説がされた当夜とその翌日に、全米の大都市で新大統領を拒否するデモが爆発した。その一部は暴徒化し、星条旗を燃やすという事態も出現している。このような光景はこれまで見たことがない。本当にこれが米国で起きていることなのか信じられない。まるで、中南米のどこかの政情不安の国のニュースを見ているような気分にさせられる。米国において星条旗は国民統合の神聖な象徴であり、すべての国民が国家の下に結束するシンボルに他ならない。ここ数十年、外から見て、米国の威信を根底から突き崩すような、かかる不穏な場面に遭遇したことは一度もなかった。ベトナム戦争の頃はあったかもしれないが、イラク戦争のときは記憶がない。民主主義のお手本の国とされ、世界の模範となるべき米国で、民主主義が未発達な国で起きるような現実が発生している。このことは、世界の人々に米国に対する認識をあらためさせ、米国を盲目的に信仰する態度から離れさせる契機となるだろう。グローバル資本主義が世界を覆って行ったこの25年間、世界は小さくなりながら、超大国米国が絶対的に君臨支配する一極集中の世界に変わって行った。米国主義のイデオロギーが世界の人々を縛りつけて行った。今、それが変わろうとしている。

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# by yoniumuhibi | 2016-11-16 23:30 | Comments(4)

サンダースなら勝っていた - マイノリティの逆説と理想の共同体

c0315619_15155307.jpgトランプの勝利を目の当たりにして、最初に持った感想は、これは2001年の同時テロ以来の歴史的事件が起きた瞬間で、ここから世界が大きく変わるということだった。次に抱いたのは、トランプは戦争を始めるだろうという予感と不安だった。トランプの資質と政策では、米国は割れるばかりで対立が深まるばかりだ。格差も解消されず、銃乱射事件が多発し、国内は不信と憎悪と暴力が横溢することになるだろう。分断を深める米国を統合へと持って行くためには、外に敵を作って戦争を始めるのが最も手っ取り早い。戦争が始まれば、合衆国の国民は星条旗と大統領の下に一つに結束する。奔放に散乱する多様性が、一夜にして単一化され一色に染まる。そういう生理のメカニズムを持っている。トランプは平気で戦争をやれる人格の持ち主だし、米国は唯一の超大国の軍事力を持っている。トランプは、過激なデモを繰り返す反トランプ勢力に対して強権的なカウンターで臨むはずで、彼らに「反米」のレッテルを貼り、「米国の敵」だと決めつけて弾圧を正当化するだろう。米国社会はオーウェルの『1984年』のようなファシズムの暗黒の世界に沈み込む。第三に着想したのは、サンダースだったら勝てたのではないかということだった。

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# by yoniumuhibi | 2016-11-15 23:30 | Comments(5)

分断と憎悪のアメリカ - 格差は解消されず、トランプは戦争へと暴走する

c0315619_17034512.jpgトランプの当選が決まった後、9日、全米各地で反トランプのデモが発生し、一部で過激な若者が暴徒化する騒ぎが起きていた。ネット上にはポートランドで群衆が星条旗を燃やしている動画も上がっている。これまで、米国でこのような事件が起きたことはなかった。二つの政党の候補が長い選挙戦を争って、投票結果が出て、一方が敗北を受け入れた後は、新しい大統領を全国民の指導者として仰いで結束するというのが米国の政治の姿だった。作法だった。日本のネットでは、反トランプのデモを揶揄し批判する右翼と、反トランプのデモを支持し賞賛する左翼と、二つがTwで挑発と応酬を繰り返しているが、私はただ、これまで見たこともない光景の出現に驚かされ、従来の米国の秩序が崩壊したことを確信させられる。日本のマスコミは、米国の分断の深さという表現で報道しているけれど、その言葉では釣り合わない重さと具合の悪さを感じる。米国の歴史が始まって以来、こんな異常なことがあっただろうか。だが、その異常さというのは、中身としては、当選した新しい大統領の人物と素養の不全であり、反トランプのデモをしている若者や国外追放されるかもしれないヒスパニック系などからすれば、この選挙結果こそが米国の異常であり、信じられない悪夢の進行なのだろう。

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# by yoniumuhibi | 2016-11-11 23:30 | Comments(4)

トランプの勝利と没落白人労働者層の反乱 - 反エスタブリッシュメントの民意

c0315619_17304891.jpg米大統領選の開票を伝えるABCの特別番組を、昨日(11月9日)はずっとテレビで見入った。トランプが注目州のオハイオを制し、長い激戦の末にフロリダを奪って、270人の選挙人を獲得する勝利ラインを固めて行った。今回のトランプの勝利は、ラストベルト(錆びた製造業の地帯)に取り残された、没落した白人労働者層の反乱であり、彼らの悲哀と憤怒が米国政治を動かした「革命」に他ならない。トランプ勝利という衝撃の事態がどうして起きたのかは、11月5日放送のNHKスペシャルが分かりやすく説明していた。オハイオ州北東部にあるヤングスタウンという町にカメラが入り、鉄鋼労働者だった62歳の男がインタビューを受けていた。嘗て作業していた、今は廃屋のようになった工場を案内して説明していたとき、男の目から涙が流れる場面があった。自宅には1人で住んでいて、妻とは離婚、3人の娘は町から出て行き、一家離散の孤独な生活を送っていた。「働くということは金を稼ぐということだけじゃないんだ。一緒に仕事する仲間を守り、家族を守るということなんだ」と、そう言った。8年前には「Change」に期待してオバマに投票したそうだ。おそらく、ずっと民主党に投票してきた典型的な北東部の労働者だったのだろう。

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# by yoniumuhibi | 2016-11-10 23:30 | Comments(5)


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